※T&Amaster(ロータス21)2014.02.17 No.535に掲載
当社は、先日、A社を吸収合併しました。このA社は、業績があまり良くなかった事情もあり、減価償却資産に減価償却を行っていないものがありました。また、A社は、過去に棚卸資産を過大計上し、その過大計上額がそのまま残っていることも判明しました。この棚卸資産の過大計上に関しては、評価額の計算方法の選択の問題であるという主張も可能であると思われますが、仮装経理という指摘を受けるおそれもあると考えております。
当社の合併に関しては、企業会計上、パーチェス法による「取得」の処理が求められるため、この減価償却を行っていなかった減価償却資産については、その未償却額を控除した金額(時価)で受け入れており、棚卸資産の過大計上額については、受け入れていません。
これらの金額は、税法上、どのように処理することとなるのか、ご教授をお願い致します。
なお、上記の点に関しては、企業会計上の「修正再表示」をする予定はなく、また、本件の合併は、税法上の適格合併の要件に該当しています。
要 旨
【マエストロの解説】
被合併法人であるA社の減価償却資産の未償却額に相当する金額に関しては、貴社の過年度償却超過額とみなして、合併事業年度以後の各事業年度の申告において、償却限度額の範囲内で減算して損金の額としていくこととなる。
A社の過去の棚卸資産の過大計上額に関しては、その過大計上が更正期限(5年)内に行われている場合には、法人税法129条1項(仮装経理に基づく過大申告の場合の更正に関する特例)の「修正の経理」の範囲を広げて解釈することにより、減額更正が可能と考える。
なお、企業会計上の処理に関しては、以下に記載するものとは異なる処理を行うことがあるものと思われるが、そのような処理が行われる場合には法人税法上の処理も異なってくるということを予め確認しておくこととする。
1 被合併法人における減価償却資産の未償却額の取扱い
適格合併においては、税法上、被合併法人の減価償却資産は、その帳簿価額によって合併法人に引き継ぐものとされている(法法62の2①、法令123の3①)。
このため、企業会計上、合併法人が時価によって被合併法人の減価償却資産を取得する処理を行っているとしても、税法上は、帳簿価額によって引継ぎを受ける処理を行わなければならない。
適格合併の場合には、合併法人の減価償却資産に係る過去の損金経理額には、被合併法人の最後事業年度(合併の日の前日に終了する事業年度)以前の各事業年度における損金経理額のうち損金の額に算入されなかった金額(過年度償却超過額)が含まれるものとされている(法法31④)。
そして、企業会計上、合併法人が適格合併において被合併法人の減価償却資産の帳簿価額を減額して取得する処理を行っている場合には、その減額部分を合併法人の過年度償却超過額とみなすこととされている(法法31⑤、法令61の4一)。これは、例えば、税法上は適格合併とされて被合併法人の減価償却資産の帳簿価額による引継ぎを行わなければならない合併において、企業会計上、その被合併法人の減価償却資産について合併法人が評価額を下げて受け入れると、その評価額を下げた部分に関する損金経理を行い得ない状態となることに配慮したものである。
このように、適格合併においては、企業会計上の減価償却資産の評価引下げ額が過年度償却超過額とみなされるため、貴社が被合併法人から引継ぎを受けた減価償却資産の未償却額に相当する金額は、合併事業年度以後の各事業年度において、貴社の過年度償却超過額と同様に取り扱うこととなる。
具体的には、減価償却資産の企業会計上の帳簿価額(A社が本来の減価償却を行っていたと仮定した場合の帳簿価額であり、合併時のその減価償却資産の時価とされた金額)をもとに減価償却費を費用の額として計上し、法人税の申告の際に、その減価償却資産の税法上の帳簿価額(A社におけるその減価償却資産の合併の直前の帳簿価額と同じ金額)をもとに減価償却費の額を計算してその減価償却費の額から費用の額として計上した減価償却費の額を控除した残額について、申告書別表4(所得の金額の計算の明細書)において所得の金額から減算することとなる。
この税務処理は、毎期、過年度償却超過額が無くなるまで続けることとなる。
2 被合併法人における棚卸資産の過大計上額の取扱い
