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国際税制

 

外国税額控除の対象となる外国法人税の額から除かれる剰余金の配当等の額に課される外国法人税の額の解釈について

 法人税法施行令142条の3(控除限度額の計算の特例)の8項においては、外国税額控除の対象となる外国法人税の額から除かれることとなるものが定められており、同項各号には、これに該当するものとして、二つの外国法人税の額が掲げられています。

 

 そのうちの一つは、「租税特別措置法第66条の8第1項に規定する特定外国子会社等(省略)から受ける同項に規定する剰余金の配当等の額(同項の規定の適用を受けるものに限る。)を課税標準として課される外国法人税の額(省略)」(法令142の3⑧一)ですが、この「剰余金の配当等の額」は、租税特別措置法66条の8の1項の規定の適用を受けるものに限定されています。

 

 換言すれば、租税特別措置法66条の8の1項の規定の適用を受けて益金不算入となる剰余金の配当等の額に対して課される外国法人税の額を外国税額控除の対象から除くこととされているわけです。

 

 ところが、租税特別措置法66条の8の1項により益金不算入とされる金額は、剰余金の配当等の額の全額ではなく、そのうちの特定課税対象金額に達するまでの金額とされています。

 

 このため、特定外国子会社等から特定課税対象金額を超える剰余金の配当等の額を受ける場合には、その超える部分の金額に係る外国法人税の額については、法人税法施行令142条の3の8項1号の対象にならず、外国税額控除の対象となるのではないか、という疑問が生じてきます。

 

 しかしながら、これについては、その超える部分の金額に係る外国法人税の額を含めて、その全額が、外国税額控除の対象となる外国法人税の額から除かれることになると考えられます。

 

 法人税法施行令142条の3の8項1号において、課税標準とされる金額を制限する括弧書きの「同項の規定の適用を受けるものに限る。」の「もの」がその括弧書きの直前の「額」を指すということであれば、上記の疑問も首肯できないわけではありませんが、同号においては、租税特別措置法66条の8の1項を指して「同項に規定する」という文言が挿入されており、同項においては、「剰余金の配当等の額」が一つの用語として定義されています。

 

 このような点からすると、法人税法施行令142条の3の8項1号において、「剰余金の配当等の額」を部分的に捉えることとするのは、困難であると考えます。

 

 仮に、剰余金の配当等の額のうち特定課税対象金額を超える部分の金額に係る外国法人税の額を外国税額控除の対象となる外国法人税の額から除かないこととするということであれば、租税特別措置法66条の8の2項の「剰余金の配当等の額」の括弧書きのように、条文上、「租税特別措置法66条の8第1項の規定の適用を受けた部分の金額に限る」というように限定して規定しなければなりません。

 

 以上のように、特定課税対象金額を超える剰余金の配当等を受けたことにより、その超える部分の金額について益金の額に算入することとなった場合であっても、その超える部分の金額に係る外国法人税の額は、外国税額控除の対象とはならず、損金の額に算入する、ということになると考えます。

 

 ところで、この法人税法施行令142条の3の8項1号については、上記の解釈とは異なり、財務省のホームページの平成21年度改正の解説(本では、『平成21年 改正税法のすべて』438頁)においては、次のとおり、特定課税対象金額を超える剰余金の配当等の額に係る外国法人税の額について同項の適用がないと解される説明がなされています。

 

 「② 次の外国法人税は、二重課税が生じないものであることから外国税額控除の対象とならない外国法人税の額として、新たに追加されました。

 

イ 省略

 

ロ 外国子会社合算税制における特定外国子会社等(外国子会社配当益金不算入制度における外国子会社に該当するものを除きます。)から受ける剰余金の配当等の額(特定外国子会社等に係る特定課税対象金額に達するまでの金額に限ります。)で租税特別措置法第66条の8第1項の規定により益金不算入とされたものを課税標準として課される外国法人税の額 」本では(『平成21年 改正税法のすべて』438頁)内国法人が外国子会社から受ける剰余金の配当等の額に課される外国法人税の額(源泉税の額)は、仮にその外国子会社が租税特別措置法66条の8の1項の規定の適用を受ける特定外国子会社等であったとしても、その内国法人の所得に対して課される税であることは明らかであり、上記②ロの外国法人税は、「二重課税が生じないもの」(同上)ではありませんので、上記②の理由説明には疑問が残らざるを得ません。

 

 また、上記ロの「剰余金の配当等の額」に付された括弧書き「(特定外国子会社等に係る特定課税対象金額に達するまでの金額に限ります。)」が法人税法施行令142条の3の8項1号の規定に存在しているとすれば、剰余金の配当等の額を部分的に捉えるということもあり得るということになりますが、同号には、そのような括弧書きは存在していません。

 

 さらに、法人税法施行令142条の3の8項1号においては、「剰余金の配当等の額(同項の規定の適用を受けるものに限る。)を課税標準として課される外国法人税の額」と規定されていますが、外国で外国法人税を課すに当たって課税標準とされる剰余金の配当等の額はその全額であるはずであり、外国で我が国における租税特別措置法上の課税を考慮して課税標準を部分的な金額とするということは、あり得ません。

 

 以上の点からも分かるとおり、法人税法施行令142条の3の8項1号の規定は、文末の括弧書きの前までは、そもそも剰余金の配当等の額を部分的に捉えることができる構造とはなっていないわけです。

 

 しかしながら、立法時に、特定外国子会社等からの剰余金の配当等の額のうち特定課税対象金額を超える部分の金額については外国税額控除の適用を認めようという意図があったということであれば、納税者にとっては歓迎するべきことですから、そのような解釈を国税当局の解釈として通達等によって明確に示し、取扱いの統一を図る必要があると考えます。