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法人税制一般

 

期限切れ欠損金の額

※T&Amaster(ロータス21)2012.10.15  No.471に掲載

 法人が解散した場合には、いわゆる期限切れ欠損金を損金とすることが認められていますが、この期限切れ欠損金の額は、法人税基本通達により、利益積立金額がマイナスの金額である場合のその金額から青色欠損金額を控除した金額となる、とされています。


 この点に関しては、従来から、本当に期限切れ欠損金の額をこのように計算することでよいのかという疑問を感じていたところですが、当社の場合には、連結納税を採用しているため、なお一層、疑問が生じています。


 すなわち、当社の場合、業績の悪い連結子法人の過去の欠損金額には、他の連結法人の所得の金額と相殺されて既に過去の連結所得の金額と連結法人税額を減少させることに用いてきた金額がありますが、この既に過去に使用済みとなっている金額も期限切れ欠損金の額に含めてよいのか、という疑問があります。


 この期限切れ欠損金の額の取扱いは、基本的には単体納税の場合の取扱いに拠ることとなるものと思われますので、単体納税における取扱いを含めて、ご教授頂けると幸いです。

 

要 旨

【マエストロの解説】

 

 期限切れ欠損金の損金算入においては、「前事業年度以前の事業年度から繰り越された欠損金額(個別欠損金額を含む。)の合計額」の正確な金額が分かる場合で、その金額が利益積立金額(個別利益積立金額を含む。)のマイナスの金額より大きいときには、その大きい金額に基づいて損金算入額を計算することができる、と考える。

 

 また、期限切れ欠損金の額を個別利益積立金額のマイナスの金額によって計算する場合には、過去に他の連結法人の所得の金額と相殺されて使用済みとなっている金額があるときであっても、その金額を控除する必要はない、と考えられる。

 

1 関係法令の沿革の確認

 会社更生等の場合、民事再生等の場合又は解散の場合において債務免除等があったとき又は残余財産がないと見込まれるときの欠損金の損金算入について定めた法人税法59条の規定は、平成16年度改正・17年度改正を経て現在に至ったものである。

 

 平成16年度改正前は、法人税法59条において、資産整理に伴う私財提供等があった場合の欠損金の損金算入の定めが設けられており、また、会社更生法232条3項及び更生特例法148条3項・321条3項において、会社更生の場合の欠損金の損金算入の定めが設けられていた。

 

 これらのいずれにおいても、期限切れ欠損金の損金算入が認められていたが、この期限切れ欠損金の額に関しては、前者の場合には、「前事業年度以前の事業年度から繰り越された欠損金額(同項〔法人税法59条1項。引用者注〕に規定する連結欠損金個別帰属額を含む。)の合計額」(旧法令118)から資本積立金額と青色欠損金等の額を控除した金額とされており、後者の場合にも、基本的にはこれと同様であるが、資本積立金額は控除しないこととされており、期限切れ欠損金の額が多く計算される状態となっていた。

 

 平成16年度改正においては、法人税法59条の期限切れ欠損金の額について、会社更生の場合と同様に、資本積立金額を控除しないものとする改正が行なわれた。

 

 平成17年度改正においては、企業再生関係の税制の全般的な見直しが行なわれて、期限切れ欠損金の損金算入の取扱いが、会社更生等の場合、民事再生等の場合、そして解散の場合に分けて定められた。

 

備考:「欠損金額」とは、「各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額が当該事業年度の益金の額を超える場合におけるその超える部分の金額」(法法2十九)である。

 

(1)平成16年度改正前の旧法人税法59条の取扱い

  平成16年度改正前の旧法人税法59条の取扱いは、旧法人税取扱通達(昭和25年直法1-100「247」)の「法人の資産整理に当つてなされた重役、その他の私財提供(債務免除を含む。)又は銀行の預金切捨による益金であつて法第9条第5項の規定(青色申告法人の前5年以内に生じた欠損金の損金算入)の適用を受けない繰越欠損金(欠損金と積立金とを併有する場合はその相殺残額)の補てんに充当した部分の金額は、課税しない。」という取扱いを昭和40年度改正において法制化したものである。


