Q&A

組織再編税制

 

3.三角合併による内国法人株式の外国法人株式への転換

※T&Amaster(ロータス21)2010.12.20  No.383に掲載

 国内の居住者甲が内国法人Aの株式の100%を保有していますが、その国内の居住者甲が株式の100%を保有する外国法人Pを設立して事務員1名を置き、その外国法人Pの100%子会社として我が国に内国法人Sを設立して、その内国法人Sに内国法人Aを吸収させる三角合併を行い、内国法人Aの株主である国内の居住者甲に外国法人Pの株式を交付したいと考えていますが、この三角合併は適格合併となるという理解で良いでしょうか?

要 旨

 本件を図示してみると、次の図のとおりとなる。
 本件に関しては、三角合併が適格合併となるのか否かという問題とともに、行為計算否認の対象とならないのかという問題があると考えられるため、この二つの問題の検討を行うこととする。
 なお、内国法人Aは業績の良い法人であると想定されるため、青色欠損金の引継ぎに関する検討は行わないものとする。

 

【図】今回の事例

 

1 本件の三角合併が適格合併となるのか否かの検討
(1)適格合併の要件の確認
 適格合併の要件は、法人税法2条(定義)の12号の8とその委任政令である法人税法施行令4条の3(適格組織再編成における株式の保有関係等)の1項から4項までに定められている。
本件は、居住者甲を頂点とする100%の資本関係の中にある法人間の合併であるため、法人税法2条12号の8の100%グループ内の合併に関する同号イの部分の要件と法人税法施行令4条の3第1項及び2項の要件の確認を行っておくこととする。

 

① 同一の者による株式の100%保有
 法人税法2条12号の8イにおいては、「被合併法人と合併法人(省略)との間にいずれか一方の法人による完全支配関係その他の政令で定める関係がある」ことが求められている。
この「関係」に関しては、「いずれか一方の法人による完全支配関係」を例示として掲げつつすべて政令に委任されているため、政令で定められている関係を確認する必要があるが、これについては、法人税法施行令4条の3第2項1号及び2号に定められている。本件の場合は、法人税法施行令4条の3第2項2号に該当するのか否かということが問題となるため、同号の定めを確認しておくこととするが、同号においては、次のように定められている。

 

「二 合併前に当該合併に係る被合併法人と合併法人との間に同一の者による完全支配関係(省略)があり、かつ、当該合併後に当該同一の者と当該合併に係る合併法人との間に当該同一の者による完全支配関係が継続すること(省略)が見込まれている場合における当該合併に係る被合併法人と合併法人との間の関係」
 すなわち、合併前に「同一の者」が被合併法人と合併法人の株式の100%を保有しており、かつ、合併後もその「同一の者」が合併法人の株式の100%を継続して保有することが見込まれていることが適格合併となるための要件とされている。

 

② 合併親法人による合併法人株式の100%保有
 上記①のような合併が適格合併となり得るわけであるが、更に、次のような要件が定められている。
 すなわち、法人税法2条12号の8においては、合併法人株式又は合併親法人株式のいずれか一方の株式以外の資産が交付されないものでなければ適格合併とはならないとされている。
この合併親法人株式とは、「合併法人との間に当該合併法人の発行済株式等の全部を保有する関係として政令で定める関係がある法人の株式」とされており、この「政令で定める関係」に関しては、法人税法施行令4条の3第1項に定められている。法人税法施行令4条の3第1項においては、この「政令で定める関係」に関して、次のように定められている。

 

「 合併の直前に当該合併に係る合併法人と当該合併法人以外の法人との間に当該法人による直接完全支配関係(二の法人のいずれか一方の法人が他方の法人の発行済株式等(省略)の全部を保有する関係をいう。以下この項において同じ。)があり、かつ、当該合併後に当該合併法人と当該法人(以下この項において、「親法人」という。)との間に当該親法人による直接完全支配関係が継続すること(省略)が見込まれている場合における当該合併に係る合併法人と親法人との間の関係とする。」


 すなわち、「合併の直前」に合併法人の株式の100%を保有しており、「合併後」にその合併法人の株式の100%を継続して保有することが見込まれている法人の株式(「合併親法人株式」)であれば、合併法人株式と同様と見て適格合併とすることができる、とされているわけである(注)。

 

(注)『平成19年版 改正税法のすべて』においては、次のように説明されている。

 

