Q&A

組織再編税制

 

優先株式の評価損の取扱い

※T&Amaster(ロータス21)2012.07.16  No.459に掲載

 当社は、金融機関が3年前に発行した優先株式をその発行時に取得し、現在もそのまま保有しています。この優先株式は、会計上、減損処理を行っていますが、税務上は、法人税の申告書において費用処理を自己否認し、損金とはしていません。

 

 このように、税務上、含み損を損金としなかったのは、従来、この優先株式の取引が殆ど行われていなかったためですが、当該事業年度(平成23年4月1日~平成24年3月31日)中に数件の売買取引が行われており、日本証券業協会から各月公表されている「上場有価証券の発行会社が発行した店頭取扱有価証券の売買状況」の平成24年3月分には3件の取引が掲載されています。

 

 この平成24年3月分の3件の売買取引の価額は、いずれも当初の取得時の帳簿価額の50%未満となっています。

 

 このため、当該事業年度の法人税の申告において、過去の減損処理の金額のうち、帳簿価額と時価(平成24年3月分の最終の取引価額)との差額に達するまでの金額を評価損として申告減算することを検討していますが、このような処理で問題はないでしょうか。

 

要 旨

【マエストロの解説】

 

 貴社が保有する金融機関の優先株式に関し、法人税法33条2項(評価損の損金算入)の規定により、法人税の申告において評価損の額を損金の額として所得の金額から減算する場合には、まず、当該優先株式が法人税法施行令119条の13(売買目的有価証券の時価評価金額)の各号に掲げられている有価証券のいずれに該当するのかということを検討し、評価損の額を損金の額に算入することができるものか否かを確認することが必要となる。

 

 また、株価の回復可能性の判断を「上場有価証券の評価損に関するQ&A」(平成21年4月 国税庁)に示された取扱いによって行うことも考慮した方がよいと考えられる。

 

 以下、有価証券の評価損の取扱いの概要を確認した後に、これらについて解説を行うこととする。

 

1 有価証券の評価損の取扱いの概要

 資産の評価損の額に関しては、法人税法33条1項(資産の評価損の損金不算入)の規定により、原則として、損金不算入とされている。

 

 このため、有価証券に関しても、原則として、その評価損の額を損金の額に算入することはできない。

 

 しかし、法人税法33条2項の規定により、一定の事実が生じた場合には、損金経理額のうち、資産の帳簿価額と時価との差額に達するまでの金額を損金の額に算入することとされている。

 

 この法人税法33条2項の規定を確認すると、次のとおりである。

 

「2 内国法人の有する資産につき、災害による著しい損傷により当該資産の価額がその帳簿価額を下回ることとなつたことその他の政令で定める事実が生じた場合において、その内国法人が当該資産の評価換えをして損金経理によりその帳簿価額を減額したときは、その減額した部分の金額のうち、その評価換えの直前の当該資産の帳簿価額とその評価換えをした日の属する事業年度終了の時における当該資産の価額との差額に達するまでの金額は、前項の規定にかかわらず、その評価換えをした日の属する事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。」

 

 すなわち、法人税法33条2項の規定においては、「政令で定める事実が生じた場合」において、「当該資産の評価換えをして損金経理によりその帳簿価額を減額したとき」は、「その減額した部分の金額のうち、その評価換えの直前の当該資産の帳簿価額とその評価換えをした日の属する事業年度終了の時における当該資産の価額との差額に達するまでの金額」は、「損金の額に算入する」こととされている。この取扱いは、法人の意図とは関係なく、行われるものとなっている。

 

 この「政令で定める事実」は、法人税法施行令68条1項(資産の評価損の計上ができる事実)に定められているが、有価証券に関しては、同項2号において次のとおりとされている。

 

「二 有価証券 次に掲げる事実

イ 第百十九条の十三第一号から第三号まで(売買目的有価証券の時価評価金額)に掲げる有価証券(第百十九条の二第二項第二号(有価証券の一単位当たりの帳簿価額の算出の方法)に掲げる株式又は出資に該当するものを除く。)の価額が著しく低下したこと。

