※T&Amaster(ロータス21)2010.9.20 No.371に掲載
100%子会社が有する遊休土地を親会社に移転して有効活用を図りたいのですが、その場合の税制上の取扱いがどうなるのかを教えていただけませんでしょうか。
要 旨
グループ法人間で資産を移転して有効活用を図りたいというニーズは、かなり広く存在している。グループ法人間においては、一方の法人から他方の法人にその資産を賃貸すれば済むという場合も少なからずあるが、他方で、資産の移転が容易に行い得るグループ法人間においては、その資産を保有するに最も相応しい法人に保有させて事業を行いたいというニーズも、当然、存在する。
100%子会社が有する遊休土地を親会社に移して有効活用を図るというケースは、その典型的な例といえる。
以下、その税制上の取扱いについて解説することとするが、上記のようなニーズがあるグループ法人において、参考としてもらえば、幸いである。
開設にあたり、まず、下記のような前提を置くこととする。
100%の資本関係にある法人間における資産の移転に関しては、平成22年度改正(*)による「グループ法人税制」の創設等により、課税関係を生じさせずに資産を移転できる方法が増えることとなっており、税負担の観点から見て合理的な選択をした場合とそうでない場合とを比べてみると、大きな損得が生ずる結果となることも、決して稀ではない。
(*)資産の移転等に関するものは、基本的には、平成22年10月1日以後に行うものに適用される。
このため、特に100%の資本関係にある法人間における資産の移転に関しては、その移転の方法ごとにどのような課税関係となるのかということを良く確認した上で、どのような方法を選択するのかということを決める必要がある。
資産の移転は、通常、売買という方法によって行われ、対価として金銭の授受が行われるわけであるが、グループ法人間で資産の移転が行われる場合には、できるだけ金銭の授受が不要となる方法が検討されるのが通例である。
平成22年度改正前は、例えば、100%の資本関係にある法人間において、金銭の授受を行わずに済む方法として、資産の贈与(無償譲渡)という方法を採った場合には、その贈与(無償譲渡)をした法人にその資産の譲渡損益が計上される(法法22②・③)とともにその資産の時価相当額の寄附金があったものとされて寄附金の損金算入限度額を超える金額が損金不算入とされ(法法37)、他方、その贈与(無償譲渡)を受けた法人にその資産の時価相当額の受贈益が計上されて益金となり(法法22②)、結果的には、双方を合わせてみると、寄附金の損金算入限度額を超える金額に相当する金額に対する課税が二重となる、ということになっていた。
しかし、平成22年度改正後は、このような資産の売買という方法を採った場合であっても、二重課税が生じない仕組みとされており(法法25の2、37②、61の13)、その他にも、「適格現物分配」によって課税関係を生じさせずに資産を移転することが出来るようになったり(法法62の5)、無対価による分割型分割の取扱いが整備された(法法2十二の九)ためにこれを利用することが出来るようになったりしている。
以下、100%子会社が有する遊休土地を親会社に移転して有効活用を図るというケースについて、贈与(無償譲渡)、現物配当(適格現物分配)、無対価による適格分割型分割の3つの方法によりこれを行った場合に、法人税法上、それぞれどのような取扱いになるのかということについて、解説を行うこととする。
1 贈与(無償譲渡)
P社の100%子会社であるS社がP社に土地の贈与(無償譲渡)を行った場合には、法人税法上、図1のような処理を行うこととなる。
【図1】
(S社)
○ 寄附金40は、その全額が損金不算入となる(法法37②)。
○ 土地の譲渡益10については、同額の譲渡損益調整損が計上されるため、結果的には相殺さ
れて所得の金額には影響が生じないこととなる(法法61の13①)。
ただし、P社が土地の譲渡等を行った場合には、譲渡損益調整勘定10の戻入れを行うこと
となり、その戻入れの時点で益金が生ずることとなる(法法61の13②)。
○ 利益積立金については、寄附金40が計上されるため、40の減少となる。
