―租税手続編、組織再編成税制編、国際課税編、租税回避否認規定編―
A5判・全4巻
新日本法規出版株式会社
定価 19,500円(税別)
組織再編成税制編(2017/12/19)
【著】 朝長 英樹
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は し が き
本書は、新日本法規出版株式会社が創立 70 周年を記念して『現代税制の現状と課題』と題して出版する 4 冊の書籍の中の「組織再編成税制編」である。組織再編成税制には、平成 13 年の制度創設以来、未だ 16 年の歴史しかないわけであるが、それにもかかわらず、今回、組織再編成税制を「現代税制」の主要項目として取り上げて頂いたことで、筆者としては、組織再編成税制の意義と役割について、認識を新たにした次第である。
本書は、現代税制の「現状」と「課題」について執筆するという企画に従い、第 1 編で「組織再編成税制の現状」について解説を行い、第 2 編で「組織再編成税制の課題」について筆者の見解を述べることとしている。ただし、組織再編成税制における租税回避に関しては、別途、本企画の中の「租税回避否認規定編」において解説等が行われるということであるため、本書では、基本的には、取り扱わないこととしているが、注意事項等として言及しておいた方がよいと思われる部分では、個別に必要な範囲で解説を行うこととしている。
本書の第 1 編においては、合併、分割、現物出資、現物分配、株式交換等、株式移転について、平成 29 年度改正も織り込んで解説を行っている。
この第 1 編の解説は、読者の方々に組織再編成税制の仕組みを分かり易く伝えるとともに組織再編成税制の基本的な考え方を理解して頂けるようにするということを重視して記述を行った。
このため、序章 1 において、組織再編成税制の基本的な考え方を要約して示した政府税制調査会法人課税小委員会の「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」(平成 12 年 10 月 3 日)を取り上げ、その中から、組織再編成税制の基本的な考え方を示した 8 つの部分を引用し、それぞれの内容を再確認することとしている。この「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」の中で示されている組織再編成税制の基本的な考え方は、現在もなお、折に触れて振り返るべき重要なものとなっている。
実務においては、「考え方」や「理論」などよりも、「取扱い」が重要となるため、従来、組織再編成税制について記述する書籍には、「取扱いを知る」という観点で書かれたものが多く、「制度を理解する」という観点で書かれたものは、非常に少なかったように思われる。確かに、組織再編成税制は、非常に複雑であるため、「取扱いを知る」ということが重要であることは、疑いのないところであるが、法令に書かれていることを正しく解釈し、法令に書かれていないことまで的確に予測するためには、「制度を理解する」ということが重要となることを忘れてはならない。
筆者としては、この第 1 編は、初めて組織再編成税制に触れる読者の方々に組織再編成税制を正しく理解するための手引きとして利用して頂けるものであり、また、実務において数多くの組織再編成に携わってこられた読者の方々に組織再編成税制の「考え方」や「理論」を正しく理解するための手掛かりを得るものとして活用して頂けるものである、と考えている。
本書の第 2 編においては、組織再編成税制の前提となった諸問題から導かれる課題、資本金等の額の増減に関係する課題(増資(現物出資を含む)、DES、有利発行、減資等、みなし配当事由による株式の譲渡における譲渡損益の不計上)、利益積立金額の増減に関係する課題(現物分配、適格合併等における利益積立金額の引継ぎ)、平成 29 年度改正の課題(スピンオフ関係税制の課題、スクイーズアウト関係税制の課題、分割型分割等における株式継続保有要件の改正の課題)について、筆者の見解を述べている。
組織再編成の中には、多くの資本等取引が含まれているため、組織再編成税制の課題は、それが本質的なものほど、資本等取引税制に生じている課題と重なっている。このため、第 2 編においては、資本等取引税制と組織再編成税制の全体を眺めたときに、課題となっていると考えられる事項のうち、主要なものを取り上げて記述を行っている。
