Q&A

組織再編税制

 

非適格合併における被合併法人の法人事業税の取扱い

※T&Amaster(ロータス21)2011.1.24  No.387に掲載

 昨年、適格合併の場合に被合併法人の最後事業年度の法人事業税を合併法人の損金に算入する旨の旧法人税基本通達9-5-2の2(適格合併の場合の被合併法人の最後事業年度分の法人事業税及び地方法人特別税の損金算入)が廃止されました。この通達に関しては、従来から、非適格合併の場合には被合併法人の最後事業年度の法人事業税が合併法人の損金とはならない、といった見解や非適格合併の場合にも被合併法人の最後事業年度の法人事業税が合併法人の損金となるといった見解が存在していたところです。この通達の廃止に関しては、「取扱いの変更はない」との記事も見受けられますが、要するに被合併法人の最後事業年度の法人事業税の取扱いはどうなるのか、ということがよく分かりませんので、ご教授をお願い致します。

要 旨

 非適格合併の場合に被合併法人の最後事業年度の法人事業税(中間納付分を除く。以下、同じ。)がどのような取扱いとなるのかという質問は、確かに、少なくない。平成22年7月の通達改正により、法人税基本通達9-5-2の2が廃止されたことに伴い、改めて疑問の声が表に出てきた感もある。
 以下、まず、非適格合併の場合の被合併法人の最後事業年度の法人事業税について、企業会計上の取扱いを確認し、その後、法人税法と法人税基本通達における取扱いを検討することとする。
 なお、非適格合併の場合の被合併法人の最後事業年度の法人事業税に関しては、その法人税及び法人住民税とともに、合併対価の額との間で循環的に増加したり減少したりする関係があり、これに関する質問も少なくないことから、これについても最後に簡単に触れることとする。

 

1 企業会計上の取扱い
 企業会計においては、監査委員会報告第63号「諸税金に関する会計処理及び表示と監査上の取扱い」(平成11年4月1日、最終改正平成19年3月8日)において、次のように記述されている。

 

「2.諸税金に関する会計処理及び表示

 諸税金に関する会計処理及び表示は、以下に示すとおりである。

(1)法人税、法人住民税及び法人事業税

 当該事業年度の法人税、法人住民税及び利益に関連する金額を課税標準として課される法人事業税は、「法人税、法人住民税及び法人事業税」として損益計算書の税引前当期純利益金額又は税引前当期純損失金額の次に記載する。
 法人税、法人住民税及び法人事業税(利益に関連する金額を課税標準として課される法人事業税以外の法人事業税を含む。)の未納付額は、「未払法人税等」として貸借対照表の流動負債の部に記載する。

  (省略)
(2)利益に関連する金額を課税標準とする法人事業税以外の法人事業税

 当該事業年度の利益に関連する金額を課税標準とする法人事業税以外の法人事業税は、原則として、損益計算書上、営業費用項目として処理し、その未納付額は、前述の2.(1)のとおり、「未払法人税等」に含めて表示する。
 また、当該法人事業税の更正、決定等による追徴税額及び還付税額は、特別損益項目として処理する。ただし、これらの金額の重要性が乏しい場合には、当該営業費用項目に含めて処理することができる。」

 

 上記のとおり、企業会計においては、合併の場合の被合併法人の最後事業年度の法人事業税に関して特別な取扱いがあるわけではなく、他の事業年度の法人事業税と同じ取扱いとなるものと考えられる(注)。

 

(注)合併の場合の被合併法人の最後事業年度は、法人税法に固有のみなし事業年度であり、企業会計においては、本来は、会社法と同様に、合併によって事業年度が区切られることはないという前提に立って上記の記述が行われているものと考えられるが、会計実務においても、合併に際しては、被合併法人の最後事業年度の財務諸表を作ることが一般的であり、その際の被合併法人の最後事業年度の法人事業税は、他の事業年度の法人事業税と同様の処理を行っているものが大半と見受けられる。このため、1においては、企業会計上も被合併法人の最後事業年度があるという前提で記述を行っているが、このような前提に立って企業会計上の取扱いを考察したとしても、被合併法人の最後事業年度の法人事業税の取扱いが企業会計における諸税金の取扱いの趣旨に反するものとなることはない、と考える。

 

