Q&A

グループ法人

 

譲渡損益調整資産の判定単位

※T&Amaster(ロータス21)2013.11.18  No.523に掲載

 従来、当社が運営していた工場を100%子会社であるS社が運営することとし、土地・建物は当社がS社に貸し付け、機械・装置は当社からS社に譲渡することとしています。

 

 このうち、機械・装置の譲渡については、グループ法人税制が適用されるため、譲渡直前の税制上の帳簿価額が1,000万円以上の機械・装置については、その譲渡損益を繰り延べる必要があると認識しています(法法61の13①)。

 

 この譲渡損益を繰り延べる譲渡損益調整資産の判定単位は、「機械及び装置」の場合、「一の生産設備又は一台若しくは一基(通常一組又は一式をもつて取引の単位とされるものにあつては、一組又は一式)ごと」とされています(法令122の14①三、法規27の13の3、27の15)。

 

 本件においては、工場内の機械・装置は、複数の生産ラインを構成していますが、固定資産台帳には個々の機械・装置が1台ごとに記載されており、当社とS社との間の譲渡契約においても、個々の機械・装置の1台ごとの譲渡価額を決めて取引を行う予定としています。

 

 この場合、工場内の機械・装置は、「一の生産設備」ではなく、「一台」ごとに、1,000万円以上か否かを判定してよい、と理解していますが、それでよいでしょうか。

 

 なお、この工場内の機械・装置を取得することとなるS社においては、法人税基本通達7-1-11により、これらの機械・装置につき、「一台」ごとに取得価額が10万円未満又は20万円未満であるかどうかを判定して少額減価償却資産又は一括償却資産に該当するのか否かを判断する予定です。

 

 

要 旨

【マエストロの解説】

 貴社の工場内の機械・装置のうち、「生産設備」を構成するものに関しては、「一台」ごとではなく、「一の生産設備」ごとに1,000万円以上であるのか否かを判定することとなる。

 

 「生産設備」を構成しない機械・装置に関しては、「一台」ごとに1,000万円以上であるのか否かを判定することとなるが、通常一組又は一式をもって取引の単位とされるものにあっては、一組又は一式ごとに判定することとなる。

 

 

1 関係法令の確認

 

 発行済株式等の全てを保有する関係にある法人間で一定の資産を譲渡した場合には、その譲渡利益額又は譲渡損失額の計上を実質的に繰り延べる措置(法法61の13①)が講じられていることは、周知のとおりである。

 

 この措置を定めた法人税法61条の13第1項(完全支配関係がある法人の間の取引の損益の繰延べ)においては、同項の適用を受ける一定の資産を「譲渡損益調整資産」としており、その範囲を「固定資産、土地(土地の上に存する権利を含み、固定資産に該当するものを除く。)、有価証券、金銭債権及び繰延資産で政令で定めるもの以外のもの」としている。

 

 この譲渡損益調整資産から除かれる「政令で定めるもの」は、法人税法施行令122条の14第1項各号(完全支配関係がある法人の間の取引の損益の繰延べ)に定められており、同項3号においては、次のとおり、帳簿価額が1,000万円に満たない資産とされている。

 

 「三 その譲渡の直前の帳簿価額(その譲渡した資産を財務省令で定める単位に区分した後のそれぞれの資産の帳簿価額とする。)が千万円に満たない資産(第1号に掲げるものを除く。)」

 

 この法人税法施行令122条の14第1項3号の「財務省令で定める単位」は、法人税法施行規則27条の13の3(完全支配関係がある法人の間の取引に係る譲渡損益調整資産の単位)において、次のように定められている。

 

 「 令第122条の14第1項第3号(完全支配関係がある法人の間の取引の損益)に規定する財務省令で定める単位は、第27条の15第1項各号(特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入)に掲げる資産の区分に応じ当該各号に定めるところにより区分した後の単位とする。」

 

 そして、この「第27条の15第1項各号(特定資産に係る譲渡損失額の損金不算入)に掲げる資産の区分」は、次のように定められている。

 

 「 令第123条の8第3項第4号(特定引継資産から除外される資産の範囲)(同条第14項、第17項及び第18項において準用する場合を含む。)に規定する財務省令で定める単位は、次の各号に掲げる資産の区分に応じ当該各号に定めるところにより区分した後の単位とする。

 

 一 省 略

 

 二 減価償却資産 次に掲げる区分に応じそれぞれ次に定めるところによる。

 