ロ イに規定する有価証券以外の有価証券について、その有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したため、その価額が著しく低下したこと。

ハ ロに準ずる特別の事実」

 

 この法人税法施行令68条1項2号イの「第百十九条の十三第一号から第三号まで(売買目的有価証券の時価評価金額)に掲げる有価証券」(注)とは、法人税法施行令119条の13第1号から3号までに掲げられている有価証券であるが、同条の1号から4号までにおいては、それぞれ次の①から④までの有価証券が掲げられている。

 

(注)法人税法施行令68条1項2号イ括弧書きの中の「第百十九条の二第二項第二号(有価証券の一単位当たりの帳簿価額の算出の方法)に掲げる株式又は出資」とは、いわゆる企業支配株式のことであり、本件においては、考慮する必要がない。

 

①「取引所売買有価証券」

 金融商品取引所において公表された当該事業年度終了の日におけるその「取引所売買有価証券」の最終の売買の価格(省略)

 

②「店頭売買有価証券」及び「取扱有価証券」

 金融商品取引法67条の19(売買高、価格等の通知等)の規定により公表された当該事業年度終了の日におけるその「店頭売買有価証券」又は「取扱有価証券」の最終の売買の価格(省略)

 

③「その他価格公表有価証券」

 価格公表者によって公表された当該事業年度終了の日におけるその「その他価格公表有価証券」の最終の売買の価格(省略)

 

④ 上記以外の有価証券

イ 償還期限及び償還金額の定めのある有価証券

(省略)

 

ロ イ以外の有価証券

その有価証券の当該事業年度終了の時における帳簿価額

 

 上記①の「取引所売買有価証券」とは、「その売買が主として金融商品取引法第二条第十六項(定義)に規定する金融商品取引所(省略)の開設する市場において行われている有価証券をいう。」(法令119の13一括弧書き)とされており、貴社が保有する優先株式は、これには該当しない。

 

 上記②の「店頭売買有価証券」とは、「金融商品取引法第二条第八項第十号ハに規定する店頭売買有価証券」(法令119の13二括弧書き)とされているが、金融商品取引法2条8項10号ハにおいては、この店頭売買有価証券とは「第六十七条の十一第一項の規定により登録を受けた有価証券」とされており、日本証券業協会が店頭売買有価証券市場において売買を行わせようとする有価証券として「店頭売買有価証券登録原簿」に登録した有価証券ということになる。

 

 貴社が保有する優先株式は、この「店頭売買有価証券」にも該当しない。

 

 また、上記②の「取扱有価証券」とは、「金融商品取引法第六十七条の十八第四号(認可協会への報告)に規定する取扱有価証券」(法令119の13二括弧書き)とされており、この金融商品取引法67条の18第4号の取扱有価証券とは「当該認可協会がその規則において、売買その他の取引の勧誘を行うことを禁じていない株券、新株予約権付社債券その他内閣府令で定める有価証券(金融商品取引所に上場されている有価証券及び店頭売買有価証券を除く。)」とされている。

 

<備考>

 上記の金融商品取引法67条の18第4号の規定中の「内閣府令で定める有価証券」とは、金融商品取引業協会等に関する内閣府令11条において、次のとおりとされているが、本件の優先株式は、これらには該当しない。

 

「 法第六十七条の十八第四号に規定する内閣府令で定める有価証券は、次に掲げるものとする。

 

一 新株予約権証券

二 出資証券(法第二条第一項第六号に掲げる有価証券をいう。以下同じ。)

三 資産の流動化に関する法律(省略)に規定する優先出資証券

四 投資証券(投資信託及び投資法人に関する法律(省略)に規定する投資証券をいう。以下同じ。)」

 

 貴社が保有する優先株式が「取扱有価証券」に該当する可能性があるとすれば、上記の金融商品取引法67条の18第4号の「取扱有価証券」の定義中の「株券」に含まれる場合ということになる。

 

 上記③の「その他価格公表有価証券」とは、法人税法に固有の概念であり、法人税法施行令119条の13第3号の規定においては、次のように定義されている。

 