「 合併法人との間に100%の資本関係がある親法人の株式であれば、その株式の保有を通じて合併法人に対する実質的な支配が継続できると考えられます。すなわち、親法人の株式であっても合併法人の株式による直接的な支配と同等の状態を創ることはできるものと考えられるということです。そこで、平成19年度税制改正において、このような親法人の株式については、適格要件を満たす対価として取り扱うこととしたものです。」(272頁)

 

(2)本件の三角合併が適格合併となるのか否か
 本件に関し、上記(1)の要件に則してもう少し具体的に検討を行ってみると、次のとおりである。

 

① 同一の者による株式の100%保有
 本件においては、甲は、被合併法人Aの株式の100%を直接保有しており、また、合併法人Sの株式の100%を間接保有している。
 また、質問文においては、甲が合併法人Sの株式の100%を継続して保有することが見込まれているのか否かということについては言及されていないが、この継続保有の見込みがないということであれば本件の三角合併は、更なる検討を待たずとも、適格合併とはならないという結論となることに疑義はないはずであり、改めて検討を行うまでもないということになるため、以下、本稿においては、この継続保有の見込があるという前提に立つものとする。
 以上の点を踏まえて本件を見てみると、我が国の居住者甲を上記(1)①の「同一の者」とすれば上記(1)①の要件に該当する、ということになる。

 

② 合併親法人による合併法人株式の100%保有
 本件においては、外国法人Pは合併の直前に合併法人Sの株式の100%を保有している。
 また、外国法人Pが合併後に合併法人Sの株式の100%を継続して保有することが見込まれているのか否かということに関しては、質問文に記載されていないが、上記①の場合と同様に、本稿においては、この継続保有の見込があるという前提に立つものとする。
 このような点からすると、本件は、上記(1)②の要件に該当する、ということになる。
 この結果、本件は、法人税法2条12号の8イと法人税法施行令4条の3第1項及び2項の要件に該当するため、これらの規定に基づいて判定するとすれば、適格合併となる、ということになる。
 このように、本件が適格合併となるということであれば、法人税法62条の2(適格合併及び適格分割型分割による資産等の帳簿価額による引継ぎ)の規定により、被合併法人Aの資産及び負債は帳簿価額のまま合併法人Sに引き継がれることとなり、合併時に、被合併法人Aの資産及び負債の含み益に対する課税は行われないこととなる。

 

2 本件が行為計算否認の対象とならないのか否かの検討
 上記のとおり、本件は、適格判定の規定に照らして見る限り、適格合併の要件に該当しているため、適格合併となり、被合併法人Aの資産及び負債の含み益に対する課税は行われない、ということになるが、相続税法64条(同族会社等の行為又は計算の否認等)の1項又は4項、所得税法157条(同族会社等の行為又は計算の否認等)の1項又は4項、法人税法132条(同族会社等の行為又は計算の否認)又は132条の2(組織再編成に係る行為又は計算の否認)の規定の適用を受けないという保証はない。
 本件は、これらの規定により、相続税、贈与税、所得税や法人税の「負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」として、更正の対象となるおそれがあると考えられる。

 

(1)本件の問題点
 本件に関しては、そのスキームを見た者は、その者が税を生業とする者であれば、相続税対策ではないかと推測するであろう。相続税法の改正によって節税も容易ではなくなったとはいえ、まだ一部には、相続税の節税を目的に、これに類することが行われていることは事実である。
 合併に際して国外の親会社株式を交付することとすれば国内の事業法人の株式が国外の法人の株式に転化することとなり、国内の株主の財産は国外財産に変わることとなる。三角合併の手法を用いたものではないが、制限納税義務者への国外財産の贈与に関して争われている事件として武富士の事件があることは、周知のとおりである。この武富士の事件は、平成11年の贈与事案で、平成17年に更正処分が行われ、平成19年の東京地裁では、非居住者の形式要件を満たしているとして納税者が勝訴したが、平成20年の東京高裁では、居住者としての実質判定がなされて納税者が敗訴し、現在、最高裁で争われているところである。
 この武富士の事件を受けて、税制当局は、同種の事件に歯めかけるべく、平成12年に租税特別措置の一部改正をい、そ後成15年に相続税法の一部改正を行って、非居住者無制限納税義務者には課税が行われる仕組みに変わっているが、この種の事案に関しては、仮に、贈与者と受贈者が非居住者無制限納税義務者に該当せず、形式的には我が国における贈与税の課税が行われる要件に該当していなかったとしても、相続税法や法人税法における行為計算否認規定の適用を受けないという保証はない。
 上記の武富士の事件では、最高裁で納税者が勝訴することとなるのではないかと言われているが、他の類似の事案で、行為計算否認規定に基づく更生処分が行われた場合にどうなるのかということについては、明らかではない。
 一般的には、親会社株式を対価として交付する三角合併の意義は、主に、現金を用いずに現金と同等の流動性のある公開会社の株式を対価として、被合併法人となる法人を公開会社である親会社の傘下に収めることが可能となったり、あるいは、持株会社である親会社の傘下に被合併法人を一時に収めることができることとなったりするところにあると言われていることにも、留意する必要がある。もちろん、決して同族会社が三角合併を行ってはいけないというわけではないが、三角合併を行う理由が何かということは、明らかにしておく必要がある。
 本件に関しては、三角合併を行う理由が説明されていないため、あまり検討を深めることはできないが、仮に、その理由を問うた場合には、当然のことながら、税を減少させるためという理由ではない理由の説明がなされることとなるものと考えられる。
 三角合併を行うに当たっても、いわゆる“ビジネス・リーズン”は、当然、必要であり、例えば、税を減少させる目的で本件の三角合併を行い、“ビジネス・リーズン”を取って付けたということになっているような場合には、税務調査で更正を受けることとなりかねない。

