Q&A

リース税制

 

法人税と企業会計におけるフルペイアウトの形式的要件の相違

 法人税と企業会計のフルペイアウトの形式的要件には、図表70のような差異があります。

 

 したがって、税法上のリース取引と会計上のファイナンス・リース取引の範囲が一致していないことから、判定の結果、税法上のリース取引に該当するものの、会計上のファイナンス・リース取引に該当しない取引やその逆の取引が生ずることとなっています。

 

 ところで、平成19年度のリース税制の改正は、納税者の事務負担を配慮し、平成19年に改正された「リース取引に関する会計基準」の取扱いと同様に取り扱うために行われたものと言われていますが、税法上のリース取引の範囲については、会計上のファイナンス・リース取引の範囲に合わせる改正は行われていません。

 

 なぜ、このように法人税と企業会計で範囲に関する差異が生じているのでしょうか。

 

(図表70)フルペイアウトの形式的要件

法人税 企業会計
税制上の90%基準
 資産の賃貸借につき、その賃貸借期間(その資産の賃貸借に係る契約の解除をすることができないものとされている期間に限ります。)において賃借人が支払う賃借料の金額の合計額がその資産の取得のために通常要する価額(その資産を事業の用に供するために要する費用の額を含みます。)のおおむね100分の90を超えるもの( 法令131の2②)
(1)会計上の90%基準(現在価値基準)
 解約不能のリース期間中のリース料総額の現在価値が、当該リース物件を借手が現金で購入するものと仮定した場合の合理的見積金額(見積現金購入価額)の概ね90%以上であること(適用指針9(1))
(対応する規定なし) (2)会計上の75%基準(経済的耐用年数基準)
 解約不能のリース期間が、当該リース物件の経済的耐用年数の概ね75%以上であること( ただし、リース物件の特性、経済的耐用年数の長さ、リース物件の中古市場の存在等を勘案すると、上記(1)の会計上の90%基準(現在価値基準)の判定結果が90%を大きく下回ることが明らかな場合を除きます。)(適用指針9(2)

 税制上の90%基準は、利息部分を含んだ①リース料総額と②リース資産の取得のために通常要する価額の90%相当額とを比較する仕組みになっています。

 

 これに対し、会計上の90%基準(現在価値基準)は、利息部分を考慮しない①リース料総額の現在価値と②リース物件の見積現金購入価額の90%相当額とを比較する仕組みになっています。

 

 税制上の90%基準と会計上の90%基準(現在価値基準)を比較すると、図表71のように、それぞれ異なる金額を比較するものとなっています。

 

 

 このように、それぞれ異なる金額を比較する理由の一つとして、税法上のリース取引に関する法人税制の考え方と、会計上のファイナンス・リース取引に関する企業会計の考え方に、相違があると考えます。

 

 法人税制では、税法上のリース取引のうち、売買とされるリース取引の経済的実態を売買と捉えているのに対し、企業会計では、会計上のファイナンス・リース取引の経済的実態を売買と金融の両面から捉えていると考えられます。

 

 このため、税制上の90%基準は、割賦販売取引の取扱いと同様に、利息部分を含んだリース料総額を基準とし、会計上の90%基準(現在価値基準)は、金融という側面から、利息部分を含まないリース料総額の現在価値を基準としていると考えられます。このため、法人税制と企業会計の考え方の相違からすれば、このように判定基準の内容が異なり、範囲に差異が生ずるのは当然といえます。

 

 しかし、ファイナンス・リース取引の経済的実態を適切に反映させるという目的は、法人税と企業会計で異なることはなく、かつ、フルペイアウトの実質的要件は一致しているため、ご指摘のとおり、法人税と企業会計におけるフルペイアウトの判定基準に差異があることは妥当ではない、と考えられます。

 

 そこで、最も合理的なフルペイアウトの判定基準を検討してみると、ファイナンス・リース取引の経済的実態は、単なる売買や金銭の貸借ではなく、売買と金融の両面にあると考えられることや、利息部分はリース期間が長くなればなるほど大きくなり、例えば、5年のリース期間と10年のリース期間では、10年のリース期間の方が税制上の90%基準を満たしやすくなるという問題があることから、フルペイアウトの形式的要件については、売買に係る部分と金融に係る部分を切り離して考え、利息部分を考慮しないで元本部分を基準とする会計上の90%基準(現在価値基準)の方が税制上の90%基準よりも合理的である、ということになると考えられます。

 

 また、会計上の75%基準(経済的耐用年数基準)は、会計上の90%基準(現在価値基準)の簡便法で、その基準を満たすからといって、必ずしもフルペイアウトの要件を満たすとは限らない場合(適用指針94)もありますので、必ずしも合理的であるとは言えないと考えられます。

 

 このような点から考えると、現行制度におけるフルペイアウトの形式的要件の中では、会計上の90%基準(現在価値基準)が最も合理的な基準であると考えられます。

 

 なお、最も理想的な要件は、Ⅲの「第1章 あるべき法人税制の考え方と仕組み」で確認するとおり、賃借人の立場ではなく、賃貸人の立場に立った「リース取引を通じた回収可能性」という観点から、「解約不能のリース期間におけるリース料総額等(リース料総額と残価保証額の合計額)が、実質的にリース資産の購入価額と利息相当額の全額を回収するのに十分であること」と考えられます。