Q&A

組織再編税制

 

合併対価の額が適正額となっていない場合の取扱い

※T&Amaster(ロータス21)2011.3.21  No.395に掲載

 合併において、合併対価の額が適正額となっていない場合には、一方において寄附金があったものとされ、他方において受贈益があったものとされる、と聞きましたが、その内容がよく分かりませんので、ご教授をお願い致します。

要 旨

【マエストロの解説】

 合併対価の額が適正な金額となっていない不平等合併(注)においては、① 合併が非適格合併となったり、② 寄附金=受贈益があるとされたり、また、③ 行為又は計算の否認が行われたりすることがある。

 

(注)合併対価の額が適正な金額となっていないということは、すなわち、合併比率が適正でないということになるが、以下、そのような合併を「不平等合併」という。

 

 この①は、平成22年度改正によって新たに留意点となることとなったものであり、②は、今回の質問に対応するものである。

 

 この③は、法人税法132条の2(組織再編成に係る行為又は計算の否認)の適用の可能性に関するもので、合併対価の額を適正な金額としないことによって法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合に問題となることとなる。
  以下、①について簡単に触れ、その後、②に関して解説を行うものとする。

 

1 非適格合併となる不平等合併
 平成22年度改正前は、合併が不平等であるのか否かということと適格であるのか否かということは別の問題であると整理されており、不平等合併が行われても、それが適格となるのか否かということを考える必要はなかった。

 しかし、平成22年度において、無対価組織再編成について、「交付するべきものを交付しなかったら非適格とする」という考え方により、その一部を非適格とする改正が行なわれている。合併に関しても、不平等合併が無対価である場合には、従来の適格合併の要件を全て満たしているときであっても、非適格となることがあるため、注意が必要となる(法法2十二の八、法令4の3②~④)。

 本来は、法人税法2条12号の8(適格合併の定義)の適格合併に該当するのか否かということと37条(寄附金の損金不算入)の寄附金課税の対象となるのか否かということは別の問題であって、「交付するべきものを交付しなかったら寄附とする」というのが法人税法の考え方であると考えられるが、平成22年度改正においては、現実に上記のような改正が行われているため、実務においては、これに対応することが必要となる。

 無対価合併のうち、適格合併とされるのは、完全支配関係(100%の資本関係)にある法人間の合併で、株主において株式の価値の移転が生じないものと考えてよい。例えば、親会社の100%子会社同士が合併をする場合には、無対価であっても適格合併となる。しかし、親会社が複数の100%子会社を経由して間接的に100%の株式を保有している孫会社同士が合併をする場合で、無対価であるときは、その合併は非適格合併となることとなる。これは、このような孫会社同士の合併の場合に対価を交付しないということになれば、それらの株主である100%子会社間で株式の価値の移転が生ずるためである。

 ただし、最も注意を要するのは、いわゆる救済合併と言われているものであり、これが無対価となる場合には、完全支配関係法人間の合併であるときを除き、非適格合併とされることとなる。救済合併と言われるものは、通常、不平等合併とはならないと考えられるが、それが非適格となるということになれば、その救済合併を行うのか否かの判断に当たってかなりの制約要因となることは間違いない。

 

2 寄附金=受贈益の課税関係の基本構造
 組織再編成税制を創設した平成13年度改正前から、合併比率が適正でない場合には寄附金課税が行われることになるといった解説が見受けられる状況にあったが、実際に合併において寄附金課税が行われたという例は、寡聞にして聞かない。

 しかし、近年、合併の件数が大きく増加し、税務執行当局の組織再編成に対する課税姿勢が積極的になってきた事情等を考慮すると、実際に合併において寄附金課税が行われるという場合にどのような取扱いとなるのかということを明確にしておくことが必要となると考えられる。

 周知のとおり、合併においては、被合併法人がその資産と負債を合併法人に移転し、合併法人はその株式等を被合併法人の株主に交付するということになるわけであるが、この合併の取引の構造からすると、寄附金と受贈益が生ずることとなるのは、基本的には、被合併法人と合併法人との間又は被合併法人の株主と合併法人の株主との間のいずれかということになる。すなわち、合併比率が適正でないため、被合併法人の資産及び負債の時価が合併対価である合併法人の株式等の時価と不等価となって、被合併法人と合併法人との間でその不等価部分について寄附金=受贈益という状態が生ずることとなったり、被合併法人の株主と合併法人の株主との間でその不等価部分に対応する株式の価値の移転によって寄附金=受贈益という状態が生ずることとなるわけである。

