【監修】 朝長 英樹
>【編著】 小畑 良晴 塩野入文雄 竹内 陽一 掛川 雅仁
>【共著】 幕内 浩 神谷 智彦 浅野 洋 妹尾 明宏
> 有田 賢臣 飯田聡一郎 大塚 直子 神谷 紀子
> 小林磨寿美 佐々木克典 鈴木 達也 武地 義治
> 内藤 忠大 中尾 健 新沼 潮 長谷川敏也
> 藤野 智子 棟田 裕幸 西山 卓
>【執筆協力】朝長明日香
は し が き
平成28年度税制改正は、昨年度の税制改正に引き続き、我が国の現在の最重要課題がデフレからの脱却と経済再生であるという認識の下で、これらをより 一層確実なものとするために、成長志向の法人税改革を大胆に推進する等の観点に立って行われています。
法人税関係では、法人実効税率の「20%台」への引下げ、法人事業税の税率の引下げと外形標準課税の拡大、建物附属設備・構築物の減価償却方法の定額 法への一本化、企業版ふるさと納税(地方創生応援税制)の創設などに注目しておく必要があります。
法人実効税率の「20%台」への引下げは、我が国の企業の国際競争力を高めるとともに国内投資を活発化させる効果が期待できるものであり、歓迎するべ きものと言って良いわけです。
しかし、その一方、その財源措置としての建物附属設備・構築物の減価償却方法の定額法への一本化などのいわゆる「課税ベースの拡大」は、企業活動の重要なインフラである法人税制を歪めるもので あって、決して好ましいものとは言えません。
例えば、平成13年度税制改正による組織再編成税制の創設を例に取ると、この改正は、我が国の企業の再編や国際競争力の向上に大きく寄与して税収を大きく増加させたはずです。
このように、企業活動の重要なインフラとなっている法人税制を見直して時代の要請 に合うものとすれば、それが企業活動にプラスに働き、自ずと税収は増加することとなるわけですから、本来は、そのような改正によって財源を確保するという対応が必要であると考えます。
国際税制関係では、平成24年6月に OECD により開始された「BEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクト」に関する最終報告書が昨年10月に公表されま した。
この最終報告書に掲げられた15項目の行動計画のうち、平成28年度税制改正では、移転価格税制における文書化(行動計画13)に関する改正が行われます。外国子会社合算税制(タックスヘイブン対策税制)(行動計画3)に関しては、最終報告書の提言内容を踏まえて、今後、抜本的な改正が行われる見込みであり、外国に進出している企業にとっては、引き続き目が離せないものとなっています。
消費税関係では、平成29年4月1日から税率を10%に引き上げるとともに 8%の軽減税率制度を導入することとされています。
また、平成33年4月1日 から「適格請求書等保存方式」(インボイス制度)を導入することとされており、それまでの間の経過措置として、平成29年4月1日から現行の「請求書等保存方式」を一部のみ修正した簡素な「区分記載請求書等保存方式」を導入することとされています。
我が国においても、インボイス制度が導入されることになると、今後、消費税の税制の仕組みの全体的な見直しも検討の俎上に上ってくるものと思われます。
平成28年度税制改正は、実務家の目から見ると、消費税の改正が実務に非常に大きな影響を与えることとなるところに、従来の改正とは大きく異なる特徴 があります。
この消費税の改正への対応は、やってみなければどこにどのような問題があるのかということが良く分からないというところも少なくないわけですが、避けて通ることはできないわけですから、今後、国税庁から発遣される情報等にも十分に注意しておく必要があります。
その他、法人税関係では、欠損金の繰越控除制度の見直しや生産性向上設備投資促進税制の廃止、所得税関係では、医療費控除の特例措置(セルフメディ ケーション推進措置)、空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例の創設、住宅の多世帯同居改修工事等に係る特例の創設、国外転出時課税制度における未分割財産の取扱い等に関する規定の創設などに注目しておく必要があります。
