※T&Amaster(ロータス21)2011.3.14 No.394 に掲載
1.特定外国子会社等の判定
外国子会社合算税制においては、内国法人に係る外国関係会社のうち、本店又は主たる事務所の所在する国又は地域(以下、「本店所在地国」といいます。)におけるその所得に対して課される税の負担が我が国における法人の所得に対して課される税の負担に比して著しく低いものとして定められるものが特定外国子会社等に該当することになります(措法66の6①)。そして、その著しく低い租税負担割合とは、外国関係会社の各事業年度の所得に対して課される租税の額がその所得の金額の20%以下の割合とされています(措令39の14①二)。
この租税負担割合の計算の分母となる金額は、外国関係会社の各事業年度の決算に基づく所得の金額につき、その本店所在地国の外国法人税に関する法令の規定により計算した所得の金額に、その所得の金額に係る次の①から⑤までに掲げる金額の合計額を加算した金額から、その所得の金額に係る次の⑥に掲げる金額を控除した残額とされています(措令39の14②一)。
① 非課税所得の金額
② 損金算入支払配当等の額
③ 損金算入外国法人税の額
④ 我が国の法令により計算した場合の保険準備金の繰入限度超過額
⑤ 我が国の法令により計算した場合の保険準備金の取崩し不足額
⑥ 益金算入外国法人税の額
本稿では、まず、上記①の非課税所得の金額について確認を行い、その後に、外国関係会社が行う組織再編成等により、その外国関係会社の本店所在地国の法令において非課税となる譲渡益が発生するケースについて、その非課税譲渡益の金額を租税負担割合の計算においてどのように取り扱うことになるのかということを検討することとします。
2.非課税所得の金額
上記1①の非課税所得の金額は、外国関係会社の本店所在地国の法令により外国法人税の課税標準に含まれないこととされる所得の金額とされており、次に掲げる2つの配当等の額については除外されています(措令39の14②一イ)。
○ 外国関係会社の本店所在地国に所在する法人から受ける法人税法23条1項1号に掲げる金額(法人税法24条1項各号に掲げる事由による金銭その他の資産の交付により減少することとなる利益積立金に相当する金額を含む。)(措令39の14②一イ(1))
これを上記1①の非課税所得の金額から除いているのは、我が国においても国内法人間の受取配当を原則益金不算入としていることからみて、これを特別の取扱いと見るのは適当でないとの考え方によるものとされています 。
○ 外国関係会社の本店所在地国以外の国又は地域に所在する法人から受ける配当等の額でその有する株式等の数若しくは金額のその法人の発行済株式若しくは出資(自己が有する自己の株式等を除く。)の総数若しくは総額のうちに占める割合が、その本店所在地国の法令に定められた割合以上であること又はその本店所在地国の法令に定められた外国法人税の負担を減少させる仕組みに係るものでないことを要件として課税標準に含まれないこととされるもの(措令39の14②一イ(2))
これを上記1①の非課税所得の金額から除いているのは、一定の持株要件等を満たす海外子会社からの受取配当等を非課税とする制度は我が国が認めている外国子会社配当益金不算入制度(法法23の2)と実質的に同趣旨のものであることから、これについても特別の優遇措置とは見ないこととしたことによるものとされています
。
また、上記の「本店所在地国の法令により外国法人税の課税標準に含まれないこととされる所得の金額」には、例えば、次のような金額が含まれるとされています(措通66の6-5)。
① 課税標準に含まれないこととされる剰余金の配当、利益の配当又は剰余金の分配の額(租税特別措置法施行令39条の14第2項1号イ(1)及び(2)に規定する配当等の額を除きます。)
② 外国関係会社の本店所在地国へ送金されない限り課税標準に含まれないこととされる国外源泉所得
③ 租税特別措置法65条の2(収用換地等の場合の所得の特別控除)の規定に類する制度により決算に基づく所得の金額から控除される特定の取引に係る特別控除額
上記②の国外源泉所得については、その生じた事業年度後の事業年度において外国関係会社の本店所在地国以外の国又は地域からの送金が行われた場合に、その送金が行われた事業年度で課税標準に含めることとされているときであっても、特定外国子会社等に該当するのか否かの判定を行う場合には、その国外源泉所得の生じた事業年度の課税標準の額に含めることに留意することとされています(措通66の6-5注書き)。
