※T&Amaster(ロータス21)2011.4.25 No.400 に掲載
1.日本法令に準拠する場合の基準所得金額の計算
本稿においては、外国子会社合算税制において、特定外国子会社等の適用対象金額の計算の一要素となっている基準所得金額を計算する場合に、その特定外国子会社等が他の法人から剰余金の配当等を受け取っているときの実務上の問題点について、検討を行うこととします。
この基準所得金額とは、特定外国子会社等の各事業年度の決算に基づく所得の金額につき法人税法及び租税特別措置法による各事業年度の所得の金額の計算に準ずるものとして一定の基準により計算した金額です(措法66の6②二)。
この基準所得金額を日本法令に準拠して計算する場合には、次のイ及びロに掲げる金額の合計額からハ及びニに掲げる金額の合計額を控除した残額が基準所得金額となります。ただし、イに掲げる金額が欠損の金額である場合には、基準所得金額は、ロに掲げる金額からその欠損の金額とハ及びニに掲げる金額との合計額を控除した残額とされます(措令39の15①)。
イ 特定外国子会社等の各事業年度の決算に基づく所得の金額について、法人税法等の規定に準じて計算した所得の金額又は欠損の金額(措令39の15①一)
ロ 各事業年度において納付する法人所得税の額(同二)
ハ 各事業年度において還付を受ける法人所得税の額(同三)
ニ 各事業年度において子会社から受ける配当等の額(同四)
2.剰余金の配当等の取扱い
まず、日本法令に準拠して計算される基準所得金額の計算における剰余金の配当等の取扱いについて確認を行うこととします。
上記1.イでは、法人税法第2編第1章第1節第2款~第9款、第11款の規定の例に準ずるとしつつも、法人税法23条(受取配当等の益金不算入)及び23条の2(外国子会社から受ける配当等の益金不算入)の規定が除かれています(措令39の15①一)。
法人税法23条の規定が除かれている理由は、この規定が国内での法人税の二重課税を調整するために設けられたものであることによるとされており、仮に、この規定の適用を認めるとしたならば、同一の軽課税国内に持株会社を介在させて他の特定外国子会社等の所得を配当の形でその持株会社に移転させることにより、外国子会社合算税制の適用を免れるといった事態が生ずることも考えられるためであると説明されています 。
ただし、上記1.ニに掲げる配当等の額の控除及び控除対象配当等の額の控除(措令39の15③)の定めが設けられており、一定の配当等の額に関しては、別途、調整の措置が講じられています。
また、法人税法23条の2の規定が除かれている理由は、この規定が外国税額控除制度を前提とした一部国外所得免除方式として設けられているものであるが、国際的二重課税の排除の方式は各国様々な方式で行われており、日本の外国税額控除制度(外国子会社からの剰余金の配当等については国外所得免除制度)の仕組みを適用させることは徒に制度を複雑にする恐れがあることによると説明されています 。
このように、受取配当等の益金不算入等の規定については、その適用が制限されています。
しかし、剰余金の配当等に関する規定のうち、適格現物分配の取扱いについて定めた法人税法62条の5(現物分配による資産の譲渡)の規定については、その適用を制限することとはされていません。
また、上記1.ニに示したとおり、子会社から受ける配当等の額を控除することとされていますが、この子会社とは、次に掲げる要件を満たす他の法人をいいます(措令39の15①四)。
イ 次のいずれかの割合が25%以上であること
又は
ロ 上記イの状態が、特定外国子会社等が当該他の法人から受ける配当等の額(剰余金の配当等の額をいい、法人税法24条(配当等の額とみなす金額)の1項各号に掲げる事由による金銭その他の資産の交付により減少することとなる利益積立金額に相当する金額、いわゆるみなし配当等の額を含みます。以下、同じです。)の支払義務が確定する日以前6月以上(当該他の法人がその確定する日以前6月以内に設立された法人である場合には、その設立の日からその確定する日まで)継続していること
なお、上記ロの配当等の額の支払義務が確定する日については、配当等の額が法人税法24条1項各号(3号にあっては、解散による残余財産の分配に係る部分に限ります。)に掲げる事由により生ずるみなし配当等の額である場合(措規22の11①)には、同日の前日とされます。
ただし、上記の要件を満たす子会社でも、次に掲げる法人は、その支払配当の額等を損金の額に算入することができることから、この子会社の範囲から除かれます
。
(イ) 租税特別措置法67条の14の1項に規定する特定目的会社
(ロ) 租税特別措置法67条の15の2項に規定する投資法人
(ハ) 租税特別措置法68条の3の2第1項に規定する特定目的信託に係る同項又は同条9項に規定する受託法人
(ニ) 租税特別措置法68条の3の3第1項に規定する特定投資信託(同項1号ロ及びハに掲げる要件を満たすものに限ります。)に係る同項又は同条9項に規定する受託法人
3.剰余金の配当等が行われる場合の問題点
次の図のように、特定外国子会社等がその本店所在地国にその子会社として別の特定外国子会社等を有し、その子会社である特定外国子会社等から剰余金の配当等を受ける場合に、その剰余金の配当等の額が基準所得金額の計算においてどのように取り扱われるのかということを検討してみましょう。