 このように、合併において寄附金=受贈益という状態が生ずることとなるのは、基本的には、被合併法人と合併法人との間又は被合併法人の株主と合併法人の株主との間のいずれかということになるのであるが、この2つの場面の寄附金=受贈益がどのような関係にあるのかということを明確にしておくことが重要である。

 被合併法人と合併法人との間の寄附金=受贈益という状態は、被合併法人の株主と合併法人の株主との間で寄附金=受贈益という状態が生ずるのか否かにかかわらず、発生することとなる。これは、被合併法人の株主や合併法人の株主が多数存在している場合の合併を想定してみると、明らかである。

 これに対して、被合併法人の株主と合併法人の株主との間の寄附金=受贈益という状態は、被合併法人の資産及び負債の時価と合併対価である合併法人の株式等の時価とを不等価とすることによってしか創り出すことができないため、常に、法人間の寄附金=受贈益という状態がある場合にのみ生ずることとなる。

 換言すれば、法人間に寄附金=受贈益という状態があって株主間には寄附金=受贈益という状態が無いということはあっても、株主間に寄附金=受贈益という状態があって法人間に寄附金=受贈益という状態が無いということはあり得ない、ということになる。

 

【図】寄附金=受贈益の課税関係の基本構造

 

 寄附金=受贈益という状態があるのか否かということは事実関係の問題であることから、合併における寄附金=受贈益という状態がのような関係にあるということであれば、法人間で寄附金=受贈益という状態があるとするためには、法人間で一方が寄附を行い他方に受贈があったという事実を明らかにする必要があり、また、株主間で寄附金=受贈益という状態があるとするためには、株主間で一方が寄附を行い他方に受贈があったという事実を明らかにする必要があるということになる。そして、株主間に寄附と受贈の事実があったということになると、その事実は、法人間に寄附と受贈があったということを示すものともなっているはずである(注)。

 (注)合併の場合に限らず、単純な法人間の資産の売買であっても、その売買の取引を不等価で行うことによって、法人の株主の間で株式の価値の実質的な移転を行うことができる。このように、株主間で取引が生じない場合であっても、ケースによっては、法人間のみならず、株主間においても寄附金=受贈益があるという事実認定が行われることがあり得る。

 納税者からすると、株主間で寄附と受贈の事実があったとされた場合には、法人間と株主間の双方で寄附金=受贈益という処理が行われることとなるため、影響が大きくなることとなる。しかし、特に同族会社においては、親子間や兄弟間で株式の価値の移転を伴う合併が行われているという現実があることも事実である。この1、2年は、税務執行当局は、従来とは全く逆に、組織再編成を行っていれば必ず税務調査でチェックするという対応を取っているため、今後、法人間と株主間の双方において寄附金=受贈益という処理が行われる事例が少なからず生じてくる可能性がある。

 

3 寄附=受贈の対象物
 被合併法人と合併法人との間又は被合併法人の株主と合併法人の株主との間で寄附と受贈の事実があったという場合に、何が寄附と受贈の対象物であるのかということも明確にしておく必要がある。

 例えば、法人間で寄附と受贈の事実があり、その対象物が被合併法人の資産及び負債の一部又は全部であったとすると、その寄附と受贈の対象物となった部分については、合併として処理することはできず、仮にその合併が適格合併であったとしてもその寄附と受贈の対象物となった部分については帳簿価額によって合併法人に引き継ぐことはできないこととなる。しかし、寄附と受贈の対象物が合併対価である合併法人の株式であったとすると、被合併法人の資産及び負債の合併における処理には影響がないこととなる。

