Q&A

連結納税制度

 

連結子法人を買収した場合の連結法人税の精算と寄附金・受贈益の取扱い

※T&Amaster(ロータス21)2012.06.18  No.455に掲載

 当社は、連結納税を行っている企業グループ内の法人を買収することを検討していますが、買収前の連結法人税を買収後に負担しなければならなくなることがあるのか否かということがよく分りません。

 

 従来、連結法人税に関しては、連結子法人にも連帯納付義務が課されており、連結納税においては、連結子法人は、連結法人税の増加額を負担し又は減少額を収受するのが当然と考えていました。

 

 しかし、平成22年度改正により、「法人税の負担額として支出すべき金額」や「法人税の減少額として収入すべき金額」の授受を行わない場合に「経済的利益の供与に該当するものとする」として法人税法37条7項の寄附金とするとした旧法人税法施行令155条の15第2項が削除されています。

 

 この改正は、連結法人税個別帰属額の精算を行わなくてもよいとしたものと説明されているようですが、そのような理解でよいのでしょうか。

 

要 旨

【マエストロの解説】

 

 連帯納付義務は、法人税法の規定によって連結子法人にも連結法人税の全額について納付義務を課すものであって、連帯納付義務を定めた法人税法81条の28第1項(連結子法人の連帯納付の責任)は、連結法人税の増加額・減少額の精算を行ったのか否とは関係なく適用されることとなる。また、連結法人税の増加額・減少額の精算も、連結子法人に連帯納付義務が課されていることを理由として行うものではない。

 

 このように、連帯納付義務による連結法人税の負担の取扱いと連結法人税の増加額・減少額の精算の取扱いとは、分けて考える必要がある。

 

 以下、まず、買収等によって連結グループを離脱した法人がその離脱の後に連帯納付義務により連結法人税を負担した場合のその負担額の取扱いに関して簡単に概要を解説することとする。

 

 その後、連結法人税の増加額・減少額の精算の取扱いについて解説を行い、それを踏まえて、更に、買収等によって連結グループを離脱した法人がその離脱後に連結法人税の増加額・減少額の精算を行うこととなった場合のその精算の取扱いに関して解説を行うこととする。

 

 このように買収等によって連結納税を離脱した法人がその離脱後に連結法人税の増加額・減少額の精算を行うこととなるケースは、連結子法人であった法人が連結グループを離脱した後に、その法人や他の連結法人に対する税務調査が行われたというような場合に生ずることとなる。

 

1 連結子法人であった法人が連結法人税の連帯納付義務により負担した金額の取扱い

 連結法人税の納税義務は、連結親法人にあるが、連結グループ全体の法人税額として計算される連結法人税について、連結親法人だけに納税義務があり、連結子法人に納税義務がない、ということになると、連結法人税の徴収漏れが生ずることが懸念されるため、連結子法人にも連結法人税の連帯納付義務を課することとされており、法人税法81条の28第1項において、次のように定められている。

 

「 連結子法人は、連結親法人の各連結事業年度の連結所得に対する法人税(当該連結子法人と当該連結親法人との間に連結完全支配関係がある期間内に納税義務が成立したものに限る。)について、連帯納付の責めに任ずる。」

 

 この連結法人税の全額に対する連結子法人の連帯納付義務は、法人税法において定められた納税義務であり、連結子法人を他の者が買収したのか否か等によって変わることはない。

 

 連結子法人が連帯納付義務によって連結法人税を負担した場合の取扱いは、基本的には、第二次納税義務によって法人税を負担した場合の取扱いと同様となるが、具体的な取扱いは、連結法人税を負担するに至った事情等によって異なることとなる。

 

 例えば、連結納税の際に、連結親法人のみに所得があり、連結子法人はいずれも欠損であったとすると、その連結法人税は実質的には連結親法人の所得に対して課されるものということになるが、このような場合に、連結子法人であった法人が連帯納付義務によってその連結法人税を納付することとなったというときは、当然のことながら、その連結子法人であった法人は、連結親法人に対し、その連結法人税の額に相当する金額の債権を有する、ということになるはずである。