A社は「棚卸資産を過大計上していた」ということであるが、質問の文面からから推測すると、この棚卸資産の過大計上額に関しては、法人税法129条1項の「事実を仮装して経理した」金額に該当するという指摘を受けて、税務処理において、仮装経理に伴う特殊な問題が生じてくる可能性があるものと考えられる。
このため、以下、A社の棚卸資産の過大計上が仮装経理に該当するという前提に立ち、税務処理に関する解説を行うこととする。
この場合の税務処理は、A社が初めて棚卸資産を過大計上した事業年度が更正の期間制限(5年)の前であるのか、あるいは、後であるのかによって異なるため、次のとおり、二つの場合に分けて解説を行うこととする。
(1) 初めて棚卸資産を過大計上した事業年度が更正の期間制限(5年)前である場合
A社が初めて棚卸資産を過大計上した事業年度の法人税の申告期限が更正の期間制限(5年)前である場合には、そもそもその事業年度の所得の金額を減額する更正を行うことができない。
仮装経理に基づく過大申告を行っていた場合には、法人税法129条1項(仮装経理に基づく過大申告の場合の更正に関する特例)の適用があり得るが、仮装経理に基づく過大申告を行っていた事業年度の申告期限が更正の期間制限前である場合には、当然、同項の適用もない。
① A社の最後事業年度
A社の最後事業年度の財務諸表の作成及び法人税の申告は、合併法人である貴社が行うこととなるため、貴社においては、まず、このA社の最後事業年度の会計処理と税務処理をどのように行うのかということが問題となるものと考えられる。
貴社においては、A社の最後事業年度の財務諸表の作成時までに棚卸資産が過大となっている事実を把握した場合には、A社の最後事業年度の財務諸表において棚卸資産の残高を減額するはずである。
しかし、貴社がA社の最後事業年度の財務諸表の作成後に棚卸資産が過大となっている事実を把握したという場合には、A社の最後事業年度の財務諸表において棚卸資産の残高は減額されないままとなっているはずである。
また、貴社がA社の最後事業年度の法人税の申告後に棚卸資産が過大となっている事実を把握したという場合には、A社の最後事業年度の財務諸表と法人税申告書のいずれにおいても棚卸資産の残高の減額の処理は行われないままとなっているはずである。
以下、①においては、次のイからハまでの3つのケースを想定して解説を行うこととする。
イ 最後事業年度の財務諸表において棚卸資産の残高を減額しているとき
A社の最後事業年度の財務諸表において、過去に過大計上して残っていた棚卸資産の金額を減額して期末の棚卸資産の残高としているというような場合には、棚卸資産の額と利益剰余金の額は正しく計上されることとなるが、最後事業年度の利益の額が正しい金額よりも少なく計上されることとなるため、最後事業年度の法人税の申告においては、所得の金額を増加させる申告調整が必要となる。
この税務処理を正しく行おうとすると、まず、A社が初めて棚卸資産を過大計上した過去の事業年度の申告書別表5(1)Ⅰ(利益積立金額の計算に関する明細書)に、「棚卸資産」のマイナスの金額を表示することとなる。
そして、その後の事業年度においては、毎年、申告書別表5(1)Ⅰの欄でその過大計上額の洗い替え処理を行い、最後事業年度においては、申告書別表4において所得の金額にその過大計上額に相当する金額を加算するとともに申告書別表5(1)Ⅰの期首の「棚卸資産」のマイナスの金額に同額を加算して残額をゼロとすることになる。
過去の事業年度において棚卸資産の残高と利益積立金額の多寡による税額への影響がない場合には、最後事業年度の申告書別表5(1)Ⅰの期首に「棚卸資産」のマイナスの金額を追加記載した上で、上記の申告書の処理を行うことでも足るものと考えられる。
このケースにおいては、A社のいずれの事業年度の法人税も減少することはなく、結果的には、初めて棚卸資産を過大計上した過去の事業年度の法人税を過大に納付しただけということになる。
ロ 最後事業年度の財務諸表において棚卸資産の残高を減額していないとき
A社の最後事業年度の財務諸表において、過去に過大計上して残っていた棚卸資産の金額を減額しないで期末の棚卸資産の残高に含めている場合には、最後事業年度の利益の額自体は正しく計上されているため、最後事業年度の法人税の申告においては、所得の金額を増加させる必要はなく、棚卸資産の期末の残高の減額のみを行えば済むこととなる。
