Q&A

組織再編税制

 

17.事業譲受けや非適格合併等における「短期重要負債調整勘定」

※T&Amaster(ロータス21)2013.01.21  No.483に掲載

 事業の譲受けや非適格合併等により、一方の法人が他方の法人から資産・負債の移転を受けた場合で、交付した対価の額と移転を受けた資産・負債の額とに差額があるときは、その差額に関しては、「資産調整勘定」又は「負債調整勘定」として、その移転を受けた日の属する事業年度以後の事業年度において損金又は益金に算入することとされています。


 そして、この「負債調整勘定」については、「退職給与負債調整勘定」「短期重要負債調整勘定」「差額負債調整勘定」の3つに分けられており、それぞれ法令に定義が設けられています。


 しかし、これらの3つの「負債調整勘定」のうち、特に「短期重要負債調整勘定」に関しては、どのようなものがこれに当たるのかということがよく分かりません。


 上記の差額が「短期重要負債調整勘定」に該当するということであれば、一時に益金算入することが求められるということもあり、実務においては、上記の差額が「短期重要負債調整勘定」と「差額負債調整勘定」のいずれに該当するのかということは、非常に重要となります。


 この「短期重要負債調整勘定」がどのようなものかということについて、ご教授をお願いします。

 

要 旨

【マエストロの解説】

 

 ご質問の短期重要負債調整勘定の金額には、例えば、事業の譲受けや合併等により移転を受ける事業について工場を取り壊したり従業員の大規模なリストラを行ったりすることが予定されているような場合におけるその損失の額に対応する潜在債務の金額などが該当することとなる。

 

 事業の譲受けや非適格合併等においても、現実に短期重要負債調整勘定の金額を計上しなければならないというケースは、あまり多くはない、と思われる。

 

1 負債調整勘定の概要

 ご指摘のとおり、負債調整勘定と呼ばれるものは、3つに分けられており、退職給与負債調整勘定、短期重要負債調整勘定及び差額負債調整勘定から成っている(法法62の8②・③)。


 これらは、事業を移転する取引において、例えば、退職給与を支払わなければならない債務のように、税制上は負債とはされないが現実には事業の価値を減ずる潜在債務があるという場合に、税制上、資産・負債に適切な価額を付す処理を行い得ないという問題があったり、また、移転した法人において譲渡損が計上されるにもかかわらず移転を受けた法人においても損金が計上されるという問題があったために、これらの問題を解決するべく平成18年度改正において創設されたものである。


 以下、ご質問の対象となっている短期重要負債調整勘定の金額について定めた法人税法62条の8(非適格合併等により移転を受ける資産等に係る調整勘定の損金算入等)の2項2号の規定を中心に解説を行うこととするが、負債調整勘定の全体像を確認できるように、同条の規定の定める順序に従い、退職給与負債調整勘定の金額と差額負債調整勘定の金額についても、簡単に解説を行うこととする。

 

2 退職給与負債調整勘定

 法人が事業譲受けや非適格合併等により事業の移転を受けた場合に、従業者の退職給与債務の引受けをしたときは、その退職給与債務引受額に係る負債調整勘定を「退職給与負債調整勘定」とするものとされている。

 

 これは、税制において退職給与引当金の額が従業者の退職給与債務の額を正しく示していた時代には、不要であったものである。

 

 

 法人税法62条の8第2項1号おいては、次のように定められている。


「2 内国法人が非適格合併等により当該非適格合併等に係る被合併法人等から資産又は
  負債の移転を受けた場合において、次の各号に掲げる場合に該当するときは、当該各
  号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額を負債調整勘定の金額とする。
  一 当該内国法人が当該非適格合併等に伴い当該被合併法人等から引継ぎを受けた従
   業者につき退職給与債務引受け(非適格合併等後の退職その他の事由により当該非
   適格合併等に伴い引継ぎを受けた従業者に支給する退職給与の額につき、非適格合
   併等前における在職期間その他の勤務実績等を勘案して算定する旨を約し、かつ、
   これに伴う負担の引受けをすることをいう。以下この条において同じ。)をした場合 
   当該退職給与債務引受けに係る金額として政令で定める金額(第6項第1号におい
   て「退職給与債務引受額」という。)」


 法人税法62条の8第2項の定めは、「当該各号に定める金額を負債調整勘定の金額とする」というものとなっているわけであるが(注)、「負債調整勘定の金額」という概念が既に他に存在してその取扱いが定められているということではないため、通常、このような「・・・を・・・にする」という定めを設けることはない。「・・・を・・・にする」と定めても、それでどうなるのかということが不明なわけである。


