Q&A

国際税制

 

外国子会社への出向者に係る出向負担金の取扱い

※T&Amaster(ロータス21)2013.07.15  No.507に掲載

 当社には、外国に製品を製造する子会社があり、当社の経理部門の社員がその子会社に出向しています。この出向者に関しては、子会社で、給与の一部を負担し、当社で、給与の一部、現地の住居費(ホテル代)、交通費(専用車両及び運転手の経費等)、社会保険料の事業主負担分及び社会保険料の本人負担分を負担することとしています。


 当社は、従来、上記の費用の負担額は法人税基本通達9-2-47(出向者に対する給与の較差補填)の給与較差補填金に該当するものと考えて当社の損金とし、子会社で負担する給与の一部に相当する金額のみを出向負担金として当社に支払ってもらうこととしてきました。


 しかし、先般、あるセミナーで、外国子会社に社員を出向させて受け取る出向負担金に関しては、金額が少なすぎるということで、移転価格税制の対象になったり、国外関連者への寄附金となったりして課税されるおそれがある、という話を聞きました。


 上記の出向者に関する費用の当社の負担に関する税制上の取扱いは、そもそもどのように検討すればよいのか、ということがよく分かりませんので、ご教授をお願い致します。

 

 【マエストロの解説】

 

1 「出向」の法的な位置付け


 「出向」は、法的には、雇用契約に基づく労務給付請求権などの使用者の権利の一部を出向元が出向先に譲渡することにより、出向者が出向元の労働者としての地位を維持しながら出向先においても労働者として労務に従事すること、と要約することができる。


 民法625条1項(使用者の権利の譲渡の制限等)においては「使用者は、労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができない。」とされおり、労働者を出向させる場合には、その労働者の承諾を得ることが必要となる。


 労働契約法14条(出向)においては、「使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。」と定められている。


 我が国の法制上、特に「出向」に関する定義等を設けたものは存在しないが、現在、我が国においては、「出向」は上記のような法規定に則って行われている。


 換言すれば、「出向」の場合には、出向元と労働者との間の雇用関係が存続し、これが基本的な労働契約関係ということになるが、出向先と労働者との間の雇用関係も生ずることとなり、二重の労働契約関係がある状態となるわけである。


 このため、出向元と労働者はそれぞれ雇用者と被雇用者として権利義務関係を有し、また、出向先と雇用者もそれぞれ雇用者と被雇用者として権利義務関係を有する、ということになる。


 もちろん、「出向」は三者関係であり、出向元と出向先との間にも、出向する労働者の労働条件、給与や社会保険料の負担や支払い方法などに関して出向契約が締結されることとなるが、この出向契約は、あくまでも出向元と出向先が共に雇用主という立場に立って交わす契約であり、雇用主としての権利義務がそれぞれにどのように帰属するのかということを定めることを主な内容とするものである。


 ところで、「出向」の税制上の取扱いを考えるに当たっては、「出向」と「派遣」の相違をよく理解しておく必要がある。


 「派遣」の場合には、文字どおり、派遣元が派遣先に自己の労働者を派遣して労務を提供させるということになり、派遣先と労働者との間に雇用関係が生ずることはない。


 また、「出向」と「業務委託」や「請負」との違いにも留意する必要がある。


 「業務委託」や「請負」においては、委託先や請負先は、雇用者としての指揮命令権等の権利を有せず、また、雇用者としての義務を負うこともない。


 雇用者間で締結される出向契約は、雇用関係が重複することによって生ずる雇用者の権利義務の帰属に関する事項等を雇用者間で取り決めるものであり、その取決めに従って雇用者の負担を金銭によって調整するものが「出向負担金」である。


 出向負担金の税制上の取扱いを考えるに当たっては、上記のような出向負担金の法的な性格を正しく理解しておく必要がある。

 