「 その他価格公表有価証券(前二号に掲げる有価証券以外の有価証券のうち、価格公表者(有価証券の売買の価格又は気配相場の価格を継続的に公表し、かつ、その公表する価格がその有価証券の売買の価格の決定に重要な影響を与えている場合におけるその公表をする者をいう。以下この号において同じ。)によつて公表された売買の価格又は気配相場の価格があるものをいう。(以下、省略)」

 

 上記のとおり、「その他価格公表有価証券」とは、価格公表者(日本証券業協会等)によって公表された売買の価格又は気配相場の価格があるもの、ということになる。

 

 法人税法施行令119条の13の規定は、法人税法上の「売買目的有価証券」の時価評価金額について定めたものであるが、上記③や④のように、必ずしも売買が頻繁に行われるとは限らない有価証券に関しても、法人税法上、「売買目的有価証券」とすることとしているのは、これらの取扱いを定めた平成12年度改正において、有価証券の売買取引が広範に行われるようになることをできるだけ妨げないようにするという観点に立ってこれらに関する改正を行ったことによるものである。

 

<参考>

 現在の有価証券の売買取引及び期末評価、デリバティブ取引、ヘッジ処理及び外国為替取引等の金融取引の取扱いは、平成12年度改正において抜本改正が行われて現在に至るものであるが、同改正は、時価評価を広く導入して金融取引を促進するという観点に立つものであった。

 

 上記①から③までの有価証券に関しては、法人税法施行令68条1項2号イの規定により、「価額が著しく低下した」という事実がある場合に評価損の額を損金の額に算入することとなり、上記④を含むその他の有価証券に関しては、同号ロの規定により、「その有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化した」ため、「その価額が著しく低下した」という事実がある場合に評価損の額を損金の額に算入することとなる(注)。

 

(注)法人税法施行令68条1項2号ハの規定により、いずれの有価証券に関しても、同号ロに準ずる特別の事実がある場合には、評価損の額を損金の額に算入することとなるが、この同号ロに掲げられた事実は、下記の法人税基本通達9-1-9にあるとおり、かなり要件の厳しいものとなっている。

 

 この有価証券の「価格が著しく低下した」という事実があるのか否かに関しては、法人税基本通達9-1-7(上場有価証券等の著しい価額の低下の判定)において、次のような解釈が示されている。

 

「 令第68条第1項第2号イ《上場有価証券等の評価損の計上ができる事実》に規定する「有価証券の価額が著しく低下したこと」とは、当該有価証券の当該事業年度終了の時における価額がその時の帳簿価額のおおむね50%相当額を下回ることとなり、かつ、近い将来その価額の回復が見込まれないことをいうものとする。

 

(注)1 同号イに規定する「第119条の13第1号から第3号までに掲げる有価証券」は、法第61条の3第1項第1号《売買目的有価証券の期末評価額》に規定する売買目的有価証券か否かは問わないことに留意する。

 

2 本文の回復可能性の判断は、過去の市場価格の推移、発行法人の業況等も踏まえ、当該事業年度終了の時に行うのであるから留意する。」

 

 また、上記①から③までの有価証券以外の有価証券に適用される法人税法施行令68条1項2号ロの「その有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化した」という事実があるのか否かに関しては、法人税基本通達9-1-9(上場有価証券等以外の有価証券の発行法人の資産状態の判定)において、次のような解釈が示されている。

 

 「 令第68条第1項第2号ロ《上場有価証券等以外の有価証券の評価損の計上ができる事実》に規定する「有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したこと」には、次に掲げる事実がこれに該当する。

 

(1) 当該有価証券を取得して相当の期間を経過した後に当該発行法人について次に掲げる事実が生じたこと。

 

イ 特別清算開始の命令があったこと。

ロ 破産手続開始の決定があったこと。

ハ 再生手続開始の決定があったこと。

ニ 更生手続開始の決定があったこと。

 

(2) 当該事業年度終了の日における当該有価証券の発行法人の1株又は1口当たりの純資産価額が当該有価証券を取得した時の当該発行法人の1株又は1口当たりの純資産価額に比しておおむね50%以上下回ることとなったこと。

 

(注) (2)の場合においては、次のことに留意する。

 