 また、株主間で寄附と受贈があったという場合でも、例えば、被合併法人の株主が被合併法人の株式の一部又は全部を合併法人の株主に寄附をしたという場合には、その寄附の対象物となった被合併法人の株式にしは、仮にその合併によって合併法人の株式のみが交付されたとしてもその寄附の対象物となった部分については帳簿価額によって譲渡をしたという処理をすることは出来ないこととなる。しかし、寄附の対象物が合併対価である合併法人の株式であったとすると、被合併法人の株式について帳簿価額による譲渡の処理をした上で、その寄附の対象物となった合併法人の株式の一部又は全部について寄附と受贈の処理をすることとなる。
株主間における寄附と受贈に関しては、その対象物が被合併法人の株式であるのかあるいは合併法人の株式であるのかによって結果に大きな違いは生じないと考えられるが、法人間における寄附と受贈に関しては、その対象物が何かということによって課税関係に大きな違いが生ずることがあると考えられる。

 このため、合併においては、寄附と受贈の対象物が何かということが重要となってくるわけであるが、これに関しても、基本的には、事実関係の如何によって判断することとなる。

 しかし、例えば、合併前にいずれかの資産を寄附することとしていたが、結局、合併の際にその寄附をすることとしたというような特殊な場合は別として、合併に際して被合併法人の資産及び負債の一部を合併法人に寄附したという場合には、被合併法人の資産及び負債のうちのいずれの部分を寄附したのかということを決めることが容易でないケースが殆どと考えられる。非適格合併の場合には、被合併法人の資産及び負債は時価によって合併法人に譲渡したものとされるため、通常の資産の低廉譲渡の場合と同様に、いずれの部分の寄附を行ったのかということを問題とする必要はないが、適格合併の場合には、資産及び負債は帳簿価額によって合併法人に引き継がれることとなるため、寄附をした部分と合併によって移転をした部分の区分は重要となる。

 実務上は、被合併法人の資産及び負債のうちのいずれを寄附したのかということに関しては、寄附をする理由等を手掛かりとして合理的に判断することとなるものと考えられるが、寄附をした部分を特定することが困難な場合にあっては、資産を均等に寄附したとすることもあり得ると考えられる。

 

4 不平等合併における寄附金=受贈益の処理例
 被合併法人の資産の帳簿価額100(含み益20)、負債の帳簿価額20、資本金等の額80、被合併法人の株主の被合併法人株式の帳簿価額10の場合に合併対価が合併法人株式50(時価)という適格合併が行われ、資産のうちの50が被合併法人から合併法人に寄附されたという前提で、その処理がどうなるのかを説明することとする。

 この合併は適格合併であるため、法人税法62条の2の規定により、被合併法人の資産及び負債と資本金等の額はそれらの帳簿価額のまま合併法人に引き継がれることとなる。

 ただし、被合併法人は、この合併において資産のうちの50を合併法人に寄附したということであり、資産50について寄附を行ったという処理をしなければならないこととなるが、適格合併の場合には、資産及び負債は帳簿価額によって合併法人に引き継がれることとなることから、資産及び負債のうちのいずれの部分を寄附したこととなり、いずれの部分を適格合併により合併法人に引き継ぐこととなるのかということを決めなければならない。

  これに少なからず困難が伴うことは上記において述べたとおりであるが、本設例においては、資産の内訳をとくに区分せず、被合併法人がその資産100(含み益20)のうちの50(帳簿価額は42)を合併法人に寄附したものとすることとする。

  この場合には、被合併法人と合併法人は、次のような処理をすることとなると考えられる。

 

【仕訳】

 

(注)平成22年度改正においては、適格合併において被合併法人から合併法人に引き継ぐ金額を資本金等の額としているため、被合併法人において、合併の処理の貸借の金額が合わなくなり、合併法人株式の取得と交付の処理をどのように行ってよいのかが不明となっている。

 

 仮に、被合併法人と合併法人とが寄附金=受贈益という処理を行わないまま申告を行っており、税務調査によって寄附と受贈があったと認定されて上記のような処理を行うということになると、被合併法人においては、申告においては益金の額も損金の額も計上されていなかったはずであるため、寄附金という処理を行うとすれば、資産の譲渡益8が益金の額となり、寄附金50が損金の額となった上で損金不算入額が所得の金額に加算されることとなり、結果的には、資産の譲渡益8と寄附金50の損金算入限度額との差額が所得の金額を増加させたり減少させることとなる。合併法人においては、受贈益50が益金の額とされることとなる。

 このように、税務調査において寄附と受贈という処理が行われるということになれば、合併法人においては、常に課税所得の金額が増加することとなるが、被合併法人においては、課税所得が減少することとなることもある、ということになる。