2 法人税法における出向負担金の取扱い


 上記1において述べたとおり、法人が自己の労働者を他に出向させる場合には、その労働者を雇用することによって生ずるさまざまな費用をいずれの雇用者が負担するのかということが問題となるが、これらの費用は、上記1において述べた雇用者の権利義務の帰属に関する取決めに従い、いずれの雇用者が負担するのかということが決まるはずである(注)。


 (注)現実には、出向契約書において費用をいずれの雇用者が負担するのかということのみ
   が定められ、その定めから雇用者の権利義務がいずれの雇用者にどのように帰属するこ
   ととされているのかということを推測することができる、という状態になっているもの
   が少なくない、と思われる。


 これらの費用に関しては、特に出向先が外国法人である場合に、ご指摘のようなホテル代等が生ずることによってその金額が多額となり、その取扱いが大きな問題となるわけであるが、それらが基本的には法人税法22条3項1号又は2号(損金の額)の損金の額となることに疑義はない。


 これらの費用の内訳に目を向けてみると、その多くがいわゆる現物給与を含む広義の「給与」となっている。


 このため、出向負担金の取扱いに関する検討は、基本的には、出向者の「給与の額」の負担に関する検討ということになる(注)。


 (注)正確に言えば、「給与」だけでなく、福利厚生費、家賃、交通費など、雇用に伴って
   生ずるさまざまな費用の負担が検討対象となるが、本稿においては、これらの費用の全
   てについて言及することはできないため、最も重要な給与の額の負担に関して解説を行
   うこととしている。

 

(1) 出向者の給与の額の負担に関する取扱い


 出向元や出向先となっている法人が支払う出向者の給与の額は、それを出向者等に直接に支払う場合であっても、また、出向先法人が出向負担金として出向元法人に支払ってその出向元法人が出向者等に支払うというように間接的に支払う場合であっても、基本的には、法人税法22条3項1号又は2号の金額として損金の額となる。


 これは、出向元法人における出向前の状態と同様であり、この出向前の状態と同様の状態が出向後には出向元法人と出向先法人の双方において生ずる、ということである。


 出向元法人と出向先法人がこのような関係にあることを踏まえて、法人税基本通達9-2-47(出向者に対する給与の較差補填)においては、次のような解釈が示されている。


 「9-2-47 出向元法人が出向先法人との給与条件の較差を補填するため出向者に対して
   支給した給与の額(出向先法人を経て支給した金額を含む。)は、当該出向元法人の損
   金の額に算入する。

    (注)出向元法人が出向者に対して支給する次の金額は、いずれも給与条件の較差を補
     填するために支給したものとする。

     1 出向先法人が経営不振等で出向者に賞与を支給することができないため出向元法
     人が当該出向者に対して支給する賞与の額

     2 出向先法人が海外にあるため出向元法人が支給するいわゆる留守宅手当の額」

 

 この通達を設けた理由に関しては、次のように説明されている。


 「 出向者としては、その出向後においても従来どおりの労働条件を保証するよう出向元法
  人に対して要求する権利が保留されているということができる(中略)この場合の出向元
  法人における給与の較差部分の負担は、出向元法人と出向者との間の雇用契約に基づくも
  のであって、単なる贈与的性格のものではない。すなわち、その出向者の労務が出向先法
  人に提供されていても、その給与の較差部分の負担を当然にその出向先法人に対して強
  制できる性質のものではなく、出向先法人においてこれを負担し得ない事情があれば、出
  向元法人においてこれを支給しなければならないという性質のものである。このように、
  給与条件の較差補てんのために出向元法人からその出向者に対して支給される金額は、本
  来の雇用契約に基づくものであり、また、その出向は出向元法人の業務の遂行に関連して
  行われるのが通常であるところから、その支給した金額は、出向元法人において損金の額
  に算入される。」(森文人編著『法人税基本通達逐条解説〔六訂版〕』(税務研究会出版
  局)825頁)


 上記の解説からも窺い知ることができるとおり、法人税法においては、出向者の給与の額は、その出向者の労務が出向先法人に提供されることから、出向先法人において負担するのが原則と捉えている。


