Q&A

法人税制一般

 

減価償却資産の部分除却の可否

※T&Amaster(ロータス21)2015.08.24  No.607に掲載

 当社においては、工場の建物の屋根の痛みがひどいため、この屋根の張替えを行う予定です。

        

 現在のところ、従来どおり、基本的には修繕費として処理し、資本的支出になる部分があれば資産計上をする予定です。

        

 しかし、この屋根の張替えのために要する費用の処理に関しては、「除却法」というものを適用して、建物の帳簿価額の内、屋根の部分に相当する金額を除却損とし、張替えのために要する費用の額を資産の取得価額とする、という処理を行うことができるという見解も見受けられます。

        

 当社のこの屋根の張替えにこの「除却法」という処理を適用することができるのでしょうか。

 

要 旨

【マエストロの解説】

 

  法人税の取扱いにおいては、建物の屋根の張替えに「除却法」を適用することは認められていない。

 

  本件は、法人税において減価償却資産の部分除却を認めているのか否かという基本的な問題に関するものでもある。

 

1 除却損失等

 

  法人税関係法令においては、「除却」「除却損」「除却損失」などに関する定めは設けられていないが、法人税基本通達第7章第7節には、「除却損失等」に関する取扱いが示されている。

 

  法人税基本通達第7章は、「減価償却資産の償却等」に関する取扱いを示すものとなっており、基本的には、法人税法22条3項(損金の額)の別段の定めである31条(減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法)に関するものが中心となっているが、第7節の「除却損失等」は、31条ではなく、22条3項3号の「損失の額」に関する取扱いとなっている。

 

  この法人税基本通達第7章第7節においては、第1款として「除却損失等の損金算入」と題して、7-7-1(取り壊した建物等の帳簿価額の損金算入)、7-7-2(有姿除却)及び7-7-2の2(ソフトウエアの除却)が設けられているが、これらには、減価償却資産の部分除却が可能と解される取扱いは存在しない。

 

  第2款には、「総合償却資産の除却価額等」と題して、7-7-3(総合償却資産の除却価額)、7-7-4(償却額の配賦がされていない場合の除却価額の計算の特例)及び7-7-5(償却額の配賦がされている場合等の除却価額の計算の特例)の取扱いが設けられている。この第2款の「総合償却資産」とは、「機械及び装置並びに構築物で、当該資産に属する個々の資産の全部につき、その償却の基礎となる価額を個々の資産の全部を総合して定められた耐用年数により償却することとされているもの」(「耐用年数の適用等に関する取扱通達」1-5-8(中古の総合償却資産を取得した場合の総合耐用年数の見積り))とされている。この第2款においては、個々の資産によって構成されている総合償却資産について、個々の資産ごとに償却費及び帳簿価額を管理するという考え方が採られていないために、総合償却資産の一部に除却等があった場合の除却価額の計算をどのように行うかというようなことを定めている。この第2款の総合償却資産の除却に関する通達は、本件のように総合償却資産に該当しない資産の除却の取扱いには関係がない。

 

  第3款には、「個別償却資産の除却価額等」と題して、7-7-6(個別償却資産の除却価額)、7-7-7(取得価額等が明らかでない少額の減価償却資産等の除却価額)、7-7-8(除却数量が明らかでない貸与資産の除却価額)、7-7-9(個別管理が困難な少額資産の除却処理等の簡便計算)及び7-7-10(追加償却資産に係る除却価額)の取扱いが示されている。

 

  この第3款の取扱いには、本件の取扱いを考えるに当たって、一部、参考となるものがある。

 

  7-7-6は、個々の資産について、その償却費及び帳簿価額を個々に管理せず、その種類、構造若しくは用途、細目又は耐用年数が同一であるものをグループ化して管理している場合に、そのグループ化されたものの一部に除却等があったときの取扱いを示したものである。この通達の取扱いを根拠として、個々の資産ごとに償却費及び帳簿価額を管理することとしているものの部分除却が可能と解することは、困難である。

 

  また、7-7-7も、「取得価額等が明らかでない少額の減価償却資産等」に該当しない資産の部分除却が可能と解する根拠となるものではなく、むしろその反対に、そのような資産については部分除却が不可能と解するべきものとなっている。

 

  また、7-7-8及び7-7-9についても、「除却数量が明らかでない貸与資産」及び「個別管理が困難な少額資産」に該当しない資産については、部分除却は出来ないという前提に立つものと解することができる。

 

  一方、7-7-10については、一見すると、「追加償却資産」について、部分除却を認めたもののようにも見える。

 

