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国際税制

 

15.外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン対策税制)の変遷

※T&Amaster(ロータス21)2012.08.13  No.463に掲載

 従来、外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン対策税制)は、軽課税国に法人を創って行う租税回避を防止するための制度と位置付けられてきたものと理解していますが、近年の改正により、同制度が必ずしも租税回避防止のための制度とは言えなくなっているように感じます。

 

 今後、海外の子会社等の組織再編成等が必要になる場合があると考えていますが、そのような場合に、株式の譲渡益が非課税となっていることによって租税負担割合が低くなる等により、一時的に、海外の子会社等が外国子会社合算税制の適用対象となるといったこともあり得る、と思われます。

 

 また、資産性所得に対する外国子会社合算税制の適用がないとも限りません。

 

 このような点からすると、外国子会社合算税制の趣旨・目的を正しく捉えておく必要があると感じています。

 

 外国子会社合算税制の趣旨・目的の変化について、ご教授をお願い致します。

 

要 旨

【マエストロの解説】

 

 外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン対策税制)は、ご指摘のとおり、軽課税国に法人を創って行う租税回避を防止するための制度として昭和53年度改正によって創設されたものであるが、近年は、租税回避防止措置という性格が急速に薄れてきており、租税回避に該当しないものに対してまで同制度を適用するという傾向が見受けられる。

 

 しかし、別の見方をすれば、外国子会社合算税制は、近年、同税制の本来のあるべき姿に戻りつつある、と見ることもできる。

 

 このような中にあっては、納税者は、その行為が租税回避であるのか否かということや外国子会社合算税制の趣旨・目的が租税回避防止であるのか否かということとは関係なく、同制度に関する法令の文言に該当するのか否かということのみで課税関係を判断する、ということを法令の解釈・適用の基本姿勢とせざるを得ないと考えられる。

 

1 外国子会社合算税制の創設前の取扱い

 外国子会社合算税制は、昭和53年度改正で創設されたわけであるが、同税制の創設前に、軽課税国に法人を設立して事業を行っていたケースとしては、海運会社の便宜置籍船のケースが最も多かったのではないかと思われる。

 

 海運会社の便宜置籍船に関しては、通常、軽課税国に船を所有するためだけの法人を設立し、その法人が船を所有して船籍をその軽課税国とすることとなるが、このような法人は、必然的に、ペーパーカンパニーとなる。このような方法が採られるのは、税を低く抑えるメリットだけでなく、船の乗員の国籍要件等に関する規制を受けないようにすることができる等のメリットがあるためである。

 

 外国子会社合算税制の創設前においては、このような海運会社の便宜置籍船のようなケースに対しては、法人税法11条(実質所得者課税の原則)の規定を根拠として、その軽課税国の法人の利益と損失の双方を株主である日本法人の所得の金額の計算に含めることとされていた。

 

 (実質所得者課税の原則)

第11条 資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であ
 つて、その収益を享受せず、その者以外の法人がその収益を享受する場合には、その収
 益は、これを享受する法人に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。

 

 要するに、軽課税国の法人を日本法人の支店等と同様に取り扱うこととされていたわけである。

 

 このような税制上の取扱いにもかかわらず、海運会社の便宜置籍船のようなケースが存在していたということは、そのようなケースに、税を低く抑えるというニーズ以外のニーズがあった、ということを意味している。

 

 法人税法11条の規定を根拠として、軽課税国にペーパーカンパニーを設立して事業を行うケースに対し、その利益と損失の双方を株主である日本法人の所得の金額の計算に取り込むこととすれば、租税回避を防止することともなる。

 

 要するに、「軽課税国にペーパーカンパニーを創ることは租税回避である!」と声を高める必要はなく、仮に、それが租税回避であったとしても、淡々と経済実態に即した中立的な取扱いをすることとすれば、それによって租税回避の問題も解決されることとなるわけである。

 

 このように、外国子会社合算税制を創設する前の法人税法11条の規定を根拠とする課税は、非常に合理性のある取扱いとなっていた、と言ってよい。

 

 もし、この取扱いの難点を指摘するとすれば、それは、適用基準を詳細に定めることが行われていなかった、ということであると考える。

 

