※T&Amaster(ロータス21)2012.12.17 No.479に掲載
当社には、A国に100%の株式を保有するS1社とS2社とがあります。
この度、当社の内部の組織改革に合わせて、S1社の事業とS2社の事業の統合を図りたいと考えています。
この統合の方法としては、S1社をS2社に吸収合併させるか、または、S1社の事業をS2社に現物出資することを考えています。A国においては、このような合併も現物出資も、我が国の適格合併や適格現物出資のように、移転する資産の譲渡利益の計上を繰り延べることとされていますので、A国における課税の心配はありません。
しかし、我が国においては、このA国における合併や現物出資に伴う資産の譲渡利益は、タックス・ヘイブン対策税制の課否判定における租税負担割合の計算上、非課税所得として分母の金額に加算しなければならない可能性があると聞いています。
仮に、移転する資産の譲渡利益を分母の金額に加算するということであれば、この譲渡利益の額は多額であることから、子会社の租税負担割合は20%をはるかに下回ることとなり、S1社は、一事業年度だけタックス・ヘイブン対策税制の適用対象子会社となってしまう可能性があります。
このA国における合併や現物出資に伴う資産の譲渡利益を租税負担割合の計算における分母の金額に加算しなければならないのか否かについて、ご教授をお願い致します。
【マエストロの解説】
ご質問のA国における現物出資に伴う資産の譲渡利益でA国において課税が繰り延べられる金額に関しては、外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン対策税制)における租税負担割合の計算の分母の金額に加算する必要はないと考えられる。
合併に伴う資産の譲渡利益でA国において課税が繰り延べられる金額に関しては、法令の規定上、租税負担割合の計算の分母の金額に加算せざるを得ないと考えられるが、国税当局の取扱いの如何により、加算しなくても否認されない可能性がある。
1 外国子会社合算税制における租税負担割合の計算の概要
外国子会社合算税制においては、租税特別措置法66条の6第1項(内国法人に係る特定外国子会社等の課税対象金額等の益金算入)に規定する「本店又は主たる事務所の所在する国又は地域におけるその所得に対して課される税の負担が本邦における法人の所得に対して課される税の負担に比して著しく低いものとして政令で定める外国関係会社に該当するもの」が適用対象となる、とされている。
この「政令で定める外国関係会社」に関しては、租税特別措置法施行令39条の14第1項において、次のように定められている。
「(特定外国子会社等の範囲)
第39条の14 法第66条の6第1項に規定する政令で定める外国関係会社は、次に掲げるも
のとする。
一 法人の所得に対して課される税が存在しない国又は地域に本店又は主たる事務所を
有する外国関係会社(省略)
二 その各事業年度(下線は引用者。以下、同じ。)の所得に対して課される租税の額
が当該所得の金額の100分の20以下である外国関係会社 」
この租税特別措置法施行令39条の14第1項2号の「所得の金額」に関しては、同号の前の文章中に「所得の金額」という用語がないにもかかわらず「当該所得の金額」とされているため、「当該所得」であるのかあるいは「当該所得の金額」であるのかという疑義が生ずるものの、同号は「その各事業年度」という文言で始まっており、同号の「所得の金額」が「その各事業年度」という特定の一事業年度の「所得の金額」であることは、間違いない。
そして、この租税特別措置法施行令39条の14第1項2号の租税負担割合を計算する場合の分母となる「所得の金額」に関しては、2項において、次のように定められている。
「2 外国関係会社が前項第2号の外国関係会社に該当するかどうかの判定については、次
に定めるところによる。
一 前項第2号の所得の金額は、当該外国関係会社の当該各事業年度の決算に基づく所
得の金額につき、その本店又は主たる事務所の所在する国又は地域(以下この節にお
いて「本店所在地国」という。)の外国法人税(省略)に関する法令(省略)の規定
により計算した所得の金額に当該所得の金額に係るイからホまでに掲げる金額の合計
額を加算した金額から当該所得の金額に係るヘに掲げる金額を控除した残額とする。
イ その本店所在地国の法令により外国法人税の課税標準に含まれないこととされる所
得の金額(省略)
ロ~へ 省略」
この租税特別措置法施行令39条の14第2項1号の「所得の金額」は、同号の柱書きにあるとおり、「当該外国関係会社の当該各事業年度の決算に基づく所得の金額につき」、計算を行った金額であり、「当該所得の金額に係る」イからへまでの金額を用いて計算することとされている。
本件の質問は、上記のような法令の定めの中の租税特別措置法施行令39条の14第2項1号イの「その本店所在地国の法令により外国法人税の課税標準に含まれないこととされる所得の金額」に、外国子会社が外国で組織再編成を行って課税が繰り延べられた移転資産の譲渡利益の額が含まれることになるのか否か、というものとなっているわけである。
この租税特別措置法施行令39条の14第2項1号イの金額に関しては、租税特別措置法関係通達(法人税編)において、次のような解釈が示されている。
「(非課税所得の範囲)
66の6-5 措置法令第39条の14第2項第1号イに規定する「その本店所在地国の法令によ