  しかし、この7-7-10は、例えば、Aという資産とBという資産のそれぞれの追加償却資産(資本的支出)についてまとめて一の減価償却資産とするという処理(法令55⑤)を行っている場合において、Aという資産を除却したときに、その一の減価償却資産としていたものの内のその除却したAという資産に係る部分について、除却の処理を行うことを明らかにしたものである。要するに、この7-7-10も、確かに「追加償却資産」の部分除却を行わせるものとなってはいるが、その内容を良く見ると、Aという資産とその資本的支出に関して、一体として除却の処理をすることを求めているわけであり、Aという資産(資本的支出を含む。)の部分除却を認めるものとなっているわけではない。しかも、この7-7-10は、Aという資産のみ除却の処理をしてそのAという資産に係る資本的支出の部分の除却の処理を行わないことを認めるものとなっているわけではないことにも留意する必要がある。

 

  以上のとおり、法人税基本通達第7章第7節の「除却損失等」に関する取扱いにおいては、本件のような一の減価償却資産の部分除却を認めるという考え方は採られていない。

 

2 資本的支出と修繕費

 

  「資本的支出」に関しては、法人税法施行令132条(資本的支出)に定義が設けられている。この定義によれば、「資本的支出」とは「当該資産につき通常の管理又は修理をするものとした場合に予測される当該資産の使用可能期間を延長させる部分に対応する金額」と「当該資産につき通常の管理又は修理をするものとした場合に予測されるその支出の時における当該資産の価額を増加させる部分に対応する金額」ということになる。

 

  法人税基本通達第7章第8節には、「資本的支出と修繕費」の取扱いが示されている。

 

  この第8節も、上記1において述べた第7節と同じように、法人税法31条ではなく、22条3項の「損金の額」に関する取扱いとなっている。

 

  この第8節の中の7-8-1(資本的支出の例示)には、その見出しのとおり、「資本的支出」が例示されている。この「資本的支出」の例示の中には、上記の法人税法施行令132条の二つに該当するもののみが示されており、使用可能期間を延長させない部分に対応する金額や価額を増加させない部分に対応する金額は存在しない。

 

  「修繕費」に関しては、「資本的支出」とは異なり、法人税法関係法令には定めが設けられていないが、法人税基本通達7-8-2(修繕費に含まれる費用)においては、「当該固定資産の通常の維持管理のため、又はき損した固定資産につきその原状を回復するために要したと認められる部分の金額が修繕費となる」としている。

 

〔備考〕

  資本的支出と修繕費との区分が明らかでない場合の取扱いに関しては、法人税基本通達7-8-4(形式基準による修繕費の判定)と7-8-5(資本的支出と修繕費の区分の特例)に具体的な処理の方法が示されているが、本稿は、この区分の仕方が主題ではないため、これらの処理には言及しないこととしている。

 

  一の減価償却資産の部分除却が可能か否かという問題を考えるに当たっては、この7-8-2の「又は」以下の「き損した固定資産につきその原状を回復するために要したと認められる部分の金額が修繕費となる」という部分に注目する必要がある。税務上、「修繕費」とされるものは「当該固定資産の通常の維持管理のため(中略)に要したと認められる部分の金額」だけではなく、「通常の維持管理のため」ではない原状回復費用も「修繕費」となるわけである。

 

  また、「き損した固定資産につきその原状を回復するために要したと認められる部分の金額」に固定資産の構造を成すものの原状回復費用が含まれないと解する理由もない。本件のように、建物の不可欠の構成部分である屋根の痛みがひどいために屋根の張替えを行うという場合にも、その張替えによって「資本的支出」となる部分がない限り、その張替えに用いられる屋根材の代金等も含めて「き損した固定資産につきその原状を回復するために要したと認められる部分の金額」の全額が「修繕費」として損金になるわけである。

 

  平成10年度税制改正によって法人税法における特別修繕引当金の繰入額を損金とする規定(旧法法56)が廃止されたが、その廃止前の特別修繕引当金制度においては、船舶・溶鉱炉・ガスホルダー・貯油槽に関してその構造材を取り替えることもある大規模な修繕に際して支出する費用が法人税法22条3項により「修繕費」として損金となるということが前提となっており、現在も、この同項の解釈を変える理由はない。

 

  台風などの災害によって建物の屋根が大きくき損したためにその建物を原状に復するべく屋根を張るという場合などが「修繕費」が発生する典型的なケースということになるが、本件も、このようなケースと異なるものではない。

 

  「き損した固定資産につきその原状を回復するために要したと認められる部分の金額」が「修繕費」ではなく「資産」又は「資本的支出」となると解すべき事情は、法人税関係法令及び関係通達のいずれにも全く存在しない。減価償却資産の耐用年数等に関する省令における耐用年数(法定耐用年数)は、減価償却資産がき損したり修繕をしたりしたときに耐用年数等を調整するという仕組みとはなっていないが、これは、減価償却資産の原状回復費用が「修繕費」となって取得価額の期間配分に影響を及ぼさないということを前提とするものであり、その「修繕費」には、予め予定されていた原状回復費用でなければ「修繕費」としないとか、減価償却資産の構造を成すものの原状回復費用は「修繕費」としないというような制限が課されているわけではない。

