※T&Amaster(ロータス21)2013.12.16 No.527に掲載
※T&Amaster(ロータス21)2014.01.20 No.531に掲載
平成13年に創設された組織再編成税制は、非常に大部ではあるものの、理論的かつ体系的に出来ており、商法・会社法や企業会計において組織再編成に関する統一的な取扱いが出来ていない段階で、このような税制が創られたことは画期的である、と感じたことを記憶しています。
しかし、近年の組織再編成税制には、理論的に考えると疑問がある取扱いが見受けられるようになっており、「理論」や「体系」という言葉が似つかわしくないような印象を受けます。
現に、組織再編成税制に関する議論の場では、時々、「平成18年度税制改正から理論や考え方がよく分からなくなった」という声を耳にします。
近年の組織再編成税制の理論や体系が分かり難くなった原因が何かということを分かり易く整理してご教授願えませんでしょうか。
要 旨
【マエストロの解説】
組織再編成税制の理論と体系が分かり難くなった主な原因となっていると考えられる改正項目を示すと、平成18年度税制改正によって行われた増資の場合の資本金等の額の増加額に関する改正と「資産調整勘定」の創設、平成22年度税制改正によって行われたみなし配当事由による株式譲渡に係る譲渡利益額又は譲渡損失額の益金又は損金不算入、「適格現物分配」の創設、分割型分割におけるみなし事業年度の廃止、無対価分割の適格判定の取扱いとなる。
これらの資本等取引や組織再編成に関する改正項目には、法人税の考え方や理論からすると、一部、疑問のある部分があり、これらが近年の組織再編成税制の理論と体系を分かり難くしているものと考えられる。
組織再編成税制は、平成13年度税制改正によって創設したものであるが、商法・会社法や企業会計において組織再編成に関する統一的な取扱いが示されていない中にあって、組織再編成に関する法人税法における取扱いを税の観点から理論的かつ体系的に示したものとなっていた。この点に関しては、異論はないものと考えられる。
しかし、現在の組織再編成税制に関しては、ご質問にもあるとおり、理論や体系が崩れて分かり難くなったという指摘が少なくない。
その原因は、いくつかの観点から分析が可能であるが、改正項目に着目して原因を探ってみると、平成18年度税制改正と平成22年度税制改正に行き着くこととなる。この両年度の改正において改正された項目で、現在の組織再編成税制の分かり難さの原因となっていると考えられる主なものは、冒頭に記したとおりである。
これらの項目の問題点を探ることは、単に近年の組織再編成税制の分かり難さの原因を知るというだけでなく、今後の組織再編成税制の在り方を考える上でも、非常に重要である。
1 平成18年度税制改正の改正項目で分かり難さの原因となっているもの
(1)増資の場合の資本金等の額の増加額に関する改正
組織再編成税制は、資本等取引税制を基礎として成り立っており、平成13年度税制改正においても、資本積立金額や利益積立金額に関する抜本改正を行った上で組織再編成税制が創られた。
これは、即ち、資本等取引税制の理論や体系が崩れると組織再編成税制の理論や体系にも影響が出てくる、ということを意味している。
近年の組織再編成税制の理論や体系の問題の発端とも言うべきものは、平成18年度税制改正における増資の場合の資本金等の額の増加額に関する改正である。
この改正は、法人税法施行令8条1項1号(増資の場合の資本金等の額の増加額)の規定を創設することによってなされたものである。この規定は、平成18年度税制改正後も現在と殆ど変っていないため、現在の規定を引用すると、次のとおりである。
一 株式(出資を含む。以下第十号までにおいて同じ。)の発行又は自己の株式の譲渡をした場合(次に掲げる場合を除く。)に払い込まれた金銭の額及び給付を受けた金銭以外の資産の価額その他の対価の額に相当する金額からその発行により増加した資本金の額又は出資金の額(法人の設立による株式の発行にあつては、その設立の時における資本金の額又は出資金の額)を減算した金額
イ~リ 省略
この規定は、増資が行われた場合に増加させる資本金等の額に関する定めとなっている。
