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どこがどうなる!? 令和5年度 税制改正の要点解説

【監修者】 朝長 英樹
【編著者】 小畑 良晴 塩野入文雄 竹内 陽一 掛川 雅仁
【共著者】 幕内 浩  秋本潤一郎 大川 充穂 浅野 洋     
       阿部 隆也 有田 賢臣 大塚 直子 岸本 政昭    
       小林磨寿美 近藤 光男 佐々木克典 鈴木 達也    
       武地 義治 内藤 忠大 中尾 健  新沼 潮    
       長谷川敏也 藤野 智子

 

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は  し が き

 

  令和5年度税制改正においては、家計の資産を貯蓄から投資へと積極的に振り向け、資産所得倍増につなげるため、NISA(少額投資非課税制度)の抜本的拡充・恒久化を行うとともに、スタートアップ・エコシステムを抜本的に強化するための税制上の措置を講じ、より公平で中立的な税制の実現に向け、極めて高い水準の所得について最低限の負担を求める措置の導入、グローバル・ミニマム課税の導入及び資産移転の時期の選択により中立的な税制の構築を行い、自動車重量税のエコカー減税や自動車税等の環境性能割等を見直し、租税特別措置について、それぞれの性質等に応じ適切な適用期限を設定する、とされています。

 

  このように、令和5年度税制改正においても、多くの項目の改正が行われることとなっていますが、NISA の抜本的拡充・恒久化が令和5年度税制改正の最も大きな特徴となっていると言ってよいように思われます。

 

  NISA は、平成25年度税制改正によって創設され、同26年から始まり(年間120万円、非課税期間5年)、同28年から20歳未満(令和5年以後口座開設は18歳未満、令和5年で制度終了)の子供を持つ親向けに「ジュニア NISA」(年間80万円、非課税期間5年)が設けられ、同30年から一定の投資信託による積立てについて「つみたて NISA」(年間40万円、非課税期間20年)が設けられ、令和2年度税制改正によって拡充が行われていましたが、令和5年度税制改正で、抜本的な拡充と恒久化が行われることとなったわけです。

 

  この NISA の令和5年度税制改正の内容は、本書の中で解説をしているとおりですが、この改正により、非課税限度額が引き上げられるとともに非課税保有期間の無期限化などが行われますので、中間層を中心に、利用者がかなり増える可能性があると考えられます。

 

  また、スタートアップ再投資税制の創設も、令和5年度税制改正の特徴となっています。

 

  この税制は、個人がスタートアップ企業の設立の際に発行された株式の取得に要した金額について、その取得をした年分の株式等の譲渡所得等の金額から控除するというもので、株式等の譲渡所得等の金額のうち、20億円を上限として再投資額を非課税とするというものです。この制度は、節税効果がかなり大きくなるため、富裕層を中心に、スタートアップ企業に再投資を行うという者が従前よりも多くなるものと考えられます。

 

  また、国際的な所得合算ルールとしてのグローバル・ミニマム課税制度の導入も、令和5年度税制改正の特徴の一つとなっています。

 

  この制度は、年間総収入金額が7.5億ユーロ(約1,100億円)以上の多国籍企業を対象として、有形資産や給与に着目した一定の適用除外となっているものを除く所得について、各国ごとに最低税率15%以上の課税を行うというものです。この制度は、従前から存在する外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン対策税制)と類似する制度ということになりますが、この制度が導入されることで、外国子会社合算税制の対象とはならなかった子会社について課税が行われるというケースが出てくることになるはずですから、該当する可能性のある企業は、十分、注意をしておく必要があります。

 

  また、消費税において、本年10月1日から適格請求書発行事業者となろうとする者の登録申請が本年9月30日まで可能としたり、免税事業者が適格請求書発行事業者となった場合に本年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間において納付税額を課税標準額に対する消費税額の2割に止めることとしたりする改正も、一定程度、実務に影響を与えることとなるものと思われます。

 

  このように、令和5年度税制改正においては、いくつか特徴のある改正が行われることとなっていますが、同年度税制改正に限らず、近年の税制改正を見ていると、総じて、税制を改正することによって我が国の国力を上げたり我が国の国民の生活を良くしたりするということには限界があるのではないかと感じざるを得ず、毎年、政策として数多くの改正を繰り返して、税制を複雑にしてしまうことが本当に必要なことであるのかということを改めて考え直してもよい時期に来ているようにも感じます。

 

  なお、本書は、「令和5年度税制改正の大綱」(令和4年12月23日 閣議決定)に基づいて起稿し、改正法律案に示された改正規定を追記する等によって作成しており、図表に関しては、改正内容等を広くかつ正確に伝えるために、自由民主党税制調査会に提出された資料、財務省及び総務省が作成した資料、経済産業省等が作成した資料なども利用させて頂いているということを予めお断りしておきます。

 

  本書が皆様方の日々の実務に少しでもお役に立つようであれば、幸いです。

 

  最後に、本書の刊行にご助力を賜わりました清文社の宇田川真一郎氏に編著者を代表して御礼を申し上げます。

 

 

                                                      編著者を代表して

                                                      日本税制研究所 

                                                              代表理事 朝長英樹

                                                              税理士 竹内陽一

目 次

 

Ⅰ 個人所得税関係の改正

 

1 NISA の抜本的拡充・恒久化・6

 

2 エンジェル税制の改正・25

 

3 極めて高い水準の所得に対する負担の適正化・35

 

4  ストックオプション税制の拡充・41

 

5 特定非常災害の損失の繰越期間の延長・44

 

6 雑所得(300万円基準による事業所得との区分)(2022年10月通達改正)・48

 

7  国外転出時課税に係る納税猶予措置の手続の簡素化・52

 

8 円滑な納税・申告のための手続等の簡素化・55

 

Ⅱ 資産税関係の改正

 

1 相続税・贈与税の一体的課税制度の構築・63

 

2 教育資金、結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の見直しと延長・84

 

3  医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予制度の延長・94

 

4 相続税の更正の請求があった場合の除斥期間の延長・96

 

5 マンションの相続税評価の見直し・98

 

Ⅲ 法人税関係の改正

 

1  オープンイノベーション促進税制の拡充・103

 

2 研究開発税制の改正・108

 

3 企業による先導的人材投資・120

 

4 パーシャルスピンオフ税制の創設・126

 

5 DX 投資促進税制の縮小及び延長・130

 

6 残余財産確定通算子法人の提出期限の延長・133

 

7 株式交付制度の改正・135

 

8 暗号資産の期末時価評価課税に係る見直し・140

 

9 中小企業税制・償却資産税の特例の延長及び新設・149

 

Ⅳ 土地税制の改正

 

1  特定の事業用資産の買換え特例の延長と改正・165

 

2 空き家譲渡所得等の特例の延長と改正・168

 

3 優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例の延長と改正・171

 

Ⅴ 消費税関係の改正

 

1 免税事業者が課税事業者を選択した場合の負担軽減・174

 

2 中小事業者等に対する事務負担の軽減措置(少額特例)・182

 

3 少額な返還インボイスの交付義務免除・185

 

4 インボイス登録手続の柔軟化・186

 

Ⅵ 電子帳簿等保存法の改正

 

1 電子帳簿保存制度・196

 

2 スキャナ保存制度・200

 

3 電子取引データ保存制度・205

 

Ⅵ 国際課税関係の改正

 

1  外国子会社合算税制の改正・212

 

2 グローバル・ミニマム課税の導入・219

 

Ⅵ その他の改正

 

1 マンション等大規模修繕工事に係る固定資産税の軽減・230

 

2 加算税制度の見直し・232