1 当該有価証券の取得が2回以上にわたって行われている場合又は当該発行法人が募集株式の発行等若しくは株式の併合等を行っている場合には、その取得又は募集株式の発行等若しくは株式の併合等があった都度、その増加又は減少した当該有価証券の数及びその取得又は募集株式の発行等若しくは株式の併合等の直前における1株又は1口当たりの純資産価額を加味して当該有価証券を取得した時の1株又は1口当たりの純資産価額を修正し、これに基づいてその比較を行う。

 

2 当該発行法人が債務超過の状態にあるため1株又は1口当たりの純資産価額が負(マイナス)であるときは、当該負の金額を基礎としてその比較を行う。」

 

2 貴社の優先株式の取扱い

 貴社が保有する金融機関の優先株式は、上記1の①「取引所売買有価証券」及び②「店頭売買有価証券」に該当しないことに関しては改めて言うまでもないが、②「取扱有価証券」又は③「その他価格公表有価証券」に該当する場合には、その評価損の額を損金の額に算入することとなり、これらのいずれにも該当しない場合には、その評価損の額を損金の額に算入することはできないこととなる。

 

(1)「取扱有価証券」に該当するか

 上記1においても述べたとおり、貴社が保有する優先株式が「取扱有価証券」に該当する可能性があるとすれば、上記の金融商品取引法67条の18第4号の「取扱有価証券」の定義中の「株券」に含まれる場合ということになるが、この「取扱有価証券」に関しては、同号において日本証券業協会が「売買その他の取引の勧誘を行うことを禁じていない」という限定が付されている。

 

 このため、日本証券業協会が「取扱有価証券」に関してどのように取り扱うこととしているのかということを確認することが必要となる。

 

 日本証券業協会の規則においては、「取扱有価証券」に関して特に定義を設けたり特別な取扱いを定めたりすることとはされておらず、「店頭有価証券」の一部として取扱いが定められている。

 

 この「店頭有価証券」とは、日本証券業協会の「店頭有価証券に関する規則(平17.3.15)」2条において、次のとおり定められており、貴社が保有する優先株式は、これに含まれるものと考えられる。

 

「1 店頭有価証券

   我が国の法人が国内において発行する取引所金融商品市場に上場されていない株券
 (特別の法律により設立された法人の発行する出資証券を含む。以下同じ。)、新株予
  約権証券及び新株予約権付社債券をいう。」

 

 そして、この「店頭有価証券」に関しては、「協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則(昭50. 2.19)」12条の2において、次のような制限が設けられている。

 

「 協会員は、店頭有価証券(店頭有価証券規則第2条第1号に規定する店頭有価証券をいう。)については、店頭有価証券規則に規定する場合を除き、顧客に対し投資勧誘を行ってはならない。」

 

 このように、「取扱有価証券」を含む「店頭有価証券」に関しては、一定の場合を除き、投資勧誘が禁止されているわけである。

 

 この投資勧誘の禁止とその特例においては、「店頭有価証券」自体に関しては投資勧誘を禁止し、一定の場合にその禁止を解除する、という状態となっており、「店頭有価証券」自体に禁止されるものと禁止されないものの双方がある、ということにはなっていない点に留意する必要がある。

 

 このような日本証券業協会の規則の定めを踏まえて、上記の金融商品取引法67条の18第4号の規定の「取扱有価証券」の定義に戻り、貴社が保有する優先株式が「売買その他の取引の勧誘を行うことを禁じていない株券」に該当するのか否かと問うてみると、「該当しない」という結論に至る可能性が高い、と考えられる。

 

 すなわち、貴社が保有する優先株式は、「取扱有価証券」に該当しない可能性が高い、ということである(注)。

 

(注)金融商品取引法67条の18第4号の「取扱有価証券」は、日本証券業協会の「店頭有価証券に関する規則(平17.3.15)」2条4に定義されている「店頭取扱有価証券」とは異なることに留意する必要がある。

 