この規定によれば、金銭で増資の払込みを行った場合には「払い込まれた金銭の額」に相当する金額だけ資本金等の額を増加させればよく、金銭以外の資産で払込みを行った場合には「資産の価額」に相当する金額だけ資本金等の額を増加させなければならない、ということになる。
この「資産の価額」とは、改めて言うまでもないが、資産の時価を意味する。
すなわち、この規定は、金銭で増資の払込みをする場合には、時価取引をする必要はなく、金銭以外の資産で増資の払込みをする場合には時価取引をする必要がある、というものとなっているわけである。
この改正前は、資本等取引も、損益取引と同様に、時価によって取引を行うべきであるという考え方が採られていた。
組織再編成においては、資産・負債や株式の取引が行われるわけであるが、創設時の組織再編成税制は、これらの資産・負債や株式の取引が時価によって行われることを前提として、原則と特例の取扱いを定めるものとなっていたわけである。
この改正に関しては、改正の理由や考え方を明示したものは見受けられないが、『平成18年度税制改正の解説』(財務省)においては、次のとおり、この改正が会社法の取扱いに合わせたものであることを窺わせる記述が注記に存在する。
「(注)会社法では、株式について発行価額という概念がなくなり、株主となる者が会社に対して払込み又は給付をした財産の額をもって増加する資本金の額及び資本準備金の額が決定されることとなりました。」(248頁)
また、納税者の実務を考えてみると、このような改正を行えば、金銭で増資の払込みを行った場合にはその払込金額が時価と比べて低かったり高かったりするという指摘を受けないこととなるため、好都合ということにはなる。
このように、この改正に関しては、会社法における取扱いとの整合性や実務の事情からすると、首肯できる部分があるわけであるが、税制度の在り方としては、多分に疑問を残すものとなっている。
平成13年度税制改正によって創設した組織再編成税制は、資産・負債や株式の時価評価を広く採り入れた制度となっているわけであるが、これは、我が国においても、これらの時価評価を普段に行い得るようにすることで、組織再編成はもとより、営業権や知財等の企業の無形資産の取引を活発化させることが我が国の企業活動の活性化のために必須である、という観点に立って改正を行ったことによるものである。
法人税法の改正に当たっては、会社法の取扱いや実務の都合を考慮すべきことは当然であるが、法人税制の改正をどのような観点に立って行うのかということを確認し、法人税制として筋を通すべきところは筋を通すことが必要である。
(2)資産調整勘定の創設
平成18年度税制改正においては、周知のとおり、「負債調整勘定」とともに、「資産調整勘定」の仕組みが創設された。
この仕組みの創設理由に関しては、『平成18年度税制改正の解説』(財務省)において、次のように説明されている。
「 この企業結合会計基準等では、個々の資産や負債の取得価額については個別時価を付すとともに、これらの合計額と取得対価との間に生ずる差額を「(差額)のれん」として計上することとされています。
このような中で、これまでの非適格組織再編成や営業譲受けに係る実務的な取扱いの状況や上記の企業結合会計基準等における取扱いなどを勘案し、今回の税制改正において、非適格組織再編成や営業譲受けの場合の取扱いの明確化を図ることとされたものです。」(366頁)
周知のとおり、従来から、法人税制においては、「のれん」に対応するものは「営業権」とされてきているため、上記のような理由によって「資産調整勘定」というようなものを設けるということになると、当然、「営業権」との関係をどのように整理するのかということが問題となる。この点は、非適格合併等における交付金額と時価純資産価額の差額として設けられた「資産調整勘定」の規定(法法62の8①)を見れば、明らかである。
しかし、この「資産調整勘定」の創設に際しては、次の『平成18年度税制改正の解説』(財務省)の説明からも分かるとおり、「営業権」との関係をどのように整理するのかという検討が行われておらず、「営業権」のうちの「独立した資産として取引される慣習」(法令123の10③)のないものと「資産調整勘定」とが重複する状態となっている。