 すなわち、非適格合併の場合の被合併法人の最後事業年度の法人事業税に関しては、他の事業年度の法人事業税と同様に、その被合併法人の最後事業年度の当期純利益金額の減算金額又は当期純損失金額の加算金額とする部分とその被合併法人の最後事業年度の営業費用とする部分とがある、ということになる。
 現実には、被合併法人の最後事業年度の法人事業税の申告と納税は合併後に合併法人によって行われることから、この被合併法人の最後事業年度の法人事業税に関しては、期末に「未払法人税等」として貸借対照表の流動負債の部に記載されることとなるはずである。
 非適格合併の場合の被合併法人の最後事業年度の法人事業税に関しては、企業会計上でこのような取扱いとなるということになれば、法人税の申告に際しては、その被合併法人の最後事業年度の申告書別表4の「当期利益又は当期欠損の額」の欄の金額に当期利益の額の減少額又は当期欠損の額の増加額となって反映されることとなる。

 

2 法人税法上の取扱い
(1)合併法人における損金処理
 法人税法においては、特に合併の場合の被合併法人の法人事業税の取扱いに関する別段の定めは設けられていない。

 

<参考>平成22年度改正によって創設された法人税法62条の5(現物分配による資産の譲渡)の5項においては、内国法人の残余財産が確定した場合のその確定した日の属する事業年度の法人事業税をその事業年度の損金の額に算入する、と定めている。

 

 このため、合併の場合の被合併法人の最後事業年度の法人事業税も、各事業年度の所得の金額の計算の通則である法人税法22条(各事業年度の所得の金額の計算)の3項によって処理することとなる。
 法人税法22条3項においては、1号から3号までに掲げるものが損金の額となるとされており、これらの号に掲げるもののいずれかに該当しなければ損金の額とはならないこととなるが、合併の場合の被合併法人の最後事業年度の法人事業税に関しては、2号又は3号に該当する可能性があるため、2号又は3号に掲げるものに該当するのか否かの検討を行う必要がある。
 法人税法22条3項2号においては、「当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額」(傍点は筆者)を当該事業年度の損金の額とするとしているが、合併の場合の被合併法人の最後事業年度の法人事業税に関しては、これが確定するのは申告が行われた時であるため、同号の規定によって被合併法人の最後事業年度の損金の額とすることはできない。
 また、法人税法22条3項3号においては、「当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの」(傍点は筆者)についても当該内国法人の当該事業年度の損金の額とするとしているが、合併の場合の被合併法人の最後事業年度の法人事業税に関しては、その申告と納税が行われるのは被合併法人の最後事業年度終了後であるため、同号の規定によって被合併法人の最後事業年度の損金の額とすることもできない。
 以上の点からすれば、合併の場合の被合併法人の最後事業年度の法人事業税に関しては、法人税法上、被合併法人の最後事業年度の損金の額とすることはできない、ということになる。
 ただし、この合併の場合の被合併法人の最後事業年度の法人事業税に関しては、その申告と納税を行うのは合併法人となるため、合併法人の各事業年度の損金の額とすることができないのかということも検討する必要がある。
 まず、合併法人が被合併法人の最後事業年度の法人事業税の申告と納税を行うのがなぜかということを確認しておくこととするが、それは、次の地方税法の定めによるものである。

 

「(法人の合併による納税義務の承継

第九条の三 法人が合併した場合には、合併後存続する法人又は合併により設立した法人は、合併により消滅した法人(以下本章において「被合併法人」という。)に課されるべき、又は被合併法人が納付し、若しくは納入すべき地方団体の徴収金を納付し、又は納入しなければならない。

 前項の規定によつて承継する義務は、当該義務に係る申告又は報告の義務を含むものとする。」

 

