Q&A

組織再編税制

 

組織再編成・資本等取引と更正の期間制限

※T&Amaster(ロータス21)2011.4.18  No.399に掲載

 当社は、8年前に合併と減資を行っていますが、この度の税務調査で、この合併と減資に関する資料の提出を求められました。当社は、これまで何回も税務調査を受けてきましたし、3年前にも税務調査を受けておりますが、このような過去の取引を調べられるのは初めてです。結果的には、何も問題点は指摘されませんでしたが、これはどのような事情によるものなのでしょうか。

要 旨

【マエストロの解説】
 組織再編成や資本等取引は、資産・負債・資本金等・利益積立金の移動を生じさせる取引であり、その税制上の処理が誤っていると、その後の期間の課税所得に影響を及ぼすことがあるため、税務調査において過去の合併と減資に関する資料の提出を求められたものと考えられる。

 組織再編成や資本等取引により、移転を受けた資産・負債又は増加させたり減少させたりした資本金等・利益積立金がある場合には、その組織再編成や資本等取引を行った事業年度が既に更正ができる期間を過ぎている場合であっても、税務調査において、その組織再編成や資本等取引に係る税務処理の適否が問題となることがあるということを踏まえて、対応を考える必要がある。

 

1.更正等と受入れの関係
 法人が法人税の税務調査を受けた場合には、その税務調査の結果に応じて、過去の事業年度の更正が行われたり、過去の事業年度の修正申告を求められたりすることとなるわけであるが、基本的には、過少申告加算税の対象のみの場合には過去の5期について課税が行われ、重加算税の対象がある場合には過去の7期について課税が行われることとなる。これは、周知のとおり、法人税の更正に期間の制限があることによるものである。

 更正ができる期間内の更正においては、通常、その事業年度の所得金額を増加させるとともにその事業年度の資産と利益積立金の額を増加させることとなる。

 更正ができる期間前の事業年度の所得金額を増加させることはできないわけであるが、これは、更正が行われる期間前の過去の期間に生じた資産・負債・資本金等・利益積立金を税務処理の埒外に置いてよい、ということを意味するものではない。更正が行われる期間前の過去の期間に生じた資産・負債・資本金等・利益積立金であったとしても、それらが生じた取引をその法人が行っている限り、それらがその法人のものであることに変わりはない。

 このため、税務調査において、更正が行われる期間前の過去の期間に生じた資産・負債・資本金等・利益積立金があることが判明した場合には、更正が行われる期間の最初の事業年度の利益積立金額・資本金等の額の明細書の期首にそれらの金額を記載して法人のものとして受け入れることとなる。

 

2.税務調査と納税者における事前準備
 現実の税務調査に目を向けてみると、更正が行われる期間前の過去の期間にまで遡って問題が確認されるといったケースは、あまり多くはないと思われる。これは、税務調査が、前回の税務調査後の期間を対象として行われることが多いことと、専ら更正が行われる期間内を対象として行われることに、その主な理由があると考えられる。

 一般に、税務調査に関しては、このような現実があるため、納税者においても、税務調査があることが予測されていたり、税務調査の事前通知を受けた場合には、直前期の見直しに重点を置きつつ、前回の税務調査の対象となった期間の後の期間について見直しを行うという対応をとるものがほとんどであり、長期にわたって税務調査が行われてこなかった法人や懸念事項がある法人においては更正が行われる期間にまで範囲を広げて見直しを行うといった対応をとるものもある、というのが実情ではないかと思われる。

 税務調査に対する事前準備としては、通常、このような対応で済むものと考えられるが、法人が過去に組織再編成や資本等取引を行っている場合には、そのような対応では済まないことがある。

 以下、において、過去に行った組織再編成や資本等取引が税務調査の対象となる場合の特殊性について確認を行っておくこととする。

 