「 なお、これによって営業権の一般的な概念を画したものではなく、あくまで、差額概念である資産調整勘定(あるいは差額負債調整勘定)を算定するためのものであるということに留意しておく必要があります。」(367頁)
また、規定上も、この「資産調整勘定」は「資産」であるのか否かということが明らかではなく、例えば、法人税法62条の8第9項1号(適格合併において引き継ぐ資産調整勘定及び負債調整勘定)において被合併法人の資産調整勘定の金額を合併法人に引き継ぐとしていることから、62条の2第1項(適格合併及び適格分割型分割による資産等の帳簿価額による引継ぎ)における「資産」には「資産調整勘定」が含まれないと解さざるを得ないが、合併法人の資本金等の額の増加額に関して定めた法人税法施行令8条1項5号(合併法人の資本金等の額の増加額)における「資産」には「資産調整勘定」が含まれると解さざるを得ない状態となっている。
確かに、この「資産調整勘定」は、「企業会計と比較的調和のとれた取扱いとなる」(同前366頁)ものであり、実務においても、差額概念として捉えれば、「営業権」のように、評価額の適正さが問題となる可能性が低くなり、好都合ということになることは、間違いない。
しかし、「資産調整勘定」のように「営業権」と重複することが明らかな仕組みを設けるということであれば、「営業権」の取扱いを再検討し、「営業権」と「資産調整勘定」との関係をどのように整理するのかということを検討することが、当然、必要となる。
このように、当然に必要となる検討を行わずして新たな仕組みを創るということになれば、制度が疑問のあるものとなることは避けられず、「制度が分かり難い」といった声が出ることとなるのも止むを得ない。
法人税制の改正は、法人税制としてどのような仕組みが適切であるのかということを追求して行うべきものである。
我が国においては、形のあるものに価値を認め、形のないものには価値を認めない、という傾向が顕著であり、米国などと比べると、事業価値評価において無形資産の評価額が非常に低すぎる、と言われている。
このような中にあっては、「営業権」やこれに類する無形資産の評価を行わなくても済むという税制を創るのではなく、これらの無形資産の評価を行わなければならないという税制を創った上で、さまざまな評価の試みを容認することを考慮するべきである。我が国の組織再編成税制は、創設後の数年間の国税庁の寛容な対応によって、広く利用されるようになり、我が国の企業の再生等に大きく貢献することとなったわけであるが、このような対応も含めて、対応策を考慮してよいものと考える。
2 平成22年度税制改正の改正項目で分かり難さの原因となっているもの
(1)みなし配当事由による株式譲渡に係る譲渡利益額又は譲渡損失額の益金又は損金不算入
平成22年度税制改正においては、完全支配関係法人間でみなし配当事由によって生ずる株式の譲渡利益額又は譲渡損失額に相当する金額を益金又は損金不算入とする制度(法法61の2⑯)が創設されている。
この制度は、株式の譲渡を行って譲渡利益額又は譲渡損失額が生ずる場合であってもそれらを永久に益金又は損金に算入させないというものであり、かつて法人税制には存在したことのない制度である。
「所得」に課税をする税制においては、投資の全部又は一部が終了した場合にはその終了した投資によって生じたキャピタルゲインやキャピタルロスを計上させる必要があり、この点に異論はないはずである。この所得課税の原則を変えるということであれば、法人税における「所得」とはどのようなものかということを十分に議論し、原則を変える理由を明確にする必要がある。
しかし、この株式の譲渡利益額又は譲渡損失額に相当する金額を益金又は損金不算入とする制度に関しては、その適用範囲が完全支配関係法人間に限られていることからも明らかなとおり、理論的にその妥当性を説明することが困難である。
また、この制度においては、株式の譲渡利益額又は譲渡損失額に相当する金額を資本金等の額の増加額又は減少額として処理することとされているが(法令8①十九)、株主との取引がないにもかかわらず、資本金等の額を増加させたり減少させたりすることの妥当性を理論的に説明することも、困難である。