 この地方税法9条の3の定めによって合併法人が申告と納税を行うこととなる被合併法人の最後事業年度の法人事業税がその合併法人の各事業年度の損金の額となるのか否かということについても、上記の法人税法22条3項2号又は3号に掲げるものに該当するのか否かによって判断することとなる。
 法人税法22条3項2号においては、上記引用のとおり、損金の額となるものとして「当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額」が掲げられているわけであるが、被合併法人と合併法人とを別個の納税義務者と捉えている法人税法においては、被合併法人の最後事業年度の法人事業税を合併法人の「販売費」や「一般管理費」と解するとにはやや無理があるように思われる。「その他の費用」に関しても、これに含まれるものは、その文言の前に掲げられている「販売費」、「一般管理費」と同種のもののみということになる。
 ただし、被合併法人の最後事業年度の法人事業税が合併法人の「販売費、一般管理費その他の費用」に含まれるということであれば、申告によってその債務が確定することとなるため、その債務が確定した日の属する事業年度において損金の額となることになる。
 また、上記引用のとおり、法人税法22条3項3号においては、「当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの」が掲げられているわけであるが、合併法人が上記の地方税法9条の3の定めによって申告と納税を行うこととなる被合併法人の最後事業年度の法人事業税をその合併法人の「損失の額」と解することには、何ら問題はない、と考えられる。
 被合併法人の最後事業年度の法人事業税が合併法人の「損失の額」となるということであれば、合併法人がその申告又は納税を行った日の属する事業年度において損金の額となることになる。
 このように、被合併法人の最後事業年度の法人事業税に関しては、その根拠となる規定が法人税法22条3項の2号と3号のいずれであるのかということにやや不明確さが残るものの、合併法人の各事業年度の損金の額となることに疑義はないと考えられる。
 そして、この被合併法人の最後事業年度の法人事業税を合併法人における損金の額とすることについては、合併が適格合併であるのか否かということによってその取扱いを変更しなければならない事情は存在していない。

 

(2)合併法人における負債調整勘定による調整
 上記1において述べたとおり、企業会計上、被合併法人の最後事業年度の法人事業税は期末の負債とされることとなるが、被合併法人を吸収合併した場合には必ずその被合併法人の最後事業年度の法人事業税の負担を行わなければならないということになると、その法人事業税に相当する金額を負債として計上する処理は、被合併法人の資産及び負債を適正な時価で認識するもので、適切な処理となっている、ということになる。合併対価として交付される合併法人の株式等は、被合併法人の最後事業年度の法人事業税に相当する金額を控除した金額に相当するものとなっている、と考えてよいはずである。
 このように、合併対価の額が被合併法人の最後事業年度の法人事業税に相当する金額を控除した金額に相当するものとなっているとすれば、合併が非適格合併である場合に被合併法人の資産及び負債の譲渡利益額として計算される金額は、その被合併法人の最後事業年度の法人事業税に相当する金額だけ少なくなっているはずである。
 すなわち、被合併法人においては、最後事業年度の法人事業税を損金の額として計上することはできないが、非適格合併の場合には、最後事業年度の法人事業税に相当する金額を資産及び負債の譲渡損益に反映させて実質的に損金の額とすることとなっている、ということになる。

 

 <参考>有価証券の評価損益を計上する場合の有価証券の価額の計算に関して、法人税基本通達4-1-4(上場有価証券等の価額)、4-1-5(上場有価証券等以外の株式の価額)、4-1-6(上場有価証券等以外の株式の価額の特例)、9-1-8(上場有価証券等の価額)、9-1-13(上場有価証券等以外の株式の価額)、9-1-14(上場有価証券等以外の株式の価額の特例)によって国税庁の解釈が示されている。これらの通達は、法人が期末に有価証券の評価損益を計上する場合の参考となるものであって、合併対価の額を決める場合の株式の価格の計算に関するものではないため、合併の場合には、これらの通達に過度に依拠したり縛られたりする必要はないが、実務において、これらの通達が参考とされることも少なくないものと考えられる。
 これらの通達のうち、4-1-6と9-1-14においては、従前から「財産評価基本通達185の本文に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当たり、同通達186-2により計算した評価差額に対する法人税額等に相当する金額は控除しないこと」とされたままとなっている。
しかし、有価証券の適正な時価を計算するという場合には外部流出することとなる法人税額等を控除するべきことに異論はないものと考えられるところであり、有価証券の取引価格が問題となる合併のような場面においては当然のことながら、有価証券の評価損益を計上する場面においても、この取扱いは見直しの余地があると考える。

 