 平成16年度改正前の旧法人税法59条1項の規定は、次のようなものであった。

「 (資産整理に伴う私財提供等があつた場合の欠損金の損金算入)

第59条 内国法人(連結子法人を除く。以下この項において同じ。)について商法の規定による整理開始の命令があつたことその他これに準ずる政令で定める事実が生じた場合において、その内国法人が、当該事実が生じたことに伴いその役員若しくは株主等である者若しくはこれらであつた者から金銭その他の資産の贈与を受け、又は当該事実の生じた時においてその内国法人に対し政令で定める債権を有する者から当該債権につき債務の免除を受けるときは、その受ける日の属する事業年度前の事業年度において生じた欠損金額(連結事業年度において生じた第81条の9第5項(連結欠損金の繰越し)に規定する連結欠損金個別帰属額を含む。)で政令で定めるもの〔下線は引用者〕に相当する金額のうち、その贈与を受けた金銭の額及び金銭以外の資産の価額並びにその債務の免除を受けた金額の合計額(当該合計額がこの項の規定を適用しないものとして計算した場合における同日の属する事業年度の所得の金額を超える場合には、その超える部分の金額を控除した金額)に達するまでの金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。」

 

 この旧法人税法59条1項の規定中の「政令で定めるもの」に関しては、旧法人税法施行令118条において次のように定められていた。


「 (欠損金額の範囲)

第118条 法第59条第1項(資産整理に伴う私財提供等があつた場合の欠損金の損金算入)に規定する欠損金額で政令で定めるものは、同項に規定する贈与又は債務の免除を受ける日の属する事業年度(以下この条において「適用年度」という。)の終了の時における前事業年度以前の事業年度から繰り越された欠損金額(同項に規定する連結欠損金個別帰属額を含む。)の合計額〔下線は引用者〕から次に掲げる金額の合計額を控除した金額とする。

 

一 適用年度終了の時における資本積立金額

二 法第57条(青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越し)又は第58条(青色申告書を提出しなかった事業年度の災害による損失金の繰越し)の規定により適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される欠損金額」


 この旧法人税法施行令118条1号には、上記のとおり、期限切れ欠損金の額を計算する場合に控除する金額として「資本積立金額」が掲げられているが、『昭和40年 改正税法のすべて』においては、期限切れ欠損金の取扱いに関して次のような見解が述べられている。

 

「 欠損金額を計算する場合に資本積立金額、利益金額があればこれらをもつて欠損金額をてん補することとなりますが、会社更生法の場合は資本積立金額は欠損をてん補しないこととされております。この点、将来の課題としては資本積立金額はいずれの場合でも控除する〔中略〕ことが適当であると思います。」(146頁注記)


 そして、この旧法人税法施行令118条の「前事業年度以前の事業年度から繰り越された欠損金額(同項に規定する連結欠損金個別帰属額を含む。)の合計額」に関しては、旧法人税基本通達12-3-2において、次のような解釈が示されていた。

「 (前事業年度以前の事業年度から繰り越された欠損金額の合計額)

12-3-2 令第118条《欠損金額の範囲》に規定する「前事業年度以前の事業年度から繰り越された欠損金額(同項に規定する連結欠損金個別帰属額を含む。)の合計額」とは、当該事業年度の確定申告書に添付する法人税申告書別表5(1)の「利益積立金額及び資本積立金額の計算に関する明細書」に期首現在利益積立金額の合計額として記載されるべき金額で、当該金額が負(マイナス)である場合の当該金額による。」


 このように期限切れ欠損金の額を利益積立金額のマイナスの金額に基づいて計算するという解釈を採ることに関しては、次のように説明されていた。

 

「(1)法第59条第1項の規定により損金算入される欠損金額は、適用年度の終了の時における「前事業年度以前の事業年度から繰越された欠損金額」からその時における資本積立金額と法第57条又は法第58条の規定により損金算入される欠損金額との合計額を控除した金額である。