 

(2)更正が行われる場合の根拠規定
 相続税法、所得税法、法人税法における行為計算否認規定はそれぞれ相続税・贈与税、所得税、法人税の不当減少に対する規定であり、これらのいずれかの規定の適用を受けたことが他の規定の適用を受けないことを意味するものではなく、これらの各規定の全ての適用を受けるということもあり得る。
 本件に行為計算否認規定が適用されるということになった場合に、相続税法、所得税法、法人税法における行為計算否認規定がどのように適用されることとなるのかということは、本件の詳細を見てみなければ分からないが、本件において、相続税の課税が行われるのみならず、非適格合併と同様に法人税と所得税の双方の課税も行われるといったことにならないという保証はない。
 また、相続税法、所得税法、法人税法のいずれの規定においても、同族会社等の行為計算の否認の規定と組織再編成に係る行為計算の否認の規定が重複排除の定めなしに定められているため、その双方の規定の適用が可能という場合に、いずれの規定が適用されるのかという疑問が生じてくるが、これに関しては、組織再編成に係る行為計算の否認の規定が適用されることが多くなるものと考えられる。例えば、法人税法の例で言えば、法人税法132条は法人税の負担を不当に減少させる結果を生じさせる事由を限定していないわけであるが、132条の2はその事由を「合併等により移転する資産及び負債の譲渡に係る利益の額の減少又は損失の額の増加・・・その他の事由」としている。この「その他の事由」とは、その前に置かれている事由が例示となる事由であり、その範囲は、その前に置かれている事由と同様の内容のものということになる。
 すなわち、法人税法132条の2の規定は、132条とは異なり、適用対象法人を定めるに止まらず、法人税の不当減少を生じさせる事由まで特定して定めを設けているわけであり、その特定して定められた事由に該当するものを否認するという場合には、自ずと、同条の規定を根拠とするのが妥当ということになると考えられる。

 

(3)当局の課税姿勢
 平成13年の組織再編成税制の創設以後、数年間は、税務執行当局においては、組織再編成に対して、極力、否認を行わないように配慮してきたところであり、これにより、我が国の企業の多くが組織再編成を活用して復活を遂げることができたことは、間違いない。現在は、大企業のみならず、中小企業においても、組織再編成が数多く行われており、組織再編成税制の創設前と比較してみると、隔世の感がある。
 このように、組織再編成が我が国の企業を復活させ、活力を与えるものと成り得たのも、上記の税務執行当局の英断に拠るところが大きい。
 しかし、その反面で、「組織再編成は否認されない」、「組織再編成では何でもあり」というような風潮が一部に生じてきたことも、また、否定できない事実である。
 このような流れを受けて、現在、税務執行当局においては、組織再編成が行われている場合には必ずチェックするという姿勢で税務調査を行う方向に大きく舵を切ったように見受けられる。特に、本年7月以降の税務調査に関しては、「初日に、組織再編成関係の書類をすべて用意するように指示された」「まずはじめに、合併を見られた」等の話も聞かれるところである。
 組織再編成に限らず、近年の税務執行当局の課税姿勢は、かなり積極的となってきており、裁判に至った場合には敗訴する可能性がかなりあると思われる場合であっても更正を行うという案件が見受けられるようになっている。
 このような税務執行当局の課税姿勢の変化に鑑みると、今後は、組織再編成を行う場合には、従来とは正反対に、税務調査で必ずチェックされる、という前提に立って、対応することが必要となる。