この制度が、租税回避防止の観点から設けられた事情は理解できるものの、この制度が防止しようとした行為は、本来は、みなし配当の益金不算入の仕組みの問題として対応するべきものであって、現に生じた株式の譲渡利益額又は譲渡損失額を益金又は損金に算入させないことによって対応するべきものではない、と考えられる。
みなし配当の益金不算入の仕組みの問題として対応するということであれば、株主との取引がないにもかかわらず資本金等の額を増加させたり減少させたりするといったことにもならない。
ところで、近年の組織再編成税制の分かり難さは、改正の内容に原因があるだけでなく、改正の理由の説明にも原因があると考えられる。近年の改正に関しては、そもそも改正の根拠に疑問があるという声が聞かれるものがある。
この制度に関しては、特に、次の引用部分について、「「手仕舞い型の組織再編成」という新たな概念を作ったのか?」「「手仕舞い」をするものは譲渡損益を計上するべきものではないのか!」「子会社株式の取得と自己株式の取得は全く異なる行為である!」「「組織再編成」や「資本金等の額」の捉え方を変えたのか?」というような声が多く聞かれた。
「 このように譲渡損益相当額を資本金等の額にチャージする理由については、次の点によります。
(イ)従前より株主の旧株の譲渡損益課税が行われない合併又は分割型分割で被合併法人又は分割法人の株主を合併法人又は分割承継法人とするもの、すなわち手仕舞い型の組織再編成において、実質的にその株主において旧株の譲渡損益相当額が資本金等の額にチャージされていたところ、みなし配当事由による発行法人株式の譲渡及び発行法人からの金銭等の取得も、これらに準ずる一種の手仕舞い型の取引であることから、これらと整合性をとる必要があること
(ロ)他の者からの株式の取得による子法人化は、自己と子法人を一体としてみれば、一種の自己株式の取得に該当するが、旧株主に対して配当課税が行われていないので、それは資本金等の額を原資として取得したのと同様の課税が行われていたとも考えられるところ、子法人と一体化するのを機に後追い的に資本を調整するものであること(すなわち、親法人と子法人を一体的なものとして、資本をみようとするものともいえます。)」(同前236頁)
かつて、筆者も、法人税制の立法に携わり、改正の解説を起稿してきたが、特に、平成22年度税制改正の解説に関しては、意味を理解しかねる部分や疑問を感ずる部分などがいくつか存在する。
(2)「適格現物分配」の創設
平成22年度税制改正においては、組織再編成税制の中の組織再編成に「現物分配」と呼ぶものを加える改正も行われている。そして、この「現物分配」のうち、一定の要件に該当するものを「適格現物分配」と呼び、移転する資産の譲渡利益額又は譲渡損失額の計上を繰り延べることとされている。
しかし、この「現物分配」は、組織再編成ではなく、資本等取引であって、本来は、組織再編成税制としてではなく、資本等取引税制として、その取扱いを検討するべきものである。
「適格現物分配」においては、法人において課税を行わずに「所得」を株主に分配させたり(交付する資産に含み益がある場合)、実際には「所得」の分配が行われていないにもかかわらず「所得」を株主に分配したこととさせたり(交付する資産に含み損がある場合)することとなるが、このような取扱いには疑問がある。
法人税法においては、株主から元手を得て事業を行い、その事業の成果を株主に分配するものを「法人」と見て、その成果である「所得」を株主に分配する前にその「所得」に課税を行って一部を国に納付させるものを「法人税」と考えており、法人において課税を行わずに「所得」を株主に分配させたり、実際には「所得」の分配が行われていないにもかかわらず「所得」を株主に分配したこととさせたりすることは、予定されていない。
この「現物分配」「適格現物分配」の制度は、そもそも所得課税としての法人税法において妥当と言えるのか、という疑問が生じて来ざるを得ないわけである。
この「現物分配」「適格現物分配」の制度の創設の理由は、次のように説明されている。