(注)法人税法62条の8第1項の1項の資産調整勘定の定めも、同様である。


 「・・・を・・・という」ということであれば、定義規定として意味があり、別途、その取扱いを定めればよいわけであるが、法人税法62条の8第1項及び2項の規定は、そのようにはなっていない。


 これは、法令用語の用い方の適切さの問題であって実害はない、という見解もあろうが、「資産調整勘定」や「負債調整勘定」が税法上の「資産」や「負債」に含まれるものと解して他の多くの規定を適用することになるのか否かという大きな問題に密接に関係するものである。


 このように、負債調整勘定は、税法上の「負債」に該当するのか否かというその性格に関する根本的な疑問を抱えたまま創設されているわけであるが、上記引用条文から分かるとおり、退職給与負債調整勘定の金額に関しては、時価で評価される退職給与引当金の額に相当する金額とされている。


 この退職給与負債調整勘定の金額は、従業者の退職等の都度、一定額を取り崩して益金に算入することとなる(法法62の8⑥一・⑧)。


 なお、この退職給与負債調整勘定の金額に関しては、退職給与引当金を復活させるのが本来の在り方ではないかという疑問や、下記4の差額負債調整勘定の金額に含めて制度を設けることで足りたのではないかという疑問などがある、ということを付言しておくこととする。

 

3 短期重要負債調整勘定

 ご質問の短期重要負債調整勘定の金額は、時価で評価される従業者の退職給与引当金の額に相当する金額である上記2の退職給与負債調整勘定の金額、そして、対価額と資産・負債の金額との差額に相当する金額である下記4の差額負債調整勘定の金額とは異なり、その内容が漠然としており、何がこれに該当するのかということが必ずしも明らかではない。
ご質問も、このような短期重要負債調整勘定の金額の特徴に起因するものと思われる。
この短期重要負債調整勘定の金額について定めた法人税法62条の8第2項2号の規定を確認してみると、次のとおりである。

 

「二 当該内国法人が当該非適格合併等により当該被合併法人等から移転を受けた事業に係る将来の債務(当該事業の利益に重大な影響を与えるものに限るものとし、前号の退職給与債務引受けに係るもの及び既にその履行をすべきことが確定しているものを除く。)で、その履行が当該非適格合併等の日からおおむね3年以内に見込まれるものについて、当該内国法人がその履行に係る負担の引受けをした場合 当該債務の額に相当する金額として政令で定める金額(第6項第2号において「短期重要債務見込額」という。)」


 この「短期重要債務見込額」について定める政令は、法人税法施行令123条の10(非適格合併等により移転を受ける資産等に係る調整勘定の損金算入等)の8項であり、その内容は、次のとおりである。

 

「8 法第62条の8第2項第2号に規定する政令で定める金額は、同号に規定する債務の額(当該債務の額に相当する金額として同号の事業につき生ずるおそれのある損失の額として見込まれる金額が同号の非適格合併等により移転を受けた同条第1項に規定する資産の取得価額の合計額の100分の20に相当する金額を超える場合における当該債務の額に限る。)に相当する金額とする。」


上記の2つの規定から短期重要負債調整勘定の金額がどのようなものかということを整理してみると、次のすべての要件に該当するものということになる。

 

  1. 移転を受けた事業に係る将来の債務
  2. 移転を受けた事業の利益に重大な影響を与える債務
  3. 退職給与債務引受けに係る債務以外
  4. 既に履行をすべきことが確定している債務以外
  5. その履行がおおむね3年以内に見込まれる債務
  6. その履行に係る負担の引受けをした場合
  7. 上記ⅰ~ⅴに該当する債務の額に相当する金額
  8. 移転を受けた事業について生ずるおそれのある損失の額として見込まれる金額
  9. 移転を受けた資産の取得価額の合計額の100分の20に相当する金額を超えること


 上記のⅰからⅸまでの要件は、ⅰからⅴまでが債務の要件、ⅵが場面の要件、ⅶからⅸまでが金額の要件となっている。
 ご質問は、上記ⅷの金額がどのような金額であるのかという質問となっていると考えられる。
 上記ⅷをもう少し詳しく見てみると、その金額は、「移転を受けた事業について」「生ずるおそれのある」「損失の額」「見込まれる」という4つに該当するものということになる。
 換言すれば、次のようなものは、上記ⅷの金額には該当しない、ということになる。


  • ア 移転を受けた事業以外の事業について生ずる損失
  • イ 移転を受けた時において生ずるおそれがあると言えない損失
  • ウ 法人税法22条3項1号の原価の額や2号の販管費等の額となる金額
  • エ 移転を受けた時において損失の額として発生することが見込まれない金額