ただし、読者の方々の興味を失わせることのないように、DESにおける債務消滅益に課税が行われた事件、増資が有利発行に当たるとして受贈益課税が行われた事件、減資において低廉譲渡を行ったとして寄附金課税が行われた事件、みなし配当事由による株式譲渡損から生じた欠損金の繰越控除が否認された事件など、昨今、大きな話題となった税務訴訟に関係する課題を優先して取り上げることとしている。これらの課題の中でも、特に、有利発行における受贈益課税に関しては、これ以上、誤った課税が拡大することのないようにする必要があるため、詳しく制度の内容と課題について解説を行うこととした。
また、法人税法 22 条の「取引」の捉え方を正しく理解することができていないことが原因となって、資本等取引税制や組織再編成税制の理解を誤り、疑問のある改正や解釈が行われてしまっているという部分も見受けられるため、法人税法を学ぶ上での基礎的な事項ということにはなるが、第 2 編第 2 章「1 増資(現物出資を含む)」の中で、同条の「取引」の捉え方についても、詳しく解説を行っている。
平成 13 年に資本等取引税制の抜本改正と組織再編成税制の創設に携わった筆者としては、かねてより資本等取引税制と組織再編成税制の考え方や仕組みの細部に亘る部分について十分に説明しきれていなかったことが気になっていたところであるが、本書において、 組織再編成税制の「課題」という類書にはない現代税制のあり方を深く掘り下げて解説する テーマを与えて頂いたことで、本書の第 2 編において取り上げたものに関係する事項については、基本的には、説明責任を果たすことができたのではないかと考えている。
この第 2 編を読まれた方々は、そこで取り上げた課題の多くは、資本等取引税制や組織再編成税制という一部の税制の中に生じてしまった課題という性質のものに止まるものではなく、我が国の法人税制の中に生じてしまった制度の根幹にかかわる非常に重要な課題という性質のものでもある、ということに気付かれるはずである。これは、資本等取引税制や組織再編成税制が他の個別の制度とは違って法人税制の根幹となる制度であることによるものである。
このような本書が組織再編成税制を学んだり組織再編成の実務に携わったりする読者の方々や法人税制のあるべき姿に関心を持つ読者の方々に僅かなりとも役立つようであれば、幸いである。
最後に、本書の発刊に当り、ご助力を賜わった新日本法規出版株式会社の加賀山量氏をはじめとする皆様方に厚く御礼を申し上げたい。
平成 29 年 12 月
日本税制研究所 代表理事 朝長 英樹
目 次
第1編 組織再編成税制の現状
序 章 組織再編成税制の基本的な考え方と沿革 3
1 組織再編成税制の基本的な考え方 3
2 組織再編成税制の沿革 5
(1) 平成13年度改正 6
(2) 平成15年度改正 6
(3) 平成17年度改正 7
(4) 平成18年度改正 7
(5) 平成19年度改正 7
(6) 平成20年度改正 7
(7) 平成22年度改正 7
(8) 平成23年度改正 8
(9) 平成25年度改正 8
(10) 平成28年度改正 9
(11) 平成29年度改正 9
第1章 合 併 11
1 概 要 11
2 適格合併の取扱い 13
(1) 適格合併の定義 13
① 完全支配関係法人間の適格合併 14
② 支配関係法人間の適格合併 18
③ 共同事業を行うための適格合併 22
(2) 適格合併における取扱い 31
① 被合併法人の取扱い 31
② 合併法人の取扱い 33
③ 未処理欠損金額の取扱い 34
④ 特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入 51
3 非適格合併の取扱い 64
(1) 資産・負債の時価譲渡 64
(2) 合併法人における資産調整勘定・負債調整勘定等の計上 65
(3) 合併法人の資本の部の金額の取扱い 66
(4) 完全支配関係法人間の非適格合併の取扱い 67
① 被合併法人が譲渡損益調整資産を有する場合の取扱い 67
② 合併法人が被合併法人株式(抱合株式)を有する場合の取扱い 68
4 被合併法人の法人株主の取扱い 69