2 外国子会社合算税制の創設時の趣旨・目的

 外国子会社合算税制は、昭和53年度改正による創設時には、「タックスヘイブン対策税制」や「タックス・ヘイブン対策税制」という名称が付されていたわけであるが、その趣旨・目的は、軽課税国に所得を留保することによる租税回避を防止すること、とされていた。

 

 要するに、外国子会社合算税制は、創設時には、租税回避防止措置とされていたわけである。

 

 『昭和53年 改正税法のすべて』においては、次のように述べられている。

 

「 このようにして、租税特別措置法の中に新たに二節が設けられ、第4節の2(居住者の特定外国子会社等に係る所得の課税の特例)と第7節の3(内国法人の特定外国子会社等に係る所得の課税の特例)の中でそれぞれ居住者と内国法人が軽課税国所在の子会社等を利用して租税回避を行う場合に対処するための措置が導入されたわけです。」(157頁)

 

 このように、外国子会社合算税制の目的を租税回避防止措置とすることは、制度の位置付けを明確にするという点では、優れた対応となっている、と考えられる。

 

 しかし、その一方で、上記1で述べた海運会社の便宜置籍船のケースのように、「租税回避」のためだけに軽課税国に法人を創って事業を行っているわけではないケースに関しては、その殆どが適用除外基準によって外国子会社合算税制の適用対象外となるとしても、やはり不要な課税が行われることとなることがあり得るものと考えられる。

 

 また、法人税法11条の規定には、租税特別措置法66条の6の規定の適用を受けるものを除く旨の定めは設けられていないことから、昭和53年度改正による外国子会社合算税制の創設前に法人税法11条の規定の適用を受けていたケースに関しては、法令の規定を正しく解釈するということになると、本来は、外国子会社合算税制の創設以後、これらの双方の規定が適用されるということにならざるを得ないはずである。

 

 以上のように、外国子会社合算税制は、その創設時から、租税回避防止措置ということを強調し過ぎたこと、そして、実質所得者課税との関係の整理が十分でなかったことによる問題を抱えるものとなっていた、と言わざるを得ない。

 

3 制度の名称

 外国子会社合算税制は、その創設時には「タックスヘイブン対策税制」や「タックス・ヘイブン対策税制」とされていた。

 

 立法当局においては、その後、「CFC税制」と呼ばれることもあったが、最終的には「外国子会社合算税制」という名称となって、現在に至っている(注)。

 

(注)「CFC税制」という名称は、諸外国に倣ったもので、「CFC」とは、「controlled foreign corporation / company(被支配外国法人)」ということである。

 

 また、平成22年度改正により資産性所得に対する課税の仕組みが導入されたことからすると、「外国子会社合算税制」という名称が妥当であるのか否かという疑問が出てくることもあり得る、と考えられる。

 

 しかし、一般には、現在においても、「タックスヘイブン対策税制」や「タックス・ヘイブン対策税制」という名称が用いられていることは、周知のとおりである。

 

 このように、立法当局が主導して制度の名称が変わるという例は、殆どないはずであるが、この名称変更の理由の説明は、見当たらない。

 

 平成4年度改正における軽課税国指定制度の廃止がこの名称変更の理由の一つとも考えられるが、一般には、外国子会社合算税制の租税回避防止措置という性格を薄めて、諸外国と同様の仕組みとして位置付けることを意識したものと受け止められている、と言ってよかろう。

 

 外国子会社合算税制の租税回避防止措置という性格が薄まるということは、即ち、租税回避でないものに対しても外国子会社合算税制が適用されるということを意味しており、上記のような名称変更は、本来は、その理由を明確にして行うべきものと考える。

 

4 租税回避でないものに対する適用

 外国子会社合算税制が租税回避防止措置であるということであれば、同税制を租税回避でないものに適用するのは、制度の趣旨・目的に反するものであって、適当でない、ということになるはずである。

 

 しかし、近年は、「来料加工」に対する外国子会社合算税制による課税など、同税制を租税回避でないものに適用する例が生じている。

 

 この「来料加工」とは、中国の製造委託先の工場に材料を無償で支給し、加工後の製品を加工賃で買い取る取引のことであり、日本法人がこの取引を行う場合には、通常、日本法人の香港子会社が中国の法人に対して原材料を無償支給して加工を委託する形態が採られている。このように、香港子会社が中国の法人に対して製品の加工委託をする取引には、税負担の如何とは関係なく、数多くの利点があるため、多くの日本法人がこの「来料加工」を利用してきた。