「 子法人から親法人への現物資産の移転については、合併、分割という方法を用いれば簿価引継ぎとなる一方、配当、残余財産の分配という方法を用いれば譲渡損益課税が行われ、手段によって課税上の取扱いが異なることとなっていたところです。今回の改正の共通項であるグループ法人の実質的な一体性に着目すれば、グループ法人間の現物分配の場合にも、資産の譲渡損益はいまだ実現していないものと考えられることから、現物分配による資産の譲渡損益課税の繰延べ制度が措置されたものです。」(財務省『平成22年度 税制改正の解説』210頁)
上記の説明によれば、次の二つが創設の理由ということになる。
第一は、子法人から親法人への現物資産の移転については、「合併、分割という方法」を用いれば簿価引継ぎとなるが、「配当、残余財産の分配という方法」を用いれば譲渡損益課税の対象となり、現物資産の移転の手段の違いによって課税上の取扱いが異なるのはよくないため、後者を前者に合わせることとした、ということである。
第二は、「グループ法人の実質的な一体性に着目」し、「グループ法人間の現物分配の場合にも、資産の譲渡損益はいまだ実現していないものと考えられることから、現物分配による資産の譲渡損益課税の繰延べ制度が措置された」ということである。
この第一の理由に関しては、そもそも、「配当、残余財産の分配という方法」による資産の移転の取扱いを検討する場合に、どのような方法による資産の移転と比較するのかという点から、疑問がある。
子法人から親法人への資産の移転で最も多いのは、譲渡による移転であり、稀に合併や分割による移転がある、という状態にあることは、周知のとおりである。そして、従来から、「配当、残余財産の分配という方法」による資産の移転は、譲渡による移転とされてきた。
このため、「配当、残余財産の分配という方法」による資産の移転の取扱いを検討するに当たっては、譲渡という方法による移転と「合併、分割という方法」による移転の双方と比較してそのあり方を検討するのが、通常の検討の仕方となる。税制改正においては、旧制度における取扱いと新制度における取扱いの比較検討を行わずして新制度を採用するといったことは、通常、行われない。
「配当、残余財産の分配という方法」による資産の移転を従来どおり譲渡としたままであったとすると、どうなるのかということを考えてみると、子法人では、一旦、資産の譲渡損益が計上されることとなるものの、完全支配関係にある法人間の資産の移転ということになるため、その資産のうち、譲渡損益調整資産に該当するものについては、実質的に譲渡損益の計上が繰り延べられることとなる。
すなわち、完全支配関係にある法人間で資産の移転が行われた場合にその譲渡損益の計上を繰り延べるという観点に立って措置されている法人税法61条の13(完全支配関係がある法人の間の取引の損益)の適用により、譲渡損益の計上が繰り延べられることとなるわけである。
このような点からすれば、「配当、残余財産の分配という方法」による資産の移転に関しても、従来どおり、譲渡とし、完全支配関係にある法人間で資産の移転が行われた場合にはその譲渡損益の計上を繰り延べるという観点に立って措置されている法人税法61条の13の適用対象とするということが、理論的にも正しい対応であると考えられる。
また、上記引用の理由の前段では「配当、残余財産の分配という方法」による資産の移転を「合併、分割という方法」による移転と比較して前者の方法による移転の特例の必要性を説明しているものの、前者の方法による移転の特例は、その制度の構造が後者の方法による移転の特例とは根本的に異なっている。すなわち、「合併、分割という方法」による移転において資産の譲渡損益の計上が繰り延べられるのは、合併や分割が「100%グループ内の組織再編成」、「50%超100%未満のグループ内の組織再編成」又は「共同事業を営む場合の組織再編成」という三つの枠組みの各要件に合致した場合だけであるが、「適格現物分配」には、そもそもこのような枠組みと要件が存在しない。
次に、上記の第二の理由を見てみると、これについても疑問が湧いてこざるを得ない。
上記引用の後段においては、既述のとおり、「グループ法人の実質的な一体性に着目」し、「グループ法人間の現物分配の場合にも、資産の譲渡損益はいまだ実現していないものと考えられること」を理由として、このような取扱いとした、とされている。
しかし、グループ法人の実質的な一体性に着目してグループ法人間の資産の譲渡損益は譲渡の時点では未だ実現していないものと考えられることから措置されたものは、法人税法61条の13である。