(1) 非適格合併におけるみなし配当の取扱い 70
① 非適格合併における被合併法人の処理 71
② みなし配当の額の計算 71
③ 受取配当等の益金不算入 72
④ 源泉所得税等 72
(2) 被合併法人株式の譲渡の取扱い 73
① 合併法人株式以外の資産が交付される場合の取扱い(原則:株主非適格) 74
② 合併法人株式のみが交付される場合の取扱い(特例:株主適格) 74
③ 完全支配関係法人間の非適格合併における株主の被合併法人株式の譲渡の取扱い
に関する留意点 74
附記 消費税の取扱い 75
第2章 分 割 77
1 概 要 77
2 分割型分割と分社型分割 79
3 適格分割の取扱い 80
(1) 適格分割の定義 80
① 完全支配関係法人間の適格分割 80
② 支配関係法人間の適格分割 87
③ 共同事業を行うための適格分割 92
④ 独立事業を行うための適格分割 95
(2) 適格分割型分割における取扱い 98
① 分割法人の取扱い 98
② 分割承継法人の取扱い 102
(3) 適格分社型分割における取扱い 102
① 分割法人の取扱い 102
② 分割承継法人の取扱い 103
(4) 適格分割における分割承継法人の未処理欠損金額の使用制限 103
① 未処理欠損金額の使用制限 106
② 未処理欠損金額の使用制限の特例 111
(5) 適格分割における分割承継法人の特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入 114
① 制度の趣旨 114
② 制度の内容 120
③ 損金不算入額 121
④ 損金不算入の特例 121
4 非適格分割の取扱い 122
(1) 資産・負債の時価譲渡 122
(2) 資産調整勘定・負債調整勘定等の計上 122
(3) 資本の部の金額の取扱い 123
① 非適格分割型分割の取扱い 123
② 非適格分社型分割の取扱い 124
(4) 完全支配関係法人間の非適格分割の取扱い 125
5 分割型分割における分割法人の株主の取扱い 125
(1) 非適格分割型分割におけるみなし配当の取扱い 126
① 非適格分割型分割における分割法人の処理 126
② みなし配当の額の計算 126
③ 受取配当等の益金不算入 127
④ 源泉所得税等 127
(2) 分割法人株式の譲渡の取扱い 127
① 分割承継法人株式以外の資産が交付される場合の取扱い(原則:株主非適格)
127
② 分割承継法人株式のみが交付される場合の取扱い(特例:株主適格) 128
③ 完全支配関係法人間の非適格分割型分割における株主の分割法人株式の譲渡の取
いに関する留意点 128
附記 消費税の取扱い 128
第3章 現物出資 130
1 概 要 130
2 適格現物出資の取扱い 131
(1) 適格現物出資の定義 131
① 完全支配関係法人間の適格現物出資 131
② 支配関係法人間の適格現物出資 133
③ 共同事業を行うための適格現物出資 135
(2) 適格現物出資の取扱い 136
① 現物出資法人の取扱い 136
② 被現物出資法人の取扱い 137
(3) 被現物出資法人の未処理欠損金額の使用制限 138
(4) 特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入 138
3 非適格現物出資の取扱い 139
(1) 資産等の時価譲渡 139
(2) 被現物出資法人における資産調整勘定・負債調整勘定等の計上 139
(3) 完全支配関係法人間の非適格現物出資の取扱い 139
附記 消費税の取扱い 139
第4章 現物分配 141
1 現物分配 141
(1) 概 要 141
(2) 適格現物分配の取扱い 142
① 適格現物分配の定義 142
② 適格現物分配における現物分配法人の取扱い 143
③ 適格現物分配における被現物分配法人の取扱い 144
④ 被現物分配法人の未処理欠損金額の使用制限 144
⑤ 被現物分配法人における特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入 145
附記 消費税の取扱い 145
2 残余財産の確定・残余財産の分配 146
(1) 残余財産がないと見込まれるときの期限切れ欠損金額の控除に伴う青色欠損金額