この税務処理は、過去の事業年度に関しては上記イの場合と同様であるが、最後事業年度に関しては、上記イの場合のように所得の金額を増加させる申告調整は行わない。
具体的には、最後事業年度の申告書別表5(1)Ⅰにおいて、上記イの場合の過去の事業年度の申告書別表5(1)Ⅰの処理と同様の処理を行い、「棚卸資産」のマイナスの残額を残したまま、合併法人である貴社の申告書別表5(1)Ⅰに引き継ぐこととなる。
ハ 最後事業年度の財務諸表と法人税申告書のいずれにおいても棚卸資産の残高を減額していないとき
最後事業年度の法人税の申告の後に棚卸資産が過大計上されている事実を把握したというような場合には、当然のことながら、最後事業年度の財務諸表と法人税申告書のいずれにおいても、この棚卸資産に関する処理は行われない。
② 貴社の合併事業年度
貴社の合併事業年度の会計処理と税務処理は、A社の最後事業年度の会計処理と税務処理をどのように行ったのかによって違ってくる。
イ 上記①イのケース
上記①イのケースにおいては、棚卸資産の過大計上に関する会計処理と税務処理は全てA社の最後事業年度で終了するため、貴社の合併事業年度においてこの棚卸資産に関する処理を行う必要はない。
ロ 上記①ロのケース
上記①ロのケースにおいては、企業会計上、本件の合併がパーチェス法による「取得」の処理が求められるということになると、貴社の合併事業年度において、A社が過大計上して最後事業年度において棚卸資産とされているものは、受入処理を行わないこととなる。
法人税法上、申告書別表5(1)Ⅰにおいて、A社からマイナスの金額で引き継がれた「棚卸資産」をどのように処理するのかという疑問が生じて来るものと考えられるが、これに関しては、そのまま貴社の申告書別表5(1)Ⅰに残り続けることとなる。貴社の利益積立金額は、このマイナスの金額を含めることで、税法上の正しい金額を示すこととなっている。
ハ 上記①ハのケース
上記①ハのケースにおいては、最後事業年度の財務諸表と法人税申告書のいずれにおいてもこの棚卸資産に関する処理が行われていないため、貴社の合併事業年度においてこれらの処理をどうするのかということが問題となる。
企業会計上の処理は、上記ロにおいて述べたとおりであり、貴社は、この棚卸資産に関しては、上記ロの場合と同様に、受入処理は行わないこととなる。
法人税法上の処理は、A社の事業年度に関して上記①ロのケースと同様の処理を行って申告書別表5(1)Ⅰの利益積立金額を減額し、貴社の合併事業年度に関しては、上記ロの場合と同様の処理を行って申告書別表5(1)Ⅰに「棚卸資産」のマイナスの金額を残すこととなる。
(2)初めて棚卸資産を過大計上した事業年度が更正の期間制限(5年)内である場合
A社が初めて棚卸資産を過大計上した事業年度の法人税の申告期限が更正の期間制限(5年)内である場合には、税務署長にその事業年度の所得の金額を減額する更正の請求を行うことができる。
しかし、仮装経理に基づく過大申告の場合には、修正の経理を行って確定申告がなされない限り、税務署長は更正をしないことができるものとされている(法法129①)。
法人税法129条1項は、次のとおりである。
第129条 内国法人の提出した確定申告書又は連結確定申告書に記載された各事業年度の所得の金額又は各連結事業年度の連結所得の金額が当該事業年度又は連結事業年度の課税標準とされるべき所得の金額又は連結所得の金額を超えている場合において、その超える金額のうちに事実を仮装して経理したところに基づくものがあるときは、税務署長は、当該事業年度の所得に対する法人税又は連結事業年度の連結所得に対する法人税につき、当該事実を仮装して経理した内国法人が当該事業年度又は連結事業年度後の各事業年度又は各連結事業年度において当該事実に係る修正の経理をし、かつ、当該修正の経理をした事業年度の確定申告書又は連結事業年度の連結確定申告書を提出するまでの間は、更正をしないことができる。
この法人税法129条1項の要件に関する部分は、上記のとおり、「所得の金額」が主語となっているため、A社が初めて棚卸資産を過大計上した過去の事業年度の確定申告書に記載された「所得の金額」がない場合、即ち、その事業年度の所得の金額がないか又はその事業年度に欠損金額が生じている場合には、同項の規定は適用されない。