(P社)
○ 受贈益40は、その全額が益金不算入となる(法法25の2)。
○ 「寄附修正」ということで、S社株式の帳簿価額を40減少させ、同額の利益積立金を減少
させる(法令9①七)。
○ 利益積立金については、受贈益40が計上されるため、40が増加することとなるが、「寄附
修正」によって40が減少し、結果的には、変動しないこととなる。
このようなS社とP社の処理により、S社には、譲渡損益調整勘定10が残って、P社が土地の譲渡等を行った時に戻入益が計上されることとはなるものの、土地の贈与(無償譲渡)を行った時点では、課税関係が生ずることはない。
S社とP社の双方を見てみると、時価純資産額の2社の合計額は変わらないため、P社株式の時価は変わらないが、S社とP社の双方の利益積立金は、S社において40の減少額があるため、合計額で40の減少となる。
2 現物配当(適格現物分配)
S社がP社に土地の現物配当(適格現物分配)を行った場合には、法人税法上、図2のような処理を行うこととなる。 一つ目は、対象法人に関する相違です。
【図2】
(S社)
○ この現物配当は、適格現物分配(*)に該当するため、土地を帳簿価額30でP社に譲渡す
ることになる(法法62の5)。
○ 利益積立金については、土地の帳簿価額30に相当する金額だけ減少させることとなる。
(*)「現物分配」とは、法人がその株主等に対し剰余金の配当等により金銭以外の資産の交付をすることをいい、「適格現物分配」とは、内国法人を現物分配法人とする現物分配のうち、その現物分配により資産の移転を受ける者がその現物分配の直前において当該内国法人との間に完全支配関係がある内国法人のみであるものをいう、とされている。
詳細に関しては、定義規定である法人税法2条12号の6及び12号の15を参照されたい。
(P社)
○ 土地を帳簿価額30で取得することとすることになる(法令123の6①)。
○ 配当収入30を計上することとなるが、その全額が益金とはならない(法法62の5④)。
○ 利益積立金については、配当収入に相当する30だけ増加することとなる。
適格現物分配により資産の移転を受ける法人においては、欠損金の使用に制限が課されたり(法法57④)、特定資産譲渡等損失額が損金不算入とされたりする(法法62の7)ことがあるが、これらは、支配関係がその資産の移転を受ける事業年度開始の日の5年前の日(同日後にいずれかの法人が設立されている場合には、その設立の日)から継続していない場合とされている。
本例においては、P社とS社の間の支配関係が6年前から継続しているため、これらの対象とはならない(*)。
(*)仮に、支配関係が5年前の日から継続していない場合には、P社の欠損金のうち、S社と支配関係が生じた日を含む事業年度前の欠損金と、同日を含む事業年度以後の欠損金のうち特定資産譲渡等損失額に相当する金額から成る部分の金額とについて、制限が課される(法法57④)。
また、P社においては、特定資産を適用期間内に譲渡した場合には、特定資産譲渡等損失額について、損金不算入とされる(法法62の7)。
ただし、特例として、移転を受ける資産の含み益に相当する金額までの欠損金等についてのみ制限することとされているため、本例では、仮に支配関係が5年前の日から継続していないということであれば、土地の含み益に相当する10までについて制限されることとなる。
詳細に関しては、法人税法57条4項(青色欠損金の使用制限)、62条の7(特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入)を参照されたい。
このように、現物配当(適格現物分配)によってS社がP社に土地を移転した場合にも、その移転の時には、課税関係が生ずることはない。
S社とP社の双方を見てみると、上記1の場合と同じく、P社株式の時価は変わらないが、土地が含み益10という状態のままS社からP社に移転し、P社が有するS社株式はその価値が40だけ減少して30の含み損が生ずることとなっている。
3 無対価の適格分割型分割