また、外国関係会社の本店所在地国の法令において非課税所得とされる金額を租税負担割合の計算において所得の金額に加算する場合においては、早期償却や引当金・準備金のようないわゆる期間損益に関する事項については特段の調整を行わないこととされています
。ただし、上記1④及び⑤に掲げる一定の保険準備金については、期間損益に関する事項として特段の調整を行わないこととされるものの例外として、別途、調整規定が設けられています。諸外国の中には、保険会社に対して著しく高率の準備金の繰入れを認めている国があることが明らかとなり、準備金であっても、その繰入限度額が不相当に高額な場合には、課税所得が長年にわたって繰り延べられ、実質的に非課税措置と同様の効果を有する場合があることから、このような措置が設けられたと言われています
。
上記のような法令及び通達における取扱いから、上記1①の非課税所得の金額には、我が国の法令において二重課税排除等のために益金不算入制度が設けられている項目や本店所在地国の法令において基本的に期間損益項目と取り扱われるものは原則として含まれないが、実質的に永久に非課税措置とされる項目や、条件付きで非課税とされるような項目が含まれると解することができるものと考えられます。
3.外国関係会社が行う組織再編成等により生ずる非課税譲渡益の取扱い
上記のような租税特別措置法施行令39条の14第2項1号イに規定される非課税所得の金額の性格を踏まえた上で、外国関係会社が、その本店所在地国においてグループ内の組織再編成等(合併、分割、現物出資、事業譲渡など)を行い、その有する資産・負債を合併法人、分割承継法人、被現物出資法人、事業譲受法人などに譲渡し、その取引から譲渡益が生ずることとなる場合において、その本店所在地国の法令によりその譲渡益が非課税(課税の繰延べ)とされるときに、その譲渡益が租税負担割合の計算式の分母の金額の構成要素である上記1①の非課税所得の金額に含められるのか否かということについて検討を行うこととします。
なお、外国関係会社の本店所在地国の組織再編成等は種々多様であり、それがどのような取引であるのかということについては、別途、検討を行う必要がありますが、ここでは、便宜上、外国関係会社の本店所在地国の組織再編成等は我が国で行われる組織再編成等と同様のものであるという前提の下に検討を進めています。
(1)事業譲渡
まず、外国関係会社の本店所在地国で行われた組織再編成等のうちグループ内の法人間で事業譲渡が行われ、その本店所在地国の税制において、事業譲渡法人である外国関係会社の資産・負債の譲渡益に対する課税が行われないという例を想定してみましょう(図1参照)。資産の譲渡益に対する課税の繰延べの方法も、国によって異なっていると考えられますが、この例においては、その譲渡益の繰延べが譲渡益調整勘定の繰入れによって行われるという前提で解説を行うこととします。
所得課税の意義という観点からすると、事業譲渡によって生じた譲渡益に対する課税を永久に行わないことに合理性があるということにはなりませんので、このような例においては、その外国関係会社の本店所在地国では、その譲渡益に対する課税を繰り延べて、将来のいずれかの時点で課税を行うこととしているものと考えられます。
このように、譲渡益に対する課税が繰り延べられるということであれば、上記2の非課税所得の金額に関する考え方からすると、その譲渡益の額は、特定外国子会社等の判定における租税負担割合の計算式において分母の所得の金額に加算される上記1①の非課税所得の金額に含める必要はない、ということになると考えられます。
【図1】
(2)分社型分割・現物出資
次に、外国関係会社が分社型分割や現物出資を行い、分割法人や現物出資法人である外国関係会社が、その有する資産・負債を分割承継法人や被現物出資法人に譲渡し、その対価として分割承継法人や被現物出資法人の株式等を受け取っている場合で、その資産・負債の譲渡益に対する課税が行われないという例を想定してみることとします(図2参照)。
このような例においても、外国関係会社の本店所在地国では、分社型分割や現物出資によって移転する資産・負債の譲渡益に対する課税を繰り延べて、将来のいずれかの時点で課税を行うこととしているものと考えられます。
このように、譲渡益に対する課税が繰り延べられるということであれば、上記(1)の場合と同様に、その譲渡益の額は、特定外国子会社等の判定における租税負担割合の計算式において分母の所得の金額に加算される上1の非課税所得の額に含める要はない、というとと考えられます。