 

 この場合の両者の関係は、第二次納税義務によって納税が行われた場合と同様であり、連結子法人であった法人は連結親法人に対してその連結法人税に相当する金額の求償権を得ることとなるはずである。

 

 この例は、連結法人税の全額を連結親法人が負担するべきであったという非常に単純な例であるが、連結グループ内の個別法人の所得と欠損の発生状況が複雑である場合には、このように簡単に済ますことはできない。

 

 しかし、連結子法人であった法人が連結法人税を納付した場合に、いずれの法人がどのようにその負担をするべきかということは、私法上の債権債務関係の問題として解決されるべきものであるということは、はっきりと確認しておく必要がある。

 

 そして、私法上、債権があるとされた法人がその債権を行使しなかったり、債務があるとされた法人がその債務を履行しなかった場合には、税制上、寄附金=受贈益という問題が生じてくることになるわけである。

 

 このように、税制上、寄附金=受贈益とされる金額は、私法上、債権債務とされる金額に拠ることとなるわけであるが、この私法上で債権債務とされる金額に関しては、特に会社法等に定めが設けられているわけではない。

 

 このため、このような問題が生じた場合には、何らかの方法によって債権債務とされる金額を算出することが必要となるわけであるが、この金額の算出に当たっては、法人税法上の連結法人税の増加額・減少額の計算が拠り所となることが多くなるものと考えられる。それは、法人税法上の連結法人税の増加額・減少額の計算方法が連結法人税を個別法人に配分するための最も合理的な計算方法として定められているためである。もちろん、他の計算方法に拠ることとしたとしても、それが合理的であれば、税制上、それに拠ることを認めずに寄附金=受贈益とするといったことにはならないはずであるが、それが他よりも合理的な計算方法であることを説明することは、当然、必要となる。

 

 上記の例とは反対に、連結親法人が欠損であり、連結子法人には所得があって、連結法人税が発生し、連結親法人がその連結法人税を納付したという場合に、その連結子法人がその連結法人税の負担を行わないまま連結グループから離脱したというときはどのような取扱いとなるのか、というような問題は、連帯納付義務とは関係がなく、連結法人税の増加額・減少額の精算の問題ということになる。

 

2 連結法人税の増加額・減少額の精算の取扱い

 連結法人税の増加額・減少額の精算を行わなかった場合に寄附金(経済的利益の供与)とする旨を定めた旧法人税法施行令155条の15第2項は、平成22年のグループ法人税制の創設の際に削除されたわけであるが、まず、同年の改正前にどのような取扱いとされていたのかということを確認し、その後、同年の改正の取扱いに関して検討を行うこととする。

 

(1)平成22年度改正前の連結法人税の負担額・減少額の精算の取扱い

 平成22年度改正前の旧法人税法施行令155条の15第2項は、次のとおりとされていた。

 

「 連結親法人が連結子法人から各連結事業年度の連結所得に対する法人税の負担額として支出すべき金額として法第八十一条の十八第一項(連結法人税の個別帰属額の計算)の規定により計算される金額又は附帯税の負担額の全部又は一部を受け取らないこと及び連結子法人が連結親法人から各連結事業年度の連結所得に対する法人税の減少額として収入すべき金額として同項の規定により計算される金額又は附帯税の負担額の減少額の全部又は一部を受け取らないことは、法第八十一条の六第六項において準用する法第三十七条第七項に規定する経済的な利益の供与に該当するものとする。」

 

 このように、連結グループ内の法人について連結法人税の「負担額」と「減少額」の授受を行わなかった場合に寄附金とするとしているのは、税制調査会法人課税小委員会の「連結納税制度の基本的考え方」(平成13年10月9日)に述べられている次の引用に示されている考え方によるものである。

 