 

 この「来料加工」は、経済合理性の観点から行われているものであり、租税回避を目的とするものでないことは、明らかであるが、それにもかかわらず、この「来料加工」に対しては、香港子会社が卸売業ではなく製造業であるとして、外国子会社合算税制について定めた租税特別措置法の規定の文言を字句どおりに解釈し、同税制によって課税を行うこととされている。

 

 外国子会社合算税制の創設当初であれば、このように明らかに租税回避を目的とするものでないものを合算課税することは同制度の趣旨・目的に反することとなるため、そのような課税は行われなかった可能性が高いものと思われる。

 

 もし、この「来料加工」に対する外国子会社合算税制の適用が「趣旨・目的に反するものではない」と主張することができるとすれば、それは、「現地に所得を留保することには租税回避の側面を見出さざるを得ない」「留保所得を蓄積しているところに税の回避を推認し得る」(注)というようなことを根拠とする以外にない、と思われる。

 

(注)高橋元監修『タックス・ヘイブン対策税制の解説』昭和54年(清文社)87・93頁

 

 しかし、法人に所得が留保されている状態は、何ら特異なものではなく、法人の常態と言ってよいものであって、むしろ、法人に所得がありながら全く所得が留保されていないという状態こそが異常と言っても、過言ではなかろう。

 

 加えて、外国子会社合算税制を留保所得の有無にかかわらず発生所得に課税する仕組みに変更してもよいということであれば、上記のような「所得の留保」を以って「租税回避」と見ることができるという説明は、困難となる。

 

5 留保所得課税から発生所得課税への変更

 平成21年度改正において、外国子会社配当益金不算入制度が導入されたことに伴い、外国子会社合算税制においても、その制度の性格を大きく変える改正が行われ、外国子会社等の留保所得に対して課税する仕組みから外国子会社等の発生所得に対して課税する仕組みに変更されることとなった。

 

 この結果、仮に、外国子会社等が現地で発生した所得の全てを株主である我が国の親会社等に配当して留保所得が全くない状態となっていたとしても、その配当の有無とは関係なく、その現地で発生した所得に対して、外国子会社合算税制が適用されることとなった。

 

 しかし、外国子会社等が現地で発生した所得の全てを株主である我が国の親会社等に配当して留保所得がなくなった状態を租税回避と推認するといったことはできないはずであり、外国子会社合算税制の創設当初に採られていた租税回避の捉え方からすると、この平成21年度改正以後の同税制を租税回避防止措置として位置付けることはできないものと考えられる。

 

 この平成21年度改正に関しては、「外国子会社等が配当を行った時に我が国で課税が行われるからこそ、外国子会社等が所得を留保している時にそれを租税回避として我が国で課税を行う意義がある」「外国子会社等が配当を行った時に我が国で課税が行われないということであれば、外国子会社等が所得を留保していることを租税回避と言うことはできない」「外国子会社等が配当を行った時に我が国で課税が行われないということであれば、外国子会社等が所得を留保している時に我が国で課税を行う必要はない」というような指摘があり得るものと考えられる。

 

 換言すれば、この平成21年度改正により、外国子会社合算税制の租税回避防止措置という性格が大きく後退した、ということである。

 

 しかしながら、外国子会社合算税制を新たにどのような趣旨・目的の制度として位置付けることとなったのかということに関しては、全く説明がなされておらず、次の引用のとおり、単に仕組みをどのような経緯で変更したのかという事実が述べられているのみである。

 

「 上記一の外国子会社配当益金不算入制度の導入に伴い、内国法人が一定の外国子会社から受ける剰余金の配当等は益金不算入となり、適用対象金額等の計算において配当に対する課税との調整を行う必要がなくなりました。そこで、特定外国子会社等が支払う剰余金の配当等の額は、適用対象金額及び課税対象金額の計算上控除しないこととされました」(『平成21年度 税制改正の解説』444頁)

 

 ただし、軽課税国における法人がペーパーカンパニーであるということであれば、その法人は、形式的には日本の親会社等から独立した法人となっていても実質的には日本の親会社等の支店等と同様の状態にあると言ってよいはずであり、その法人の留保所得ではなく、その法人に発生した所得を日本の親会社等の所得に合算して課税すること自体には、理論と実態のいずれの観点からしても、妥当性がある、と考えられる。