 

(2)「前事業年度以前の事業年度から繰越された欠損金額の合計額」とは、税務上の金額であつて、法人が利益積立金額(決算による利益積立金のほか簿外資産等のいわゆる秘密積立金を含む。)と繰越欠損金額とを両建経理している場合には、繰越欠損金額のうち利益積立金額を超える部分の金額をいい、具体的には、法人税確定申告書別表5の「期首現在利益積立金額の合計額」として記載されるべき金額が負(マイナス)である場合の当該金額をいうのである。

 

(3)結局、法第59条第1項の規定により控除の対象となる欠損金額は、資本の欠缺を生じている金額(資本金に食い込んだ欠損金額)のうち、他の制度により繰越し控除することができないものをいうことになる。」(渡辺淑夫ほか『コンメンタール法人税基本通達〔改定第二版〕』669・670頁、税務研究会出版局、昭和60年6月24日)


 要するに、旧法人税法59条の期限切れ欠損金の取扱いは、利益積立金額・資本積立金額という「積立金」と「資本金」とを区別した上で、私財提供等による益金があっても「資本金」に食い込んだ欠損金額を補てんする部分には課税をするべきではない、という考え方に基づいて設けられていたわけである。


 このような考え方に関しては、過去に発生した欠損金額についてその補てんをする部分の全てに課税をしないということではなく、あくまでも「資本金」に食い込んだ欠損金額を補てんする部分には課税をしない、とされていた点に留意する必要がある。


 すなわち、税法上の損益として認識される欠損金額の累積額を計算してその補てんをする部分に課税をしないとしていたのではなく、税法上の貸借(資本の部。以下、同じ。)として認識される「資本金」に食い込んだ欠損金額を把握してその補てんをする部分には課税をしない、としていたわけである。


 上記引用の(1)から(3)までの解説は、税法上の貸借(厳密には、資本の部。以下、同じ。)の借方に「繰越欠損金額」があり、貸方に「利益積立金額」「資本積立金額」「資本金」があるという前提で述べられているものであって、期限切れ欠損金の額を「利益積立金額」のマイナスの金額(繰越欠損金額)で捉え、「資本積立金額」を控除して期限切れ欠損金の額を計算するという仕組みは、「資本金」に食い込んだ欠損金額を補てんする部分に課税をしないという考え方を正しく反映したものとなっている。


 このように、損益ではなく、貸借に着目して制度を設けたということであれば、旧法人税法施行令118条の「前事業年度以前の事業年度から繰り越された欠損金額(同項に規定する連結欠損金個別帰属額を含む。)の合計額」を利益積立金額のマイナスの金額とする解釈には合理性があるということになり、社外流出の金額の分だけ利益積立金額のマイナスの金額が欠損金額よりも大きくなるという点に係る問題も説明が可能となる。

 

(2)平成16年度改正・17年度改正の取扱い
① 平成16年度改正の取扱い

 平成16年度改正においては、法人税法59条の期限切れ欠損金の額について、法人税法施行令118条の規定を改正し、資本積立金額を控除しないものとされた。


 このように、損益として計算される欠損金額から貸借の金額である資本積立金額を控除することを止めるということは、貸借に着目して期限切れ欠損金の額を捉える従来の考え方を捨てて、損益のみに着目して期限切れ欠損金の額を捉えることとした、ということを意味している。


 この改正は、次に述べる平成17年度改正とともに、期限切れ欠損金の損金算入の制度の基本的な考え方を変更する重要な改正となっている。


 しかし、その改正の理由や基本的な考え方がどのようなものかということは、いずれの解説にも見当たらない。


 このため、この改正に関しては、検討を深めることが困難であるが、損益のみに着目して期限切れ欠損金の額を捉えることとした場合にも、その額を貸借の金額である利益積立金額のマイナスの金額のままとすることに妥当性があるのか、という疑問が生じてくることは否定できない。


