Q&A

組織再編税制

 

13.外国で行われる組織再編成等の我が国における税務上の取扱い

※T&Amaster(ロータス21)2012.02.20  No.439に掲載

 近年は、我が国の企業が外国に投資を行い、その投資先で子会社等が資本等取引や組織再編成を行うといった例が増えていますが、このように、外国で子会社等が資本等取引や組織再編成を行った場合に、我が国の親会社等が税務上どのような取扱いとなるのかということがよく分かりません。個別の事例の取扱いがどうなるのかという問題以前に、そもそもどのような見方をすればよいのかという基本の部分がよく分かりませんので、ご教授下さい。

 

要 旨

【マエストロの解説】

 

 外国で子会社等が資本等取引や組織再編成を行った場合に我が国の親会社等が税務上どのような取扱いとなるのかということに関しては、その子会社等と親会社等が行った行為やその子会社等と親会社等に生じた事実がどのようなものであるのかということと、その親会社等の税務上の取扱いを定めている我が国の法人税法の規定をどのように解釈するのかということを確認し、その行為や事実にその規定を適切に当てはめていくことが必要となる。

 

 このような、「事実の確定」、「法令の解釈」と「法令の当てはめ」という作業は、税務上の取扱いの判断に共通するものであり、特に、外国で子会社等が資本等取引や組織再編成を行った場合における我が国の親会社等の取扱いに係る判断が例外とされているわけではない。外国で子会社等が資本等取引や組織再編成を行った場合に我が国の親会社等が税務上どのような取扱いとなるのかということに関しても、税法の解釈と適用の一般的なルールの中の問題として位置付けられるものである。

 

 このような問題は、個々の事案においては、例えば、外国で子会社等が行った行為がどのような場合に我が国の法人税法上の「合併」に当たることとなるのかというような観点から細かな事項に関する検討が行われるといったことになるわけであるが、本稿においては、このような問題を検討する前提として、法人税法の立法がどのように行われているのか、事実の確定はどのように行うのか、また、法人税法の用語の解釈はどのように行えばよいのか、というような基本的な事項に関して確認を行っておくことが有益であると考えられるため、これらの基本的な事項に関して解説を行うこととする。

 

 

1.法人税法の立法

 法人税法をはじめとする税法の立法も、基本的には、他の法の立法と同様の手続きによって進められる。

 

 税法は、その殆どがいわゆる閣法(内閣が法案を提出する法律)として国会に提出されて成立することから、まず、税法が閣法として国会に提出されるまでの過程を説明しておくこととする。

 

 通常、税法の改正は、所管官庁の財務省主税局において、関係各省庁等の要望を吟味し、税制調査会における検討を経て、税制改正大綱としてまとめられた内容に従って、改正法案を作成することとなる(注)。

 

(注)財務省組織令においては、次のように定められている。

(主税局の所掌事務)

第5条 主税局は、次に掲げる事務をつかさどる

一 租税(関税、とん税及び特別とん税を除く。以下この号において同じ。)に関する制度(外国との租税に関する協定を含む。)の企画及び立案に関すること

 

 その後、この改正法案に関しては、内閣法制局において審査が行われることとなる(注)。

 

(注)内閣法制局設置法施行令においては、次のように定められている。

 

(第3部の所掌事務)

第3条  第3部においては、次に掲げる事務をつかさどる

一 主として金融庁、総務省(公害等調整委員会を除く。)、外務省若しくは財務省又は会計検査院の所管に属する事項に係る法律案及び政令案の審査及び立案に関する事項

 

 この内閣法制局における審査を経て、改正法案が国会に提出されることとなる。

 

 税法の解釈を考えるに当たっては、この財務省主税局と内閣法制局における企画・立案及び審査がどのように行われるのかということを知ることが、非常に有益である。

 

 本稿の対象とする法人税法は、法人の所得に課税を行うものであるため、基本的には、我が国において「法人」という形態で所得を得るものの大多数を占める「会社」を主たる対象として想定した上で規定を設けることとなる。もちろん、法人税法の対象は、「法人」であって、「会社」だけではないため、「会社」以外の「法人」があることも、当然、念頭に置いて、この作業が行われることとなる。

 