なお、本書は、「平成28年度税制改正の大綱」(平成27年12月24日閣議決定)に基づき起稿して改正法律案に示された改正規定を追記し、関係省庁の公表資 料に必要に応じて加筆修正を加える等によって作成しています。
本書が皆様方の日々の実務に少しでもお役に立つようであれば、幸いです。
最後に、本書の刊行にご助力を賜わりました清文社の宇田川真一郎氏に編著者を代表して御礼を申し上げます。
著者を代表して
日本税制研究所 代表理事 朝長 英樹
税理士 竹内 陽一
目 次
Ⅰ 個人所得税関係の改正
1 空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例の創設・7
2 住宅の多世帯同居改修工事等に係る特例の創設・12
3 住宅ローン控除制度等の対象となる住宅取得等に係る要件の緩和(非居住者期間への適
用拡大)・18
4 特定の居住用財産の買換え等の場合の長期譲渡所得の課税の特例の 延長・19
5 居住用財産の譲渡損失の繰越控除等の延長・20
6 新築住宅の固定資産税等の減額措置の延長・22
7 サービス付き高齢者住宅供給促進税制の延長等(法人税・所得税)・23
8 耐震等改修既存住宅の固定資産税の軽減措置の延長等・25
9 セルフメディケーション推進のためのスイッチ OTC 薬控除(医療 費控除の特例)の創
設・27
10 公益法人等への個人寄附に係る税額控除制度の拡充・31
11 国立大学法人等への個人からの寄附への税額控除の導入・33
12 通勤手当の非課税限度額の引上げ・35
13 生命保険料控除証明書等及び寄附金控除の領収書に係る電子交付の 導入・37
Ⅱ 資産税関係の改正
1 国外転出時課税制度の改正・38
2 特定貸付と農地等納税猶予(太陽光パネル設置と耕作継続)・51
3 農地に係る固定資産税課税の強化・軽減・53
4 贈与税の配偶者控除添付書類の見直し・56
Ⅲ 法人税関係の改正
1 法人実効税率の引下げ・57
2 建物附属設備・構築物の減価償却方法の定額法への一本化・64
3 欠損金の繰越控除制度の更なる見直し・65
4 中小企業者等以外の法人の欠損金の繰戻しによる還付制度の不適用措置の延長・70
5 外形標準課税の拡大・71
6 企業版ふるさと納税・77
7 国家戦略特区税制の見直し・79
8 国際戦略総合特区税制の見直し・83
9 地方法人課税の偏在是正・85
10 帰属主義への変更等に対応した適格現物出資の対象範囲の見直し・87
11 組織再編成税制の改正・90
12 役員報酬制度の見直し・94
13 交際費課税の特例の延長・98
14 新たな機械装置への投資に係る固定資産税の特例の創設・99
15 少額減価償却資産特例制度の延長・102
16 生産性向上設備投資促進税制の廃止・106
17 雇用促進税制の見直し・108
18 再生可能エネルギー発電設備に係る償却資産税の軽減・111
19 環境関連投資促進税制(グリーン投資減税)の見直し・113
Ⅳ 消費税関係の改正
1 消費税軽減税率制度の概要・115
2 対象品目・122
3 区分記載請求書等保存方式・135
4 売上税額の計算の特例・137
5 仕入税額の計算の特例・139
6 税額計算の方法及びスケジュール・142
7 適格請求書等保存方式の導入・145
8 適格請求書等の保存の特例・156
9 高額資産を取得した場合の仕入税額控除の見直し・159
10 外国人旅行者向け消費税免税制度の拡充・163
Ⅴ 国際課税関係の改正
1 移転価格税制の文書化・166
2 外国子会社合算税制の見直し・172
Ⅵ 納税環境の整備
1 マイナンバー記載を不要とする書類の見直し・174
2 扶養控除等申告書へのマイナンバーの記載の省略・186
3 クレジットカード納付制度の創設・187
4 スキャナ保存の利便性の向上・188
5 最高裁判決(H26.12.12)に係る延滞税の改正・190
6 加算税制度の見直し・195
7 事業譲渡があった場合の第二次納税義務の見直し・203