【図】
この図の例においては、内国法人Pは、特定外国子会社等A、B、Cの基準所得金額の計算について、日本法令に準拠する方法によっているものとします。
この場合、特定外国子会社等Cが特定外国子会社等A及び特定外国子会社等Bに剰余金の配当等を現物によって行ったときは、特定外国子会社等A及び特定外国子会社等Bがこの現物分配直前に特定外国子会社等Cとの間に完全支配関係があることから、この現物分配が法人税法2条12号の15に掲げる適格現物分配に該当し、これらの特定外国子会社等は、その基準所得金額の計算において、法人税法62条の5の規定を用いることとなります。
このため、適格現物分配によりその有する資産を移転する特定外国子会社等Cについては、その移転資産をその現物分配直前の帳簿価額により譲渡したものとすることとなり、その移転資産の譲渡損益を計上せずに、各事業年度の基準所得金額の計算を行うこととなります(法法62の5③)。
他方、特定外国子会社等A及び特定外国子会社等Bについては、適格現物分配により資産の移転を受けたことによって生ずる収益の額(注)は、各事業年度の基準所得金額の計算上、益金の額に算入しないこととなります(法法62の5④)。この場合には、収益の額を益金の額に算入しないわけですから、当然のことながら、上記1ニに掲げる配当等の額の控除の適用はないことになります。
(注)法人税法62条の5第4項においては、「適格現物分配により資産の移転を受けたことにより生ずる収益の額は(省略)益金の額に算入しない」とされています。
しかし、「現物分配」は、法人税法2条12号の6において配当又はみなし配当とされるものを事由とするものとされており、配当やみなし配当を受ける法人においては、配当やみなし配当以外の収益は計上されないはずですから、「適格現物分配」によって資産の移転を受けた法人に生ずる収益の額は配当やみなし配当以外のものではないということになります。
また、特定外国子会社等Cが特定外国子会社等A及び特定外国子会社等Bに剰余金の配当等を現金で行った場合には、基準所得金額の計算において、法人税法62条の5第3項及び4項の規定を用いることはできず、また、上記2.において述べたとおり、基準所得金額の計算においては法人税法23条の規定を除くこととされていますので、同条の規定を用いてこれらの剰余金の配当等を控除することもできません。
しかし、上記2.で述べたとおり、租税特別措置法施行令39条の15第1項4号に規定する子会社から受ける配当等の額の控除の適用はあるため、特定外国子会社等Cに対する持株割合が25%以上である特定外国子会社等Bについては、保有期間要件を満たすことで、受け取る剰余金の配当等の額を控除することができることとなります。
他方、特定外国子会社等Aについては、25%以上という持株割合要件を満たさないため、租税特別措置法施行令39条の15第1項4号の規定の適用はありませんが、租税特別措置法施行令39条の15第3項の規定により、同項に規定する「控除対象配当等の額」として剰余の配当等の額を控除することができる可能性があります。
図の例では、特定外国子会社等Cの本店所在地国が特定外国子会社等A及び特定外国子会社等Bの本店所在地国と同一であるという前提で剰余金の配当等の取扱いについて検討しましたが、特定外国子会社等Cの本店所在地国が特定外国子会社等A及び特定外国子会社等Bの本店所在地国と異なる場合においては、現物分配が行われても、その現物分配がそもそも適格現物分配に該当しないため(注)、法人税法62条の5の規定の適用を受けることができません。このため、そのような場合に行われた現物分配に関しては、租税特別措置法施行令39条の15第1項4号及び同3項の規定の適用を受けて、基準所得金額の計算上、控除できるのか否かの検討を行うことができるのみということになります。
(注)「適格現物分配」となる現物分配は、資産の移転を受ける者がその現物分配の直前において内国法人との間に完全支配関係がある内国法人のみとされています(法法2十二の十五)。
4.平成23年度税制改正大綱の内容
「平成23年度税制改正大綱」(平成22年12月16日)においては、外国子会社合算税制の改正項目として、「日本税法基準によって特定外国子会社等の合算対象とされる金額を計算する場合には、現物分配に係る課税繰延べ規定の適用はないことを明確に(する)」(107頁)とされています。そして、この改正に関しては、特定外国子会社等の平成23年4月1日以後に行われる現物分配について適用することとされています。
本稿の執筆時点においては、この改正は行われていませんが、今後、いずれかの時点でこのような改正が行われる可能性が高いと考えられます。
このような改正が行われるということになると、上記3.の例において述べた適格現物分配に係る取扱いは、大きく変わることとなりますので、注意が必要となります。
また、今後、このような改正が行われることとなった場合には、その今後の改正の経過措置において、平成22年度改正が適用される事業年度からその今後の改正が最初に適用されることとなる事業年度前の事業年度までの間の取扱いがどのようなものとなるのかということに、十分に注意する必要があります。
1 DHC 会社税務釈義 3319の259頁
2 同上
3 平成21年 改正税法のすべて 445頁