「(2)しかしながら、このように一体性を持つ企業グループといっても、組織的に統合された単一の法人とは異なり、法的には独立した権利義務の主体である個々の法人が株式保有関係を通じて親会社の支配下に統合されたものに過ぎず、株式の取得・譲渡等を通じて企業グループへの加入や企業グループからの離脱が行われる流動的な存在である。」(拙著『日本型連結納税制度の基本的な考え方と法令等の概要』(日本租税研究協会、平成15年6月30日)15頁に収録)

 

 また、上記のような基本的な考え方を更に具体的に説明しているのが次の解説である。

 

「 ところで、アメリカの連結納税制度においては、連結グループ内の個別法人の所得を適正なものとする必要があることから「個別主体概念」を採り入れたと言われているようですが、わが国の連結納税制度においても、連結グループ内の個別法人の所得金額と税額は適正に計算する必要があります。連結納税制度において「単一主体概念」を採るということであれば、連結グループ内の個別法人の所得金額と税額を問題にする必要はないのではないか、という疑問が生ずることもあるものと思われますが、このような場合には、これからお話するいくつかの点について考えてみる必要があるように思われます。

 

 その一つは、法人を取り巻く法制度が、基本的に、それぞれが独立の法人格を有する単体の法人を前提として創られており、税制における取扱い以前の問題として、企業グループを構成する法人であったとしてもその利益や損失の額は適正なものでなければならないということです。たとえば、子会社から親会社に商品を意織的に対価0円で販売することにより子会社を債務超過とし、子会社の債権者に損害を与えた場合には、商法等においても問題が生ずることになるものと考えられます。

 

 また、連結グループ内の法人は,親会社による株式の譲渡等により連結グループから離脱したり、親会社の合併等により連結納税制度が適用されなくなることによって、単体納税制度に戻ることがありますが、その離脱法人と連結グループに残る法人との間や単体納税制度に戻る法人の相互間で、取引価格を恣意的に設定して資産、負債、所得、欠損などの付替えを任意に行うことができるということになれば、様々な場面で問題が生ずることとなります。

 

更に、わが国においては、損金経理等を要件とするものや個別法人単位で計算することとなる租税特別措置が非常に多く存在しており、これらについては、その適用の前提として、個別法人の資産、負債、収益、費用などが適正な金額となっている必要があります。
 加えて、地方税が連結納税制度を採用する見込みとなっていない点についても、考慮しておく必要があります。

 

 なお、現行制度においても、国内又は国外PEのように、支店の所得金額と税額が問題となる場合には、支店についても、その所得金額と税額の計算を適正に行わなければならないことについては、ご承知のとおりです。

 

 フランスにおいては連結調整項目の税のメリットとデメリットが全て親会社に帰属するとの考え方が採られていると聞いていますが、連結調整項目の税のメリットとデメリットを親会社のみが受けるということになると、連結グループ内の個別法人の所得金額と税額が相対的にアンバランスなものとなることは避けられず、適当ではありません。

 

 このように、連結納税制度の下においても、連結グループ内の個別法人の所得金額と税額を適正な金額とする必要があるわけですが、次に、これらをどのようにして適正な金額とするのか、ということが問題となります。

 

(中略)

 

 このように、わが国の連結納税制度は、一見、相反するもののように感じられるかもしれませんが、連結グループを一つの納税主体と捉える「単一主体概念」を採りつつ、連結グループ内の個別法人の所得金額と税額の適正さを「時価取引基準」、あるいは「公正価値取引基準」ともいうべき基準と、連結調整金額の合理的配分基準の二つの基準によって担保しようとする制度である、と整理することができるように思われます。」(前掲2~4頁に収録)

 

 これらの引用からも分かるとおり、連結納税制度の創設時には、さまざまな観点から寄附金の取扱いや連結法人税の増加額・減少額の取扱いについて検討が行われ、連結グループ法人間の損益は通算するものの、連結グループ内の取引は単体法人の取引以上に適正に行ってもらうことを求めるという緊張感のある制度として連結納税制度を創ることとされていたわけである。

