平成20年度改正により、法人税法施行令131条の2の2項の規定うち、「資産の取得のために通常要する価額」という文言に括弧書きが追加され、「資産の取得のために通常要する価額(当該資産を事業の用に供するために要する費用の額を含む。)」という文言になりました。
『平成20年 改正税法のすべて』の351頁では、この「当該資産を事業の用に供するために要する費用の額」には、「賃貸借資産の取得に要する資金の利子、固定資産税、保険料等(以下、「借入金利子等」といいます。)」が含まれるという説明がなされていることから、フルペイアウトの形式的要件の判定においては、リース資産の取得に要する借入金利子等を「資産の取得のために通常要する価額」に加算して行うことになりますが、そのように考えてよろしいのでしょうか。
ご質問者は、リース資産の取得に要する借入金利子等を法人税法施行令131条の2の2項に規定する「資産の取得のために通常要する価額(当該資産を事業の用に供するために要する費用の額を含む。)」に本当に加算してよいのかという点で疑問を持たれていると考えられますので、まず、その点を確認することとします。
「資産の取得のために通常要する価額」とは、リース取引開始時におけるその資産の価額と引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税等の取得経費を含んだものと解されます。この取得経費の中には、リース資産の使用開始の期間前4に係る借入金利子も含まれますが、法人税基本通達7-3-1の2(借入金の利子)では、納税者が取得価額に算入しないことを選択することもできるとしています。
法人税基本通達7-3-1の2(借入金の利子)
固定資産を取得するために借り入れた借入金の利子の額は、たとえ当該固定資産の使用開始前の期間に係るものであっても、これを当該固定資産の取得価額に算入しないことができるものとする。
(注) 省 略
これに対して、リース資産の使用開始の期間後4に係る借入金利子や、固定資産税や保険料は、取得経費に含まれないことから、借入金利子等の大部分は、「資産の取得のために通常要する価額」にも含まれない、と考えられます。 次に、平成20年度改正で追加された括弧書きの「当該資産を事業の用に供するために要する費用の額」とは、資産を取得してからその資産を事業供用するための費用であり、改良費や機械装置等の据付費や試運転費などが該当すると考えられ、この中にも、借入金利子等は含まれないことになると考えられます。
したがって、文理解釈上、リース資産の使用開始前4に生ずる借入金利子を除けば、借入金利子等は、「資産の取得のために通常要する価額(当該資産を事業の用に供するために要する費用の額を含む。)」には含まれず、フルペイアウトの形式的要件の判定においては加算しない、ということになります。
しかし、以下のような理由により、実務上は、ご指摘の『平成20年 改正税法のすべて』の記載のとおり借入金利子等を「資産の取得のために通常要する価額(当該資産を事業の用に供するために要する費用の額を含む。)」に加算してフルペイアウトの形式的要件の判定を行うことができると考えます。
イ 法人税法施行令131条の2の規定の創設に伴って廃止された旧法人税基本通達12の5-1-2(おおむね100分の90の判定等)では、もともと、「賃貸人における賃貸借資産の取得価額及びその取引に係る付随費用(賃貸借資産の取得に要する資金の利子、固定資産税、保険料等その取引に関連して賃貸人が支出する費用をいう。)」とあるように、取得費用や事業供用費用ではなく、付随費用を賃貸借資産の取得価額に加算した上でフルペイアウトの形式的要件を判定することとしていたことから、平成20年度改正により追加されたこの括弧書きの規定は、この通達の取扱いを法令に規定する意図により設けられた、と考えられること。
ロ 「賃貸借資産の取得に要する資金の利子」を「資産の取得のために通常要する価額」に加算してフルペイアウトの形式的要件の判定を行った方が、税法上のリース取引として判定される可能性が低くなり、納税者にとっては税制上、有利となることも少なからずあるため、仮にこのように加算するという取扱いを行わないこととするのであれば、その根拠を条文上明確にしておくべきであると考えられること。
なお、法人税法施行令131条の2の2項の規定は、『平成20年 改正税法のすべて』の意図のように、借入金利子等を「資産の取得のために通常要する価額(当該資産を事業の用に供するために要する費用の額を含む。)」に加算してフルペイアウトの形式的要件の判定を行ってよいという文言にはなっていないと言わざるを得ないため、早期に改める必要があると考えます。