り外国法人税の課税標準に含まれないこととされる所得の金額」には、例えば、次のよ
うな金額が含まれることに留意する。
(1) 外国関係会社の本店所在地国へ送金されない限り課税標準に含まれないこととさ
れる国外源泉所得
(2) 措置法第65条の2の規定に類する制度により決算に基づく所得の金額から控除さ
れる特定の取引に係る特別控除額
(注) 国外源泉所得につき、その生じた事業年度後の事業年度において外国関係会社の
本店所在地国以外の国又は地域からの送金が行われた場合にはその送金が行われた
事業年度で課税標準に含めることとされているときであっても、特定外国子会社等
に該当するか否かの判定を行う場合には、当該国外源泉所得の生じた事業年度の課
税標準の額に含めることに留意する。」
上記の通達の(1)の金額は、本件の組織再編成を行って課税が繰り延べられた移転資産の譲渡利益の額と課税上の取扱いが類似するものであるが、この(1)の金額は、「非課税所得」として租税負担割合の計算における分母の金額に加算する必要があると解釈することとされているわけである。
この(1)の金額を法令の規定に定める場合には、いくつかの方法があるが、いずれの方法に拠るとしても、租税法律主義を税制の基本原則とする国においては、課税を行うことがある限り(注)、必ず、課税標準に含まれる旨の法律の定めが必要となる。
(注)上記の通達の注記の記述は、上記の通達の(1)の金額が課税標準に含まれること
がある、ということを確認するものとなっている。
すなわち、上記の通達の(1)の金額に関しては、「課税標準に含まれない」という定めがいずれかの事業年度の所得の金額の計算に関する規定の中にあるとしても、必ず、いずれかの事業年度の所得の金額の計算に関する規定の中には、課税標準に含まれる旨の定めがあるはずである。
2 「非課税所得」の現在の取扱い
(1)事業年度
租税特別措置法施行令39条の14第2項1号イの「その本店所在地国の法令により外国法人税の課税標準に含まれないこととされる所得の金額」に関しては、「永久非課税となる所得がこれに該当し、期間損益となる所得はこれに該当しない」という主旨の見解が見受けられ、国税当局もこのような見解を採っている、という声が聞かれる。
そのような見解の根拠がどのようなものであるのかということは明らかではないため、詳細な検討を加えることはできないが、上記1の通達の解説において述べたことからも分かるとおり、国税当局からは、「永久非課税」ではなく「期間損益」となる所得も、租税特別措置法施行令39条の14第2項1号イの金額に含まれるという解釈が示されているわけである。
組織再編成において繰り延べられた移転資産の譲渡利益額は、基本的には、その移転資産がそのまま保有される限り、課税が行われることとはなっていないはずであり、上記の通達の(1)の金額と同じような状態となるわけであるが、この譲渡利益額は租税特別措置法施行令39条の14第2項1号イの金額に含まれないという解釈を採ることでよいのか、という疑問が生じてこざるを得ない。
この点に関し、拙著『外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン対策税制)』においては、上記の通達が存在することを承知した上で国税当局が「永久非課税となる所得がこれに該当し、期間損益となる所得はこれに該当しない」という見解を採っているものと推測し、基本的には、この見解と同様の観点に立って、分社型分割・現物出資における移転資産の譲渡利益額は租税特別措置法施行令39条の14第2項1号イの金額に含める必要はない、という解釈を採ることとしている(注)。
(注)『外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン対策税制)』131~142頁(法令出
版)平成24年1月17日
ただし、この見解や上記通達の(1)のような取扱いをする根拠が明確ではないため、同著においては、この見解に沿う結論のみを述べるに留めている。
ところで、本件の検討を行うに当たっては、この見解が上記1に掲げている法令の規定をどのように解釈するものであるのかということも、よく確認しておく必要がある。
上記1において述べたとおり、租税特別措置法施行令39条の14第2項1号イの金額は、素直に解釈すれば、「当該外国関係会社の当該各事業年度の決算に基づく所得の金額につき」、「当該所得の金額に係る」「その本店所在地国の法令により外国法人税の課税標準に含まれないこととされる所得の金額」ということになり、「永久非課税」か「期間損益」かということとは関係なく、「当該各事業年度」の「課税標準」に含まれないこととされる所得の金額がすべて該当する、ということになるように思われる。
すなわち、「当該外国関係会社の当該各事業年度の決算に基づく所得の金額につき」、「当該所得の金額に係る」「その本店所在地国の法令により外国法人税の課税標準に含まれないこととされる所得の金額」は、「当該各事業年度」に係わらず非課税となる金額である、という解釈を採り得るのか、という疑問が残らざるを得ない。
立法技術の観点からすれば、むしろ、「当該事業年度」に非課税となる金額を租税特別措置法施行令39条の14第2項1号イに掲げようとした場合には現在のような定め方となる、と言ってもよいくらいである。
