※T&Amaster(ロータス21)2014.03.17 No.539に掲載
今年度の改正で、外国法人に対する課税の原則が従来の総合主義から帰属主義に変更することが予定されていますが、この変更の改正に際して、法人税法147条の2に「外国法人の恒久的施設帰属所得に係る行為又は計算の否認」の規定が設けられることとなっています。
外国法人に対する課税の原則を変更したとしても、特に、租税回避が増えるということではないように思いますが、何故、今年度の改正でこのような規定を設けることとなったのでしょうか。
また、従来から存在する法人税法132条(同族会社等の行為又は計算の否認)と新しい147条の2の関係をどのように考えればよいのかということについても、ご教授頂ければ幸いです。
【マエストロの解説】
法人税法147条の2は、外国法人の恒久的施設(以下、「PE」という。)の所得の金額及び税額がその外国法人の本店等との間の内部取引によって操作され易いため、その操作による租税回避を防止することを目的として創設するものとされている。
ただし、外国法人に対する課税の原則を総合主義から帰属主義に変更することによってそのような租税回避が特に増加するという事情にはないと思われる。
法人税法132条と147条の2の関係は、重畳的な関係となっているものと考えられるが、詳細に関しては、財務省の解説を待つ必要がある。
1 外国法人に対する課税の原則の変更の概要
平成26年度税制改正において、外国法人の事業所得に関する課税の原則が総合主義から帰属主義に変更される予定となっている。
総合主義とは、国内に源泉のある全ての収益に対して課税を行うというものであり、帰属主義とは、国内のPEに帰属する全ての収益に課税を行うというものである。
例えば、外国法人が我が国にPEを持って事業を行いながら、その外国法人自らもそのPEを介さずに我が国で事業を行っているというケースにおいては、総合主義を採る場合には、我が国のPEが事業を行うことによって得た収益に対しても、また、その外国法人自身がそのPEを介さずに我が国で事業を行うことによって得た収益に対しても、我が国で課税を行うこととなるが、帰属主義を採る場合には、我が国のPEが事業を行うことによって得た収益に対してのみ、我が国で課税を行うこととなる。
外国法人のPEの事業所得を計算する場合の原価や費用等に関しては、総合主義においては、本店等に発生した原価や費用等の内に我が国にあるPEの原価や費用等とするべきものがあればそれらを我が国のPEの原価や費用等とし、我が国のPEに発生した原価や費用等の内に本店等の原価や費用等とするべきものがあればそれらを除いて我が国のPEの原価や費用等とすることになるが、帰属主義においては、本店等と我が国のPEとの関係を親会社等と我が国の子会社との関係と同様に考えて、本店等と我が国のPEとが取引を行うものと擬制し、本店等と我が国のPEとの間で調整が必要となる原価や費用等は、利益を加算した金額で認識することとなる。
このように、外国法人のPEの事業所得に対する課税が帰属主義によって整理されることとなれば、外国法人のPEの事業所得に対する課税は、外国法人の日本子会社に対する課税と非常に近いものとなる。
外国法人のPEの事業所得の計算には、移転価格税制と類似したルールが設けられるとともに、外国税額控除の適用が認められることとなる。
この改正は、OECDモデル条約の改正に合わせたものとされている。
2 法人税法147条の2の条文案と創設理由
外国法人のPE帰属所得に係る行為又は計算の否認の規定の条文案は、次のとおりである。
「 (外国法人の恒久的施設帰属所得に係る行為又は計算の否認)
第147条の2 税務署長は、外国法人の各事業年度の第141条第1号イ(課税標準)に掲げる国内源泉所得(以下この条において「恒久的施設帰属所得」という。)に係る所得に対する法人税につき更正又は決定をする場合において、その外国法人の行為又は計算で、これを容認した場合には、当該各事業年度の恒久的施設帰属所得に係る所得の金額から控除する金額の増加、当該各事業年度の恒久的施設帰属所得に係る所得に対する法人税の額から控除する金額の増加、第138条第1項第1号(国内源泉所得)に規定する内部取引に係る利益の額の減少又は損失の額の増加その他の事由により法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その外国法人の当該各事業年度の恒久的施設帰属所得に係る所得に対する法人税の課税標準若しくは欠損金額又は恒久的施設帰属所得に係る所得に対する法人税の額を計算することができる。」
この法人税法147条の2は、次の理由によって定めるものと説明されている。
「 租税回避防止策
外国法人のPE課税に関しては、同一法人内部で機能、資産、リスクの帰属を人為的に操作して、PE帰属所得やPE帰属所得に対する税額を調整することが容易であるという点で、同族会社と同様、潜在的に租税回避リスクが高いものである。したがって、同族会社との課税上のバランスを考慮すると、外国法人のPE帰属所得及び税額計算に関しては、同族会社の行為計算否認に類似した租税回避防止規定を設ける方向で検討してはどうか。」(財務省主税局参事官「国際課税原則の総合主義(全所得主義)から帰属主義への見直し」(2013年10月)27頁)
この説明にあるとおり、法人税法147条の2を設けるのは、「同一法人内部で機能、資産、リスクの帰属を人為的に操作して、PE帰属所得やPE帰属所得に対する税額を調整することが容易である」ことによるものとされている。
3 租税回避が増加するか
外国法人のPEの事業所得に対する課税の原則を総合主義から帰属主義に変更するとしても、現実には、課税関係にあまり影響は生じないものと推測されるところであり、特段、租税回避が増加するといった事情はないように思われる。
法人税法147条の2を創設する理由とされている内部取引に関しても、原価や費用等の付替えとして行われていたものが「取引」と擬制されるという事情はあるものの、従来、存在していなかったものが新たに生ずるというわけではなく、また、その「取引」に移転価格税制に類似したルールが適用されるということになれば、特に租税回避が増加するということにはならないのではないかと思われる。