 

 なお、この連結法人税の増加額・減少額については、受け取る法人においては益金不算入となり、支払う法人においては損金不算入とされることとなっており、この取扱いは、平成22年度改正後も変わっていないが、その理由に関しては、次のように説明されている。

 

「 連結法人税は、連結親法人が納税義務者として納付することになりますが、この連結法人税の額は、連結グループを一体として計算されたものであることから、連結グループ内の各連結法人に対して適切に配分する必要があります。連結法人間でこの連結法人税の配分額として受払いされる金額は、連結法人税に相当する金額であることから、以下のとおり、益金の額又は損金の額のいずれにも算入しないこととされています。」(『平成14年 改正税法のすべて』282・283頁)

 

(2)平成22年度改正以後の連結法人税の増加額・減少額の精算の取扱いの検討

 平成22年度改正においては、上記(1)の取扱いが改められ、旧法人税法施行令155条の15第2項が削除され、法人税法81条の18(連結法人税の個別帰属額の計算)等における「支出すべき金額」や「収入すべき金額」といった表現も「帰せられる金額」と変更されている。

 

 このような改正を行う理由については、『平成22年度 税制改正の解説』において、次のように説明されている。

 

「 上記イの改正(100%グループ内の法人間の寄附金の損金不算入及び受贈益の益金不算入:著者注)により、連結法人税及びその附帯税の負担額及び減少額については、これを授受しない場合に寄附金課税を行う意味がなくなることから、これを受け取らないことを経済的な利益の供与とみなす規定が削除されました。しかしながら、連結法人税の個別帰属額という概念は他の制度で計算要素として引き続き使用されることから、計算方法も含めて従前どおり存置され、「支出すべき金額」及び「収入すべき金額」が「帰せられる金額」という呼称に変更されました(法法81の18①他)。

 

 なお、これにより、連結法人税の個別帰属額の授受を必ずしも行う必要がなくなりますが、仮に授受を行った場合には、従前どおり支出側では損金不算入とされ(法法38③④)、受領側では益金不算入とされています(法法26④⑤)。」(208頁)

 

 ところが、この解説(以下、「上記解説」という。)には、次のように、多くの根本的な疑問点が存在している。

 

① 連結法人税の増加額・減少額の精算として受け取るべき金額を受け取らなかった場合に寄附金とする旨の規定は、連結グループ内の個別法人の所得金額と税額は適正に計算する必要があるという我が国の連結納税制度の基本的な考え方に基づいて設けられたものであって、寄附金の損金不算入額の取扱いを変えたことがこの規定を削除する理由となるわけではない。

 

 上記解説では、100%グループ内の法人間の寄附金を損金不算入とし受贈益を益金不算入としたことから「連結法人税及びその附帯税の負担額及び減少額については、これを授受しない場合に寄附金課税を行う意味がなくなる」として旧法人税法施行令155条の15第2項を削除したとしている。

 

 確かに、旧法人税法施行令155条の15第2項が「寄附金課税を行う」ために設けられたということであれば、「寄附金課税を行う意味がなくなる」という解説も首肯できるものである。

 

 しかし、旧法人税法施行令155条の15第2項は、上記(1)において確認したとおり、連結グループ内の個別法人の所得金額と税額は適正に計算し、連結法人税の増加額・減少額は適正に精算するべきである、という観点から設けられたもので、「寄附金課税」-寄附金が発生する法人の所得は増加せず受贈益が発生する法人の所得が増加することとなる-を行うために設けられたものではない。

 

 寄附金税制において100%グループ内の法人間の寄附金の全額を損金不算入とするのか否かということは寄附金税制の中の損金不算入とする金額の問題であって、100%グループ内の法人間の寄附金の全額を損金不算入としたことが連結法人税の増加額・減少額の精算として受け取るべき金額を寄附金としない理由となるわけではない。

