Q&A

グループ法人税制

 

5.「残余財産の分配又は引渡し」の資本等取引への追加

※『詳解 グループ法人税制』(法令出版)に問190として掲載

 実務にはあまり影響がないように思われますが、平成22年度改正においては、法人税法22条5項の「資本等取引」の定義に「残余財産の分配又は引渡し」を追加する改正が行われています。
 これに関しては、従来から残余財産の一部の分配は行われていたわけですから、「残余財産の分配又は引渡し」を追加しなければならない理由はないように思われますが、このような改正は、本当に必要だったのでしょうか。

要 旨

 法人税法22条5項の「資本等取引」の定義に「残余財産の分配又は引渡し」を追加する改正の必要性には疑問があります。
 平成22年度改正においては、法人税法22条5項に関し、次のとおり、下線を付した部分の改正が行われています。

 

〈法人税法〉

(各事業年度の所得の金額の計算)

第22条 省略

 第2項又は第3項に規定する資本等取引とは、法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引並びに法人が行う利益又は剰余金の分配(資産の流動化に関する法律第115条第1項(中間配当)に規定する金銭の分配を含む。)及び残余財産の分配又は引渡しをいう。

 

  このように、平成22年度改正においては、法人税法22条5項の「資本等取引」の定義に関し、「残余財産の分配又は引渡し」を追加する改正が行われています。
 しかし、この改正に関しては、ご指摘のように、この改正がなぜ行われたのかという疑問の声が聞かれます。
 これに関しては、結論から申し上げると、改正の必要性に疑問がある、と考えます。
 「残余財産の分配又は引渡し」に関しては、法人税法に特に定義が設けられているわけではありませんので、一般の例により解釈することとなりますが、一般に、「残余財産」とは、法人の清算において株主等に分配されるものとして残る積極財産と解されており、「残余財産の分配又は引渡し」とは、法人の清算において残った積極財産を株主等に分配し又は引き渡すこと、ということになるものと考えられます。
 この「残余財産の分配又は引渡し」は、株主等への資本金等の額の返還及び留保利益(利益積立金額)の分配と資産の移転として行われることとなるわけですが、この資本金等の額の返還及び留保利益(利益積立金額)の分配に関しては、従来から法人税法22条5項に規定されている「資本金等の額の減少を生ずる取引」及び「利益又は剰余金の分配」に該当して損金とはならないこととなりますので、同項に「残余財産の分配又は引渡し」を資本等取引として追加したということであれば、本来は、その資産の移転に際して益金と損金のいずれも計上できない、ということになります。「残余財産の分配又は引渡しは資産の移転を含まない」と言わない限り、このような結論とならざるを得ません。
 しかしながら、平成22年度改正においては、法人税法22条5項の資本金等の額の定義に「残余財産の分配又は引渡し」を追加する改正を行いながら、一方では、法人税法22条2項及び3項の「別段の定め」となる62条の5(現物分配による資産の譲渡)の規定を新設し、「残余財産の全部の分配又は引渡し(適格現物分配を除く。次項において同じ)により被現物分配法人その他の者にその有する資産の移転をするときは、当該被現物分配法人その他の者に当該移転をする資産の当該残余財産の確定の時の価額による譲渡をしたものとして、当該内国法人の各事業年度の所得の金額を計算する」(法法62の5①)としています。
 このため、「残余財産の分配又は引渡し」によって資産の移転をする場合には、法人税法22条5項により資産の譲渡益又は譲渡損を益金又は損金に計上しないこととなるのか、あるいは、62条の5第1項により資産の譲渡益又は譲渡損を益金又は損金に計上することになるのか、という疑問が生じてくることとなります。
 本問のご指摘は、従来の残余財産の一部分配に係る取扱いという角度からのご指摘であるわけですが、法人税法22条5項の改正に疑問を提起しておられるという点では、上記と同様です。
 それでは、この改正がどのように説明されているのかということを見てみましょう。
 『平成22年度 税制改正の解説』においては、この部分の改正理由について次のように説明されています。

 

「 残余財産の分配としての金銭以外の資産の交付という行為には、資産の譲渡という面と資産の流出という面の二つの面があり、このうち資本等取引に追加されたことにより課税の対象外とされるのは、後者の面、すなわち、資産が流出したことによる損失について損金の額に算入しないという面のみであり、前者の面、すなわち譲渡損益を課税しないということではありません。なお、残余財産の引渡しは出資者等の法人の持分権者との取引ではありませんが、残余財産の引渡しという行為自体は、その文字からも明らかなように剰余の分配の性質を有し、所得から控除されるべきものでないものと考えられ、従前より引き渡される残余財産についても清算所得課税の対象とされていたことから、今回、清算所得課税が通常所得課税に変更されるに当たり、資本等取引とされたものです。」(280頁)

 

 残余財産の分配の処理を考えてみると明らかなように、残余財産が無くなって株主がその残余財産を取得するという取引と資本金等の額・利益積立金額が無くなって株主が出資の元手の返還を受けるとともに利益を得るという取引が行われることが分かります。
 残余財産の分配を行う法人においては、残余財産を無くし、資本金等の額と利益積立金額を無くすという二つの処理を行って、法人を清算することとなりますが、この二つの処理のうちの残余財産を無くす処理に関しては、その残余財産のうちに課税が行われていない含み益があれば、従来はそれを清算所得として課税し、現在はそれを譲渡益として課税するということになっているわけです。
 「資産の流出」は「資産の譲渡」と呼ばれてその含み益に課税が行われることとなるわけであり、「資産の流出という面」と「資産の譲渡という面」が異なる面となっているわけではありません。
 残余財産の分配に関して、仮に「面」という言葉を使うとすれば、残余財産が無くなるという面と資本金等の額と利益積立金額が無くなるという面の二つがあり、前者の面においては、残余財産の「譲渡」とされて譲渡益に対する課税が行われ、後者の面においては、資本金等の額と利益積立金額の消滅が既に法人税法22条5項に定められていた「資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引」と「利益又は剰余金の分配」に該当することとなる、ということになります。
 このように解さなければ、従来の残余財産の一部分配の取扱いも、説明が困難となります。
 このような点からすると、解説の冒頭において述べたとおり、資本金等の額の定義に「残余財産の分配又は引渡し」を追加する改正の必要性には疑問がある、と言わざるを得ません。