このような場合には、仮に棚卸資産を過大計上して企業会計上の利益の額を生じさせていたとしても、税法上は、通常どおり、更正の請求を受けて税務署長が欠損金額を増加させる更正を行う、ということになる。
これに対して、上記の事業年度の確定申告書に記載された「所得の金額」がある場合には、上記の法人税法129条1項により、その事業年度後の事業年度において「修正の経理」を行って確定申告がなされるまでは、税務署長は更正を行わないことができる。この「所得の金額」は、1円でもよく、棚卸資産の過大計上額以上である必要もない。
法人税法129条1項の適用関係は上記のとおりとなるため、まず、A社が初めて棚卸資産を過大計上した過去の事業年度において、「所得の金額」が生じているのか否かを確認する必要がある。
以下、このA社の過去の事業年度において「所得の金額」が生じていたという前提に立って解説を行うものとする。
① A社の最後事業年度
上記(1)①においても述べたが、貴社においては、A社が過大計上した棚卸資産に関して、最も早い場合、A社の最後事業年度の決算調整の際に、その処理をどうするのかという問題に突き当たるはずである。
以下、①においては、上記(1)①の場合と同様に、ケース分けを行って解説を行うこととするが、(2)のケースにおいては、「修正の経理」を行ったか否かという企業会計上の処理の如何によって法人税法上の取扱いを考えれば済むため、上記(1)のケース分けとは異なり、上記(1)①ロとハに相当するケースは一つにまとめ、次のイとロの二つのケースに分けて解説を行っている。
次のイのケースは、貴社がA社の最後事業年度の財務諸表の作成時までに棚卸資産が過大となっている事実を把握し、A社の最後事業年度の財務諸表において棚卸資産の残高を減額しているケースであり、次のロのケースは、貴社がA社の最後事業年度の財務諸表の作成後に棚卸資産が過大となっている事実を把握したため、A社の最後事業年度の財務諸表においては棚卸資産の残高が減額されないままとなっているケースである。
イ 最後事業年度の財務諸表において棚卸資産の残高を減額しているとき
A社の最後事業年度の財務諸表において、A社が過大計上した棚卸資産の残高を減額する処理は、一旦、棚卸資産の有高として計上された金額を前期損益修正損等に振り替えることによって行われるものと推測される。
企業会計上、このような処理が行われると、法人税法129条1項の「修正の経理」が行われたこととなり、貴社は、A社の最後事業年度の法人税の申告書において、前期損益修正損等の額に相当する金額を所得の金額に加算するとともに、A社が初めて棚卸資産を過大計上した過去の事業年度に関して更正の請求を行うこととなる。
税務署長は、その更正の請求を受けて税務調査を行い、A社の過去の事業年度に関して所得の金額を減額する更正を行い、その過去の事業年度の利益積立金額に関しても減額することとなる。
このA社の過去の事業年度の所得の金額を減額する更正により、その過去の事業年度の法人税の額も減少することとなる。この減少する法人税の額に関しては、一部、還付が行われる部分もあるが、それ以外の部分の金額は、5年間にわたって、順次、法人税の額から控除されることとなる(法法135、70)。この還付及び控除の詳細に関しては、紙幅の都合上、解説を省略する。
A社の最後事業年度の利益積立金額に関しては、上記の前期損益修正損等の額に相当する金額を所得の金額に加算する処理に伴い、申告書別表5(1)Ⅰにおいて、「棚卸資産」のプラスの金額が発生することになるが、同時に、期首に「棚卸資産」のマイナスの金額があるものとされることから、「棚卸資産」の残額は無くなることとなる。
ロ 最後事業年度の財務諸表において棚卸資産の残高を減額していないとき
A社の最後事業年度の財務諸表において、A社が過大計上した棚卸資産の残高を減額する処理をしていない場合には、法人税法129条1項の「修正の経理」が行われたとは言えず、また、最後事業年度の所得の金額も減少していない。
このため、A社の最後事業年度の法人税の申告に際して、その棚卸資産に関する処理は行わないこととなる。
② 貴社の合併事業年度