【図2】
(3)合併・分割型分割
合併と分割型分割に関しては、上記の事業譲渡、分社型分割や現物出資とは、やや事情が異なることとなります。
まず、合併について説明を行うこととします。
外国関係会社が被合併法人となってその有する資産・負債を合併法人に移転し、被合併法人の株主が合併法人の株式等の交付を受ける合併の場合で、その外国関係会社の本店所在地国においてその資産・負債の譲渡益に対する課税が行われないという例を想定してみましょう(図3参照)。
合併においても、被合併法人から移転する資産・負債の譲渡益に対する非課税措置を講ずる場合には、その措置は課税を繰り延べるものとなっていると考えられますが、合併においては、分社型分割や現物出資とは異なり、被合併法人が消滅することとなりますので、この課税の繰延べは、1つの法人の中での期間損益の調整というものとはなりません。合併における被合併法人の資産・負債の譲渡益に対する課税の繰延べは、法人格を超えて行われる課税の繰延べということにならざるを得ません。
すなわち、合併における被合併法人の資産・負債の譲渡益について、被合併法人という1つの法人の所得の金額の計算における取扱いを考えてみると、合併後に課税の取戻しが行われることはないわけです。
このため、合併における被合併法人の資産・負債の譲渡益について、上記の事業譲渡、分社型分割又は現物出資の場合のように上記1①の非課税所得の金額に含めないとするためには、被合併法人の所得の金額の計算における取扱いだけでなく、他の法人である合併法人の所得の金額の計算における取扱いにも言及して、将来、他の法人において課税されることとなるものを除く、としなければなりません。
しかし、租税特別措置法施行令39条の14においては、そもそも他の法人の所得の金額の計算における取扱いまで考慮して特定外国子会社等に該当するのか否かを判定するという考え方は存在していないと解されます。これは、租税特別措置法66条の6が組織再編成税制の創設前に設けられていることからしても、当然であり、組織再編成税制が創設された平成13年度改正以後において、組織再編成税制の内容を考慮した改正が行われない限り、既存の規定の解釈によって、他の法人の所得の金額の計算における取扱いまで考慮して、非課税所得の金額に含まれるのか否かを判定するといったことまで行うことは困難と考えられます。組織再編成税制においては、分社型分割や現物出資と合併や分割型分割とでは、同じく「適格」と呼んで課税を繰り延べるとは言っても、その課税の繰延べの基本構造が異なっているため、組織再編成税制が存在しなかった時の法令の規定をそのままにして、その解釈によって対応しようとしても、自ずと限界があります。
このような点からすると、現行においては、被合併法人において非課税とされる資産・負債の譲渡益の額は、特定外国子会社等の判定における租税負担割合の計算式において分母の所得の金額に加算される上記1①の非課税所得の金額に含めることとせざるを得ないと考えられます。
【図3】
次に、分割型分割について説明を行うこととします。
外国関係会社が分割法人となってその有する資産・負債の一部を分割承継法人に移転し、分割法人の株主が分割承継法人の株式等の交付を受ける分割型分割の場合で、その外国関係会社の本店所在地国においてその資産・負債の譲渡益に対する課税が行われないという例を想定してみましょう。
分割型分割は、そもそも合併が部分的に行われた状態と同じであり、分割法人において、分割承継法人に移転した資産・負債の譲渡益に対する課税を繰り延べたとしても、その分割法人においてその課税の取戻しが行われることとはなりません。分割型分割においては、分割法人における資産・負債の譲渡益に対する非課税措置は、合併の場合と同じく、分割法人の中での期間損益の調整というものではないわけです。
このような点からすると、合併の場合と同じく、現行においては、分割法人において非課税とされる資産・負債の譲渡益の額は、特定外国子会社等の判定における租税負担割合の計算式において分母の所得の金額に加算される上記1①の非課税所得の金額に含めることとせざるを得ないと考えられます。
1 『平成4年 改正税法のすべて』204頁
2 『DHCコンメンタール法人税法』5001頁
3 『平成5年 改正税法のすべて』228頁
4 『平成5年 改正税法のすべて』228・229頁