 イ 建物 一棟(建物の区分所有等に関する法律第1条(建物の区分所有)の規定に該当する建物にあつては、同法第2条第1項(定義)に規定する建物の部分)ごとに区分するものとする。

 

 ロ 機械及び装置 一の生産設備又は一台若しくは一基(通常一組又は一式をもつて取引の単位とされるものにあつては、一組又は一式)ごとに区分するものとする [下線は引用者] 。

 

 (以下、省略)」

 

 このように、完全支配関係がある法人の間の取引に係る譲渡損益調整資産の判定の単位は、特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入における対象資産の判定の際の単位と同じものとされているわけである。

 

 このため、本件は、特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入における対象資産の判定の単位に関する質問ともなっているわけである。

 

<参考>

 

 適格合併等による欠損金の引継ぎ等に関して定められている法人税法施行規則26条の2第1項2号ロにおいても、上記の27条の15第1項2号ロと同じ規定が設けられており、その解釈に関して本件と同じ問題が存在している。

 

 

2 関係法令の検討

 

 本件においては、工場内の機械・装置が「生産設備」に該当するとともに「機械及び装置」にも該当するということを背景として、法人税法施行規則27条の15第1項2号ロの規定(以下、2において「当該規定」という。)の解釈が問題となっているわけであるが、具体的には、当該規定の「一の生産設備」と「一台若しくは一基」とを結ぶ「又は」という用語の解釈、そして、「(通常一組又は一式をもつて取引の単位とされるものにあつては、一組又は一式)」という括弧書きの解釈が問題となる。

 

 このため、(1)及び(2)において、これらの二つの問題を検討することとする。

 

 なお、工場内の機械・装置のうち、「生産設備」を構成しないものが「一台」ごとに1,000万円以上か否かを判定することとなることに関しては、疑義は無いはずである。

 

 

(1)「又は」の解釈

 

 法令において用いられる「又は」という用語は、連結されたものの「どちらか」という意味で用いられることが多いわけであるが、どちらか一方のみを指すのではなく、「どちらも」という意味で用いられることもある。「「又は」には、orとandの二つの意味がある」と言われるのは、このためである。

 

 このように、「又は」という用語は、その解釈が一様ではなく、それが用いられている規定の文意をよく検討した上で、解釈をする必要がある。

 

 当該規定においては、「若しくは」という用語も用いられているが、この「若しくは」という用語は、「又は」と同じ意味であって、「又は」よりも小さな連結を示す場合に用いられる。

 

 当該規定の解釈に関しても、このような「又は」や「若しくは」という用語の解釈に関する基本的な事項を踏まえて検討を進める必要がある。

 

 当該規定においては、「一台」と「一基」や「一組」と「一式」のように相互に重複することがない用語が「若しくは」や「又は」という用語で結ばれていることから分かるとおり、「若しくは」や「又は」という用語は、「一台」となるものも、「一基」となるものもあり、また、「一組」となるものも、「一式」となるものもある、という前提で用いられている。

 

 当該規定に掲げられている「機械及び装置」には様々なものがあることからすると、「又は」や「若しくは」という用語をこのように用いることは、当然のことである。

 

 当該規定の「一の生産設備」と「一台若しくは一基」を結ぶ「又は」も同様であり、この「又は」は、「機械及び装置」の中に、「一の生産設備」となるものもあれば、「一台若しくは一基」となるものもある、と解する必要がある。

 

 しかし、この「一の生産設備」と「一台若しくは一基」は、「一台」と「一基」や「一組」と「一式」とは異なり、重複することがあり得る関係にある。

 

 このため、「一の生産設備」と「一台若しくは一基」の双方に該当するものをどのように取り扱うことになるのか、という疑問が生じてくることとなる。

 

 この点に関しては、「機械及び装置」は、通常、特別な事情がなければ、その単位を「一台」又は「一基」と捉えている(注)、ということを思い起こす必要がある。

 

 (注)租税特別措置法施行令27条の11(国際戦略総合特別区域において機械等を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除)などの各種租税特別措置の規定や法人税基本通達7-1-11(少額の減価償却資産又は一括償却資産の取得価額の判定)などを参照されたい。

 

 すなわち、当該規定においては、「機械及び装置」が「一の生産設備」となっている場合には「一の生産設備」を単位として判定を行わせようという特別な意図がなければ、現在のような定め方とはならない、ということである。

 

 しかし、それでもなお、当該規定の文言上は「機械及び装置」を原則どおり「一台」又は「一基」という単位で判定してよいはずである、という主張がなされることがあるものと考えられる。

 