 従来の考え方と取扱いを変更し、損益のみに着目して期限切れ欠損金の額を捉えるということであれば、常識的には、期限切れ欠損金の額は、文字どおり過去の欠損金額に基づいて計算することとし、それが困難な場合には、利益積立金額のマイナスの金額によることができる、とするのが妥当なところではないかと思われる。

 

②平成17年度改正の取扱い

  平成17年度改正においては、既に述べたとおり、企業再生関係の税制の全般的な見直しが行なわれて、期限切れ欠損金の損金算入の取扱いが、会社更生の場合(法法59①)、民事再生等の場合(同②)、そして解散の場合(同③)に分けて定められた。


 この三つの取扱いのうち、法人税法59条3項の解散の場合の期限切れ欠損金の損金算入の取扱いは、上記において説明を行なってきたものに対応するものであるが、同項の規定は、次のとおりとなっている。

 

 「3 内国法人が解散した場合において、残余財産がないと見込まれるときは、その清
  算中に終了する事業年度(前二項の規定の適用を受ける事業年度を除く。以下この
  項において「適用年度」という。)前の各事業年度において生じた欠損金額(連結
  事業年度において生じた第81条の18第1項に規定する個別欠損金額(当該連結事業
  年度に連結欠損金額が生じた場合には、当該連結欠損金額のうち当該内国法人に帰
  せられる金額を加算した金額)を含む。)を基礎として政令で定めるところにより
  計算した金額〔下線は引用者〕に相当する金額(当該相当する金額がこの項及び第
  62条の5第5項の規定を適用しないものとして計算した場合における当該適用年度
  の所得の金額を超える場合には、その超える部分の金額を控除した金額)は、当該
  適用年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。」


 この法人税法59条3項の下線部の金額は、法人税法施行令118条において、次のように定められている。

 

「 (解散の場合の欠損金額の範囲)

第118条 法第59条第3項(会社更生等による債務免除等があつた場合の欠損金の損 金算入)に規定する欠損金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額は、第1号に掲げる金額から第2号に掲げる金額を控除した金額とする。


一 法第59条第3項に規定する適用年度(以下この条において「適用年度」という。)終了の時における前事業年度以前の事業年度から繰り越された欠損金額(同項に規定する個別欠損金額を含む。)の合計額〔下線は引用者〕(当該適用年度終了の時における資本金等の額が零以下である場合には、当該欠損金額の合計額から当該資本金等の額を減算した金額)


二 法第57条第1項(青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越し)又は第58条第1項(青色申告書を提出しなかつた事業年度の災害による損失金の繰越し)の規定により適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される欠損金額」


 この平成17年度改正に関しても、期限切れ欠損金の額の平成16年度改正前の取扱いを変更した理由、期限切れ欠損金の取扱いの基本的な考え方などに関する解説は、見受けられない。


上記の法人税法施行令118条の下線部の金額に関しては、現在、法人税基本通達12-3-2において、次のような解釈が示されている。

 

「 (前事業年度以前の事業年度から繰り越された欠損金額の合計額)

12-3-2 令第116条の3第1号《会社更生等の場合の欠損金額の範囲》、令第117条の2第1号《民事再生等の場合の欠損金額の範囲》及び令第118条《解散の場合の欠損金額の範囲》に規定する「前事業年度以前の事業年度から繰り越された欠損金額(同項に規定する個別欠損金額を含む。)の合計額」とは、当該事業年度の確定申告書に添付する法人税申告書別表五(一)の「利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書」に期首現在利益積立金額の合計額として記載されるべき金額で、当該金額が負(マイナス)である場合の当該金額による。」


 そして、この通達に関しては、次のような解説がなされている。

 

「 本通達においては、上記算式のうち「前事業年度以前の事業年度から繰り越された欠損金額の合計額」とは、決算書上の金額ではなく税務上の金額をいうことから、法人税申告書別表五(一)の「期首現在利益積立金額の合計額」として記載されるべき金額がマイナスである場合の当該金額をいうことが明らかにされている。」(森文人『法人税基本通達逐条解説〔六訂版〕』1,071頁、税務研究会出版局、平成23年4月5日)