 

 また、100%グループ内の法人間の受贈益の全額を益金不算入とするのであれば、旧法人税法施行令155条の15第2項によって連結法人税の増加額・減少額の精算によって受払いする金額を寄附金=受贈益としたとしても、その受贈益の発生する法人の所得が変わることはないことから、100%グループ内の法人間の受贈益の全額を益金不算入としたということが同項を削除しなければならない理由となることはない。

 

 上記(1)においても述べたとおり、我が国の連結納税制度は、「連結グループを一つの納税主体と捉える「単一主体概念」を採りつつ、連結グループ内の個別法人の所得金額と税額の適正さを「時価取引基準」、あるいは「公正価値取引基準」ともいうべき基準と、連結調整金額の合理的配分基準の二つの基準によって担保しようとする制度」(上記(1)の引用を参照のこと)として設けられているわけであるが、この我が国の連結納税制度の基本的な考え方の下で、旧法人税法施行令155条の15第2項を削除した改正をどのように理解することができるのかという問題は、難題とならざるを得ない。この難題の適切な解を得るためには、旧法人税法施行令155条の15第2項を設けた意味と同項を削除する改正を行う意味の双方をよく吟味することが必要となる。

 

② 上記解説においては、「連結法人税及びその附帯税の負担額及び減少額(省略)を受け取らないことを経済的な利益の供与とみなす規定が削除されました」としているが、旧法人税法施行令155条の15第2項は、連結法人税等の増加額・減少額として受け取るべき金額を受け取らないことを経済的な利益の供与とみなす規定ではなく、受け取るべき金額を受け取らないことは経済的な利益の供与となることを確認する確認規定である。

 

 「みなす」という用語は、本来は該当しないものについて反証を許さず該当すると擬制する場合に用いるものであり、「とする」とは、次のような違いがある。

 

 「「とする」という用語は、「制度的に、そのように決める」という場合に主として用いられるもので、「みなす」という用語がむずかしくいえば「擬制的にそのように扱う」という趣旨であるのと違います。「とする」の場合には「みなす」ことをしなくても、本来そのように扱っておかしくない性質をもっているので、制度としてそのように決めるということになるわけです。」(荒井勇『税法解釈の常識』(税務研究会出版局)115・116頁)

 

 このように、「とする」とした規定と「みなす」とした規定は、その結果において同じ取扱いとなるとしても、その前提に関する理解が全く異なる。これは、法令作成においても、また、法令解釈においても、常識となっている。

 

 仮に、旧法人税法施行令155条の15第2項が「みなす」とした規定であったとしたら、連結法人税等の増加額・減少額として受払いするべき金額を受払いしないことは、本来は、経済的な利益の供与とはならない、という理解がされているということになり、前提に関する理解が180度逆転することとなる。

 

 なお、上記解説において、「とする」とした旧法人税法施行令155条の15第2項を「みなす」とした規定と説明した理由は、定かではないが、同項が「みなす」とした規定ではなく「とする」とした規定であったことは紛れもない事実であり、上記解説の如何にかかわらず、同項が「とする」とした規定であったという事実を踏まえて、検討を進める必要がある。

 

③ 上記解説においては、「支出すべき金額」と「収入すべき金額」を「帰せられる金額」に変更した理由が説明されていない。

 

 税制は、行為規範ではないため、税制が「支出すべき」あるいは「収入すべき」と決めるということは、あり得ない。現実には、税制がどのような仕組みとなるのかによって、結果的に法人の取引が変わることとなることも、決して珍しいことではないが、行為規範として税法を作るということは、法人税法の目的を逸脱するものであり、許されないことである。

 

 この「支出すべき」及び「収入すべき」という用語が用いられたのは、申告納税制度の下において旧法人税法施行令155条の15第2項に定める税制上の処理を行うこととなる各連結法人がそれぞれに連結法人税の増加額・減少額として計算される金額に相当する金額が私法上も「支出すべき金額」・「収入すべき金額」となる、と考えられたためである。

