【監修】 朝長 英樹
【編著】 小畑 良晴 塩野入文雄 竹内 陽一 掛川 雅仁
>【共著】 鈴木 陽 幕内 浩 神谷 智彦 浅野 洋
> 有田 賢臣 飯田聡一郎 池田 真之 大塚 直子
> 神谷 紀子 桑原 光一 小林磨寿美 佐々木克典
> 鈴木 達也 武地 義治 内藤 忠大 中尾 健
> 西山 卓 蓮見 正純 近藤 光男 長谷川敏也
> 藤野 智子 棟田 裕幸
>【執筆協力】朝長明日香
は し が き
平成30年度税制改正は、働き方の多様化を踏まえてさまざまな形で働く人を応援する等の観点、デフレ脱却と経済再生を図るという観点、中小企業の代替わりを促進するという観点等から行われています。
法人税関係では、収益計上基準の法制化、賃上げ・生産性向上のための措置、特別事業再編を行う法人の株式を対価とする株式等の譲渡に係る所得の計算の特例の創設、地方拠点強化税制の見直しなどが行われています。
この収益計上基準の法制化は、従来の取扱いの明確化と説明されていますが、改正法案を読んだだけではよく分からないところがありますので、通達の内容までよく見ておく必要があります。
所得税関係では、給与所得控除・公的年金等控除から基礎控除への振替えなどが行われています。
この改正により、給与収入が850万円を超える場合や公的年金等収入が1,000万円を超える場合には、税額が増えることとなります。
平成30年度税制改正で最も大きく実務に影響を与えるのは、資産課税の改正で、中小企業の事業承継税制において、相続税の納税猶予割合を100%に拡大するという画期的な改正が行われています。
日本の中小企業の経営者の年齢は高齢化し、かつ後継者不在である企業が3分の1に達するといわれている中で、中小企業の事業承継問題の解決に大きく資することになります。
事業承継税制は、その基本は相続から始まり、相続人が経営者として企業を発展させて次世代に承継するまでを対象とすることとなるため、長期にわたって適用されることになります。
既に、平成21年度税制改正以後、平成29年3月末までの累計認定件数は、贈与認定865件、相続認定1,100件、民法特例除外合意確認137件、固定合意確認5件となっています。
これらは、相続税の納税猶予割合80%として既に適用が始まっており、平成30年度税制改正によって、この既適用者の現行制度と平成30年1月以後の相続・贈与から適用される特例制度とが並行して適用されることとなりますが、特例制度に関しては、適用件数が飛躍的に拡大することが予想されます。
この改正は、相続税の納税猶予割合を80%から100%へと拡大するとともに、対象株式数の上限を撤廃し、贈与者を一人から複数に拡大し、後継者を一人から3人に拡大するというものです。更に、経営者に不安を与えていた5年間の雇用維持80%以上要件を実質的に廃止し、贈与者が60歳以上の場合、贈与において相続時精算課税制度の対象とされることとなります。
この改正は、10年間の時限立法でスタ-トするものですが、日本経済の活性化に大きく貢献するものと言ってよいものですから、この改正による取扱いが恒久的に延長されることが期待されます。
また、納税環境整備として行われる大法人の電子申告の義務化にも、注意が必要です。大法人は、法人税・消費税等の申告書と添付書類の提出を電子的に行わなければならないこととなりますので、どのように実務対応をすればよいのかということを確認しておく必要があります。
平成30年度税制改正は、その概要を大まかに述べると以上のとおりですが、政省令や通達まで見なければ取扱いがよく分からないものが少なくありませんので、同改正の適用があると思われるものがある場合には、必ずこれらの内容まで確認をするようにしてください。
なお、本書は、「平成30年度税制改正の大綱」(平成29年12月22日 閣議決定)に基づき起稿し、改正法律案に示された改正規定を追記する等によって作成しています。
