法人税法におけるリース取引に関する規定の改正の趣旨は、『平成19年改正税法のすべて』の336頁において、「リース取引に関する会計基準(以下、「会計基準」といいます。)」及び「リース取引に関する会計基準の適用指針(以下、「適用指針」といいます。)」の改正に合わせたものであると説明されています。
しかし、法人税法と会計基準・適用指針とは、その内容が完全に一致するものではないので、法人税の取扱いと企業会計の取扱いに不一致が生ずる場合があります。
このように、法人税の取扱いと企業会計の取扱いに不一致が生ずる場合には、平成19年度改正の趣旨が、会計基準・適用指針との一致にあることから、会計基準・適用指針に従って計算された所得の金額は、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算」(法法22④)されたものとして、法人税においても、企業会計の取扱いが認められるのでしょうか。
あるいは、法人税では、会計基準・適用指針に関係なく、法人税法64条の2等の規定に基づく処理を行うべきでしょうか。
平成19年度改正では、所有権移転外リース取引について、その経済的実態が売買取引と同様であると考えられることや、企業会計上も所有権移転外ファイナンス・リース取引については、賃貸借処理を廃止し、売買処理に一本化されるという背景から、法人税法上、所有権移転外リース取引についても、リース資産の引渡しの時に賃貸人から賃借人に対して売買があったものとして取り扱われることとなりました(法法64の2①)。
しかし、「Ⅰ リース税制の考え方と仕組み」で確認した通り、ファイナンス・リース取引の経済的実態を法人税制では売買又は金銭の貸借と、企業会計では売買と金融と捉えているように、両者は異なる考え方でリース取引に関する制度を規定しています。このように異なる考え方のもとで、リース取引に関する法人税制と企業会計の制度が規定されているため、ご質問の通り、法人税の取扱いと企業会計の取扱いに不一致が生ずるのも当然であるといえます。
その一方で、法人税法22条4項が「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って益金の額や損金の額の計算を行うと規定していることから、会計基準・適用指針に従った処理を行った場合には、法人税法上もその処理が認められるのではないか、という疑問が生ずることとなったものと考えられます。
そこで、法人税法の基本構造を改めて確認すると、リース取引については、法人税法22条2項・3項の別段の定めとして、法人税法64条の2の規定が設けられています。
法人税法64条の2の1項は、「・・・当該リース資産の売買があつたものとして、・・・内国法人の各事業年度の所得の金額を計算する。」と規定していることから、この規定の適用を受ける場合には、リース資産の売買があったものとして、所得の金額を計算することとなります。
そうしますと、例えば、企業会計上、オペレーティング・リース取引に該当したとしても、法人税法上、所有権移転外リース取引に該当する場合には、法人税法64条の2の1項の規定の適用を受け、リース資産の売買があったものとするということになります。
この場合には、法人税法22条4項の規定により、企業会計における賃貸借取引としての取扱いを法人税においても認めるということにはなりません。
仮に、法人税法22条4項の規定により、企業会計における賃貸借取引としての取扱いを容認するということになると、法人税法64条の2の1項の規定は、企業会計の取扱いによってその適用が無効になる場合が生じてしまうこととなります。
ところで、法人税法22条1~3項と5項の規定は、昭和40年度の法人税法の全文改正のときに現在とほぼ同様の形で規定されましたが、法人税法22条4項の規定は、2年遅れて、昭和42年度改正で法人税法22条に追加されています。
法人税法22条4項の規定が追加された趣旨については、「この規定は、具体的に企業が会計処理において用いている基準ないし慣行のうち、一般に公正妥当と認められないもののみを税法で認めないこととし、原則としては企業の会計処理を認めるという基本方針を示したものである」(傍点は著者。『昭和42年 改正税法のすべて』76頁)と説明されています。そのため、法人税法22条4項の規定は、同条2項に規定する収益の額及び同条3項に規定する原価の額、費用の額及び損失の額の計算にあたり、法人が一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算を行っていれば、法人税法は基本的にはその計算を尊重する、ということを宣言した規定であると解され、企業会計の取扱いに従って、その取扱いまで変更するものではないとするのが適当であると考えられます。
以上のことから、法人税法64条の2の3項に規定する税法上のリース取引に該当する場合には、法人税法22条2項・3項及び法人税法64条の2の規定に基づいて益金の額又は損金の額を計算し、該当しない場合には、通常の賃貸借取引と同様に法人税法22条2項・3項の規定に基づいて益金の額又は損金の額を計算することとなります。これらの場合において、法人税法22条2項に規定する収益の額や3項に規定する原価の額、費用の額及び損失の額を計算するにあたって、会計基準や適用指針など、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算するものと考えられます。