 具体的にどのようなものがこれに該当するのかということを考えてみると、例えば、事業の譲受けや合併等により移転を受ける事業について工場を取り壊したり従業員の大規模なリストラを行ったりすることが予定されているような場合におけるその損失の額に対応する潜在債務の金額ということになる。


 この短期重要負債調整勘定の金額は、「損失の額」に限られており、上記ウのとおり、交付した対価の額と移転を受けた資産・負債の額との差額に、法人税における損金の額について定めた法人税法22条3項1号の原価の額や2号の販管費等の額に対応するものがあっても、それらに対応するものについては短期重要負債調整勘定の金額とすることとはならないという点に、十分に留意する必要がある(注)。

 

(注)どのような理由によって短期重要負債調整勘定の金額が「損失の額」のみとされたのかということは明らかではないが、法令の規定上は、短期重要負債調整勘定の金額は「損失の額」と明確に定められている。


 平成18年当時の解説書や通達等には、具体例が見受けられないため、具体的に短期重要負債調整勘定というものを設けなければならない事例が生じていたというわけではなく、想定の産物として設けられたという性格の強いものであって、実際にこれに該当するものは非常に少ないものと思われる。


 ご質問に当たってどのような金額が問題となっているのかということが明らかではないため、具体的な判断を示すことはできないが、上記の基準によって判断すれば、適切な答を得ることができるはずである。


 この短期重要負債調整勘定の金額は、その金額に係る損失が生じたり3年経過したりした場合に取り崩して益金に算入することとされている(法法62の8⑥二・⑧)。


 調整勘定の金額と同様に、「短期重要資産調整勘定」というものがないのは何故かという疑問や、下記4の差額負債調整勘定の金額に含めて制度を設けることで足りたのではないかという疑問などがある、ということを確認しておくこととする。

 

4 差額負債調整勘定

 差額負債調整勘定の金額は、次の法人税法62条の8第3項にあるとおり、非適格合併等における対価の額がその非適格合併等よって移転する資産及び負債の時価純資産の金額に満たない場合のその満たない部分の金額のうち、上記2の退職給与負債調整勘定の金額及び3の短期重要負債調整勘定の金額で埋めることができない部分の金額とされている。

 

「3 内国法人が非適格合併等により当該非適格合併等に係る被合併法人等から資産又は負債の移転を受けた場合において、当該非適格合併等に係る非適格合併等対価額が当該被合併法人等から移転を受けた資産及び負債の時価純資産価額に満たないときは、その満たない部分の金額は、負債調整勘定の金額とする。」


 上記の法人税法62条の8第3項の規定の文言だけから判断すると、差額負債調整勘定の金額が上記2の退職給与負債調整勘定の金額及び3の短期重要負債調整勘定の金額を含んでいるということになるが、同条1項の「時価純資産価額」の定義において、その金額を計算する場合の「負債」に上記2及び3の金額を含めることとしているため、この差額負債調整勘定の金額は、上記2及び3の金額を含まない金額となるわけである。


 この差額負債調整勘定の金額は、5年間で均等に益金の額に算入していくこととされている(法法62の8⑦・⑧)。

 

最後に

 上記の負債調整勘定は、資産調整勘定と合わせて、平成18年度改正において法人税法62条の8に規定が設けられたわけであるが、上記において述べたとおり、本来は、財源対策として廃止された退職給与引当金制度や賞与引当金制度を復活させて対応するべきものであったと考えられる。理論や実態を無視して、所得の金額の計算を行おうとしているところに、そもそも問題があるわけである。


 しかし、過去の税制改正の経緯等を考えると、このように退職給与引当金や賞与引当金の穴埋めをするものとして負債調整勘定の制度を設けることも、止むを得ないように思われる。


 我が国の財政状況を考えると、法人税率の引下げを行うに当たり、課税ベースを拡大することには、一定の理解が得られるものと考えられる。


 ただし、このような制度を設けざるを得ないということであったとしても、実際には、退職給与引当金制度や賞与引当金制度を廃止したことによって生ずる問題を解決するための「負債調整勘定」を設けることで足りたものと思われる。


 この平成18年度改正によって創設された資産調整勘定と負債調整勘定の制度は、企業会計における「のれん」の取扱いを意識し過ぎたために、既に「営業権」が存在するにもかかわらず、それと重複して「資産調整勘定」を設けたり、また、潜在的な「負債」の性質を正確に把握せず、負債調整勘定の中に必要性に疑問のある3つの負債調整勘定を設けるといったことになってしまっている、と考えられる。


 税制度を創るに当たっては、理論的であること、誤りがないこと、そして、簡素であることに、十分に留意する必要がある。