 貴社が保有する優先株式が「取扱有価証券に該当しない」と述べずに、「該当しない可能性が高い」と述べているのは、法令の規定の解釈のみで結論が得られるわけではなく、日本証券業協会の規則の解釈の如何によって貴社が保有する優先株式が「取扱有価証券」に該当するのか否かの判断が変わる可能性がないとは言えないことによるものであり、日本証券業協会がこの点に関してどのような解釈を採っているのかということを確認する必要がある、と考えられる。

 

 本稿においては、金融商品取引法67条の18第4号の規定等に関する上記の文理解釈により、貴社が保有する優先株式は「取扱有価証券」に該当しない、という判断の下に検討を進めることとする。

 

(2)「その他価格公表有価証券」に該当するか

 貴社が保有する優先株式が「取扱有価証券」に該当しないということになると、次に、上記1の③「その他価格公表有価証券」に該当するのか否かということが問題となる。貴社が保有する優先株式が「取扱有価証券」に該当しないとしても、「その他価格公表有価証券」に該当するのであれば、評価損の額を損金の額に算入することとなる。

 

 この「その他価格公表有価証券」がどのような有価証券であるのかということに関しては、上記1において確認したとおりであり、価格公表者(日本証券業協会等)によって公表された売買の価格又は気配相場の価格があるものということになる。

 

 法人税法施行令119条の13第3号の規定においては、「価格公表者」に関しては「有価証券の売買の価格又は気配相場の価格を継続的に公表し、かつ、その公表する価格がその有価証券の売買の価格の決定に重要な影響を与えている場合におけるその公表をする者をいう。」とされており、日本証券業協会がこれに該当するのか否かという論点はあり得ることとなるが、「その他価格公表有価証券」自体には特に要件が付されていない。

 

 このように、法人税法施行令119条の13第3号の「その他価格公表有価証券」に関しては、売買頻度等は問われないこととなっているため、文理解釈上は、貴社が保有する優先株式は「その他価格公表有価証券」に該当すると考えてよいこととなる。

 

 これに対しては、法人税法施行令119条の13の規定は「売買目的有価証券」に関する規定であって3号の「その他価格公表有価証券」も同条の趣旨からすれば短期売買目的で取引が行われるような売買頻度等があるものでなければならないというような指摘が行われることもあり得ると想定されるところであり、そのような指摘にも十分に理由があると考えられるが、貴社が保有する優先株式に関しては、質問文から推測する限り、特に同号の規定の文理解釈を趣旨解釈によって変更しなければならない事情があるとは思われないことから、本稿においては、当該優先株式は同号の「その他価格公表有価証券」に該当すると解することとして、検討を進めることとする。

 

(3)「上場有価証券の評価損に関するQ&A」(平成21年4月 国税庁)による取扱い

 有価証券の評価損に関して、平成21年4月に、経済危機対策の一環として国税庁から「上場有価証券の評価損に関するQ&A」(以下、「Q&A」という。)が公表されている。

 

 平成21年当時と現在とでは、やや経済環境が異なっているわけであるが、このQ&Aは現在も国税庁のホームページに掲載されており、現在もこの取扱い(注)が維持されているものと考えられる。

 

(注)詳細に関しては、国税庁のホームページを参照のこと。

 

 このQ&Aは、4つの質問に対する回答と解説となっており、それぞれの表題は、次のとおりである。

 

Q1:株価が50%相当額を下回る場合における株価の回復可能性の判断基準

Q2:監査法人のチェックを受けて継続的に使用される形式的な判断基準

Q3:株価の回復可能性の判断の時期

Q4:株価の回復可能性の判断基準に該当した場合の評価損否認金の取扱い

 

 このQ1に関しては、その解説文において、次のように述べられている。

 

「 具体的には、専門性を有する第三者である証券アナリストなどによる個別銘柄別・業種別分析や業界動向に係る見通し、株式発行法人に関する企業情報などを用いて、当該株価が近い将来回復しないことについての根拠が提示されるのであれば、これらに基づく判断は合理的な判断であると認められるものと考えられます。」

 

 すなわち、「証券アナリストなど」の第三者が株価が回復しないという判断を示しているのであれば、その判断に基づいて法人税基本通達9-1-7の「近い将来その価額の回復が見込まれないこと」に該当することになる、ということである。

 