本書が皆様方の日々の実務に少しでもお役に立つようであれば、幸いです。
最後に、本書の刊行にご助力を賜わりました清文社の宇田川真一郎氏に編著者を代表して御礼を申し上げます。
著者を代表して
日本税制研究所 代表理事 朝長 英樹
税理士 竹内 陽一
目 次
Ⅰ 個人所得税関係の改正
1 給与所得控除の見直し・7
2 公的年金等控除の見直し・11
3 基礎控除の見直し・12
4 特定支出控除の見直し・16
5 青色申告特別控除の改正・18
6 国立大学法人等への寄附の譲渡所得非課税の簡素化・21
7 生命保険料控除等の年末調整の見直し・24
8 法定調書の改正・27
9 書面により送付される特別徴収税額通知(特別徴収義務者用)への個人番号記載の不要 化・28
10 上場株式等の配当所得の住民税課税・29
Ⅱ 事業承継税制の特例の創設
1 改正前の制度の概要・34
2 改正の概要・36
3 雇用確保要件の弾力化・42
4 相続時精算課税制度の適用範囲の拡大・44
5 経営環境悪化の場合の新たな猶予及び減免措置・45
6 事業承継税制の改正の経緯と平成30年度改正後の事業承継税制の概要・48
Ⅲ 一般社団法人等に対する相続税・贈与税の見直し
1 一般社団法人等に対する贈与税等の課税規定の明確化・57
2 特定一般社団法人等に対する相続税の課税・59
Ⅳ 小規模宅地等の特例の改正
1 家なき子特例の適用要件の厳格化・63
2 相続開始前3年以内に賃貸した不動産の貸付事業用宅地等からの除外・67
3 介護医療院の創設と入所の特定居住用宅地等の追加・70
Ⅴ その他の資産税関係の改正
1 固定資産税の負担調整措置・72
2 相続登記に係る登録免許税の見直し・73
3 特定の美術品に係る相続税の納税猶予制度の創設・75
4 地積規模の大きな宅地の評価(広大地の評価の見直し)・77
5 農地等納税猶予の改正・85
6 外国人出国後の国外財産の相続等の緩和・91
7 相続税の申告書等への添付書類の見直し・94
Ⅵ 法人税関係の改正
1 賃上げ・生産性向上のための税制措置(所得拡大促進税制の見直し~大企業~)・97
2 賃上げ・生産性向上のための税制措置(所得拡大促進税制の見直し~中小企業~)・102
3 所得拡大促進税制等の地方税対応・107
4 情報連携投資等の促進に係る税制の創設・110
5 大企業適用要件の改正・113 v
6 自社株式を対価とした株式取得による事業再編の円滑化措置の創設・116
7 組織再編成税制・117
8 企業主導型保育施設用資産の割増償却の改正・123
9 中小企業償却資産税の創設・125
10 電子申告義務化の創設など電子申告制度の改正・127
11 法人税の収益の認識・134
Ⅶ 国際課税関係の改正
1 CFC税制の見直し・140
2 PEの関連規定の見直し・146
Ⅷ 医療法人に関する税制改正
1 持分のない医療法人への移行推進制度の拡充(租税特別措置法の改正)・151
2 社会医療法人・特定医療法人の認定要件の見直し・155
3 介護医療院の創設と社会保険診療の範囲追加・158
Ⅸ 消費税関係の改正
1 輸出物品販売場制度についての見直し・162
2 免税販売の対象となる下限額の判定の見直し・163
3 輸入に係る消費税の脱税犯に係る罰則の強化・165
4 長期割賦販売等に該当する資産の譲渡等について延払基準による方法の廃止・165
5 券面のない有価証券の譲渡に係る消費税の内外判定・166
Ⅹ その他
1 平成30年に施行がされる過去の改正項目・168
2 2年延長及び3年延長(資産課税)・171
3 2年延長(法人税)・174
4 平成31年10月施行消費税・176
5 平成32年分施行所得税・180
6 今後の検討事項となった寡婦控除の拡大・181