また、近年、国際的な租税回避が問題視される状況となっていることは事実であるが、これも、外国法人のPEに特有の問題というわけではない。
また、後に述べるとおり、外国法人に対しても、従来から法人税法132条の取扱いが適用されることとなっている。
このような点からすれば、法人税法147条の2を創設する理由に関しては、上記2において引用した説明に止まらず、もう少し深度のある説明が求められるものと考える。
4 法人税法147条の2の条文案の内容の確認
法人税法147条の2は、上記条文案のとおり、外国法人のPEの事業所得に対してのみ適用され、事業所得に含まれない国内資産の運用・保有等の所得に対しては適用されない。
すなわち、外国法人のPEの所得として課税されるものの内の一部に対してのみ適用されるわけである。
また、この法人税法147条の2は、「恒久的施設帰属所得に係る所得の金額から控除する金額の増加」、「恒久的施設帰属所得に係る所得に対する法人税の額から控除する金額の増加」、「内部取引に係る利益の額の減少又は損失の額の増加」と「その他の事由」のみを事由とする法人税の減少がある場合にだけ適用されることとなる。
上記2において引用した説明においては、「同一法人内部で機能、資産、リスクの帰属を人為的に操作」することのみを租税回避防止規定の創設理由として掲げているが、法人税法147条の2の条文案は、適用事由を内部取引に限っているわけではなく、事業所得の全般にわたって適用事由が発生することがあるという前提で創られている。
この適用事由のうちの「内部取引に係る利益の額の減少又は損失の額の増加」に関しては、22条(各事業年度の所得の金額の計算)において用いられている「収益の額」や「原価の額」・「費用の額」という用語ではなく、「利益の額」と「損失の額」という用語が用いられている点に特色がある。法人税法においては、「取引」について、「収益の額」を益金の額とし、「原価の額」・「費用の額」・「損失の額」を損金の額とすることとしており、有価証券の譲渡に係る取引や非適格組織再編成による資産及び負債の移転に係る取引のように、「利益の額」又は「損失の額」を計上するものについては、それらの金額を益金の額又は損金の額とすることとしている。法人税法132条の2は、非適格組織再編成のそのような処理を踏まえて「合併等により移転する資産及び負債の譲渡に係る利益の額の減少又は損失の額の増加」を事由に掲げているわけである。
この「内部取引に係る利益の額の減少又は損失の額の増加」に関しては、文言の文理解釈からすれば、内部取引にマークアップされる金額の減少や増加のみを指しているように解されるが、そのような趣旨によるものであるのか否かということに関して、説明が必要と思われる。
「 その他の事由」に関しては、その前に掲げられた事由と同種のものしか含まない。
このため、法人税法147条の2の適用事由は、上記2において引用した説明において掲げられている事由よりも広くなっているものの、あまり広くはない、と考えてよい。
なお、上記2において引用した説明に加えて、「恒久的施設帰属所得に係る所得の金額から控除する金額の増加」と「恒久的施設帰属所得に係る所得に対する法人税の額から控除する金額の増加」を法人税法147条の2の適用事由とする理由に関しても、もう少し詳しく説明した方がよいと思われる。
5 法人税法132条と147条の2の関係
法人税法132条の取扱いは、147条(内国法人の更正及び決定の規定の準用)により、外国法人のPEにも適用されることとなっている。この適用関係は、今回の改正においても変更されていない。
「 (更正及び決定)
第147条 第130条から第132条の2まで(内国法人に係る更正及び決定)の規定は、外国法人の各事業年度の所得に対する法人税及び外国法人の退職年金等積立金に対する法人税に係る更正又は決定について準用する。」(平成26年度税制改正案)
このため、法人税法132条の取扱いは、従来どおり、外国法人の全ての所得及び税額に対して適用されることとなる。
この法人税法132条と147条の2との関係は、重複排除の定めが設けられていないため、132条と132条の2(組織再編成に係る行為又は計算の否認)や132条の3(連結法人に係る行為又は計算の否認)との関係と同様に、重畳的な関係となっているものと考えられる。
ところで、新たに法人税法147条の2を設けるに当たっては、132条では対応できない租税回避が存在するということを明確にする必要がある。そのような租税回避が存在するということでなければ、新たに租税回避防止規定を設けることはできない。
法人税法132条の2や132条の3に関しては、組織再編成税制や連結納税制度において非常に多くの多岐にわたる個別規定を設けたことによってこれらの濫用や潜脱による租税回避を防止することが必要となったが、従来の132条ではそのような租税回避には対応できないため、新たにそのような租税回避を防止することができる規定を設けることとされた。
上記2において引用した説明には、「同族会社との課税上のバランス」を考慮して法人税法147条の2を設ける必要があるとされているが、132条の取扱いは、既述のとおり、147条により、外国法人にも適用されることとなっているため、132条と147条の2の関係をどのように整理しているのかということに関しても、説明が必要と考えられる。この二つの規定の関係をどのように整理するのかということは、132条の適用法人や適用範囲をどのように解釈するのかということと密接に関係しており、同条の解釈という点からも、非常に重要である。
租税回避防止規定の在り方は、税務当局と納税者の双方にとって、非常に大きな関心事項であるため、双方のいずれもが十分に納得する租税回避防止規定を創るべきであるという観点に立ち、上記3及び4において説明を要する旨の指摘を行った点と上記の132条と147条の2の関係についてどのような整理がなされているのかということに関する今後の財務省の解説に期待したい。