 この解説においても、「前事業年度以前の事業年度から繰り越された欠損金額の合計額」がなぜ利益積立金額のマイナスの金額となるのかということは、全く触れられていない。


 上記の解説は、文脈上、「前事業年度以前の事業年度から繰り越された欠損金額の合計額」が税務上の金額をいうということが当該合計額を利益積立金額のマイナスの金額とする理由とされているが、当該合計額が税務上の金額であることが当該合計額を利益積立金額のマイナスの金額とする理由となるものではないことは、改めて説明するまでもない。


 すなわち、期限切れ欠損金の取扱いに関しては、平成16年度改正及び17年度改正により、改正理由や考え方が明らかにされることがないまま、従来の取扱いが変更されて現在に至っている、ということである。

 

2 「前事業年度以前の事業年度から繰り越された欠損金額の合計額」の解釈

(1)上記1の沿革を踏まえた本来の解釈

 従来、期限切れ欠損金の損金算入の取扱いにおいては、「前事業年度以前の事業年度から繰り越された欠損金額の合計額」を利益積立金額のマイナスの金額とするという解釈がなされてきたが、上記1において確認したとおり、平成16年度改正・17年度改正前において、「前事業年度以前の事業年度から繰り越された欠損金額の合計額」を利益積立金額のマイナスの金額とするという解釈を採ることには合理性があったと考えられる。


 その後、平成16年度改正・17年度改正において、期限切れ欠損金の損金算入の取扱いが改正されたわけであるが、これらの改正に関しては、その改正の理由や趣旨が示されておらず、また、どのような考え方や理論に基づいて新たな取扱いを企画立案したのかということも不明である。


 本来であれば、貸借に着目して「資本金」に食い込んだ欠損金額を補てんする部分には課税をしないという従来の考え方の適否を深く検討することが必要であり、それを行なわなければ、新たな取扱いの考え方や理論を構築することはできず、改正の理由や趣旨も説明することができない。


 近年の改正は、考え方や理論が無くなって計算技術だけが複雑化するという傾向にあるが、このような状態となってしまうと、趣旨解釈が困難となり、文理解釈のみに頼ることとならざるを得ない。


 平成16年度改正・17年度改正も、このような状態となっていると言わざるを得ず、「前事業年度以前の事業年度から繰り越された欠損金額の合計額」の解釈は、文理に即して解釈するほかないものと考えられる。


 このような点を踏まえて、改めて法令の規定を確認してみると、「欠損金額」に関しては法人税法2条19号に、「利益積立金額」に関しては同条18号に定義が設けられており、両者は異なる概念となっているため、過去の欠損金額の合計額を利益積立金額のマイナスの金額と解することはできない、という至極当然の結論に行き着くこととなる。


 このため、法人税法施行令118条1号の「前事業年度以前の事業年度から繰り越された欠損金額(同項に規定する個別欠損金額を含む。)の合計額」に関しては、その文言どおりに、過去の欠損金額の合計額と解するべきである、ということになろう。


 ただし、過去の欠損金額に不明なものがあるような場合には、過去の欠損金額の合計額に近い金額を示すと考えられる利益積立金額のマイナスの金額を用いることができる、とするのが常識的な解釈となると考える。

 

(2)近年の組織再編成等の増加を踏まえた本来の解釈

 近年は、昭和40年当時と比べると、利益積立金額の変動を生じさせる合併等の組織再編成が大幅に増加しており、また、グループ法人税制が創設されたことによって完全支配関係法人間で寄付があった場合などにおいて所得の金額や欠損金額の変動と連動せずに利益積立金額が変動するといったこともあるという状況となっている。


