Q&A

組織再編税制

 

21.非適格合併等における役員退職慰労引当金の取扱い

※T&Amaster(ロータス21)2013.09.16  No.515に掲載

 当社は、この度、A社を吸収合併する予定となっていますが、この合併は、税制上、非適格合併となり、当社は、時価によってA社の資産及び負債を取得する処理を行うこととなります。


 合併に際し、当社はA社の従業員を引き受けるとともにA社の一部の役員が当社の役員となる予定ですが、A社には従業員退職金規程と役員退職慰労金規程があり、当社は、合併後、A社の従業員の退職金と役員の退職慰労金の支払いをせざるを得ない状況にあります。


 このA社の従業員退職金と役員退職慰労金に係る金額は、A社において特に引当金等として計上されているわけではありませんが、合併対価を計算する際には、事実上の債務として考慮しています。


 当社が合併に関する税務処理を行うに当たっては、このA社の従業員退職金に係る金額は、「退職給与負債調整勘定」(法法62の8②一)として処理する予定です。


 しかし、A社の役員退職慰労金に係る金額に関しては、「退職給与負債調整勘定」に含めてよいのか否かが分かりません。


 このA社の役員退職慰労金に係る金額の取扱いに関して、ご教授をお願い致します。

 

要 旨

【マエストロの解説】

 

 貴社の合併に関する税務処理においては、ご質問のA社の役員退職慰労金に係る金額は、「退職給与負債調整勘定の金額」(法法62の8②一)ではなく、「差額負債調整勘定の金額」(法法62の8③)として処理することとなる。

 

 

1 「負債調整勘定」の概要


 平成18年度改正により、法人税法62条の8(非適格合併等により移転を受ける資産等に係る調整勘定の損金算入等)において、非適格合併等を行う合併法人等における取扱いとして、「資産調整勘定」とともに、「負債調整勘定」として「退職給与負債調整勘定」「短期重要負債調整勘定」と「差額負債調整勘定」の3つに関する取扱いが新たに設けられた。


 この「退職給与負債調整勘定」とは、合併法人等が被合併法人等から従業者の退職給与債務引受けをした場合の退職給与債務引受額とされている(法法62の8②一、法令123の10⑦)。


 この退職給与負債調整勘定の金額は、合併後に従業者が退職する都度、一定の金額を取り崩して益金の額に算入することとされている。


 また、「短期重要負債調整勘定」とは、合併法人等が被合併法人等から引き受けた短期重要債務見込額とされている(法法62の8②二、法令123の10⑧)。


 この短期重要負債調整勘定の金額は、短期重要債務見込額に係る損失が生じた場合又は非適格合併等から3年を経過した場合に、その一部又は全部を取り崩して益金の額に算入することとされている。


 ただし、本件の質問事項はこの短期重要債務見込額に関するものではないため、本件においては、この短期重要負債調整勘定の金額について検討を行う必要はない。


 また、「差額負債調整勘定」とは、非適格合併等対価額が移転資産・負債の時価純資産価額に満たない場合のその満たない部分の金額で、退職給与負債調整勘定の金額及び短期重要負債調整勘定の金額に含まれない金額とされている(法法62の8③)。


 この差額負債調整勘定の金額は、5年間にわたって均等額を取り崩して益金の額に算入することとされている。


 本件においては、A社の役員退職慰労金に係る金額が退職給与負債調整勘定の金額と差額負債調整勘定の金額のいずれとなるのかによって、合併後にこれらの金額を益金の額に算入する場合の取扱いが異なることとなるため、その判定が問題となるわけである。

 

 

2 「退職給与負債調整勘定」に係る規定の検討


 「退職給与負債調整勘定」に関しては、法人税法62条の8第2項1号において、次のように定義されている。


 2 内国法人が非適格合併等により当該非適格合併等に係る被合併法人等から資産又は負
  債の移転を受けた場合において、次の各号に掲げる場合に該当するときは、当該各号に
  掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額を負債調整勘定の金額とする。


  一 当該内国法人が当該非適格合併等に伴い当該被合併法人等から引継ぎを受けた従業
   者につき退職給与債務引受け(非適格合併等後の退職その他の事由により当該非適格
   合併等に伴い引継ぎを受けた従業者に支給する退職給与の額につき、非適格合併等前
   における在職期間その他の勤務実績等を勘案して算定する旨を約し、かつ、これに伴
   う負担の引受けをすることをいう。以下この条において同じ。)をした場合

    当該退職給与債務引受けに係る金額として政令で定める金額(第6項第1号におい
   て「退職給与債務引受額」という。)


 この法人税法62条の8第2項1号の「政令で定める金額」に関しては、法人税法施行令123条の10第7項において、次のように定められている。


 7 法第62条の8第2項第1号に規定する政令で定める金額は、同号の内国法人の非適格
  合併等の時における同号に規定する従業者に係る退職給付引当金の額(一般に公正妥当
  と認められる会計処理の基準に従つて算定され、かつ、その額につき第9項に規定する
  明細書に記載がある場合の当該退職給付引当金の額に限る。第12項において「退職給付
  引当金額」という。)に相当する金額とする。