 ところで、法人税法上の取扱いに関しては、上記(1)において述べたとおり、被合併法人の最後事業年度の法人事業税については、合併法人において損金の額となる。
 このように、法人税法上は、被合併法人の最後事業年度の法人事業税に関しては、被合併法人と合併法人の双方で損金の額となることとなっているわけである。
 このような現象は、被合併法人の実質的な負債となっていながら法人税法上は負債とされないものについて生ずることとなるものであり、被合併法人の退職給付引当金や賞与引当金などについても生じている。
 このように二重に損金の額が発生することが好ましくないことは改めて言うまでもないことであり、これを是正することが求められる。その是正策として最も適切であるのは、被合併法人の最後事業年度の実質的な負債となるものに関しては、その被合併法人の最後事業年度以前の事業年度において損金の額とし、最後事業年度終了の時に未払法人事業税として負債とすることである。未払法人事業税を被合併法人の最後事業年度終了時の負債とするということになると、非適格合併の場合に資産及び負債の譲渡利益額が減少することもなく、合併法人においてもその未払法人事業税に相当する金額は損金の額とはならないこととなる。
 このように、被合併法人の最後事業年度の法人事業税に関しては、企業会計と同様に、その被合併法人の最後事業年度の損金の額とするのが最も適切な対応策であると考えられる。上記(1)<参考>において述べたとおり、残余財産が確定した場合に関しては、法人事業税をその残余財産が確定した日の属する事業年度の損金の額とする旨の別段の定めが設けられている。
 しかし、被合併法人の最後事業年度の法人事業税については、残余財産が確定した場合のように別段の定めを設けることによって対応するのではなく、平成18年度改正において、合併法人で合併時に「負債調整勘定」を計上してその後にこれを取り崩す仕組みを創設することにより、合併法人において益金を計上させて実質的に損益を相殺することで対応することとされている。
 すなわち、被合併法人の最後事業年度の法人事業税に相当する金額に関しては、合併法人において「差額負債調整勘定」の金額(法法62の8③)となり、その後、60か月で減額して益金の額に算入することとされている(法法62の8⑦・⑧)。合併法人は、被合併法人の最後事業年度の法人事業税の申告又は納税を行った日の属する事業年度において損金の額が発生するものの、損金の額に算入された法人事業税の額に相当する金額は、合併の日の属する事業年度以後の事業年度において60か月をかけて差額負債調整勘定の金額の戻入益として益金の額に算入されることから、これらの期間を通して見れば、合併法人においては損金の額に算入された金額と益金の額に算入された金額とが相殺され、結果的には、被合併法人においてのみ損金の額が発生する、という構造となっている。

 

3 法人税基本通達の変遷
 組織再編成税制の創設に伴って平成14年に法人税基本通達が改正される前までは、被合併法人の最後事業年度の法人事業税に関する取扱いとして、次のような通達が設けられていた。

 

「(被合併法人の最後事業年度分の法人事業税

 4-2-13 被合併法人の合併の日の属する事業年度に係る法人事業税は、合併法人においてその額が具体的に確定した事業年度の損金の額に算入する。」

 

 この通達は、被合併法人の最後事業年度の法人事業税について、被合併法人において損金の額に算入する機会がないこと、合併法人がその納付義務を負っていること等を考慮して設けたものと説明されており、すべての合併に共通の取扱いとなっていたものである。
 この通達は、平成14年に廃止され、新たに次のような通達が設けられた。

 

「(適格合併の場合の被合併法人の最後事業年度分の法人事業税及び地方法人特別税の損金算入)

  9-5-2の2 適格合併に係る被合併法人の合併の日の前日の属する事業年度(その事業年度が連結事業年度に該当する場合には、当該連結事業年度)に係る法人事業税及び地方法人特別税は、合併法人においてその額が具体的に確定した事業年度の損金の額に算入する。」

 

 この通達に関しては、その創設の際にも、適格合併の場合にのみ被合併法人の最後事業年度の法人事業税が合併法人の損金の額となるという誤解を生じさせることのないように、適格合併の場合も非適格合併の場合も同じ取扱いとなるということを明確に説明する必要があるという指摘がなされていたものであるため、創設当初はそのように説明されていたはずである。しかし、現実には、この通達の創設後は、非適格合併の場合の取扱いが分からないといった声が聞かれ、また、適格合併の場合と非適格合併の場合とでは取扱いが異なるという見解も見受けられる状況となっていた。
 この通達は、平成22年に廃止されることとなったが、その廃止理由と推測されるものを雑誌記事から拾ってみると、次のとおりである。