このため、上記引用の後段の理由がこのような取扱いをする理由であるということであれば、「配当、残余財産の分配という方法」による資産の移転を従来どおりに譲渡として法人税法61条の13を適用するのが正しい対応ということになる。
その他にも、「現物分配」「適格現物分配」を組織再編成と位置付けるとしながら、資産を単独で移転するものを「適格現物分配」とし、事業を移転するものは「適格現物分配」とはしないという解説(『平成22年度 税制改正の解説』211頁)がなされていたり、株主が「内国法人のみ法法2十二の十五)でなければ「適格現物分配」とはしないとされていたりするなど、この制度は、その仕組みにおいても、本来の組織再編成税制とは大きく異なるものとなっている。
このように、その理論や内容に疑問がある制度は抜本的な見直しが必要である、と考える。
(3)分割型分割におけるみなし事業年度の廃止
平成22年度税制改正においては、分割型分割におけるみなし事業年度が廃止されている。
この改正の理由は、次のように説明されている。
「 平成18年度改正で資本金等の額の意義が「法人が株主等から出資を受けた金額」(法法2十六)と明らかにされたことからすれば、株主等から出資を受ける行為でない場合には資本金等の額は増加させないこと、及び将来利益の払戻しはありうるが将来資本の払戻しはありえないこととなり、この考え方を踏まえ、資本の部の引継額の計算のあり方を考えると、まず資本金等の額の引継額を計算し、移転純資産の帳簿価額から資本金等の額を減算した金額を利益積立金額の引継額とすることが適当であると考えられます。そこで、このみなし事業年度を廃止し、適格分割型分割が行われた場合の利益積立金額及び資本金等の額の引継額は、先に資本金等の額の引継額を計算する構成とされました。
これにより、従来から指摘があった、分割型分割が行われた場合のみなし事業年度の設定により仮決算・申告を行う必要があり、事務負担が過重となっているということが解決されることにもなります。」(同前297頁)
この前段の説明は、「平成18年度改正で資本金等の額の意義が「法人が株主等から出資を受けた金額」(法法2十六)と明らかにされたことからすれば、株主等から出資を受ける行為でない場合には資本金等の額は増加させないこと……を考えると、まず……」という文章となっていると解される。
<備考>
ここで指摘されているように、「資本金等の額」(平成18年度税制改正前は「資本の金額」と「資本積立金額」)は、明治32年に法人税が創設されて以来、「法人が株主等から出資を受けた金額」とされてきたが、それは、平成22年度税制改正前までであり、同改正において、みなし配当が生ずる際の株式の譲渡利益額・譲渡損失額に相当する金額を資本金等の額としたことで、(1)で述べたとおり、その法人税の創設以来の整理が不分明となっている。
この前段の説明は、「株主等から出資を受ける行為」がないことから分割承継法人において資本金等の額を増加させることは正しくないということを述べているものと思われるが、合併と分割型分割は、分社型分割や現物出資とは違って、被合併法人と分割法人の株主も当事者となる組織再編成であり、株主が合併法人の株式と分割承継法人の株式を取得するという行為があるため、平成13年度の組織再編成税制の創設の際には、合併法人と分割承継法人において資本金等の額を増加させるものとされていた。
すなわち、上記の「……増加させないこと」は、「まず資本金等の額の引継額を計算」することとする理由とはならないわけである。
また、上記の説明文の構造からすると、「及び将来利益の払戻しはありうるが将来資本の払戻しはありえないこととなり、この考え方を踏まえ、資本の部の引継額の計算のあり方を考えると」という部分も、「まず資本金等の額の引継額を計算」することとする理由とされているが、この部分に関しては、そもそも文章の意味が明らかではない。