 退職給与負債調整勘定の金額がどのような金額とされているのかということに関しては、この法人税法施行令123条の10第7項の規定を精査する必要がある。

 

 

(1)「従業者」


 法人税法施行令123条の10第7項の「従業者」に関しては、特に政省令に定義は設けられておらず、その解釈を示す通達等も存在しないが、適格合併の要件を定めた法人税法2条12号の8ロ(1)等における「従業者」の解釈を示した法人税基本通達1-4-4(従業者の範囲)における解釈と別意に解すべき事情は見当たらないため、同通達と同様に(注)、現に事業に従事している役員を含む、と解するのが適当である。

 

(注)一つの法律中の複数の同じ用語に関して、特定の規定の用語に関してのみ解釈を示し、他の規定の同じ用語に関しては解釈を示さない、という状態は、決して好ましいものではない。

   「従業者」に関しては、法令において定義を定めるか又は通達においてその用語を用
  いる全ての規定を掲げて解釈を示すのが適当と考えられる。


 仮に、この「従業者」に役員を含めないこととするということであれば、「従業者」ではなく、「従業員」とする必要がある。


 なお、法人税法62条の8第2項1号においては、この「従業者」に関して、「当該非適格合併等に伴い当該被合併法人等から引継ぎを受けた従業者」「当該非適格合併等に伴い引継ぎを受けた従業者」という文言が用いられているが、これらの文言中の「引継ぎ」は、法人税法における適格合併又は適格分割型分割の場合の資産及び負債の「引継ぎ」や私法における権利義務の「引継ぎ」とはやや内容が異なり、被合併法人等の従業員や役員が非適格合併等の後に合併法人等の従業員や役員となることを指すものである。

 

 

(2)「退職給付引当金」


 法人税法施行令123条の10第7項の「退職給引当金」に関しては、かつて法人税法中に存在した「退職給引当金」とは異なる点に注目する必要がある。用語としては、「付」と「与」の一字が異なるのみであるが、この相違は、同項の解釈に当って重要な意味を持っている。


 法人税法施行令123条の10第7項の「退職給引当金」が「退職給引当金」という用語となっているのであれば、法人税法において独自にその範囲を画することとしてよいわけであるが、このように「退職給引当金」という用語がありながら、同項において、「退職給引当金」という企業会計において用いられる用語を用いていることからすれば、同項の「退職給引当金」は、文字どおり、企業会計において用いられる「退職給引当金」を指すものと解するほかない。


 この「退職給引当金」という用語は、「退職給付に関する会計基準」及びその適用指針等において用いられており、当然のことながら、当該会計基準に基づく会計処理においても用いられている。


 この「退職給付に関する会計基準」が役員退職金にも適用されるのか否かということが問題となるが、次のとおり、この「退職給付に関する会計基準」の適用対象範囲には、「役員の退職慰労金」を含めない、とされている。

 

 

  範 囲

 

 3. 本会計基準は、一定の期間にわたり労働を提供したこと等の事由に基づいて、退職以後に支給される給付(退職給付)の会計処理に適用する。

 

 ただし、株主総会の決議又は委員会設置会社における報酬委員会の決定が必要となる、取締役、会計参与、監査役及び執行役(以下合わせて「役員」という。)の退職慰労金については、本会計基準の適用範囲には含めない。


 この「役員の退職慰労金」が役員に対する退職金を指すことに異論はないはずであり、上記の「退職給付に関する会計基準」の適用範囲に関する定めからも、「退職給付引当金」に「役員の退職慰労金」の引当金が含まれないことは、明らかである。


 また、「中小企業の会計に関する指針」においても、「退職給付引当金」という用語が用いられているが(52-57)、ここでも、次のとおり、従業員の退職金に係る引当金とされている。

 

 

 52.退職給付制度


   就業規則等の定めに基づく退職一時金、厚生年金基金、適格退職年金及び確定給付企
  業年金の退職給付制度を採用している会社にあっては、従業員との関係で法的債務を負
  っていることになるため、引当金の計上が必要となる。


 このような事情からすると、何故、法人税法施行令123条の10第7項の規定が「従業員に係る退職給付引当金」とせずに「従業者に係る退職給付引当金」としているのか、という疑問が湧いてくるものと思われる。


 この点に関しては、「役員」でもあり「従業員」でもある使用人兼務役員が存在すること、また、従業員から役員となった者に従業員の時期の退職金の打切り支給をしないケースがあることを考えると、納得が得られるものと思われる。


 上記(1)において述べたとおり、「従業者」に関しては、役員を含む用語であることから、仮に、「退職給付引当金」に役員分の退職金の引当金を含めることとするということであれば、「役員の退職慰労金」の引当金を含まない「退職給付引当金」という用語を用いることはせず、「役員の退職慰労金」の引当金が含まれる用語を用いるはずである。