3.組織再編成・資本等取引が税務調査の対象となる場合の特殊性
 法人が10年前から交際費を会議費としていたという例と、法人が10年前に合併によって被合併法人の資産及び負債の移転を受けたという例を想定して、税務調査が行われた場合の取扱いについて説明することとする。
 法人が10年前から交際費とするべきものを誤って会議費として毎期の申告を行っており、税務調査により、それを交際費として損金不算入額を所得金額に加算する必要があるということが判明したとすると、その法人は、過去の5期について、会議費を交際費に修正し、損金不算入額について、更正を受けるか又は修正申告をすることとなる。この例を適宜の金額にて図示すると、例1のとおりとなる。

 

【例1】

 

 この例1において、過去の5期の各期の交際費の損金不算入額が5であったとすると、その金額が各期の所得金額に加算されて社外流出とされることとなる。

 次に、10年前に合併によって被合併法人から資産及び負債の移転を受けたという例について考えてみることとする。

 この合併に関しては、それが適格合併となるのか非適格合併となるのかによって税制上の取扱いが異なることとなるが、法人はその合併を適格合併として申告を行っていたものとする。その後、直前期において、その10年前の合併によって移転を受けた資産の譲渡を行い、譲渡損の計上を行っていたとしよう。

 ここで税務調査を受けることとなったということになると、照会の例と同様の状態となるわけであるが、この税務調査において、10年前の合併は非適格合併であり被合併法人からの資産及び負債の移転は時価による移転として税務申告を行うべきであったということが判明したとすると、例1とはかなり異なる処理を行う必要が生じてくる。法人が10年前に被合併法人から合併によって移転を受けた資産に含み損があったという前提で、適宜の金額にてこの例を図示すれば、例2のとおりとなる。

 

【例2】

 

 法人は、10年前の合併を適格合併とし、含み損のある資産を被合併法人からその帳簿価額によって引継ぎを受けたという処理を行って申告を行っており、例2の⑩の「申告」に示した処理を行っていたわけであるが、これが、税務調査によって、例2の⑩の「修正」の括弧内に示した処理をするべきであったということが判明したとすると、資産の取得価額と資本金等の額とを修正する処理を行わなければならないこととなる。

 例2のケースにおいては、被合併法人の税務処理がどうなるのかという疑問も生じてくることとなろうが、被合併法人においては、合併が適格合併であるとすれば、含み損がある資産についても、その含み損を損金の額とせず、帳簿価額によって合併法人に引き継ぐこととして申告を行っていたはずである。この合併が実は非適格合併とするべきものであったということになると、被合併法人は、時価によって資産を合併法人に移転したものとし、その資産の含み損を譲渡損として最後事業年度の損金の額とするべきであったということとなる。しかし、被合併法人のその最後事業年度は、既に更正ができる期間を過ぎてしまっており、その資産の含み損を最後事業年度の損金の額として、課税所得と税額を減少させることはできない。

 合併法人においても、例2の⑩の事業年度は更正ができる期間を過ぎてしまっており、この⑩の事業年度の更正が行われることはないが、合併が行われた事業年度が既に更正ができる期間を過ぎていたとしても、その合併の処理を正しく行わなければならないことに変わりはない。

 このような更正ができる期間を過ぎたものの処理を是正した結果として後の期間の処理に影響を与えるものの修正は、上記において述べたとおり、更正ができる期間の最も古い事業年度の期首の金額を修正することによって行われるはずである。

 例2においては、⑤の事業年度の期首において、資産4の減額と資本金等の額4の減額を行うこととなるが、このように、資産の取得価額を減額することとなると、①においてその資産を譲渡した場合の処理も、必然的に、申告の処理とは異なってくることとなる。例2においては、①において申告を行った譲渡損5のうちの4が損金の額とならないこととなり、①の事業年度の所得金額が増加することとなる。