の切捨て 146
(2) 残余財産が確定した内国法人の未処理欠損金額の株主である内国法人への引継ぎ
と引継制限 147
(3) 適格現物分配に該当する残余財産の分配が行われた場合の株主(被現物分配法人)
の未処理欠損金額の使用制限 148
(4) 適格現物分配に該当する残余財産の分配が行われた場合の株主(被現物分配法人)
における特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入 148
3 株式分配 149
(1) 概 要 149
(2) 株式分配の定義 150
(3) 株式分配の取扱い 150
① 株式分配によって完全子法人株式等の交付を行う法人(現物分配法人 )
の取扱い 150
② 株式分配によって完全子法人株式の交付を受ける株主(被現物分配法人)
の取扱い 151
(4) 適格株式分配の定義 152
① 対価要件(金銭等不交付要件) 153
② 非支配継続要件 153
③ 特定役員引継要件、従業者引継要件及び事業継続要件 153
(5) 適格株式分配の取扱い 153
① 適格株式分配によって完全子法人株式の交付を行う法人 (現物分配法人 )
の取扱い 153
② 適格株式分配によって完全子法人株式の交付を受ける株主(被現物分配法人)
の取扱い 154
附記 消費税の取扱い 154
第5章 株式交換等 155
1 概 要 155
2 非適格株式交換等の取扱い 159
(1) 非適格株式交換等の定義 159
(2) 非適格株式交換等の取扱い 160
① 株式交換等完全子法人の取扱い 160
② 株式交換等完全子法人の株主の取扱い 162
③ 株式交換等完全親法人の取扱い 163
3 適格株式交換等の取扱い 165
(1) 適格株式交換等の定義 165
① 完全支配関係法人間の適格株式交換 167
② 支配関係法人間の適格株式交換等 168
③ 共同事業を行うための適格株式交換 170
(2) 適格株式交換等の取扱い 172
① 株式交換等完全子法人の取扱い 172
② 株式交換等完全子法人の株主の取扱い 174
③ 株式交換等完全親法人の取扱い 174
附記 消費税の取扱い 174
第6章 株式移転 175
1 概 要 175
2 適格株式移転の取扱い 175
(1) 適格株式移転の定義 175
① 完全支配関係法人間の適格株式移転 175
② 支配関係法人間の適格株式移転 177
③ 共同事業を行うための適格株式移転 178
(2) 適格株式移転における取扱い 181
① 株式移転完全子法人の取扱い 181
② 株式移転完全子法人の株主の取扱い 181
③ 株式移転完全親法人の取扱い 181
3 非適格株式移転の取扱い 181
附記 消費税の取扱い 181
第2編 組織再編成税制の課題
序 章 基本的な事項に関する課題の検討の必要性 185
第1章 組織再編成税制の前提となった諸問題から導かれる課題 187
1 法人税法における「法人」の捉え方 187
(1) 法人税法における「法人」の実在性 187
(2) 法人税法における「法人」の理念型 187
2 我が国における法人と株主との関係 189
3 法人に求められているものと法人税制 191
4 我が国において法人税法が果たしている役割 192
5 我が国の法人税法はどのようなものであるべきか 193
6 資本等取引・組織再編成の「認定」 199
第2章 資本金等の額の増減に関係する課題 202
1 増資(現物出資を含む) 202
(1) 法人税法22条の「取引」の捉え方 202
① 法人税法における「取引」の一般的な理解 202
② 法人税法22条における「取引」の正しい捉え方 203
③ 法人税法22条における「取引」の一般的な捉え方の誤り 210
④ 無償の資本等取引にも「益金の額」や「損金の額」とはならないものの「収益の
額」や「損失の額」が存在すること 211
(2) 平成 18 年度改正により増資における資本金等の額の増加額を払込金額に変更
したことで増資が時価でない価額で行われた場合に事実に即した正しい処理がで
きなくなっている【立法の課題】 213
① 増資における資本金等の額の増加額に関する平成18年度改正の確認 213
② 増資が時価でない価額で行われた場合に「収益の額」や「損失の額」が計上でき
