※『詳解 グループ法人税制』(法令出版)に問1として掲載
グループを構成する法人は一体的経営を行っているといわれますが、「一体的」といわれるほどの状態にないグループもたくさんあるように思われます。
一体的経営を行っていないグループ法人も、グループ法人税制の適用を受けることとなるのでしょうか。
要 旨
グループを構成する法人は、一体的経営を行っているのか否かにかかわらず、グループ法人税制の適用を受けることとなります。
我が国において、近年、グループ法人の一体的経営が進展してきたということを否定する方々はほとんどいないと思われますが、ご指摘のように、「一体的経営が行われているか」と現状を問われると、“NO”と答える方々も少なくないかもしれません。
そもそも「一体的経営」がどのような経営を指すのかということは必ずしも明確ではありませんので、仮に、全く同じ経営を行っていたとしても、上記の問いに対しては、“YES”と答える方と“NO”と答える方の双方が出てくることになるものと思われます。
また、グループ法人の中には、独立性を持たせるためにわざわざ別法人として経営を行わせているというものも存在するはずで、そのような場合には、「一体的経営」が行われているという指摘には、やや違和感を感ずるということになるかもしれません。
加えて、個人がグループのトップとなっている場合には、その個人の親族の法人もそのグループの法人とされることになりますが、親族同士は仲が良いとばかりは限りませんので、「一体的経営」が行われているのか否かはケースによって異なる、といわざるを得ないように思われます。
このような点まで考えると、ご指摘のような現状認識にも十分な説得力があると考えられます。
しかし、少し視点を変えてみると、違って見えてきます。
すなわち、グループ法人の標準的な状態を想定し、グループ関係にない複数の法人の集まりと比較してみた場合に、両者が同じということになっているかと問われると、どのような答えになるのでしょうか。ほとんどすべての方が、“NO”と答えるのではないでしょうか。この問いに、多くの方が“NO”と答えるのであれば、グループ法人税制に関しては、本当に平成22年度に慌しく創設しなければならない状況であったのかという疑問はあるとしても、基本的には、創設すること自体には理由がある、ということになると考えられます(図表)。
【図表】
ところで、税制度は、納税者の個別の事情まで斟酌して作ることはできませんので、法人税法の中にグループ法人税制が作られるということになれば、基本的には、「一体的経営」を行っているか否かにかかわらず、一律に適用されることとなります。
グループ法人の「一体的経営」の程度に応じて取扱いや適用関係を変えるというような制度も作ることができないわけではありませんが、そのような制度の企画・立案には相当の時間と労力が必要となり、税務執行にもかなりの困難を伴うこととなるように思われます。
平成22年度改正によって創設されたグループ法人税制には、そのような個別配慮の仕組みは設けられていませんので、ご質問に対する答えとしては、一体的経営を行っていないグループもグループ法人税制の適用を受ける、ということにならざるを得ません。
なお、将来的には、グループ法人税制の中に、ある程度、グループの特殊性に配慮した仕組みを入れていくということも必要となるように思われます。