 法人税法は、法人が行った行為や法人に生じた事実に関して、これをどのように取り扱って所得の金額を計算し法人税額を計算するべきかということを考えて、その制度の創設や改正が行われることとなるわけであるが、その際には、主に「会社」を対象としつつ、「会社」以外の「法人」についても配意しながら行われるわけである。

 

 また、我が国の法人税法は、我が国で生じた所得と外国で生じた所得とを区別せずに課税する仕組みを採っていることから、所得の金額の計算においては、我が国における行為や事実と外国における行為や事実とを区別するという考え方は、採っていない(注)。

 

(注)外国税額控除において、技術的な観点から、国内所得と国外所得とを区分するといったことはある。

 

 我が国の法人税法は主に我が国の「会社」を対象として企画・立案が行われるため、我が国の法人税法において「法人」が行う行為や「法人」に生ずる事実として主に念頭に置かれることとなるのは、我が国における行為や事実となるが、外国で法人が行う行為や法人に生ずる事実を無視して我が国の法人税法の企画・立案が行われるわけではない。例えば、我が国の法人に外国における売上、仕入、寄附金、交際費などがあった場合には、その法人の所得の金額の計算においては、それらは、我が国における売上、仕入、寄附金、交際費などと同様に取り扱うこととされるわけである。

 

 そして、我が国の法人が所得を稼得することによって内部に留保した利益積立金額の計算においても、我が国における行為や事実によって生まれたものと外国における行為や事実によって生まれたものとを区別することとはしていない。

 

 我が国の法人税法は、主に我が国の「会社」を対象として企画・立案が行われるものの、「会社」以外の「法人」を無視して行われるわけではなく、また、我が国における行為や事実のみを考慮し外国における行為や事実を無視して企画・立案が行われるというわけでもないのである(注)。

 

(注)諸外国においても、基本的に同様の事情にあるはずであり、本件質問と同様の疑問が諸外国においても存在するはずである。

 

 このため、当然のことながら、法人税法において用いられている用語や法人税法の定めは、我が国の「会社」はもとより、我が国の「会社」以外の法人にも適用されるものとなっており、また、我が国における行為や事実に対してのみならず、外国における行為や事実に対しても適用されるものとなっている。

 

 冒頭においても述べたが、法人税法の立法がこのように行われているということは、外国で行われる資本等取引や組織再編成だけに特別な解釈原理があるということにはならないということを意味している。

 

2.事実の確定

 税法を解釈して適用するためには、他の法令の解釈・適用の場合と同様に、その適用対象となる事実を確定することが必要となる。

 

 この事実の確定に関して、内閣法制局長官を長く務められた林修三氏は、『法令解釈の常識』(日本評論社)の中で、次のように述べられている。

 

「 法令の適用をするための第一の前提としての事実の確定は、(省略)そこで問題となっている事件、つまり、法律上の争い、または疑いのある事件について、適切な法律上の判断を下すのに必要な限度でなされればいいのであって、それで必要にして十分だということである。」(56頁)

 

 ここで述べられているように、事実の確定は、法律上の判断を下すのに必要な限度で行えばよいわけであり、子会社等が外国で資本等取引や組織再編成を行った場合に我が国の法人税法をその親会社等に適用するときも、この点に関しては、特に異なるところはない。

 

 しかし、子会社等が外国で行う資本等取引や組織再編成に関しては、我が国において「会社」以外の法人が行う資本等取引や組織再編成より以上に、事実の把握が難しいことも、また、事実である。

 

 従来も、外国の子会社等の「資本金等の額(平成18年度改正前は、「資本の金額」又は「出資金額」と「資本積立金額」)」や「利益積立金額」をどのように計算して、親会社等におけるみなし配当の金額を計算するのかというような問題が生じていた。

 

 外国で子会社等が行う資本等取引や組織再編成は、通常は、その外国の「会社法」等の定めや会社の行為等に関する判例等に従って行われることとなっていると考えられるが、それらの「ルール」は、我が国の会社法の「ルール」と同じものとなっているとは限らない。現実には、我が国の会社法に定められている資本等取引や組織再編成の「ルール」と外国のそれらの「ルール」とは異なる場合が多いものと考えられる。改めて言うまでもなかろうが、「プレイ」が「ルール」に従って行われているとは限らず、また、その「ルール」も、「会社法」等や会社の行為等に関する判例等に係るものだけを考えて済むということにはなっておらず、企業会計や税法等の「ルール」を含めて考えなければならないという場合もあるものと思われる。