なくなって事実に即した正しい処理ができなくなっていることの確認 215
2 DES(Debt Equity Swap) 233
(1) DESの概要 233
(2) DESにおける「取引」の一般的な捉え方 234
(3) 東京地裁平成21年判決における「取引」の捉え方は法人税法上で想定されてい
る「仕訳」と法人税法に規定されている「取引」の違いを理解していない誤った
ものである【解釈の課題】 236
3 有利発行 242
(1) 法人税法22条2項・3項3号・37条の確認 242
① 法人税法22条2項の「収益の額」は寄附が行われたという事実認定がなされるの
か否かにかかわらず時価との差額があれば必ず計上しなければならない 244
② 法人税法37条7項の「寄附金の額」は事実認定によってそれがあるとされる場合
にのみ計上することとなる 244
(2) 有利発行税制の概要 247
(3) 昭和48年の制度創設時からの課題 250
① 有利発行税制は時価と払込金額の少額の差額を益金・損金に算入しなくてもよい
こととするために創設されたことが正しく理解されていない【解釈の課題】 250
② 寄附が行われた事実があるのか否かという事実認定に基づく取扱いと有利発行税
制の取扱いの相違と関連が正しく理解されていない【解釈の課題】 254
③ 有利発行か否かの判定の時価は純資産価額方式等によって算出するものとはされ
ていない【解釈の課題】 257
④ 昭和48年当時から解説どおりの仕組みとはなっていない【立法・解釈の課題】
275
(4) 平成18年度改正によって生じた立法と解釈の課題 289
① 「判定の時価」と「計算の時価」が異なるものであることが理解されていない
【立法の課題】 290
② 「種類株式」に過度に注目し過ぎたことによって「株主等として取得をしたも
の」が有利発行から除外されない状態となっている【立法の課題】 292
③ 平成 15 年からの種類株式の取扱いと平成 18 年の種類株式の取扱いとの関係が
不明確になっている【立法・解釈の課題】 295
(5) 当面の最低限の対応として必要なこと 305
4 減資等 306
(1) 法人税法24条1項の金銭等の「交付」を実際に金銭等の交付があるもののみと
誤って解釈している【解釈の課題】 306
① 問題点の確認 306
② 判決の検証 307
(2) 減資等における資本金等の額の減少額を実際に交付した金銭等の額によって算
出することとすると事実に即した正しい処理ができない【立法の課題】 312
① 問題点の確認 312
② 問題点の検証 315
5 みなし配当事由による株式の譲渡における譲渡損益の不計上 322
(1) みなし配当事由による株式の譲渡における譲渡損益の不計上の概要 322
(2) みなし配当事由による株式の譲渡における譲渡損益の不計上の課題 324
① 現に株主に生じた株式の譲渡損益は計上させなければならない【立法の課題】
324
② 株主である法人が自らの株主と何ら取引を行っていないにもかかわらず資本金等
の額を減少させたり増加させたりすることは正しい処理とは言えない 【立法の課
題】 324
③ 本措置は「グループ内法人に対する資産の譲渡に変わりないこと」から譲渡損益
調整資産の取扱いと同様としたものと説明されているが両者の取扱いは全く性質が
異なる【立法の課題】 324
④ 資本金等の額を増減させる理由とされている2点はいずれも資本金等の額を増減
させる理由となるものとは言い難い【立法の課題】 326
⑤ 現に生じている株式の譲渡損益を不計上とするのではなくみなし配当の益金不算
入を制限するべきである【立法・解釈の課題】 333
第3章 利益積立金額の増減に関係する課題 335
1 現物分配 335
(1) 「適格現物分配」と他の適格組織再編成の比較 336
① 「適格現物分配」とされるのは個別資産の移転のみであるが個別資産を移転する
ものは事業を移転するものとは異なり譲渡損益を計上するのが本来のあり方である
【立法の課題】 336
② 「適格現物分配」には「支配関係法人間の適格組織再編成」も「共同事業を行う
ための適格組織再編成」もないがこれは「適格現物分配」が「資本等取引」でしか
ないということである【立法の課題】 337