 

「 廃止理由としては、①適格合併の主旨が、合併法人において被合併法人の従前の課税関係を継続させるものであることを踏まえると、通達で定めるまでもなく上記事業税を合併法人側で損金算入するとの考え方が一般に定着してきたことに加え、②同通達では「適格合併の場合」における取扱いしか示していないため、通達を存置したままだと、非適格合併の場合は上記事業税を合併法人側で損金算入することが一切認められないものと誤解される可能性もある、といった点が上げられる。
 このため、同通達は廃止されても、取扱いの変更はない。」(「週刊税務通信」(平成22年8月9日No.3126)9頁)

 

 法人税法における合併の場合の被合併法人の最後事業年度の法人事業税の取扱いは、上記2において説明したとおり、その合併が適格であるのか否かによって変わるものではないため、上記通達の廃止は妥当であると考えられる。

 

4 非適格合併における譲渡利益金額と未納法人事業税の額との関係
 非適格合併の場合には、被合併法人の資産及び負債を時価によって譲渡したものとされ、合併対価の額から原価の額を控除した譲渡利益額に対して課税が行われる(法法62)こととなるが、この合併対価の額に関しては、合併に伴って合併法人が負担することとなる租税公課が生じてそれらの金額が相当額となる場合などにおいては、それらの租税公課の額を控除した金額とされているはずである。
 これらの租税公課のうち、主に問題となるのは、被合併法人の最後事業年度の法人税、法人住民税と法人事業税である。
 被合併法人の最後事業年度の法人税及び法人住民税に関しては、合併対価の額が大きくなればこれらの額も大きくなり、合併対価の額が小さくなればこれらの額も小さくなるという循環関係にあるため、実務においては、合併対価の額と被合併法人の最後事業年度の法人税及び法人住民税の額とが対応する水準がどの辺りとなるのかということを確認するための計算をするといったことが行われている。
 この循環関係の収束金額を求める計算は、かつての清算所得課税における清算所得の金額と法人税額等との循環関係の収束金額を求める計算とは異なり、課税標準や税額を計算するというものではなく、当事者間の取引金額である合併対価の額を決めるに当たって参考とするために行うものである(注)。

 

(注)この循環関係の収束金額求める計算は、課税標準や税額の計算のために必要となるというものではないため、特に法令や通達にその計算式等を定めるということはされていない。

 

 この循環関係にある合併対価の額と被合併法人の最後事業年度の法人税及び法人住民税の額とに関しては、実務上、これらの金額が対応することとなる金額の近似値を求めて複数回の試行計算を行うことが多いようであるが、合併対価の額を決める際に必ずこの循環関係の収束金額を求める計算を行わなければならないというわけではなく、大勢に影響がないという判断により、省略されていることもあるものと思われる。
 被合併法人の最後事業年度の法人事業税に関しても、基本的には、この法人税及び法人住民税と同様の事情にあると考えてよいが、法人事業税の場合には、所得に係る部分のみならず、外形標準の部分があるため、循環関係の収束金額を求める計算は、なお一層、複雑なものとなる。もちろん、その精緻な計算が行い得ないというわけではなく、複数回の試行計算によって正確な金額を求めることも可能であり、また、その正確な金額を求めることができる計算式を考案することも不可能ではない。
 しかし、合併対価の額と被合併法人の最後事業年度の法人事業税との循環関係の収束金額を求める計算は、当事者間の取引金額である合併対価の額を決めるに当たって参考とするために行うものであることに変わりはなく、精緻に計算を行うことに実益があるというケースは、あまり多くはないものと考えられる。
 一旦、合併対価の額が決まると、その後の法人税の処理は、法令の規定に従って淡々と被合併法人の最後事業年度の合併法人に移転する資産及び負債の譲渡利益金額、法人税の額、法人住民税の額、法人事業税の額を計算することとなり、これらの金額の計算の場面では、循環関係を考慮する必要はない。
 この合併対価の額と被合併法人の最後事業年度の法人事業税との循環関係の収束金額を求める計算を行うのか否か、また、行うとしてもどの程度までその計算を精緻に行うのかということは、個々の合併の状況に応じて個別に判断することで良いと考えられる。