 

 このような点からすると、外国の子会社等の資本等取引や組織再編成に関しては、その「プレイ」、すなわち、その行為や事実と、その外国の「ルール」となっている「会社法」、会社の行為等に関する判例等、企業会計や税法の取扱い等との関係は、前者を正確に知る上で後者が参考となるという関係にあると考えてよい。

 

 もちろん、把握して確定するべきは「プレイ」であって、「ルール」ではないため、我が国の法人税法による判断を下すために必要な限度でその「プレイ」がどのようなものであるのかということが分かっているのであれば、改めて「ルール」を調べることまで行う必要はない。我が国の法人税法は、上記1の解説からも分かるとおり、我が国と外国とで“会社法比べ”を行わなければ外国における行為や事実に課税を行うことができないという仕組みにはなっていない。ただし、この外国における子会社等の「プレイ」に係る上記の判断のために、我が国の会社法における定めとその外国の「会社法」の定め等を比較することが有益であるという事情があるのであれば、それも考慮してよいはずである。

 

3.法人税法の解釈

 上記1において述べたとおり、我が国の法人税法は、主に「会社」を対象としてその取扱いが定められているため、基本的には、会社法における用語と同じ用語を用いている場合には、それらの用語は同じ意味内容のものとなっている。

 

 しかし、我が国の法人税法が我が国の会社法において用いられている用語と同じ用語を用いていたとしても、その用語の意味内容が会社法におけるその用語の意味内容と完全に一致するとは限らない。我が国の法人税法において用いられている用語が我が国の会社法においても用いられている場合に、仮に、その用語の我が国の法人税法における意味内容が我が国の会社法におけるその用語の意味内容と完全に一致していなければならないということであれば、外国における行為や事実に関しては、それらに我が国の会社法を当てはめてみなければ、我が国の法人税法による取扱いの判断ができない、ということになってしまう。

 

 林修三氏は、『法令解釈の常識』(日本評論社)において、法令中に他の法令において用いられている用語と同じ用語が用いられているとしても、その法令中のその用語の意味と他の法令中のその用語の意味とが同じとは限らないとして、次のように述べられている。

 

「 かように、法令の文字、用語の意味は、法令の異なるに従って相対的なもので、必ずしも、一律に律しきれないものである。」(98頁)

 

 また、内閣法制局第3部長を務められた荒井勇氏の『税法解釈の常識』(税務研究会出版局)においても、次のように、同様の指摘がなされている。

 

「 (1)税法の表現には、経済的実質によって考えているとみられる面がかなりあること、(2)同じ用語でも、法令の趣旨、目的、前後の関係等が異なれば意味も違ってくることがあり、字句解釈はかなり相対的なものであること、(3)また、用語によっては、いろいろの意味に用いられる多義的なものもあるので、単純に一律の解釈をすることはできないこと等が指摘されます。」(68頁)

 

 上記1において述べたとおり、我が国の法人税法は、主に「会社」を対象としてその取扱いの企画・立案を行っているわけであるが、我が国の法人税法が対象とする「法人」は、我が国の「会社」に限られるわけではなく、また、我が国の法人税法は、我が国の会社法とは異なり、「法人」の適正な所得の金額と税額を計算することを目的とするものであるため、我が国の会社法における用語と同じ用語が用いられていたとしても、その用語の意味内容が我が国の会社法におけるその用語の意味内容と完全に一致することがないことは、蓋し当然ということになる。

 

 このように、法人税法において用いられている用語が会社法において用いられている用語と完全に一致する意味内容のものでないということであれば、本来は、法人税法におけるその用語の意味内容がどのようなものであるのかということを明確に示す方がよいと考えられるが(注)、現実には、我が国においては、そのような作業が十分に行われているとは言えない。

 

(注)最も好ましい対応策は、会社法において、その用語の意味内容を明確にし、法人税法においても、その用語の意味内容を明確にすることである。

 