 また、例2は、合併によって被合併法人から移転を受けた資産を後に譲渡したという例であるが、適格合併として申告をしていたものが非適格合併であったということになると、資本金等や利益積立金の額にも変動が生ずることとなる。その結果、合併の後に、みなし配当や合併など、資本金等や利益積立金の額の如何によって処理が異なってくるものがある場合には、それらの処理も変わってくることとなる。

 これと同様の事情は、減資や自己株式取得などの資本等取引においても生ずることとなる。資本等取引に関する税制においては、組織再編成税制のように、「適格」と「非適格」といった区分は設けられていないが、組織再編成税制と同様に難解であるため、誤りも少なくない。
この例1例2の比較から分かるとおり、組織再編成や資本等取引に関しては、それらが法人の資産・負債・資本金等・利益積立金という事業年度を越えて繰り越される項目に影響を与える関係上、更正が行われる期間内のものを考慮するだけでは済まないという特殊性がある。

 

4.組織再編成・資本等取引への対応
 上記で述べた特殊性は、必ずしも組織再編成や資本等取引にのみ固有のものではなく、いわゆる内部留保項目に関係するものの過去の処理が税務調査によって誤りと判明した場合には、同様の状態となることとなる。
 しかし、組織再編成や資本等取引に関しては、次のような事情から、他の内部留保項目に関係する取引とは異なり、特に注意が必要となる。

 

○ 組織再編成や資本等取引に関しては、平成13年の組織再編成税制の創設・資本等取引税制の整備以後、近年に至るまでの間、税務調査において法人の処理を否認するといったことがほとんど全く行われてこなかったために、これらを利用した「租税回避行為」と言わざるを得ないものが見受けられる状況となっており、今後は、過去の組織再編成や資本等取引も含めて、税務調査において重点的に調査対象とされることが予想されること。

○ 組織再編成や資本等取引に関する税制は、一般に難解と言われる税制の中でも最も難解な税制であり、処理に誤りが少なくないこと。

○ 組織再編成や資本等取引に係る処理が誤っている場合には、是正を要する金額が非常に大きくなることが少なくないこと。

 

 また、上記において述べたとおり、税務調査に対する対応としては、直前期の処理を見直したり、前回の税務調査の対象となった期間の後の期間の処理について見直したりするものがほとんどとなっているわけであるが、上記例2のケースについて、仮に、毎年、税務調査があったとした場合に、いずれの事業年度を調査対象とする税務調査において⑩の合併の処理が問題とされるかということを考えてみると、なお一層、組織再編成や資本等取引に関する税務調査への対応の仕方の特殊性を確認することができる。

 改めて言うまでもなかろうが、税務調査は、課税もれがないかということを調べるのが基本であることから、課税もれが生ずる可能性のあるところを調査することとなるわけであり、上記例2においては、合併法人の①の事業年度の資産の譲渡の処理以外に課税もれが生ずることはない。上記例2においては、仮に被合併法人の最後事業年度に所得金額が生じていたとすれば、その最後事業年度の更正を行うことができる期間内の税務調査によって合併が非適格合併であるという指摘をしてもらって税額の還付を受ける方がよいわけであるが、課税もれがないかということを調べる側からすると、減額更正することにしかならなかったり、減額と増額が相殺されることにしかならなかったりするものに注力するインセンティブは見当たらない。

 以上の点からも窺い知ることができるように、過去の組織再編成や資本等取引によって移転を受けた資産・負債に関してその後に益金の額や損金の額が生ずる取引を行う場合には、その過去の組織再編成や資本等取引の税務処理を行った事業年度が既に更正ができる期間を過ぎている場合であっても、その組織再編成や資本等取引によって移転を受けた資産・負債の金額が変わったり、増加させたり減少させたりした資本金等・利益積立金の額が変わったりすることがないかということについて、改めて確認を行っておいた方がよいというケースが少なくない。

 また、新たに組織再編成や資本等取引を行う場合には、更正の期間制限にかかわらず将来の税務調査で問題とされることがあるということをよく認識した上で、慎重にその税務処理を検討することが必要である。