 そして、その上で、「その出向は出向元法人の業務の遂行に関連して行われるのが通常であるところから」、「出向先法人においてこれを負担し得ない事情があれば」、出向元法人で損金の額に算入することもできる、と捉えている。 このように、労務の提供を受けることのない出向元法人において出向者の給与の額の一部を損金の額に算入することを認めることとしているのは、上記1において述べたとおり、出向元法人における出向者の給与の額の一部負担が出向元法人と出向者との間の雇用契約に基づくものであるためである。


 上記の通達においては、出向元法人が支払うものは「給与の額」であって出向元法人は給与の額を支給する者であり、その「給与の額」には「出向先法人を経て支給した金額を含む」とされているが、このように、この通達において出向元法人が直接又は間接に支払うものを出向元法人が支給する「給与の額」と捉えるのも、上記1において述べた「出向」の法的な位置付けを踏まえたものである。


 上記の通達の取扱いに関しては、出向元法人が直接に出向者に支給するものが「給与の額」とされるだけではなく、出向元法人が出向先法人を経由して間接に支給する場合の負担金についても、「派遣料」「業務委託料」「請負代金」などとは異なり、「給与の額」であるという点を確認しておくこととする。


 <備考>出向元法人が出向者に給与を支給することとしているため、出向先法人が出向元法
    人に「給与負担金」を支払う場合には、その「給与負担金」は、出向先法人の出向者
    に対する「給与」として取り扱うものとされている(法基通9-2-45)。


 上記の通達においては、出向元法人が支給する「給与の額」が給与条件の較差を補填するものである場合に、その「給与の額」を損金の額とする、としている。


 このため、そもそも「給与の額」に該当しないものは、上記の通達の取扱いの対象とはならない。


 そして、出向元法人が支給する「給与の額」の全額が損金の額となるわけでもない。


 出向元法人の給与の額の内、出向元法人において損金の額となるのは、「給与条件の較差を補填するため」に支給した部分(以下、「給与較差補填金」という。)だけとされている。

 

(2)給与較差補填金の範囲


 給与較差補填金が具体的にどのような金額であるのかということに関しては、上記の通達には、何も触れられていないため、実際のケースにおいては、合理的な方法によりその金額を計算することが必要となる。


 その際に参考となるのは、上記の通達の注記において給与較差補填金に含まれるものとして掲げられている賞与の額と留守宅手当の額である。


 このうちの賞与の額に関しては、「出向先法人が経営不振等で出向者に賞与を支給することができないため出向元法人が当該出向者に対して支給する賞与の額」とされており、これが「給与条件の較差を補填するため」に支給するものに該当する、ということに疑義はないはずである。


 留守宅手当に関しては、「出向先法人が海外にあるため出向元法人が支給する」ものとされている。


 この留守宅手当に関しては、出向元と出向先の「給与」の較差を補填するものとは言い難いものであるが、「給与条件」の較差を補填するものと捉えることは可能である。


 「給与条件」という用語は、特に定義されたものではないが、「給与」となるものに係る条件と解されるものであり、狭義の「給与」に止まらず、住居手当や通勤手当などの諸手当、「現物給与」と呼ばれる給付なども含めたものに係る条件ということになるものと考えられる。


 改めて言うまでもないが、上記の通達は、法人税法の解釈を示すものであって、これらの諸手当や現物給与などの取扱いは、それらに対して源泉所得税が課税されるのか否かということによって変わるものではない。


 また、この留守宅手当に関しては、上記の賞与の額とは異なり、上記の通達の解説にある「出向先法人においてこれを負担し得ない事情」の有無とは関係なく、出向元法人において損金の額とすることを認めている点に留意する必要がある。


 さらに、この留守宅手当に関しては、上記の通達が制定された際には、法人が負担すべき海外出向者に係る労災保険料等を出向元法人が負担した場合には「法定福利費として損金の額に算入するのが相当である」とされており、海外出向者が負担すべき厚生年金保険等の保険料(本人負担分)を出向元法人が負担した場合には「留守宅手当等に含めて取り扱うのが相当である」とされていたが、現在も、このような解釈を否定するべき理由は見当たらない。


