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5.消費税における「租税回避」

※T&Amaster(ロータス21)2015.03.16  No.586に掲載

 消費税法には、法人税法などとは異なり、法人税法132条(同族会社等の行為又は計算の否認)などのような租税回避を防止する規定が見当たりません。

 

 消費税においては、租税回避を行っても良い、ということになっているのでしょうか。

 

要 旨

【マエストロの解説】

 

  消費税法には、法人税法132条のような租税回避に課税をする旨の規定が設けられていないため、消費税の租税回避を行っても違法とはならない。

 

  ただし、将来、消費税の租税回避にも課税を行うことが検討されるものと考えられる。

 

  なお、消費税において「租税回避」とされているものは主に消費税の制度を濫用するものであり、制度の濫用が租税回避となるという点は他の税目においても変わりがないことから、消費税の租税回避に課税を行う旨の規定を設ける際には、税目を超えて「租税回避」の意義等に関する検討を深めることが必要となると考える。

 

1 消費税創設時に検討が行われたはず

 

  ご指摘のとおり、消費税法には、法人税法などとは異なり、法人税法132条のような包括的な租税回避防止規定は設けられていない。

 

  昭和63年の消費税法の創設の際に法人税法132条のような包括的な租税回避防止規定を設けるべきか否かということに関する議論が行われたことを確認できる議事録や資料等も見当たらないと聞くところである。

 

  しかし、法人税法等には従来から法人税法132条などのような包括的な租税回避防止規定が存在するわけであり、消費税法の立法を行うに当たって、包括的な租税回避防止規定の要否を検討しないということは、有り得ないはずである。また、昭和63年の消費税法の立法は、法人税法132条が存在する法人税法の立法に携わっておられた方々が中心となって行われていることからしても、包括的な租税回避防止規定の要否に関しては、当然、検討が行われた、と考えるのが自然である。

 

  それでは、どのような検討が行われたのであろうか。

 

2 消費税創設時の想定される検討の概要

 

  消費税法が創設された昭和63年当時に法人税法に存在した包括的な租税回避防止規定は、同族会社に関する132条だけであり、現在の組織再編成や連結納税に関する包括的な租税回避防止規定である132条の2や132条の3は、存在していなかった。

 

  このため、消費税法の創設時における包括的な租税回避防止規定の要否の判断に当たっては、「同族会社が消費税を不当に減少させようとする行為又は計算を行うのか?」という検討が行われたはずである。

 

  そして、この検討においては、「行わない」又は「包括的な租税回避防止規定を設けなければならない程ではない」という結論が得られたはずである。

 

  確かに、消費税を単に消費者から預かったものを国に納付するだけの税で、法人税のように所得の金額を計算するというようなことは行わない税と捉えるとすれば、同族会社に特有の法人税における租税回避のような事例は、想定しにくい。

 

3 消費税にも租税回避が存在

 

  我が国の消費税は、消費者から預かったものを国に納付するだけの税ということにはなっていない。消費者から預かったものを国に納付するだけの税であれば、税額の計算構造は、物品税と同じようなもの―売上に税率を乗ずる構造―でなければならないはずであるが、現実には、消費税は、付加価値を計算してその付加価値に課税を行う場合に設けられる計算構造―売上から仕入れを控除して付加価値を算出して税率を乗ずる構造―と実質的に同じ計算構造を持つ税となっている。

 

  すなわち、消費税は、課税売上に係る消費税額から課税仕入れに係る消費税額を控除して納付税額を計算するという法人税における所得の金額の計算構造に類似した計算構造を持つ税となっているわけである。

 

  そして、現実には、法人税に勝るとも劣らず租税回避が見受けられると言っても過言ではない状況となっている。

 

  平成18年6月16日の政府税制調査会の資料には、「新設法人を利用した消費税逃れの事例」と題して、免税点制度を利用して「資本金1千万円未満のペーパーカンパニー」を用いた「消費税逃れ」の説明図が掲載されており、さらに、「仕入税額控除の計算方法を悪用した租税回避スキーム」と題して、いわゆる自販機スキームの説明図が掲載されている。

 

  そして、平成19年11月の政府税制調査会答申「抜本的な税制改革に向けた基本的考え方」においては、「法人設立後2年間は免税事業者となる制度や仕入税額控除の計算方法を濫用した租税回避など、執行に当たって問題が生じているケースへの対処も必要である。」と指摘されている。

 

  要するに、既に平成18年頃から、政府税制調査会においても、「消費税逃れ」と「租税回避スキーム」への対処が必要であると指摘しなければならない状態となっているわけである。

 

  また、この自販機スキームに関しては、会計検査院が「租税回避策自体は違法ではないが、法の抜け穴を利用した事態が横行するのは好ましくない」として国税庁に対して実態調査を求めたと報道されている。

 

  これらに止まらず、最近は、車両を少しだけ改造して車両全体を非課税の「福祉車両」とすることで車両価格を抑えるという「福祉車両の非課税措置を悪用した租税回避行為」も横行していると言われている。

 

4 消費税の租税回避は制度の濫用

 

  上記3で述べた消費税における租税回避がどのような性質のものかということを考えてみると、それらは、いずれも消費税の制度の濫用というべきものである。

 

  上記3の「消費税逃れ」や「租税回避スキーム」とされている自販機スキームについて、政府税制調査会は、「法人設立後2年間は免税事業者となる制度や仕入税額控除の計算方法を濫用した租税回避」と捉えている。