 この用語の解釈を具体的に示すという作業が十分に行われていないことが、外国で子会社等が資本等取引や組織再編成を行った場合にその親会社等に我が国の法人税法をどのように適用するのかという問題に対する答えを十全に出し得ない主たる原因となっている。

 

 このような事情は、平成13年度改正前から存在しており、かつては、外国の子会社等の資本等取引や「合併」等に関しては、我が国の法人税法におけるそれらに関する用語の意味内容と基本的に同一となっている我が国の商法におけるその用語の意味内容を調べて判断基準となるものを探し出し、その基準によって判断を行い、我が国の法人税法における取扱いを決める、という実務が行われていた。

 

 このような法人税法の解釈と適用は、本来のあり方とは言えないが、法人税法における独自の判断基準が殆どない中にあって、会社の行為に関して様々な観点から定めを置く商法にその判断基準を求めたことは、随時、個々の具体的な案件に答えを出すことが求められる税務執行の自然な対応であった、と言ってよかろう。改めて言うまでもないが、法人税法において用いられている用語の意味内容について解釈が示されていたとしたら、仮に、その中に我が国の商法におけるそれらの用語の意味内容と同一のものが含まれていたとしても、税務執行上の対応としては、それらの用語の全てについて、その示された解釈に基づき、税務上の判断を行う、ということになったはずである。

 

 近年は、我が国の企業の海外進出が急速に進んでいるため、外国の子会社等が資本等取引や組織再編成を行った場合に我が国の法人税法を親会社等にどのように適用するのかということが大きな問題とならざるを得ない状況にある。

 

 資本等取引や組織再編成に関する我が国の法人税法の規定に用いられている用語の意味内容が明確に示されていない中にあっては、個々の事案においてどのように税務上の判断を下すのかということは、難問とならざるを得ないが、我が国の法人税法における資本等取引や組織再編成に関する取扱いの趣旨や考え方を勘案しながら、個々に検討する他ない、と考えられる。
 個々の事案において、その取扱いになお一層の確実性を求めるということであれば、税務執行当局に質問を行うことも、選択肢として検討してよかろう。

 

4.今後の課題

 我が国においては、諸外国とは異なり、「認定出資」や「認定配当」といった処理は、殆ど行われていないが(注)、この例からも分かるとおり、我が国の法人税法においては、従来、資本等取引や合併等の組織再編成の概念を我が国の商法や企業会計に依存して捉える傾向があり、独自の概念として捉えるという観点が希薄であった。

 

(注)諸外国において「認定出資」や「認定配当」とされるものは、我が国においては、その殆どが「寄附金」として処理されることとなっている。

 

 そのような中で、平成13年度改正において、法人税法が独自の観点から資本等取引の抜本改正と組織再編成税制の創設という大規模な改正を行うこととなり、しかも、我が国の多くの企業が海外に進出するということとなったわけであるが、これらにより、現在、法人税法における資本等取引や組織再編成に関する規定に用いられている用語の意味内容を明確化するという作業が避けられない課題となってきている。

 

 税務執行当局においては、まずは、法人税法上の「合併」、「分割」、「分割型分割」、「分社型分割」、「現物出資」、「株式交換」、「株式移転」などの本質的な構成要素となっているものがどのようなものであるのかということを明確にすることが必要であると考える。
 現状においては、税務執行当局からは、そのようなものは何も明示的には示されていないわけであるが、一定の目安となる程度のものが示されるということであったとしても、十分、有益に働くこととなるはずである。個々の事案の処理の蓄積の中で過不足が判明した場合には、随時、修正を施せばよいわけであり、現状を一歩ずつでも先に進めることが重要であると考える(注)。

 

(注)中国においても、2009年に企業の組織再編成に係る取扱いが国家税務総局の通知によって概括的に定められたが、この通知においては、その冒頭に、「企業合併」等の組織再編成がどのような内容のものであるのかということが定められている。

 資本等取引や組織再編成に関して既に長い歴史を有する我が国の法人税においては、これと同様の対応を取ることは難しいと考えられるが、例えて言えば、「走りながら考える」という対応は、十分、可能であり、また、必要でもある、と考えられる。「走る前に考える」という対応は難しいとしても、「走りながら考える」という対応は、有り得るわけであり、「走った後に考える」といったことにはならないようにするべきであると考える。