 すなわち、「留守宅手当」「留守宅手当等」として出向元法人で損金の額とされる金額は、実際には、その用語から想像されるものよりも範囲の広いものとなっている。


 このように、上記の通達の注記における二つの例からすると、出向元法人において損金の額となる給与較差補填金の範囲はかなり広いものとなっているわけである。


 本稿においては、給与較差補填金の範囲がどこまでかということを上記以上に具体的に示すことまではできないが、実際のケースにおいては、給与較差補填金の範囲に関する上記のような事情をよく踏まえた上で、個々に内容を精査し、出向元法人における給与較差補填金の損金算入の可否の判定と損金算入額の計算を行うことが必要となる。

 

3 出向負担金と移転価格課税・国外関連者に対する寄附金課税


 ご指摘のとおり、税務調査においては、日本の親会社から外国の子会社への出向者に係る出向負担金の額が少なすぎるということで、国税調査官から「本来は、移転価格税制の対象となる」という指摘を受け、最終的には「今回は、国外関連者に対する寄附金課税の対象とする」と言われるケースが少なくない、と聞くところである。


 このように、移転価格税制や国外関連者に対する寄附金課税の適用に関して語る場合には、まず、これらの制度が租税特別措置法上の制度であり、法人税法上の制度とは異なる、ということをはっきりと認識しておく必要がある。


 法人税法22条2項及び3項においては、「別段の定め」があるものについては、その「別段の定め」を優先すると定めており、租税特別措置法は、この「別段の定め」に該当する。


 このため、出向負担が租税特別措置法66条の4第1項(国外関連者との取引に係る課税の特例)に定められている移転価格税制の適用を受けるということであれば、この移転価格税制における出向負担金の取扱いが上記2で述べた取扱いに優先することとなる。


 しかし、移転価格税制に関しては、周知のとおり、国外関連取引について独立企業間価格と異なる金額で取引を行った場合に独立企業間価格で行われたものとみなすこととされているため、出向負担に移転価格税制を適用するということであれば、その適用する「取引」がどのような取引であるのか、そして、独立企業間価格がどのような金額であるのかということを明らかにする必要がある。


 上記1において述べた「出向」の法的性格を正しく理解しないまま、「派遣」「業務委託」「請負」等と同様に捉えて移転価格税制の適用の有無等を議論することができないことについては、言を俟たない。


 上記1において述べた「出向」の法的性格からすると、出向負担に移転価格税制を適用するということは、現実には、非常に困難と言わざるを得ない。


 一方、国外関連者に対する寄附金課税は、移転価格税制とは事情が異なる。


 国外関連者に対する寄附金課税に関しては、租税特別措置法66条の4第3項に定められており、国外関連者に対して支出した寄附金の額を損金不算入とするものとされている。


 そして、この「寄附金の額」は、法人税法37条7項(寄附金の額の定義)に規定する「寄附金の額」をいうものとされている。


 このため、国内において子会社等に従業員を出向させた場合において寄附金の額とされる金額があるときのその金額と同様のものがあれば、国外関連者に対する寄附金課税の適用を受けることとなる。


 出向先法人が外国法人である場合には、留守宅手当に止まらず、ご指摘のようなホテル代等の特有の費用が発生することがあるため、これらの費用に関しても、いずれの雇用者が負担するのかということを雇用者間で取り決めることが必要となる。


 このため、税務上も、出向先が国内の法人である場合に比べて、検討項目が多くなり、検討内容も複雑にならざるを得ない。


 しかし、国外関連者に従業員を出向させている場合に国外関連者に対する寄附金課税の適用があるのか否かということを検討する作業は、基本的には、国内の子会社等に従業員を出向させている場合に寄附金課税の適用があるのか否かということを検討する作業と同様であり、上記1及び2において述べたことを踏まえて行うこととなることに変わりはない。