 従来は、利益積立金額のマイナスの金額と過去の欠損金額の累積額とが相違するのは、寄附金や交際費等の社外流出の金額がある場合であり、その相違する金額もあまり大きな金額ではなかったはずであるが、近年は、組織再編成等によって両者の金額が大きく相違するケースが少なからず生じているものと想定される。そして、このような利益積立金額のマイナスの金額と過去の欠損金額の累積額とが相違するケースは、今後、なお一層、増加してくることとならざるを得ないと考えられる。


 このような点からすると、法人税法施行令118条1号の「前事業年度以前の事業年度から繰り越された欠損金額(同項に規定する個別欠損金額を含む。)の合計額」に関しては、文言どおり、過去の欠損金額の合計額と解するべきであると考える。


 ただし、上記(1)においても述べたとおり、過去の欠損金額に不明なものがあるということもあり得ることから、そのような場合には、利益積立金額のマイナスの金額を用いることができる、と解するのが適当と考える。

 

(3)実務上の解釈

 法人税法施行令118条1号の「前事業年度以前の事業年度から繰り越された欠損金額(同項に規定する個別欠損金額を含む。)の合計額」の本来の解釈のあり方としては、上記(1)及び(2)において述べたとおりであると考えるが、現に、税務執行当局から法人税基本通達12-3-2のような解釈が示されている中にあっては、実務上、どのように解釈するのかという問題が残ることとなる。


 この問題が最も顕著に現れるのは、「前事業年度以前の事業年度から繰り越された欠損金額(同項に規定する個別欠損金額を含む。)の合計額」を正しく計算することが可能であり、かつ、当該合計額が利益積立金額(個別利益積立金額を含む。)のマイナスの金額よりも大きな金額となっているケースである。


 仮に、このようなケースにおいて、納税者が法人税法施行令118条1号の「前事業年度以前の事業年度から繰り越された欠損金額(同項に規定する個別欠損金額を含む。)の合計額」をその文言どおりの金額として期限切れ欠損金の額を計算して申告をしたという場合に、税務執行当局が当該合計額を利益積立金額のマイナスの金額と解釈して更正処分を行ない得るのか、また、そのような更正処分を行なったとしても、その後の争訟において勝訴することができるのかという点に関しては、疑問があると言わざるを得ない。


 実務対応の最終判断は、納税者自らが行なうこととなるわけであるが、筆者としては、「前事業年度以前の事業年度から繰り越された欠損金額(同項に規定する個別欠損金額を含む。)の合計額」の正確な金額が分かる場合で、その金額が利益積立金額(個別利益積立金額を含む。)のマイナスの金額より大きいときには、その大きい金額に基づいて期限切れ欠損金の損金算入額を計算することができる、と考える。

 

3 連結納税における使用済みの個別欠損金額の取扱い

 連結納税においても、期限切れ欠損金の取扱いは、単体納税の場合と同様となっている。
このため、連結納税においても、上記1及び2の解説は、そのまま当てはまることとなる。
ただし、ご質問にあるとおり、連結納税においては、単体納税とは異なり、連結法人の所得の金額と欠損金額が相殺されることとなるため、この相殺された部分の金額の取扱いに疑問が生ずることとなる。


 この点に関しては、過去の事業年度から繰り越された個別欠損金額を実際の金額で捉える場合には、過去に他の連結法人の所得の金額と相殺された部分の金額は控除するべきである。


 ただし、過去の事業年度から繰り越された個別欠損金額を個別利益積立金額のマイナスの金額で捉える場合には、連結納税基本通達11-2-2(前連結事業年度以前の連結事業年度から繰り越された個別欠損金額の合計額)においても特に過去に他の連結法人の所得の金額と相殺された部分の金額を除くこととはされていないことから、控除する必要はないと考えられる。

 

 『昭和40年 改正税法のすべて』における見解は、当時、大蔵省主税局税制第一課課長補佐であり、著者としてお名前が掲げられている武田昌輔先生のものと思われます。晩年においてもなお税制のあるべき姿を力強く語っておられた武田昌輔先生のお姿を偲び、心よりご冥福をお祈り申し上げます。