 

 平成14年の連結納税制度の創設時には、上記(1)において確認したとおり、各連結法人は、自己に所得が発生して連結法人税が増加した場合には自己がその増加した連結法人税に相当する金額を負担し、他方、自己に欠損が発生して連結法人税が減少した場合には自己がその減少した連結法人税に相当する金額を収受することとなる、と考えて、そのような取引が行われた場合の取扱いを基本として税制上の取扱いが整備されることとなった。

 

 そして、このような各連結法人が負担することとなったり収受することとなる金額―連結法人税の増加額・減少額として計算される金額に相当する金額―が「支出すべき金額」と「収入すべき金額」とされることとなったわけであり、このような金額を各連結法人が負担することとなったり収受することとなるという状況が変わらない限り、これらの用語を変える理由はないわけである。

 

 法人税制において、連結法人税を増加させた所得が生じた連結法人がその増加した税額に相当する金額を負担し、他方、連結法人税を減少させた欠損が生じた連結法人がその減少した税額に相当する金額を収受することとなると考えて連結法人税の増加額・減少額の取扱いが整備されたということがそれらの取引を間接的に強制する結果となっているという現実があることは否定できないが、その税制上の取扱いが当事者間で連結法人税の負担等に関する債権債務関係を認識する上で拠り所となる合理的なものであるということであれば、それは、歓迎されるべきことである。むしろ、連結法人税について個別法人の負担等に関する取扱いが税制において示されていなかったとしたら、当事者間で連結法人税をどのように負担するのかということが大きな問題とならざるを得なかったはずである。

 

 このように、法人税制における連結法人税の負担額・減少額の取扱いが当事者間で連結法人税の負担等に関する債権債務関係を定める上で拠り所となっていると考えられるわけであるが、そのようにして、既に合理的な状態で連結法人税の増加額・減少額を精算する取引が行われている状況下において、それを行わなくてもよいとしなければならない事情があるとは思われない。

 

 仮に、グループ法人税制の創設に伴って、100%グループ内であればどのような価格で取引を行ってもよいという考え方の延長線上でこのような変更が行われているということであれば、後退との印象は免れ得ない。

 

④ 上記解説においては、「これにより、連結法人税の個別帰属額の授受を必ずしも行う必要がなくなります」とされているが、税制は行為規範ではないため、税法により、取引を行うことを必要としたり、必要としないこととすることはできない。

 

 平成14年8月27日の日本租税研究協会における会員懇談会においては、次のような質疑が行われている。

 

「Q9 連結法人税額の負担額又は減少額の受払いをすべき期日は、いつになりますか。また、その期日を経過して受払いが行われる場合の利息の取扱いは、どのようになりますか。

 A 連結法人税額が確定する時点でその連結法人税額に係る負担額又は減少額が確定するものと考えられますが、この負担額又は減少額も連結法人間の他の債権債務と異なるものではありませんので、受払期日や利息の取扱いについても、他の債権債務と同様とすべきものと考えられます。」(拙著『日本型連結納税制度の基本的な考え方と法令等の概要』(日本租税研究協会、平成15年6月30日)269頁に収録)

 

 この質疑応答からも分かるとおり、連結法人税の増加額・減少額の受払いは、他の債権債務の受払いと同様のものであり、税法は、取引が必要であるのか否かを決めるものではないため、上記解説の連結法人税の個別帰属額の授受の必要性に関する部分には、疑問が残らざるを得ない。

 

⑤ 上記解説においては、「仮に授受を行った場合には、従前どおり支出側では損金不算入とされ(法法38③④)、受領側では益金不算入とされています(法法26④⑤)」とのことであるが、旧法人税法施行令155条の15第2項の削除の有無によって従前の取扱いが変わることはなく、連結法人税の増加額・減少額の受払いを行わなくてもよいとしようとすること以外に、同項を削除する改正の理由が見出せない。