また、上記の説明文の後段においては、「これにより、従来から指摘があった、分割型分割が行われた場合のみなし事業年度の設定により仮決算・申告を行う必要があり、事務負担が過重となっているということが解決されることにもなります」とされているが、二十数個に及ぶ「みなし事業年度」においては、従来から、会社法等に事業年度がないにもかかわらず、税制において仮決算・申告を求めてきており、資本等取引税制や組織再編成税制の理論を崩してまで分割型分割におけるみなし事業年度のみを廃止しなければならない事情は存在しない、と考えられる。
組織再編成税制においては、分割は、合併と現物出資の間にあり、分割型分割は「部分合併」という性格を有し、分社型分割は現物出資と近似すると捉えつつ、税制上の組織再編成は、法人に加えて株主等も当事者となる合併・分割型分割と法人のみが当事者となる現物出資・分社型分割とに分けて捉えることとされてきた。
このように、組織再編成税制においては、分割型分割と分社型分割との間に組織再編成を大きく分かつ分水嶺があると捉えて組織再編成に係る取扱いを整理しており、このために、合併と分割型分割に関してはその理論と制度に共通性があり、他方、分社型分割と現物出資に関してはその理論と制度に共通性がある、ということになっていたわけである。
平成22年度税制改正においては、このような組織再編成税制における組織再編成の全体の整理を改める内容の改正を行っているわけであるが、このような改正を行う場合には、本来は、組織再編成の全体をどのような理論でどのように整理することとしたのかということを説明する必要がある。
また、この分割型分割におけるみなし事業年度の廃止に伴って、適格合併・適格分割型分割において、利益積立金額ではなく、資本金等の額を合併法人・分割承継法人に引き継ぐこととせざるを得なくなり、その結果、被合併法人・分割法人、その株主、合併法人・分割承継法人における取扱いが理論的に説明できない状態となってしまっていることにも、課題があると言わざるを得ない。平成22年度税制改正前の組織再編成税制においては、法人に加えてその株主等も当事者となる適格合併と適格分割型分割の場合には、法人間で資産・負債・利益積立金額が引き継がれ、資本の金額・資本積立金額(資本金等の額)は、株主等の投資先の変更の処理に伴って減少したり増加したりする、と整理されていた。
平成22年度税制改正前の組織再編成税制においては、法人と株主等との間の取引があれば資本金等の額は減少したり増加したりすることとなり、また、法人間で課税関係を継続させるという観点からすると、過去の課税済み金額を引き継がせるとともに資産・負債の帳簿価額を引き継がせて将来の課税の担保も引き継ぐべきである、という考え方が採られていた。
ところが、平成22年度税制改正においては、分割型分割におけるみなし事業年度の廃止と同時に、この利益積立金額と資本金等の額の関係を逆転させ、適格合併・適格分割型分割において、法人間で資本金等の額が引き継がれ、双方の法人において利益積立金額が減少したり増加したりする、とされている。
このように改正を行った理由の説明は、上記(2)において、『平成22年度 税制改正の解説』から引用した部分となっている。
この部分に関しては、「将来」の話が被合併法人の過去の課税済み留保である利益積立金額を引き継ぐのか否かという問題にどのような関係があるのかということが説明されておらず、また、上記(2)においても述べたとおり、そもそも文章の意味が明らかでないため、検討を深めることが困難である。
適格合併・適格分割型分割においても、被合併法人・分割法人の株主は被合併法人・分割法人との間で被合併法人株式・分割法人株式と合併法人株式等・分割承継法人株式等の取引を行うわけであり、この取引をどのように処理するのかということが問題となるが、被合併法人・分割法人の資本金等の額が合併法人・分割承継法人に引き継がれるとすることになれば、被合併法人・分割法人は、その株主との間で行うこの取引について、利益積立金額を減少させて合併法人株式等・分割承継法人株式等を交付するという配当と同様の処理を行う他なく、他方、株主においては、この場合においても、配当を受ける処理は行わず、旧株式を消滅させて、新株式を取得するという処理のみを行うということになり、被合併法人・分割法人の処理とその株主の処理との関係が理論的に説明できなくなってしまう。