 このため、貴社が保有する優先株式に関しても、このような事情にあるのであれば、その評価損の額を損金の額とすることとなる。

 

 また、Q2に関しては、次のような回答が行われている。

 

「 監査法人による監査を受ける法人において、上場株式の事業年度末における株価が帳簿価額の50%相当額を下回る場合の株価の回復可能性の判断の基準として一定の形式基準を策定し、税効果会計等の観点から自社の監査を担当する監査法人から、その合理性についてチェックを受けて、これを継続的に使用するのであれば、税務上その基準に基づく損金算入の判断は合理的なものと認められます。」

 

 すなわち、「証券アナリストなど」の第三者の見通しに拠るのではなく、「一定の形式基準」を作成して監査を行う者のチェックを受けたということであればその基準によって評価損の額を損金の額に算入することでもよい、ということである。

 

 この「一定の形式基準」の内容に関しては、何も言及されてはいないが、これは、監査を行う者が合理的であると判断したものであれば、「税務上の観点から明らかに不合理である」(Q2解説文注記2)ということでない限り、税務上も容認してよいという判断によるものと考えられる。

 

 大企業においては、殆どが監査を受けており、その際に、繰延税金資産の額の適否が問題となることから、Q1の基準よりも、このQ2の基準を採ることが現実的であると考えられる。

 

 貴社においても、このような「一定の基準」を策定し、監査を行う者のチェックを受けているということであれば、その「一定の基準」によって評価損の額を損金の額に算入するのか否かを判断することとなるものと考えられる。

 

<備考>

 Q1からQ4までの質問文と回答文は、いずれも「上場株式」に関するものとなっているが、Q1の解説文は「上場有価証券等(取引所売買有価証券、店頭売買有価証券、取扱有価証券及びその他価格公表有価証券(いずれも企業支配株式に該当するものを除きます。)」に関するものとなっており、Q2からQ4までの解説文はいずれも「上場株式」に関するものとなっている。

 

 どのような理由により、このような解説文の相違が生じたのかは明らかでないが、Q2からQ4までの取扱いについても、その内容から判断すると、「上場有価証券等」に関するものと解することで、特段、問題はないものと考えられる。

 

 Q3においては、法人税基本通達9-1-7(上場有価証券等の著しい価額の低下の判定)を引用しつつ、株価の回復可能性の判断は各事業年度末時点において行い、事後に株価が回復しても評価損の額として損金の額に算入した金額を是正する必要がないということを述べ、Q4においては、法人税基本通達9-1-2(評価損否認金等のある資産について評価損を計上した場合の処理)を引用しつつ、過去の事業年度において有税で減損処理をした金額についてその後の事業年度で税務上の損金算入の要件を満たすこととなった場合に損金算入を行うことができるということを述べている。

 

 企業会計上は、税務上の評価損の損金算入の要件を満たさないような場合であっても、減損処理が求められることとなっているため、現実には、企業会計上で減損処理を行った後の事業年度で税務申告において評価損の損金算入を行うといったケースが多くなっているが、Q3とQ4は、このような事情を考慮した取扱いとなっているわけである。

 

 ただし、Q2に従って評価損の損金算入を行う場合には、監査を行う者の判断を考慮することが必要となるため、実務上は、他の決算調整項目や申告調整項目と同様に、事業年度終了の時から申告の時までの間において、当該法人と監査を行う者との間で「一定の形式基準」の内容や判断に関する検討や議論が行われることとなる点に留意する必要がある。

 

 もちろん、これらのQ&Aに基づく対応は、減損処理を行った有価証券について評価損の額を申告減算して損金の額とする場合に必ず必要となるというものではなく、貴社が保有する優先株式に関しては、これらの対応に拠らずとも、評価損の額の申告減算が可能と思われる。

 

 しかしながら、経済危機対策として有価証券の評価損の損金算入を実質的に緩和したQ&Aの取扱いが公表された背景を考えてみると、納税者がその取扱いを積極的に活用することが予定されていたはずであり、しかも、税務当局がその活用によって評価損の額を申告減算することを認めることとしているということからすれば、そのような対応を採る方が好ましいものと考えられる。