S社がP社に土地を無対価の分割型分割により移転した場合には、この分割は、「適格分割」について定義している法人税法2条12号の11イ及び法人税法施行令4条の3第6項2号イの規定により、「適格分割」に該当することとなり、法人税法上、図3のような処理を行うこととなる。
【図3】
(S社)
○ 無対価の適格分割型分割においては、土地を帳簿価額30のままP社に引き継ぐこととなる
(法法62の2②)。
○ 利益積立金と資本金等については、それらの構成割合に応じてそれぞれ15が減少すること
となる(法令8①十五、法令9①十)。
(P社)
○ 帳簿価額30で土地の引継ぎを受けることとなる(法法62の2②)。
○ S社株式の帳簿価額を30だけ減少させることとなる(法令119の3⑪、119の8)。
○ 利益積立金については15を増加させ、資本金等については15を減少させることとなる
(法令8①六、9①三)。
適格分割型分割においても、適格現物分配の場合と同様に、資産の移転を受ける法人においては、欠損金の使用に制限が課されたり(法法57④)、特定資産譲渡等損失額が損金不算入とされたりする(法法62の7)ことがあるが、これらは、支配関係がその資産の移転を受ける事業年度開始の日の5年前の日(同日後にいずれかの法人が設立されている場合には、その設立の日)から継続していない場合とされており、本例においては、P社はこれらの対象とはならない。
このように、無対価の適格分割型分割によってS社がP社に土地を移転した場合にも、その移転の時には、課税関係が生ずることはない。
S社とP社の双方を見ると、上記1及び2と同じく、P社株式の時価は変わらないが、土地が含み益10という状態のままS社からP社に移転している。
S社において利益積立金15が減少するとともに、P社において利益積立金15が増加し、他方、資本金等についてはS社とP社においていずれも15ずつ減少することとなる。
また、P社が有するS社株式については、40の価値の減少が生ずるが、帳簿価額は30のみ減額することとなる。
上記の1から3までのようなS社とP社の処理の結果は、贈与(無償譲渡)、現物配当(適格現物分配)、無対価の適格分割型分割の後のP社株式やS社株式の評価額、S社株式の譲渡損益、S社とP社のみなし配当の額の計算、事業税(資本割)の計算などに影響を与えることとなる。
このように、上記の1から3までのケースは、いずれもそれらが行われる時点では課税関係が生ずることはないため、その時点のことだけを考えるのであれば、基本的には、いずれでもよいということになるが、その後の課税関係には、かなりの相違が生ずることとなる。
このことは、これらの資産の移転の方法のうちのいずれを採るかということは、その後に行うものを考慮して決めるべきである、ということを示している。
ただし、その後に行うものの課税関係を有利にするためだけの目的でS社からP社に土地を移転して上記の1から3までのような行為を行ったというような場合には、法人税法132条(同族会社等の行為又は計算の否認)や132条の2(組織再編成に係る行為又は計算の否認)の規定の適用を受けるおそれがあるということを念頭に置いておく必要がある。
本例においては、改めて言うまでもなく、S社の遊休土地をP社の所有として有効活用するということがその土地をS社からP社に移転する合理的な理由となるという前提に立っているが、仮に、この土地の移転に税額を減少させる目的以外の合理的な目的がないということであれば、上記の行為計算否認規定の適用を受けるといったことになる可能性があるわけである。
また、土地をS社からP社に移転することについては合理的な理由があるとしても、その移転は複数の方法によって行うことができるため、その選択した方法について、税務調査において疑問を呈されることがないという保証はない。
換言すれば、資産を移転して上記の1から3までのような行為を行う場合で、その後にその結果として課税関係が有利になるということが分かっているようなときは、必ず、その資産の移転に事業上の必要性があるということを明確にし、できるだけその移転の方法の選択についても事業上の理由を示して、各種書類等にその旨を明記したり関係資料を残しておくなどの対応策を講じておく方がよい、ということである。