 ところで、法人税法62条の8においては、上記の解釈とは反する解釈とならざるを得ない用語も存在する。


 法人税法62条の8第6項1号においては、「退職給与引受従業者」の定義中に、「退職給与債務」という用語が定義を設けないまま用いられている。


 上記の「退職給付に関する会計基準」及びその適用指針等と「中小企業の会計に関する指針」においては、「退職給債務」という用語が用いられており、「退職給債務」という用語は用いられていない。


 これらの用語も、上記の「退職給引当金」「退職給引当金」と同じように、「付」と「与」が一字違うだけであるが、法令の規定における用い方は、逆になっている。


 法人税法施行令123条の10第7項において「退職給引当金」という用語を用い、法人税法62条の8第6項1号において「退職給債務」という用語を用いることにどのような合理性があるのかということは、明らかではない。


 しかし、これは、法人税法施行令123条の10第7項の「退職給引当金」が法人税法において独自にその範囲を画するべき用語ではないことを確認するものと言ってもよいものであり、法人税法62条の8第6項1号において「退職給債務」という用語が用いられていることを以って、法人税法施行令123条の10第7項の「退職給引当金」という用語の上記の解釈を抜本的に変えなければならないという事情にはない、と考えられる。

 

 

(3)「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて算定され(る)」


 法人税法施行令123条の10第7項の「退職給付引当金の額」に関しては、同項括弧書きにおいて「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて算定され(る)(中略)当該退職給付引当金の額に限る」という限定が付されている。


 この「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」という文言は、周知のとおり、法人税法22条4項(各事業年度の所得の金額の計算)において用いられているものである。


 この法人税法22条4項の規定を確認しておくと、次のとおりである。


 4 第2項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。


 この法人税法22条4項の「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に関しては、それが何を指すものかということが従来から議論となってきたものであるが、企業会計原則だけでなく会計慣行等まで含む広い概念であることに、異論はないものと考えられる。


 このような点からすれば、この法人税法22条4項と同じ文言を用いている法人税法施行令123条の10第7項の「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」も、上記の「退職給付に関する会計基準」や「中小企業の会計に関する指針」(52-57)に示されている基準だけでなく広く他の基準を含むものと解する必要があるのではないか、という疑問が生じてくる。


 しかし、法人税法施行令123条の10第7項のように退職給付引当金の額を特定の基準に従うものだけに限るというような場合には、通常、その特定の基準を掲げてその基準とそれに準ずる基準によって算出されるものに限る、というような定めを設けることとなり、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて算定され(るもの)(中略)に限る」というように、「限る」ための基準を一般的な基準として定めを設けることとはならない。


 法人税法22条4項の規定は、2項の「収益の額」と3項各号に掲げる額の全般にわたって計算の基準を示すものであり、特定の項目の金額の算出の基準を示すものではないため、現行のような規定の仕方が適切である。


 すなわち、法人税法施行令123条の10第7項のように、「退職給付引当金の額」というような特定の項目の金額を算出する場面で、所得の金額の全般にわたる計算の基準を定める法人税法22条4項と同じ「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」というような文言を用いたのでは、その基準とは一体何を指すのか、という疑問が生じてこざるを得ないわけである。


 この法人税法施行令123条の10第7項の「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」は、役員の退職慰労金に関する会計処理の基準まで含むものではないと考えられるが、その範囲が漠然とした不明確なものとなっていることは、否定できない。


 ところで、法人税法施行令123条の10第7項に関しては、上記のとおり、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」という文言を用いている点では法人税法22条4項と同様であるが、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」という文言に続けて、同項が「計算する」という文言を用いているのに対して、「算出する」という文言を用いている点にも、注目しておく必要がある。


 「算出」という用語は、「計算」という一般的な用語とは異なり、「一定の方式に従つてある数値を計算し、一定の結果を導き出すことをいう」(林修三他『法令用語小辞典』(学陽書房))ものであって、一般的に会計処理の基準を示す「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」というような文言に続けて用いることには、本来、馴染まない用語である。


 このような点からすると、法人税法施行令123条の10第7項においては、法人税法22条4項と同じ「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」という文言が用いられてはいるものの、同項とは異なり、「退職給付引当金の額」を「算出する」「一定の方式」が想定されていたものと考えられる。


 法人税法施行令123条の10第7項の規定は、上記のような事情をよく承知した上で、解釈を行う必要がある。

 

 

3 結論


 上記2において検討したとおり、ご質問のA社の役員退職慰労金に係る金額に関しては、退職給与負債調整勘定の金額には該当しないものと考えられる。


 A社の役員退職慰労金に係る金額は、退職給与負債調整勘定の金額に該当しないということになると、自ずと、合併の対価の額が合併によって移転を受ける資産・負債の時価純資産価額に満たない場合にその満たない部分の金額を包括的に取り込むこととなる差額負債調整勘定の金額に含まれることとなる。


 そして、この差額負債調整勘定の金額は、5年間にわたって均等額を取り崩して益金の額に算入することとなる。