 このような主張に対しては、仮に、そのように「一台」又は「一基」という単位で判定することを原則としつつ、特例として「一の生産設備」という単位で判定することを認めることとする、という場合に、当該規定がどのような定め方となるのか、ということを示すことが有効である。

 

 このような場合には、当該規定は、「一台若しくは一基又は一の生産設備(当該機械及び装置が一の生産設備を構成する場合に限る。)」というようなものとなると考えられる。

 

 <参考>

 

 「機械及び装置」などが「設備を構成する」という表現は、租税特別措置法などにおいて多く用いられている。

 

 当該規定をこのように定めたとしたら、通常どおり、「機械及び装置」について、「一台」や「一基」という単位で判定することもできるが、例外的に、「機械及び装置」が「一の生産設備」を構成する場合に限っては「一の生産設備」という単位で判定することも認められる、という解釈となるはずである。

 

 既に述べたとおり、「又は」という用語は、その解釈が一様ではないため、それが用いられている規定の文意をよく検討した上で解釈をする必要があるわけであるが、当該規定に関しては、「一の生産設備」となっている「機械及び装置」は、「一の生産設備」を単位として判定を行わせようとしているものであって、「一台」や「一基」という単位と「一の生産設備」という単位の選択を行って判定することを認めようとする趣旨のものではない、と言ってよい。

 

 <参考>

 

 当該規定は、平成13年度改正による組織再編成税制の創設の際に設けたものであるが、「一の生産設備」を構成する「機械及び装置」に関しては、「一の生産設備」を単位として判定を行わせる趣旨で設けたものであり、判定の単位の選択を予定したものではなかった。

 

 なお、実務を行うに当たっては、工場内の機械・装置が「生産設備」を構成するのか否か、「一の生産設備」の範囲がどこまでかというような難しい事実認定に関する問題が生じてくることがあるため、十分に注意する必要がある。

 

 

(2)括弧書きの解釈

 

 本件に関しては、当該規定の「(通常一組又は一式をもつて取引の単位とされるものにあつては、一組又は一式)」という括弧書きの解釈も重要となる。

 

 この括弧書きに関しては、「一の生産設備又は一台若しくは一基」と「一台若しくは一基」のいずれの括弧書きかという疑問が生じてくるものと思われるが、この括弧書きは、「一の生産設備又は一台若しくは一基」ではなく、「一台若しくは一基」の括弧書きであることに注意する必要がある。

 

 当該規定の括弧書きについて、仮に、「一の生産設備又は一台若しくは一基」の括弧書きとする、ということであれば、当該規定は、次のような定めとなる。

 

 「ロ 機械及び装置 一の生産設備又は一台若しくは一基ごと(通常一組又は一式をもつて取引の単位とされるものにあつては、一組又は一式ごと)に区分するものとする。」

 

 このように、当該規定の「一の生産設備」に関しては、「取引の単位」の如何によって判定の単位を変えるという考え方は採られていないわけである。

 

 このため、「生産設備」を構成する「機械及び装置」の譲渡の契約において、「一台」、「一基」、「一組」、「一式」という単位で取引を行ったとしても、当該規定による判定においては、その取引の単位は考慮されない、ということになる。

 

 なお、本件の機械・装置が譲渡損益調整資産に該当するのか否かの判定の単位を「一の生産設備」とすることが「一の生産設備」を構成する「機械及び装置」の譲渡について「一の生産設備」を単位として取引を行わなければならない、ということを意味するわけではない点に留意しておく必要がある。

 

 

3 機械及び装置を取得する子会社における取扱い

 

 貴社の子会社のS社においては、本件の機械・装置について、通常の減価償却資産の購入の場合と同様に取り扱うことになる。

 

 上記2において述べた機械・装置が譲渡損益調整資産に該当するのか否かの判定の単位に係る取扱いは、あくまでもその判定における取扱いであって、S社における機械・装置の捉え方、耐用年数や償却方法などに影響を与えるものではない。

 

 また、S社においては、法人税基本通達7-1-11により、これらの機械・装置につき、「一台」ごとに取得価額が10万円未満又は20万円未満であるかどうかを判定して少額減価償却資産又は一括償却資産に該当するのか否かを判断するとのことであるが、上記2において述べたこれらの機械・装置が譲渡損益調整資産に該当するのか否かの判定の単位の問題は、その判断とは全く関係がない。

 

 このため、S社においては、上記2において述べたことにかかわらず、少額減価償却資産又は一括償却資産に該当するのか否かを判断することとなる。