③ 「他の組織再編成とは異なり譲渡法人側に課税の繰延べポジションが残らない、
いわば手仕舞い型の取引」である「適格現物分配」は手仕舞って譲渡損益を出さな
ければならない【立法の課題】 338
(2) 「適格現物分配」の検討 339
① 法人税法は法人が稼得した利益に課税を行わないまま株主に利益を分配すること
を是とするものではない【立法の課題】 339
② 株主の投資が終わったにもかかわらずその投資に現に存在する損益を不計上とさ
せることは理論と実態のいずれからしても疑問がある【立法の課題】 342
③ 法人税法 22 条5項から平成 22 年度改正により追加された「残余財産の分配又
は引渡し」を削除して元に戻す必要がある【立法の課題】 345
④ 事業の移転を「適格現物分配」で行い得るのか否かということを明らかにする必
要がある【解釈の課題】 347
2 適格合併等における利益積立金額の引継ぎ 350
(1) 適格合併等における利益積立金額と資本金等の額の取扱いの概要 350
(2) 適格合併等における利益積立金額と資本金等の額の取扱いの課題 351
① 適格合併等では利益積立金額を引き継ぐとされていたものを平成22年度改正で資
本金等の額を引き継ぐと逆転させたために理論的に正しい説明ができなくなっ
ている【立法の課題】 351
② 平成22年度改正で被合併法人が合併法人株式を取得して直ちに株主に交付したも
のとする旨の規定を削除したことから被合併法人と被合併法人の株主の処理が
理論的に正しく説明できなくなっている【立法の課題】 356
第4章 平成29年度改正の課題 359
1 スピンオフ関係税制の課題 359
(1) 支配株主がいない法人の単独新設分割型分割を「適格」とすることは組織再編
成税制の理論では説明できない【立法の課題】 359
① 平成13年の組織再編成税制の創設時の判断は単独新設分割型分割は理論的に「適
格」とはなり得ないというものであったこと 359
② 「グループ」を構成しない法人に関する説明が必要であること 360
③ 「法人による移転資産に対する支配の継続」の「支配」と完全支配関係・支配関
係の「支配」とは同じ用語でもそれが用いられる場面と内容が異なること 362
④ 組織再編成税制においては財務省『平成29年度税制改正の解説』の説明のような
「分身理論」は採らないこととされていること 366
(2) 共同事業を行うための適格組織再編成の要件は基本的には「支配株主」が存在
しない場面の要件であるため「50人基準」を「支配株主基準」に置き換えること
は適切ではないこと【立法の課題】 368
(3) 「同様の効果がある」ということが「組織再編成」を創る理由になるわけでは
ない【立法の課題】 371
(4) 「配当に限る」としているものを配当として取り扱わずに資本の払戻し等とし
て取り扱うことには矛盾がある【立法の課題】 372
(5) 完全子法人への投資の処理を強制終了させる「株式分配」「適格株式分配」は
その正当性の理論的な説明が困難である【立法の課題】 373
① 現物分配・適格現物分配との比較 373
② 単独新設分割型分割・適格単独新設分割型分割との比較 375
2 スクイーズアウト関係税制の課題 375
(1) 金銭交付によって「非適格」となるものは支配の継続を理由として「適格」に
はできない【立法の課題】 376
(2) 単独で「3分の2」以上の株式を保有していることという「支配」に係る新たな
数値基準を設けた趣旨・目的を明確にする必要がある【立法の課題】 378
(3) 「組織再編成」の捉え方が曖昧になって資本等取引や有価証券取引としたまま
で済むものまで「組織再編成」とされてしまっている【立法の課題】 379
(4) 組織再編成税制を「買収」には課税をするという制度から「買収」にも課税を
しないという制度に変えることには疑問がある【立法の課題】 380
(5) 完全子法人化の課税関係が不統一となった【立法の課題】 382
① 新設合併等との比較 382
② 他の資本等取引の取扱い及び他の有価証券取引の取扱いとの比較 384
(6) 「租税回避」となるのか否かが大きな争点となる可能性が高い
【立法・解釈の課題】 385
3 分割型分割等における株式継続保有要件の改正の課題 386