 

  そもそも、法人税法22条3項及び関係法令には、屋根の瓦の原状回復費用は損金となるが屋根の原状回復費用は損金とならないなどというような費用の損金計上を否認する取扱いが存在する余地はなく、仮にそのような取扱いとしようとするのであれば、法人税法に別段の定めを設けるか、あるいは、少なくとも法人税法施行令132条の「資本的支出」のように、所得の金額の計算の細目として、別途、法人税法施行令にその旨の定めを設ける必要がある。

 

  このように、「き損した固定資産につきその原状を回復するために要したと認められる部分の金額」の全額を「修繕費」として損金とする場合には、一の減価償却資産の部分除却を損金と認めるという考え方は、採り得ない。

 

  そして、現実に現行制度においては、一の減価償却資産の部分除却を損金と認める取扱いは存在しない。

 

  このため、修繕が伴わない「資本的支出」が発生する場合であっても、一の減価償却資産の部分除却を損金とすることはできない。

 

3 部分除却の例

 

  上記2において述べたことを簡単な例で説明することとする。

 

  取得価額が100万円、耐用年数が10年、5年目に未償却残高が50万円の資産について、5年目に、その資産が痛んだために半分(帳簿価額は25万円相当)を撤去し、30万円をかけて原状回復をしなければならない、という簡単な例について考えてみよう。

 

  この例において、仮に、撤去した半分の部分に相当する帳簿価額(25万円)を除却損として損金に計上することができるとすると、5年目でこの除却損25万円が損金に計上されることとなる。

 

  この場合に、原状回復に要する30万円が修繕費として損金に計上されるということであれば、5年目では、上記の除却損25万円とこの修繕費30万円の合計55万円が損金となり、資産の帳簿価額の残額は25万円となる。

 

  要するに、この資産に関しては、5年目に30万円の修繕費をかけて原状に復しただけであるにもかかわらず、6年目から10年目までの期間に損金とすることが予定されていた25万円相当の金額を5年目に前倒しで計上する結果となるわけである。

 

  この例からも分かるとおり、減価償却資産の原状回復費用を「修繕費」ではなく「資産」又は「資本的支出」としない限り、減価償却資産を部分除却して損失を計上するという仕組みは採り得ない。

 

  ただし、減価償却資産の部分除却による損失を計上し、その減価償却資産の原状回復費用を資産に計上するという「取替法」とも呼ぶべき方法自体に合理性がないということではない。このような方法を採るためには、減価償却資産の原状回復費用を「修繕費」ではなく「資産」又は「資本的支出」としなければならないわけであるが、現在の税法の下では、減価償却資産の原状回復費用の損金計上を否認することは許されず、また、減価償却資産の部分除却による損失の損金計上も認められない、ということである。

 

  本件における建物の屋根の張替えの詳細は明らかではないが、それが如何に予想外の特殊な事情による個別性の高い事案であったとしても、その取扱いが税法における損金や減価償却の取扱いである以上、それらの税法における取扱いの基本的な考え方や理論を正しく理解し、法令の規定を正しく解釈して取り扱わなければならない。

 

4 実務対応

 

  修繕費と資本的支出の区分は、必ずしも容易ではなく、本件においても、その区分が問題とならざるを得ないはずである。

 

  この区分に関しては、法人税基本通達第7章第8節にいくつかの取扱いが示されているが、修繕費と資本的支出の区分が合理的に行い得るのであれば、これらの取扱いに拠る必要はない。

 

  本件のようなケースにおいては、修繕を依頼する業者に、元の状態に復する修繕を行う場合の見積書を作ってもらい、実際の修繕の見積書と比較して、元の状態に復する修繕の費用の額までを修繕費とし、その費用の額を超える部分の額を資本的支出とするのが最も合理的かつ簡便であるように思われる。

 

  本件は工場の建物の屋根を張り替えるというものであるが、工場の建物の屋根を元の状態に復するための費用の額とその工場の建物の取得価額の未償却残額(帳簿価額)の内の屋根に相当する部分の金額とを比較してみると、一般的には、前者の費用の額が大きいケースが多いのではないかと思われる。この前者の費用の額は、税法上、修繕費として損金の額となるものであるが、修繕費に関しては、特に損金経理等の要件が付されているわけではなく、その全額が損金の額となる。このため、修繕を依頼する業者に元の状態に復する修繕を行う場合の見積書を作ってもらって修繕費の額を計上する方が、上記3で述べた「取替法」とも呼ぶべき方法によって部分除却による損失の額を計上する方よりも、結果的には、大きな金額が損金の額となる可能性が高いものと考えられる。