貴社の合併事業年度の会計処理と税務処理は、A社の最後事業年度の会計処理をどのように行ったのかということによって違ってくる。
イ 上記①イのケース
上記①イのケースにおいては、棚卸資産の過大計上に関する会計処理と税務処理は、基本的には、A社の最後事業年度で終了する。
ただし、上記①イにおいて述べた還付及び控除の処理は、貴社の合併事業年度以後の事業年度において行われることとなる(法法135①・③、70)。
ロ 上記①ロのケース
上記①ロのケースにおいては、上記(1)①ロのケースと同様に、企業会計上、パーチェス法による「取得」の処理が求められるということになると、貴社の合併事業年度には、A社が過大計上して最後事業年度において棚卸資産とされているものの受入処理は行わないこととなる。上記(1)①ロのケースと同様に、企業会計上は、A社と貴社のいずれにおいても、この棚卸資産に関して損失の額が計上されることはない。
この法人税法129条1項は、法人が仮装経理を行った場合にはその後に「修正の経理」を行い得るという前提に立って設けられており、従来は、この「修正の経理」は前期損益修正損等を計上することと解されてきたが、現在の企業会計基準に従えば、本件のようなケースにおいては、被合併法人の棚卸資産が合併法人において低い金額で受け入れられるだけであり、企業会計上、前期損益修正損等の損失が計上されることがない。法人税法においては、被合併法人の資産の含み益又は含み損は、必ず、被合併法人か合併法人のいずれかにおいて益金又は損金となることとなっており、資産・負債と損益の双方の取扱いに断絶を生じさせず、被合併法人と合併法人を通じてみた場合の資産・負債と損益の取扱いに一貫性を持たせる制度設計がなされているわけであるが、企業会計においては、事情が異なる。
本件のようなケースにおいては、過去に仮装経理に基づく過大申告が行われているものの、企業会計上、被合併法人と合併法人のいずれにおいても前期損益修正損等の計上を行い得ないという状態となり、このような場合に法人税法129条1項の適用がどうなるのかということが問題となるわけである。
この点に関しては、法人税法129条1項の適用を受けるために、企業会計上、この棚卸資産の受入処理を行った上で前期損益修正損等を計上すればよい、という意見もあり得ると考えられるが、そのような不適正な会計処理を行うことは、適当ではない。
本来は、上記1において触れた減価償却資産の場合と同様に、帳簿価額を減額して取得する処理を行っている場合にその減額部分を合併法人の「修正の経理」とみなす定めを設ける方がよいと考えられるが、現在の法人税法129条には、そのような定めは設けられていない。
しかし、法人税法129条1項の規定を改めてよく確認してみると、「修正の経理」に関しては、特に前期損益修正損等の額を計上しなければならないとされているわけではない。
このため、この「修正の経理」に関しては、企業会計基準の取扱いを勘案して解釈を行い、本件のケースのように、企業会計上、損失を計上できない場合であっても、「修正の経理」を行っていると解する余地がある、と考えられる。
それでは、本件のようなケースにおいて、どのような場合に「修正の経理」を行っていると解することができるのであろうか。
この点に関しては、法人が過去のA社における棚卸資産の過大計上を修正する意図があることを何らかの形で明確に示している場合に「修正の経理」が行われている、と解することができると考える。この示し方に関しては、特に財務諸表に明示するといったことまで求める必要はないと考えるが、単に企業会計上の取扱いに従って棚卸資産の金額を減額したということではなく、A社における棚卸資産の過大計上を修正する意図を持って棚卸資産の金額を減額したということを明確に確認することができるようにしておく必要がある、と考える。
このような「修正の経理」が行われた場合には、更正の請求が認められるものと考える。
更正の請求の処理等に関しては、上記①イにおいて述べたとおりである。
このケースにおいては、貴社の合併事業年度において、前期損益修正損等の損失が計上されないことから、所得の金額の加算の処理が行われず、A社の過去の事業年度の更正によって生じた「棚卸資産」のマイナスの金額が貴社の申告書別表5(1)Ⅰにそのまま残り続けることとなる。