 

6 資産性所得に対する課税

 平成22年度改正においては、外国子会社合算税制に、従来の会社単位の合算課税に加えて、資産性所得を合算課税する仕組みが新たに設けられた。

 

 この資産性所得に対する課税を行う趣旨に関しては、次のように説明されている。

 

「 株式や債券の運用による所得等の資産運用的な所得については、わが国と比べて著しく税負担の低い外国子会社においてそのような所得を伴う取引を行うことにつき積極的な経済合理性を見出すことは困難であり、むしろ、外国子会社への所得の付け替えに利用されやすいと考えられます。外国子会社によるこうした資産運用的な所得に相当する額については、租税回避行為に該当するものとして、わが国親会社の所得に合算して課税することが適当であると考えられます。」(『平成22年度 税制改正の解説』496頁)

 

 この説明にある「資産運用的」な取引は、運用コストの最も低い所で行うのが当然であり、そのような所で行うことが経済合理性のある行為ということになるはずである。

 

 そして、「運用コスト」としての「税」が最も少ないところで「資産運用的」な取引を行うことは、「節税」であって、「租税回避」ではなく、かなり以前から行われてきたことである。

 

 もし、上記のような説明が許されるということであれば、「節税」と「租税回避」に差はないということになってしまう。

 

 しかし、「資産運用的」な取引は、その取引を行う場所を容易に変更することが可能であり、その所得を我が国の親会社等の所得に合算して課税すること自体には、一定の合理性があると考えられる。

 

 要するに、税負担の低い外国子会社等において行う「資産運用的」な取引の所得を我が国の親会社等の所得に合算して課税を行うことには合理性があると考えられるが、そのような合算課税の制度は、「節税」を「租税回避」と強弁しなければ創設できないわけではない、ということである。

 

結び

 現在の外国子会社合算税制は、昭和53年の同制度の創設時を起点として見ると、当初の租税回避防止措置という性格が薄れて、その趣旨・目的が何かということが次第に不鮮明となりつつある。質問者も、外国子会社合算税制の変遷をこのように見ているものと思われる。

 

 このような状況は、質問者が懸念するとおり、租税回避でないものに対してまでも外国子会社合算税制の適用が拡大されるおそれがあるということを意味している。

 

 納税者としては、外国子会社合算税制の拡大適用に十分に注意しなければならないわけである。

 

 しかし、このような外国子会社合算税制の変遷は、昭和53年の同制度の創設前の法人税法11条の規定に基づく課税が行われていた時を起点として眺めてみると、かなり異なって見えてくることとなる。

 

 すなわち、昭和53年の外国子会社合算税制の創設前の取扱い ― 法人税法11条の規定に基づいて外国子会社等の所得と欠損の双方を日本の親会社等の所得と欠損に合算する取扱い ― が本来の合理的な取扱いであるという前提に立って、同税制を見ると、同税制は租税回避防止という側面を強く出し過ぎた制度ということにならざるを得ない、と考えられる(注)。

 

(注)法人税法11条は、実態に即した課税を行うものであり、法人の行為を「租税回避」と言わなければ適用できないというものではない。

 

 そして、上記3の制度の名称変更、4の「来料加工」に対する課税、5の留保所得課税から発生所得課税への変更、6の資産性所得に対する課税(注)などは、外国子会社合算税制の本来のあるべき姿に戻る階梯と捉えることができる。

 

(注)「資産性所得に対する課税」は、その課税の趣旨・目的からすると、法人税法11条に基づいて外国子会社等の所得と欠損を我が国の親会社等の所得と欠損に合算して課税する合算課税制度とは異なる系譜の合算課税制度と捉えるべきものと考える。

 

 これらの二つの見方は、いずれか一方が正しく他方が誤りという関係にあるわけではなく、硬貨の表面と裏面のような関係にあって、いずれも正しい見方となっている、と言ってよい。

 

 外国子会社合算税制の変遷をこのように捉えるとすれば、現段階においては、納税者としては、その行為が租税回避であるのか否かということや制度の趣旨・目的が租税回避防止であるのか否かということとは関係なく、同税制の関係法令の文言に該当するのか否かということのみで課税関係を判断する、ということを関係法令の解釈・適用の基本姿勢とせざるを得ないと考えられる。