このように、適格合併・適格分割型分割において、被合併法人・分割法人から合併法人・分割承継法人に引き継ぐこととするべきものは、本来は、資本金等の額ではなく、利益積立金額であると考えられるわけであるが、この平成22年度税制改正の結果、被合併法人・分割法人の処理と被合併法人の株主・分割法人の株主の処理とを切り離して、これらの二つの処理は整合性がなくてもよい、と説明せざるを得ない状態が生じている。
(4)無対価分割の適格判定の取扱い
平成22年度税制改正においては、無対価分割をはじめとする無対価組織再編成に関する適格判定の基準が法令に規定された。
従来から、無対価組織再編成に関しては、特に無対価分割について、その取扱いが明確でないという指摘がなされてきたところであり、平成22年度税制改正による無対価組織再編成における適格判定の基準の明確化は、評価するべき改正と言ってよい。
ただし、その改正の内容には、疑問がある。
平成22年度税制改正における無対価組織再編成の適格判定の基本的な考え方は、「株主における株式の価値の変動」に着目し、その変動がないものを適格とし、その変動があるものを非適格とする、というものとなっている。
このような考え方は、従来の組織再編成税制における適格判定には存在しないものである。
従来は、組織再編成において株主の株式の価値に移動があれば寄附金税制によって対応するべきであると考えられており、組織再編成が適格か否かという判定は、株主の株式の価値の変動の有無とは関係なく行うものとされていた。
このため、従来は、組織再編成が適格であっても非適格であっても寄附金税制の適用があり得るとされており、有対価組織再編成においては、現在も、この点に変更はない。
要するに、組織再編成税制と寄附金税制は、それぞれの目的が異なることから、両者の取扱いを混同しないようにする必要があり、現在も、組織再編成税制はそのような考え方を基本としている、と言ってよい。
このような点を踏まえて、平成22年度税制改正による無対価組織再編成の適格判定の改正を見てみると、組織再編成税制と寄附金税制の相違の認識が十分でない、と言わざるを得ない。組織再編成税制の中に寄附金税制の考え方を持ち込んでしまうと、組織再編成税制の理論が歪み、取扱いの整合性が無くなってしまうこととならざるを得ない。
また、平成22年度税制改正による無対価組織再編成の適格判定の改正に関しては、有対価組織再編成の適格判定とは異なり、何故、株主に着目して判定することとしたのか、という疑問も存在する。
従来から、組織再編成税制においては、法人の取扱いと株主の取扱いは区別することとされており、適格か非適格かという法人における取扱いを株主に着目して判定することとはされていない。
組織再編成税制においては、法人と株主をどのように位置付けるのかということは、非常に重要であり、無対価組織再編成において、法人と株主の位置付けを有対価組織再編成におけるそれとは異なるものとする、ということであれば、その根拠を明確に説明する必要がある。
最後に
平成18年度税制改正から22年度税制改正までの改正事項に関しては、「役員給与」に関する取扱いや「グループ法人税制」の取扱いなどに疑問点が存在しているが、上記1及び2において述べたような疑問点も存在する。
(注)上記2の項目を含む平成22年度税制改正の大半の改正事項は、「グループ法人税制」における完全支配関係法人間の取扱いとして定められたものであるが、この「グループ法人税制」と呼ばれるものに関しては、相互に12親等も離れた株主が株式を保有する法人同士が「グループ法人」とされてこれらの取扱いの適用を受けることとなっているなど、個々の取扱いに止まらない疑問が存在しているため、その全体の基本的な考え方や仕組みから抜本的な再検討を行うのが適当と考えられる。
これらの疑問点が現在の法人税法の分かり難さの主たる原因となっているものと思われる。
今後は、これらの疑問点について検討を行うことが必要となるものと考えられる。
ただし、現在の法人税法が制定された昭和40年当時と現在とでは、企業活動も、企業を取り巻く環境も、非常に大きく変わっているため、会社法の例に倣い、法人税法も、全文改正を視野に入れた対応が求められる状況となっている、と考えられる。
今後、法人税法においては、平成18年度税制改正の改正事項から再検討を始めて全文改正に繋げる取組みが必要となるものと考える。