 

 グループ法人税制においては、100%グループ内であれば一体であるためどのような価格で取引を行ってもよいという考え方が採られていると考えられるが、旧法人税法施行令155条の15第2項を削除する改正は、連結納税制度の従来の考え方をそのグループ法人税制の考え方に合わせようとしたものと考えられる。

 

 しかし、そもそもグループ法人税制において採られているこのような考え方には根本的な疑問があり、従来のきちんとした連結納税制度の考え方を崩してしまう改正は本来の改正のあるべき姿とは異なるものとの指摘があり得る、と考えられる。上記(1)において確認したとおり、グループ内の法人を一体として法人税における所得の金額を計算するということは、グループ内の法人間の取引をどのように行ってもよい、ということを意味するわけではない。平成22年度改正後も、「法人が違うので、従来どおり、きちんと精算をする」という声が殆どではあるが、制度の仕組みを改正するという場合には、常に、仕組みをより良いものにする、という改正でなければならない。

 

 改めて言うまでもないが、100%の資本関係にあるものも含めて、関連者間の取引は非関連者間の取引と同様に適正に行うべき、というのが世界の税制の趨勢となっている。

 

<参考>

「会社法制の見直しに関する中間試案」(平成23年12月、法務省民事局参事官室)においても、親子会社間取引は適正な価額で行なう必要があるという観点で法制整備を行うべきとされている。世界の法制の趨勢も、親子会社間の取引であっても適正な価額で行なうべき、ということになっていると考えられる。

 

 アメリカやフランスが我が国と同じような連結納税制度を先行して導入しているわけであるが、アメリカの税制においては、連結法人税額の連結グループ内における精算は3通りの方法で行うことを前提として取扱いが定められており、フランスにおいては、上記2(1)の引用において示されているとおり、連結調整項目の税のメリットとデメリットが全て親会社に帰属するとされている。

 

(3)連結子法人であった法人の連結法人税の増加額・減少額の精算の取扱い

 平成22年度の旧法人税法施行令155条の15第2項を削除する改正には、以上のような多くの根本的な疑問点が存在するわけであるが、結果的には、100%グループ内であれば連結法人税額に係る増加額又は減少額の精算はどのように行ったとしても法人税の取扱いに相違はない、ということになるものと考えられる。

 

 ただし、これは、100%グループ内の取扱いに関して言えることであり、買収等によって連結納税を離脱して100%グループでなくなった法人に関しては、同様の取扱いとなるとは解されない。

 

 上記の平成22年度改正の解説は、「上記イの改正(100%グループ内の法人間の寄附金の損金不算入及び受贈益の益金不算入:著者注)により、・・・」という文章で始まっているが、寄附金=受贈益という取扱いは、「支出した」=「受けた」という時点で行われることとなるため、連結グループを離脱した後に金銭の受払いが生ずるものに関しては、上記解説を根拠として連結法人税額に係る増加額・減少額の精算をどのように行ってもよい、ということにはならないと考えられる。

 

 連結グループを離脱した後に金銭の受払いが生ずるものに関して、税務上、寄附金=受贈益という取扱いとされないようにしたいということであれば、やはり、従来どおりの計算によって「支出すべき金額」又は「収入すべき金額」として計算した金額を授受することとする方がよいと考えられる。

 

 ただし、上記(2)において述べたとおり、平成22年度の旧法人税法施行令155条の15第2項を削除する改正に関しては、「これにより、連結法人税の個別帰属額の授受を必ずしも行う必要がなくなります」と解説していることから、連結法人税の増加額・減少額の受払いを行わなくてもよいとすることを目的として行われたものではないかと思われる事情もあり、連結法人税の増加額・減少額の受払いを行わない方が有利となるケースにおいては、それらの受払いを行わないこととした場合の取扱いについて、事前に国税当局に照会をすることとしてもよいと考えられる。