 

  また、会計検査院は、自販機スキームについて、「法の抜け穴を利用した」ものと述べている。「法の抜け穴を利用」する行為は、法の潜脱ということになるが、「制度の濫用」を広義に捉えれば、これを「制度の濫用」に含めて考えることができる。

 

  さらに、上記3の車両を福祉車両に改造して消費税を非課税とする行為も、上記3で述べたとおり、「福祉車両の非課税措置を悪用した租税回避行為」である。

 

5 消費税の租税回避は全ての納税者に有り得る

 

  上記2において、消費税法の創設時には包括的な租税回避防止規定を設けなければならない程に同族会社に特有の租税回避が生ずることはないと判断したはずであると述べたが、その判断は、的確であったと言ってよい。

 

  上記3において述べた3つの行為は、いずれも同族会社でなければ成し得ない行為というようなものではない。

 

  「制度の濫用」は、同族会社、組織再編成を行う者、連結法人などに特有のものではなく、その濫用される制度の適用を受ける者であれば、誰もが行う可能性がある。

 

6 消費税の租税回避は合法的な節税

 

  消費税における租税回避は、その用語の持つ負のイメージとは異なり、合法的な節税である。

 

  法人税法には、租税回避に課税を行うためにわざわざ設けられた法人税法132条等の規定が存在するが、消費税法には、このような規定は存在しないことから、消費税における租税回避に対して法人税における租税回避と同様に課税をするというようなことはできない。法人税法132条等の規定が確認規定であれば、規定の有無にかかわらず、両者に同じように課税をすることができるが、法人税法132条等は、確認規定ではなく、創設規定である。

 

  消費税における租税回避が合法的な節税であるが故に、上記の3つの租税回避には課税が行われていない。

 

7 「租税回避」と「脱税」の接点にも目を向けることが必要

 

  法人税法等においては、税負担を減少させる行為や計算を「節税」、「租税回避」及び「脱税」の3つに分けて捉えるのが一般的であるが、消費税においては、「節税」と「脱税」という両極端のものしかない状態となっているわけである。

 

  これは、納税者からすると、制度を利用して税負担を減少させることができるというメリットがある一方で、「節税」のつもりで行ったことが些細なことで「脱税」とされてしまうリスクがある、ということでもある。

 

  国側としては、「節税」を否認しようとすれば、「脱税」と主張せざるを得ない、ということになる。

 

  このように、「落としどころ」ともなり得る「租税回避」がないという状態は、非常に危うい状態であり、実務において、大きな問題となる可能性がある。本来は「租税回避」として追加納税をするだけで済む者が立法の不備のために「脱税」を行った「犯罪者」とされてしまうといったことは、決して有ってはならない。

 

  消費税においては、「節税」と「脱税」の接点が重要な問題となるわけである。

 

  この状態を法人税に置き換えてみると、「租税回避」と「脱税」の接点が問題となるということである。

 

  「租税回避」に関しては、一般に、「節税」との接点のみが注目されるが、「脱税」との接点にも目を向けておくことが必要である。

 

8 個別規定の改正による対応には限界

 

  消費税の制度は、法人税の制度などと比べるとかなり簡素に出来ているが、制度の濫用に個別制度の改正だけで対応することには、自ずと限界がある。上記の3つの「租税回避」のケースが生じたこと自体、その限界を端的に示している。

 

  平成22年度改正で自販機スキームに、平成23年度及び24年度改正で新設法人を利用した消費税逃れに、それぞれ個別に防止措置が講じられているが、これらの防止措置に対しても、それを逃れるいくつかの対策が話題に上っている。これらの対策は、改正前と同様の「節税」の効果があるものもあれば、改正前と同様とまでは行かないが依然として相当の減税効果があるものもある。

 

  これらの対策の減税効果を完全に無くそうとするのであれば、更にこれらの防止措置を改正しなければならない。

 

  改めて言うまでもないが、消費税における制度の濫用は、これまでに触れた3つのケースに止まるものではなく、上記と同様の事情は、他のケースにおいても生ずることになるはずである。

 

  要するに、延々と納税者と立法当局との「いたちごっこ」が続く可能性があるわけである。

 

9 税目を超えた検討が必要

 

  租税回避に対しては、可能な限り、個別具体的な規定を設けて対応するべきである。

 

  このような点からすれば、上記8で触れた平成22年、23年及び24年の改正は、評価に値する改正であったと言ってよい。

 

  しかし、上記の3つのケースからは、制度を濫用するものを予め全て見通してそのようなことが起こらない制度を創ったり、立法後に生じた制度の濫用に対して完全無欠の措置を個別に講じたりすることは、現実には不可能である、という教訓も導き出すことができる。

 

  消費税においても、現に、法人税に勝るとも劣らず、制度を濫用する租税回避が生じていることからすれば、将来、包括的な租税回避防止規定の必要性が検討されることになるものと考えられる。

 

  ただし、このような検討の際には、消費税において生じている租税回避は、主に制度を濫用するものであることから、法人税法等に倣って同族会社等に関する規定を設ければ済むということにはならない点に、十分、留意する必要がある。

 

  税の制度を濫用して行う租税回避を防止するという課題は、税目を問わず、共通の課題として取り組むべきものであり、消費税だけを見るのではなく、税目を超えて「租税回避」の意義等に関する検討を深めることが必要となると考える。