仮に、租税特別措置法施行令39条の14第2項1号イの金額を「永久非課税」のものだけにしようということであれば、少なくとも、同号柱書きの「当該所得の金額に係る」という文言は削除し(注)、同号イに「当該各事業年度以後の各事業年度において」という文言を追加する必要がある、と考えられる。
(注)この場合、租税特別措置法施行令39条の14第2項1号ロからへまでにおいて、
「当該所得の金額に係る」という旨の文言が必要となる部分に関しては、適宜の文
言を個々に追加する必要がある。
このように、租税特別措置法施行令39条の14第2項1号の規定を素直に解釈すれば、「永久非課税」とか「期間損益」というような観点から同号イの金額を捉えるべきであるという結論を導き出すことは、容易ではない。
しかし、基本的には、「永久非課税」のものだけが租税特別措置法施行令39条の14第2項1号イの金額となると解釈をする方が納税者に有利となるため、それが国税当局において容認されるということであれば、そのような解釈を採ることには妥当性がある、と言ってよかろう。
このような解釈を採るということは、租税特別措置法施行令39条の14第2項1号の「当該各事業年度・・・につき」、「当該所得の金額に係る」という文言にこだわらずに同号の規定を解釈する、ということを意味している。
上記のとおり、租税特別措置法施行令39条の14第2項1号イの金額は「永久非課税」のものだけかあるいは「期間損益」のものを含むのかという議論は、「事業年度」に関する議論であり、やや不分明さが残るものの、一応は、議論の俎上に乗せることができるわけであるが、これに対して、次の「納税義務者」に関する議論は、従来、まったく行われてこなかったものと思われる。
(2)納税義務者
現物出資においては、資産・負債が株式に形態変化するだけであり(注)、現物出資法人は、資産・負債の代わりに株式を取得し、資産・負債の譲渡利益の額は、株式の譲渡利益の額に置き換えられて、その現物出資法人において繰り延べられるため、「納税義務者」に関する検討を行う必要はない。
(注)厳密に言えば、資産・負債の譲渡利益の額がそのまま繰り延べられるのではな
く、他の資産である株式の譲渡利益の額に置き換えられて繰り延べられる場合に
は、資産・負債の譲渡利益の額に対する課税と株式の譲渡利益に対する課税とが
同じとは限らないため、繰り延べられる資産・負債の譲渡利益の額を租税特別措
置法施行令39条の14第2項1号イの金額に含めるべきか否かという議論もあり得
る。
しかし、合併においては、被合併法人は、資産・負債を移転した後に消滅することとなり、資産・負債の譲渡利益の額は、合併法人において繰り延べられることとなるため、二の「納税義務者」にまたがって課税の繰延べが行われる場合に、そのような繰延べが行われる譲渡利益の額が租税特別措置法施行令39条の14第2項1号イの金額に含まれることとなるのか否かという問題が生ずることとなる。
上記(1)の問題が租税特別措置法施行令39条の14第2項1号の「当該外国関係会社の当該各事業年度の決算に基づく所得の金額につき」という文言の「当該各事業年度」の部分の問題であるとすれば、この「納税義務者」の問題は、その文言の「当該外国関係会社」の部分の問題と捉えることができる。
この「納税義務者」の問題も、基本的には、上記(1)の「事業年度」の問題と共通する問題であり、租税特別措置法施行令39条の14第2項1号イの金額は、素直に解釈すれば、同号柱書きの「当該外国関係会社」において「その本店所在地国の法令により外国法人税の課税標準に含まれないこととされる所得の金額」と解することとなるものと思われる。
また、上記(1)の末文においても述べたとおり、この「納税義務者」の問題に関しては、「事業年度」の問題とは異なり、従来、複数の「納税義務者」にまたがって課税の繰延べが行われる場合の所得の金額を租税特別措置法施行令39条の14第2項1号イの金額に含めなくてもよいという見解が国税当局から述べられたことはないものと思われる。
このような事情を考慮し、前著(139~142頁)においては、合併において外国で非課税とされる資産・負債の譲渡利益の額は租税特別措置法施行令39条の14第2項1号イの金額に含めることとせざるを得ない、と述べたところである。
最後に
上記2において検討した問題は、いずれも本来は政令改正によって対応するのが好ましいわけであるが、上記2(1)の「事業年度」の問題のように、政令の解釈として、通達又はQ&Aにより、国税庁が見解を明らかにする、ということでも対応可能と思われる。
組織再編成においては、譲渡利益の繰延べだけでなく、譲渡損失の繰延べも行われるため、単純に利益が発生する場面だけを念頭において解釈を考えればよいということにはならないわけであるが、このことは、組織再編成に関しては、他の項目以上に、その取扱いの明確化が必要となる、ということを意味している。
現実に目を向けると、税のルールがはっきりしていないと、経営判断が難しい、というケースは、決して珍しくない。
特に、上記2(2)の「納税義務者」の問題に関しては、2(1)の「事業年度」の取扱いからすると、複数の「納税義務者」にまたがって課税の繰延べが行われる場合であってもその所得の金額を租税特別措置法施行令39条の14第2項1号イの金額に含めなくてよいという見解を国税当局が示すことができないわけではない、と考えられるため、国税当局の早急な対応が望まれる。